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水難

こんな世界に身を置いているのだから、加護を受けた聖地でもない限り突然敵が現れるのは当然だ。
だから、宿営地を出て傍から見たらのんびりと構えてそうに歩いていても、皆いつでも戦闘への準備は出来ている。
しかし、時には予想だにつかないことだってある。
それはこの不可思議な世界なら尚更起こり得ることで、どうやらそれが今日だったらしい。



突如として現れたイミテーションの軍勢に、周囲を囲まれてしまった。
レベルはこちらの方が上らしく、そんなに苦戦することはない。
剣の餌食にかかっては、断末魔とも聞こえる気味の悪い声をあげながら姿を消滅させる紛い物たち。
中にはこちらの…調和の戦士たちの姿かたちをした者もいる。
ただ違うのは、奴らは色を持っていないということ。
鈍くゆらめく水銀のようなそんなものを連想させるような形に、味方の姿を模していた所でなにも躊躇うことなどない。
容赦なく技を繰り出し、次々に仕留めて行く。

他の仲間たちも己の手腕を存分に発揮しているのだが、何分数が多すぎる。
最初の勢いも徐々になくなって来てしまった。
そんな様子にこちらの疲労を招くことが目的なのか、それとも単なる偶然なのか懸念する。
そして目視で敵の数を確認できるところまで薙ぎ払ったところで、親玉らしき人物が現れないことに、本当にたまたま偶然の出来事なのだと知ることができた。
あともうひと踏ん張りと、そう息を呑んでいたところに叫び声が聞こえてきた。

”ぎゃーっ” となんとも間抜けな叫び声だが、こんな声をあげるのはここにはひとりしかいない。
咄嗟に声のした方に顔を向ければ、案の定11がいた。
相手は、ウォーリアのイミテーションだろうか。
盾に弾き飛ばされたのか、勢いよくすっ飛んでいる。
というか、あんな体制では受身も無理なんじゃないだろうか。
そう判断してダッシュで11の着地するであろう地点に向う。

高い位置から降ってくる11の顔がどんどんと近づいてくるわけだが、はっきり見えるくらいまでに来ると、なんといえばいいのか、すごい、の一言で尽きたい。
落ちてくる恐怖、地面に叩き付けられる恐怖、なんだかいろいろなモノが混じったようなそんな形相。
それでもこっちが受け止めようと構えていることに気がついたのか、驚いたような表情を覗かせた後、器用に身を翻した。
いまだかつて見たことのないような俊敏な動きを披露した11に、やればできるじゃないか、と感心したのも束の間そのまま11の飛び蹴りを喰らってしまった。

油断したのではないと思う。感心はしたけれど。
しかしその隙が悪かった、そして連戦に疲れが溜まっていたんだろう。
体勢を持ち堪えることができず、11に蹴られた反動のままに傍らの崖に身を乗り出してしまった。

あぁ、人間ピンチになると本当に時間というものはゆっくりと感じるものなんだと変に冷静な自分がいる。
崖より落ち行く体に、視界に映ったものはこれまた華麗に地面に着地している11の姿。
彼女だけでも無事でよかった。
そんなことを頭にそのまま崖下へと落下して行く。
遥か頭上から”フリオさ〜ん!”と必至な呼び声ながらも相変わらず間の抜けた声音だな、なんて思いながら身に受けた衝撃。
だが思っていたよりも負担はない。
それよりも視界を覆った水分に、慌てて姿勢を立て直す。

ここは水の中。
そういえばあの崖の下には湖が広がっていたことを思い出した。
泳いで水面より顔を出すと、頭上からティーダの声が聞こえてきた。

「フリオー、無事っスかー」

そう顔を覗かせているティーダに手を振り、無事を知らせる。
不幸中の幸いだった。
もし落ちた先が普通に地面だったらただでは済まなかったのだし。
水面とはいえ打ちつけた体が多少痛むが、大事にならなかったのだからこれくらいは問題ない。
目の前に降りてきたロープを握り締め、痛む体をなんとか抑えて崖を登る。

「大丈夫か?」

そう手を伸ばしてきたのはクラウド。
こちらの腕を掴み、崖から登りきるのを手伝ってくれた。

「ありがとう、クラウド」

そう礼を述べ、そのまま地面に座り込む。
辺りを見渡すと、イミテーションの姿はひとつも見えなかった。
自分が落ちてしまう時にはすでに数体のみだったのだし、あの後すぐに全滅させることができたのだろう。
そうでなければこんな悠長に自分を救助しているわけにもいかないのだし。

「フリオって意外とドジだったんスねー」

そうティーダが笑う。
ドジと言うよりも、不意をつかれたと言ったほうがしっくりくる気もするが。

「そういえば、セシルと11はどうしたんだ?」

ここにいるのは自分と、クラウドとティーダだけ。ふたりの姿が見当たらない。

「あぁ、何か燃えそうなものを見つけてくると探しに行った」

濡れたのどうにかしないとだろ、と近くの木に縛り付けていたロープを解きながらクラウドがそう応える。
確かにこんなびしょ濡れでは動き難い。
ティーダからタオルを受け取り、頭を拭いているうちにセシルと11が戻ってきた。

「取り急ぎ、このくらいあれば焚火になるよね」

セシルが抱えてきた小枝を地面に置いて、11に火をつけるよう促す。
腐っても魔法使い。
このくらいはお安い御用だったようで、すぐに小枝は燃えはじめた。
しかし取り急ぎと言っていただけあって、このくらいの小枝ではそんなに長時間燃えていることは不可能だろう。
もっと探してくるからと、11を残して三人で薪拾いに向っていってしまった。


「うわぁ、びしょびしょですね〜」

そう隣に11が腰を降ろしてきた。
まったく人事のように呆れたように声をかけてきたが、自分は知っている。

「おまえのあれはなんなんだ」

落ちる寸前に視界に捉えていた、手を一回伸ばしかけて、すぐに引っ込めた11の姿。
きっと落ちるのを助けようとしてくれたのだろうが、どう見てもあれはあからさまに手を引っ込めていた。

「え、だって、びしょ濡れになりたくなかったんですもの私」

それにフリオさん頑丈そうだから大丈夫かなってと笑顔を向けてきた。
こいつはあれか。
愛しい(と思われているかは少し疑問に思う時もあるが)恋人が、崖から落ちようとも見捨てる気満々なのか。
普通こういうときは実際には無理だったとしても多少なりとも助けようという意思をみせるものじゃないのか?
あんなあからあさまに手を引っ込めることないだろう。

だいたい受け止めようと構えていた時だってそうだ。
普段の11の戦いぶりからどう考えてもあんな身軽に身を捌けることができるなんて予想不可能だ。
常にあれくらいの動きを見せてくれていたなら不意な飛び蹴りを喰らうことだって回避できたはず。
そんなことを思っているとなんだか無性に腹が立って来てしまった。
勢いに任せて隣に座る11の頬の引っ張ってやる。

「ふぁっ、はひふふんへふはっ」

両手で引っ張れるだけ引っ張ってみれば、何を言っているのかわからない口調で文句を言ってきた。
おまえの非情さに比べたらたいした事ないだろうと言い返すと、一瞬11の目が泳いだのを見逃しはしなかった。

何か隠している。
あの手のことよりも後ろめたいことを。
そう確信して、一旦頬の手を放す。

「で、後は何を隠しているんだ」
「えぇっ、…何もしてないです、よ〜」

とそんないつもらしからぬ、歯切れの悪い喋り方をした時点で何かを隠しているということは明白だ。
それにこっちは ”隠していること” と聞いた。
その返答が ”何もしていない” ではおかしな話だろう。
言わなきゃこのまま抱きつくぞ、と言えばびしょ濡れになるのを避けていた11がこっちに向って正座をしてきた。

「過ぎたことなんで、怒らないでくださいね?」

そう首を傾げて上目使いで聞いてくる11だが、そんな可愛らしい態度に流されはしない。
聞いてから判断すると言えば不服そうな面立ちながらも話始めた。

「まぁですね、敵さんに吹っ飛ばされたのは認めますよ」

そもそもウォーリアさんの形なんかしてるからと、なぜだかウォーリアの技に対する愚痴から始まった。
あのクルクル回る剣技に目を回されているうちに盾で吹っ飛ばされたのだと、そこまでは戦いの中での流れだったのだという。
戦闘中に目を回しているのもどうかと思うが11の話の続きに耳を向ける。

吹っ飛ばされたのは不意打ちで、それはもう天高く飛ばされた。
こんな姿勢では受身を取ることはできないと感じたのは、飛ばされた本人である11も同じだったらしい。
それでも11自身ではどうすることもできなく、ただ襲いくる衝撃に恐れを覚えながらも落下しているところに自分が現れたのだという。
これで激突は免れるとホッした矢先だ。
安堵をすれば周りの様子も自然と見えてくるもので、構えている自分の背後に湖が面していることに気がついた。
このまま自分に受け止められても、その後のよろめきでその湖に落ちてしまうことは間違いない。
だが11は衣服を着たまま濡れるのはゴメンである。
そんな思いから咄嗟に身を操り、いまだかつてないほどの身の軽さを見せてくれたというわけらしいのだが。

「フリオさんを反動にすれば、私が湖に落ちるリスクが軽減されるかなって思いまして」

だからあえて飛び蹴りしました、ごめんなさい、と11が珍しくも頭を下げてきた。

…つまりはそういうことだ。
11の濡れたくないという保身のために、あえて自分を犠牲にしたのだと。
怒りを通り越して、その意味のわからない執念に呆れの息を吐く。

「フリオさん、怒っちゃいました?」

そう顔を覗き込んでくる11に目を向ける。
こいつは馬鹿だけど悪気はない。
悪気はないのはわかっているけれど、やはり馬鹿としか言い様がない。
顔を上げて11の肩に手を置く。

「怒ってはいない。そりゃあ、誰だって好き好んでずぶ濡れになりたいやつなんかいないしな」

ティーダ以外と付け加えて。

「でもなんだか無性に気がおさまらない」

そう11に思い切り抱きついてやる。

「うわっ、…つめっ、冷たいですよフリオさん!」

喚きながら逃げようとする11を羽交い絞めにして、これでもかというくらいに抱きしめて。
濡れるから放せとバシバシ叩いてくるが、もうすでに濡れたんだから意味ないと思う。

「こういうときこそあの機敏さをみせればいいんじゃないのか」
「だってだって、こんなの油断大敵でしょ!」

そんなに濡れるのがいやだったのか、泣きそうに意味のわからないことを叫んでいるが。
たまには仕返しだ。
日々11から齎されている災難ともいえる行為の。
だから三人が戻ってくるまでのもう少しの間、このまま11をからかって過ごそうと思う。

-end-

2010/7/6 めそ様リク




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