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瑣末な事


彼女は仲間たちに可愛がられている。
わざとそうされるよう振舞っている…わけではないだろうことはわかっている。
いつも笑顔を絶やさないし、そんな腹黒さの欠片など一度たりとも見たことはない。
あれは天然だ。
だから余計に性質が悪いというのか、自覚のなさが恐ろしいというのか。
いろいろと勘違いを起こさせてしまうのはそのせいなのだろう。

お願いされれば即刻ふたつ返事で引き受けてしまうフリオニールとティーダ。
11にとって彼らが頼りになるのか否かはわからないが、よくそんな光景を目にする。

「お願いしても大丈夫?」

と11に上目使いで頼まれたら (身長差ゆえにそうならざるを得ないことに彼らは気がついているだろうか) 断れないのも頷けるが、なにもそこで顔を赤らめる必要もないと思うのだが。
大の男が顔を赤らめるなんて、見ているこっちは気持ちが悪いことに気がついてもらいたい。

唯一の女同士であるティナは、11を着せ替え人形の如くに扱っている節がある。
確かに見た目は人形のように華々しくあり、…可愛らしいのだが。
装備品とは別に仕入れてくるあの数々の衣装はどこから手に入れてきているのか不思議なものだが、この間、たまたまだ。
ティナとオニオンナイトが一緒にいるところを見掛けた。
このふたりが常に行動をともにしているのは今更珍しいことでもないのだが、なにやらふたりで懸命に作業をしているところを目撃してしまった。
魔力を振り絞って、色とりどりの布地に細工を施し、一着の衣装を作り上げていっていた。
その主たる魔法の主導権は、やつれ具合からどうやらオニオンのようだが、まんざらでもない表情を浮かべていたということはきっとそういうことなのだろう。
彼もまた、11の為にと力を振り絞っていたのだと。
しかし、その辺りは自分的にも潤うものがあるからいいだろう。目の保養は大事だ。

「スコール、どう?似合う?」

なんて、駆け寄ってくる様なんて……。

…あぁ、そういえばクラウド。
暇さえあれば11の頭を撫でているが、どうしたものか。
確かに彼女の頭は撫で心地が良い。
それに加えて手を伸ばすと丁度いい位置に頭があるのだから気持ちはわからないでもない。
11も11で嬉しそうにしているから、注意しようにも出来ないことをあいつは知っていてあえてやっているのも始末におえないところだ。
やはり牽制する意味でも一度対戦しておくべきだろうか。

そして、ウォーリア。
以外にも彼もまた11を可愛がっている。
全く興味なさそうな面立ちながらも、11と居る時の雰囲気の柔らかさはいつもと違うものだ。
それでも今のところはこれといった害もなさそうだから、放っておいてはいるが……。
それよりもだ。
害といったらあのふたりだろう。

あのお調子者コンビのバッツとジタン。
ことある毎に11をどこかへ連れていってしまう。
そしていつも唐突に居なくなるものだから追いかける暇もない。
ああ見えて彼女も戦う者なのだし、敵に遭遇したところで何も心配することなどはないのだが問題はそこではない。
あいつらふたりして11を狙っている…とは少し語弊があるか。
一体何が気に入らないのか、自分と11との接触を阻んでいる感がある。
ふたりでいる時でさえ遠慮なく絡んでくるのだから、回避のしようがない。
今もこうして11を囲んで楽しそうに。

……。
居ない。

またしても見逃してしまったか。
あれほど注視していなければと思っていたのに、とんだ失態だ。
急いで、彼らの行きそうな場所へと向う。



最近気に入っているらしい、太く聳え立つ木立群。
その中で一際見事な木を仰ぎ見る。
だが3人の姿は見えなく、気配もない。
どうやら今日はここではないらしい。
となると、以前よく行っていた水辺だろうか。
しかし、ここしばらく暑くはないから水浴びには向かわないだろう。
では、見晴らしの良い高台か。
また新たな場所を見つけたのだとしたら少々厄介だ。
探し出すのに時間がかかる。

「………」

歩む足を止め、息を吐く。
なんで自分はこんなことをしているのだろうか。
一応自分と11は恋人関係にあるとはいえ、告白してきたのは彼女からだ。
あまりにも顔を真っ赤にして告げてくるものだから、その勢いのままに頷いてしまったのが始まりだ。
もともと彼女に興味はあった。
いや、興味はあったとは言ってもそれは他の者たちが11を可愛がっていることと同じものだ。
それに特に断る理由もなかったのだから、頷いたことに後悔はしていない。
していないが、11を恋人という対象として好きかと聞かれればまたそれは別の話になってくる。
しかし好意を寄せてもらっている以上、そして頷いてしまった以上自分だってそれなりに彼女の話を今までよりも真摯に聞いてみたり行動をともにしてみたりと、頑張ってきた。
だが11は告白して満足なのか知らないが、相変わらずあちらこちらにと愛想を振り撒いて、あのふたりの誘いにすらホイホイと自ら付いて行くのだから、こちらとしては堪ったものではない。

(馬鹿らしい)

自分の気持ちが不確かなのに彼女を探し歩いて、彼女にまた振り回されるなんて滑稽にも程がある。
だいたい自分が好きだというのなら、それこそあいつらなんかと一緒に行かないで自分の元に留まるというのが筋だろう。
……止めだ。
これではいかにも自分が11のことを…。

「あ、スコール!」

不意に声をかけられ視線を上げると、こちらに向って手を振る11と、その後ろにバッツとジタンの姿が見えた。
なにやら楽しそうに和気藹々とこちらに向って歩んでくる。
ああやって楽しそうな笑顔の11を見れるのは嬉しい。
ただ自分とふたりで過ごしている時には見せてくれないのは気にかかるが。
やはり、自分では11を楽しませてやれることなんてできやしないんじゃないだろうか。
たった数日前に恋人という関係になった中で、11がそう判断したというのなら彼女が彼らと過ごす時間を作るというのも理解できることだ。

「ただいま、スコール」

そうこちらを見上げてきた11に目を向ける。
ここは、お帰り、というべきところなのか?
なにかが違うような気がするんだが…。

「いやぁ、スコールさん家の11ちゃんお借りしまして。ありがとな〜」
「今日は珍しく向え来なかったんだな。おかげでのんびり癒させてもらったよ」

バッツとジタンの言っている意味がわからない。
だが、ふたりともなぜか満足そうな顔をしている。
そんな不可解な思惑が顔に出ていたのか、ふたりが不思議そうな面立ちでこちらを見やってきた。
それからお互い顔を見合わせて、確かに言った、やら、頷いていた、だの確認をし始めた。
全くもって話が見えない。
しかし話の雰囲気からすると、どうやら自分についてのことらしいということは察することができる。
だから一体なんのことかと聞き出そうとする前に、バッツが声をかけてきた。

覚えてないのかと言うバッツになんのことだと聞き返せば、呆れたような顔を向けられてしまった。
少しだけその顔にむかついたが、とりあえずふたりの話に耳を向ける。

「11がスコールのことなんて好きだっていうからさ。まぁそれは今更しょうがないとして」

言い様に多少の苛立ちを覚えながらも引続き黙って話を聞く。
自分たちが一応付き合い始めたという事実はすぐに仲間たちに知れることになった。
それはいい。
11が自分のことを好きなのは変えようのないことだし。
だが、ひとつだけ譲れないものがバッツとジタンの中にはあったのだという。

「あれだよ。スコール、いくらなんでも11と一緒に居過ぎっつーの?」
「そうそう。俺らの癒しの時間、全っ然くれないんだもんな」

それに業を煮やしたふたりが自分に提案をしてきたのだという。
1日一回は11と過ごせる時間をくれるようにと。
しかし自分にはそんな話を持ちかけられた記憶はない。
またこいつらふたりしていい加減に誤魔化そうとしてないか?

「スコール、その時私もいたんだよ。覚えてない?」

11と遊ぶ時間が欲しいと訴えるふたりに、自分はしっかりと頷いていたのだと11が証言をする。
でもやはり、記憶にない。
11が言うのなら確かなのだろうが、なんでそんな肝心な話を覚えていないのだろうか。
いや、それよりもまず、そんなに自分は11と一緒に居ないだろう。
話が少々大袈裟過ぎるんじゃないのか。

「うっわ〜…自覚なしかよ」
「ある意味大物なんじゃないか?」

そうふたりが苦笑を零した。
でもまぁ、とジタンが続ける。

「今また言ったんだから、もう忘れんなよ?無しってのも勘弁な」

約束したからな、と手を一振りしてジタンが去っていく。
呆気にとられながらも見送っていると不意にバッツに肩を組まれた。
ニヤニヤと、よからぬ事を考えている時に見せるような顔つきで 「ホント、大物大物」 などと人を小馬鹿にしたかのように組んだ肩を叩いてくる。
何が言いたいと睨みつけてみても、バッツの弛んだ顔は引き締まることもなく、尚腹立たしい。

「俺らからしてみれば大したもんだと思うよ、いや真面目に」

皆が11を可愛がるのは本心から愛でているものであって、そこにそれ以外の他意はない。
ジタンもバッツ自身も同じだ。
戦火の中の僅かな憩いの一時を11に癒してもらっているのだという。
言われてみれば、自分も11と過ごしている時間はなんともいえない至福の一時だ。
それと同じくして、不思議と疲れが取れる。
あの緩やかな雰囲気がそれを齎しているのだろうか。
そう思えば確かに癒しの時間と言われれば頷けるものだ。

「だからさ、その11と付き合う気になれたなんてスゲーよ、スコール」

俺なんて絶対そんな気になんかなれないもんなぁとバッツが苦笑する。
そしてそれだけを言うと、先に去っていったジタンを追いかけるようにして走り去っていってしまった。

またしても意味がわからない。
それに自分に限らず誰だって11にあんな顔して告げられたら頷いてしまいそうな気がするし、別に大物なんて言われる筋合いもないと思うんだが。
やはり、からかわれているのか?こっちの反応を見て遊んでいることなんて日常茶飯事だからいまいち信憑性に欠ける。
相手にするのも馬鹿らしいか、と11に自分たちも宿営地に帰ろうと声をかける。

「うん。…あっ。ねぇ、スコール」

先を歩む自分に11が話し掛けてきた。
立ち止まり11に振り返る。

「手、繋いでもいい?」
「…手?」
「うん。繋ぎたいなぁ、なんて思っちゃったりして。ダメ?」
「いや。別に構わないが…」

そう手を差し出すと、嬉しそうに手を繋いできた。

「嬉しいものなのか?」

鼻歌混じりに歩く11の姿に、嬉しそうな面立ちと相まって浮き足立った様子が目に見て取れる。
手を繋ぐぐらいで不思議なものだと、思わずそんなことを尋ねてしまう。

「嬉しいよー。だって好きだもん、スコールのこと」
「…あいつらともよく繋いでるだろ」

繋いでいる、とは少し状況が違う気もするが、よくそういった場面を目撃している。
どこかへ連れ立っていく時なんて、それこそさっき合流した時のような楽しそうな顔をして。

「そうだけど。でも、違うよそれとは」

バッツとか他の仲間たち皆も好きだけど、と11が言葉を濁す。

こういった11の態度が、自分を不安にさせる。
本当に自分のことが好きなのだろうか。
告白してきた時は当然そうだったのだろうが (あれが芝居だとしたら大した役者だ)、もしかしたら今はもう違うのではないのだろうかと。
だが、こうして11の動向に一喜一憂しているあたり、認めざるを得ないのかもしれない。

素直に認めたくなかったのは無駄な意地。
こんな彼女だから本気にしてはいけないと、どこかで理性が認めるのを拒んでいたというのか。

「スコール大好きだから、触れたいと思ったんだよ」

好きな人と触れ合えるのは幸せだから、と笑顔で首を傾げる11に、あぁこれは完全に自分は彼女に惚れているのだと認識する。
皆が彼女を構うのが気にいらなかったのは、11を独り占めしたいからといった幼稚な嫉妬だ。
そんな嫉妬を抱く自分が間抜けで、だから惚れているのだと認めようとしないで、勝手に不安に駆られて。
馬鹿なのは自分なのだと溜息を吐く。

「だからね」

繋いだ手を動かして、指を絡めとってきた。

「ね。恋人繋ぎ!」

照れくさそうに、しかし嬉しそうにそう微笑む11に、手袋をしていて良かったと心底思う。
11を好きだと認めたことにより身を包む緊張感。
それが原因なのか手に汗滲んでいるというこの状況。
手袋のおかげで感づかれずにすむ。

しかし、なんだろうかこの感覚は。
むずがゆいというのか気恥ずかしいというのか。
あぁそうだ。
これで自分自身の蟠りも晴れ思い思われの相思相愛となったのだから、今までの自分たちと違って恋人同士だと胸を張って言えるんじゃないのか。
それならば手くらい繋いで当然だ。
なにも緊張することなど。

「……」

バッツの言葉が頭を過る。

”俺なんて絶対そんな気になんかなれないもんなぁ”

今更ながらに理解できた。
手を繋ぐことくらい当然だというのなら、その先も当然有りえるということだ。
全く考えもしなかったことをあいつに諭されたようでそれが無性に腹立たしいが……。
その、つまりだ。
皆に溺愛され、愛でられている対象である11を。

(図らずも、そうなるのか?)

チラリと11を窺えば、ニコニコと嬉しそうにこちらを見上げている。

好きな人と触れ合えるのは幸せだと言う11の言葉が頭を巡る。
このくらいで緊張してしまっている自分に、11を心身ともに独り占めにすることが出来る日などくるのだろうか。

(嬉しいこと…のはずなんだが……)

この数日間に置ける蟠りなんて、もしかしたらこれから先起こりうることに比べれば些細なことだったんじゃないだろうかと、少しばかり項垂れる。

-end-

2010/12/1 ウェレア様リク




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