”落着” ”厄災” 小話
6月4〜7月5日分
--------------------------------------------------------------------------------
1.※side ”落着” スコール小話。
「んじゃあ、これ、持っててねスコール」
彼女からそう差し出されたものに目を見張る。
この形状は、野球で使うバットと同じもの。
ただそのフォルムには、持ち手部を除いたそこかしこに釘が打ち付けられている。
それだけではない。
しっかりと打ち込まれているのではなく、釘の半ば程まで…つまりは突起になっている状態だ。
「これは…」
そう彼女に尋ねると、当然のことのように ”釘バット” と応えてきた。
釘バットとはネーミングすらも穏やかではない。
これで身を打ち付けられでもしたら、苦痛は免れない。
それどころか、こんなものでメッタ打ちにされたという屈辱までついてくる。
そんなものを渡されても…と思うのだが。
「厳つくて、かっこいいでしょ」
それにクラウドへの牽制にもなるしさ、と彼女が笑う。
かっこいいかはその辺りは個々の趣味だから何ともいえないが、(自分的には最悪な趣味だと思う)確かに見た目は人を寄せ付けないものはある。
それを示すかのように、さっきから仲間たちが遠巻きにこちらの様子を窺っているのだし。
しかし、クラウドへの牽制とはどういうことなのだろうか。
いや、彼女の役にたてるのなら理由などどうでもいいことだ。
とりあえずは
「アビリティの取得まで、待ってもらえるか」
これを装備できるアビリティは今の所自分は持っていない。
「んー。早くしてね」
そう言う彼女のために、早々にも大剣装備のアビリティを手に入れようと早速とコロシアムへと向う。
◇
2.※厄災 小話。
反乱軍の拠点としているアルテアにて、多忙のため不在しがちなミンウと自分たちの伝令係りとして宛がわれたこの少女。
「少し変わっているけれど根はいい娘だから、よろしく頼むよ。フリオニール」
それだけを告げてあらたな任務に出掛けていったミンウ。
そして目の前に佇む少女。
見た目的には魔導師のようだ。
それにミンウ自身が連れてきたのだから、身なりといい、きっと彼の弟子かその辺りなのだろう。
よろしくなと挨拶をすると、はぁ、となんとも気の抜けるような声音で返事をしてきた。
隣に立つマリアにヒッソリと耳打ちをする。
「大丈夫なんだろうか」
「ミンウが連れてきたんだから、大丈夫…よ、きっと」
ね?とマリアの後ろに立っているガイに同意を求めると、急にふられた話にわけがわからないながらもなんとなく頷いてきた。
少し心許無い気もするが、戦いの場に一緒に行くわけでもないし伝令係りとしての役目をしっかりと果たしてくれるのなら問題はない。
「えぇと、そうだ。名前はなんていうんだ?」
そういえばミンウはこの少女を置いていくだけ置いていって、名前すら告げていかなかった。
じゃあまずは名前くらい聞いておかなければと思ったんだが
「そちらが先に名乗るのが礼儀ってもんじゃないんですか〜」
「は?」
なんともふてぶてしい態度でそう返してきた。
なんだろう、この不快感は。ミンウの使いだからって態度が悪すぎやしないか?
それに先ほどの会話を聞いていなかったのだろうか。
確かにミンウは自分の名を呼んでいたんだが。
そんな自分の苛立ちがマリアとガイには筒抜けだったようで、怯えるガイをマリアが宥めている。
「だめよフリオニール。落ち着いて。それに彼女の言うことも一理あるわ」
義妹にそう窘められて、あらためて自分の名前を告げる。
「ふ…フリニ、オ……なんか、とても呼びにくいんですけど。舌、噛んじゃいますよ〜」
そう溜息を零す少女に肩を落とす。
意味がわからない。初対面で名前に文句をつけられるなんて。
少しどころか大分変わった性格の持ち主なんじゃないだろうか。
「あ、じゃあフリオさん!フリオさんって呼びますね」
それからマリアさんとガイさん!と嬉しそうに少女は名前を呼ぶ。
あぁ、その辺りは普通なんだなと思うも、この先この少女に果たして伝令役がしっかりと勤まるのだろうかと一抹の不安が過ったのは気のせいであって欲しい。
[表紙へ]