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焦思


「もどかしいな」
「うんうん。もどかしいっスよねー」

背後からクラウドとティーダのそんな声が聞こえてくる。
会話、というよりもこちらに向って投げかけられている ”もどかしい” という言葉は、どうやら自分を示しているようだが……。

「一体なんだ?さっきからふたりして」

見えない話の内容が気になって仕方がない。
それに自分について話しているのならば尚更のことだ。
振り返り、ふたりに目を向けるとティーダは呆れたように溜息を吐いてくるし、クラウドはジっと見つめてくる。
だから一体なんなんだ?

「アピール足りないんスよ、そもそも」
「アピール?」

そう聞き返すとティーダが大きく頷いてきた。
だいたい待っているだけではダメだ、とか、頼れる男を演出することも大事だ、とか、いきなり妙な主張をし始めたティーダに思わず首を傾げる。
そんな疑問符を浮かべている自分を見てか、クラウドがティーダの主張を一旦手で制してくれた。
それからその手が前方を指し示す。
クラウドのその仕草に釣られて視線を手の方向へと移すと、セシルと11が歩いている姿が確認できた。
あらためてクラウドに目を移す。

「もどかしいって……、あのふたりがか?」

いつもと変わらない日常風景にどの辺りがもどかしいのかとますます疑問を深めていると、今度はクラウドまでが溜息を吐いてきた。

「あーもう。そんなだから、いつまでたっても11に気付いてもらえないんスよ……」
「どう見たって、そうなのにな」

全くもどかしい、と嘆くふたりに意味不明ながらも再度セシルたちの方へと目を向けると、丁度11がこっちに振り返った。
11も自分が目を向けていたことに気がついたのか、こちらに向って小さく手を振ってきた。
それに応えるように自分も小さく手を振り返す。
そうすると、はにかんだような笑みのあとに11はまた前に向き直った。

「だーかーらー、それがもどかしいっつーのー」

ひとり11との遣り取りに満足していると、唐突にティーダがそんなことを言いながら肩に腕を乗っけてきた。
もしかして、さっきからこのふたりが言っていたもどかしいこととはこのことだったのか?
誰も気がついていないと思っていたんだが…あぁ、なんだか見られていたとなると急激に恥ずかしさが込み上げてくる。

「傍から見てるぶんにはバレバレだけどな、お前たちふたり」
「肝心の当人たちがお互い気がついてないってのも不思議っスよホント」
「あー…つまり、どういうことだ?」

恥ずかしさはともかくも、今のこの状況をつかみたい。
バレバレだ、不思議だ、なんて言いたい放題だが結局のところ一体何が言いたいのかとふたりに尋ねる。

「好きなんだろ、11のこと」

クラウドが真顔でそんなことを言ってきた。
好き……まぁ、仲間だし、好きか嫌いかと聞かれれば好きを選ぶだろう。
オニオンほど幼くないが自分からすれば年少者なのだし、何かと面倒をみることもある。
さっきの手振りだって、振り返してやると彼女がああやって嬉しそうにするからしているだけで。
そう返すとティーダが不満そうな声をあげてきた。
いや、なんでティーダが不満がる必要があるんだ。意味わからん。

「だって、フリオニールがそんなんじゃ11がかわいそうじゃないっスか」

と、ティーダが語る。

11はどうやら自分のことが好きらしいのだという。
でも大人しい11のことだから11から自分に告白してくることはないだろう。
好きなのに伝える事のできないもどかしさは、傍から見ていて大変痛々しい。
どうせ自分も11のことを好きなんだから、それならいっそのこと自分から11に想いを告げてやれば11も安堵できるんじゃないのか、と言うことらしいのだが。

好かれているのなら素直に嬉しい。
でもそれは彼女も自分と同じく、仲間としての好意だとも捉えられる。
ティーダたちだって直接11の口から聞いたわけでもないようだし、恋愛感情で言う好きっていうのなら、どちらかといえば自分よりもよく行動を共にしているセシルの方じゃないのか?
年上に憧れを抱く年頃でもあるのだし、と告げれば即否定の言葉が返ってきた。
なんでこんなに察しが悪いのかと呆れた口調でクラウドが溜息を吐く。

「あれは、どう見たって恋する乙女の視線だろう」

そんなクラウドの言葉にティーダが同意を示すように頷いている。
恋する者の視線がどんなものかは自分にはさっぱりだが、そんなことを真顔で言い放つクラウドに少しばかりの眩暈を覚えながらふたりの元から離れていく。
どこに行くのかと聞いてくるティーダに今日はひとりで行動すると告げて、そのままふたりから離脱を図った。



(付き合いきれん)

色恋ごとに噂は付きものとよく言うが、だからといって確証もないことを持ち出されても困る。
11が自分にどんな形であれ好意を持ってくれているのならそれはそれで嬉しい。
しかし、そこでなんで自分が彼女に好意を寄せているという話になるのかがよくわからない。
確かに可愛い、とは思っている。
教えたことに対しての飲み込みは早いし、何かと気遣いもできる優しい子だ。
もう少し自分に自信を持ってもいいとは思うのだが、あのしおらしさ加減も11らしいといえばらしいのか。
まぁ……総じて自分の好みに当てはまるといえば、そうかもしれない。
ただ、なぁ。
好みだとはいえ自分よりも三つも四つも年下ともなると、考えるものがある。
成長期を過ぎてのその位の差なら気にもならないのだろうが……如何せん、まだ子供、といえる年齢なのだし、そういった目で見るのは何だか彼女を汚してしまうようで申し訳ないというか何というか…。

そんなことを思っているうちに、背後から誰かが追いかけてくる足音が聞こえてきた。
まだ何かあるのかと振り向くと、こっちに向って走ってきているのは11だった。

「どうしたんだ?何かあったのか?」
「クラウドが、今日はフリオニールと行って来いって」

そう言われたから、慌てて追いかけて来たのだという。
11が自分とふたりで散策するなんて今まで一度もなかったことなのだし、さっきの話の流れからしてわざと11ひとりを寄越したのは明白だ。
あからさまな気遣いというか、余計なお世話というのか。
だが一連の話を知らない11を追い返すわけにもいかない。
それに今まで機会がなかっただけで、たまにはふたりで行動してみるのもいいのかもしれないと考えを巡らせてそうすることにした。



とはいえ、これといった話題もなく。
お互いただ黙々を歩くのみのこの状況はどうしたものか。
11は元々そんなに口数の多い方ではないし、自分はといえばクラウドたちのからかい半分な先ほどの話がどうにも頭について、うまい事こと話題が浮かばない。
だいたい ”好き” と一口に言ったって、その形は様々だ。
信用、信頼、憧れ、仲間…、だとか、そこに何か特別なものが加わればきっと恋愛としての情が出来上がるのだろうけれど。

じゃあ、その何かとはなんだろうか。
面倒をみなくては、と思わせるのは彼女が自分よりも年が下だからなのだろうと思う。
守らなければ、なんて、それは11に限らず皆に当てはまることだ。
誰一人、欠けることなんて望んでいないのだし当然のことだろう。
あとは…あぁ、まぁ、そういう対象に成りうるか、なんて考えが浮かんでくる辺り自己嫌悪を抱きながらも男なら仕方のないことだと納得させて隣を歩く11を見下ろしてみる。

(……小さいなー)

11の頭のてっぺんは丁度自分の胸元程だ。
やはり子供だとしみじみ思う。
こんな小さなモノを自分のいいように扱うなんて正気の沙汰じゃないだろう。
腕だって細っこいし、掴んで組み伏せてしまったら逃げる力も振り絞れないんじゃないだろうか……て、何考えてるんだ自分は。
子供だ子供。
だいたい11だって調和の戦士なのだから、いざとなったら逃げることくらい容易い事じゃないか。
そう自分に言い聞かせて視線を反らそうとした矢先に11がこちらを見上げてきた。
そしてほんのりと笑顔を覗かせてくる。

「フリオニールとふたりで行動するのって初めてだよね」
「あ、あぁ、そうだな」

自分の浅はかな思考を誤魔化すべくに、思わずどもってしまった。
変に思われてないだろうか。
ただでさえ、不躾に見下ろしていたのだし…。

「なんかね、なんか嬉しくて。顔がにやけちゃうんだけど」

ん?

「おかしいよね。でも変だって自分でもわかってるんだけど、なんか顔が弛んじゃうんだよ」

照れくさそうに苦笑する11に、妙に鼓動が高まっていくのを感じた。
これは何だ?
いや、まさか。
待て自分。落ち着こう。

11が笑顔を向けてくることなんてよくあることだ。
別々に行動していても目が合えば手を振ってくるし、でもこれはティーダたちの話からするとどうやら自分にだけ向けられている仕草らしい。
そう言われてみれば、そもそも目が合うことなんてそんな頻繁に起こることだろうか。
目が合うということは、見ているということだ。
なんで見ているのかといえば…相手が気になるからだろう。
だがそれは11だけじゃない。
それに応えていた自分もじゃないだろうか。

「……いきなりですまないんだが、11」

立ち止まり、11をあらためて見下ろす。
そうすると11も小首を傾げてこちらを見上げてきた。

「好き…って、どういうことだと思う?」

突然の質問に11の顔が僅かに紅潮する。
この反応に、クラウドたちの言っていたことは当たりだったのだと知ることができた。

それにしても我ながら答え難いことを問い掛けたものだと思う。
自分だって明確な応えを返す事なんて出来ないというのに。
だが、なんというか。真面目な彼女らしく、真剣に考え込んでいる様子が可愛いなんて思ってしまう。
困らせたかったわけじゃない。結果的に困らせてしまっているが。
でもそんな11の一面がまた新鮮で、自分の胸を疼かせる素材となっていく。

少し考え込んだ後、何て言っていいのかわからないと11が告げてきた。
確かにそうだ。
言葉ではうまく言い表せない。
言い表せないけれど、確かに好きだという胸の高まりは自分の中にあるんだ。

「あ、でもね」

そう11が紡ぐ。

「好きと思う人には、こう、ギューってしたくなる」
「……そうか」

恥ずかしそうに目を伏せた11のそんな応えに、意を決して彼女の肩に手を置く。
正気の沙汰じゃない、なんてさっきは思っていたけれど、気付いた自分の気持ちは大事にしたい。

「フリオニール?」
「11に聞いておいて何だが、俺も何て言っていいのかわからない。だから11の思ってること、してみてもいいか?」

目を瞬かせた11の返事を待つ間もなく、抱きしめる。
苦しくならないように、気をつけながら。
だが、胸元に位置する11の髪の香りだろうか。
鼓動を揺さぶる芳香に、少しばかり抱きしめる腕に力が篭ってしまう。
慌てて力を緩めると、おずおずと11の腕が背後に伸びてきた。
弱い力でもって、自分を抱きしめてくる。
思わず笑みが零れる。
愛しい、とでも言えばいいのだろうかこの想いは。

もっときつく抱きしめたい。
そんな衝動に駆られもするが、何分この体格差では11にとって大事になってしまうことだろう。
その辺りは自重するしかない。

「11のこと、好きだ」

だから後はありきたりな言葉で伝えるしかない。

「私も。フリオニールのこと、好きだよ」

だから嬉しいと11が顔を真っ赤にさせて見上げてきた。
ずっとこうされたかったと、望んでいた事が適って幸せだと笑顔を覗かせてくる。
そんな11の様子に、胸が熱くなってきた……というよりも、むしろ無性に下半身に熱が集中しだしたことに危機を察知する。

発展途上であろう控えめな膨らみが丁度腹部に位置していて、なんとも言い難い感触を与えてくれている。
体は素直なものだ。
だがしかし、今は決してそんな雰囲気ではない。
想いを告げてそのまま…なんて、一歩間違えばあらぬ誤解を生んでしまう可能性があるし、なにより11はこれで満足しているようだ。
間違ってもこのことを悟られてはいけない。
そっと腕を放して11の体を解放する。

11もやはり抱きしめられて満足といった面立ちで、素直に体を放してくれた。
ほっと安堵の息を吐く。
すると、不意に衣服の裾を引っ張られた。
その感触に11へと目を向ければ、はにかんだ微笑を浮かべて 「また、ギュってしてね」 なんてことを告げてくるものだから堪らない。

頭に巡るのは ”かわいい” という言葉だけ。
その隙間にほんの少しの欲望が見え隠れはしているが、でも今はまだそれを奥へと押し込んでおこうと思う。
この先多少なりとももどかしい思いを抱えてしまうことになるだろうけれど。
それでも彼女に関してなら ”もどかしい” こともまんざら悪くないかもしれない。
11の笑顔に、そんなことを思う。

-end-

2010/12/28 紫蘭さまリク




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