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02



営業を終えて、店内の後片付けを一通り終えた11がバイト先である店を出たのは日付も変わろうとしている深夜0時少し前。
空いている日ならもう少し早い時間に帰宅することもあるのだが、平日なら大抵この位の時間帯での帰宅となる。



店の建つ狭く暗い通りをしばらく歩くと大通りが見えてくる。
ここはミッドガルの八番街。
通称ラブレス通りと呼ばれている地区のある区域だ。
観劇場があるということだけでも他の区域より人の出入が目まぐるしい。
それに加えて、通りの通称名となるほどに人気の演目 ”LOVELESS” が上演される期間にはその数は膨大なものに膨れ上がる。
人が増えればその分いざこざが巻き起こる確率もあがってしまうのだがそれを懸念してなのか、この地区には神羅の治安維持部隊が警護にあたっている。
そのおかげで11はここに来てから一度も不穏な話は聞いた事がない。
それに人が集まる場所は環境設備も整っているもので、大通りまで抜けてしまえば街頭が明るく道を照らしている。
だからこんな夜も更けた時間帯にひとりで帰路を辿ることになにも不安はない。
しかしザックスはそうもいかないらしい。

ザックスが常連となり、親しくなっていくうちに会話の内容は無難なものから先輩兵士から小言を受けたことやら、夜勤明けはとてもキツイなどお互いの日常の話にまで及ぶようになっていった。
その中でお互いの家の話になったのだが、上京してきたザックスが一人暮らしなのは今更ながら、11もひとりで暮らしているのだという話に及んだ。
遅い帰宅となるバイトの帰りに一人暮らしでは誰も迎えに来る者がいないという状況にザックスは 「でも、女の子ひとりって危ないだろ。家まで送るよ」 の一点張りで、どんなに11が大丈夫だと説明してもなかなか食い下がらない。
11としては帰宅事情を含めて自分で選んだ仕事なのだし、親しくなったとはいえ一介の常連客であるザックスにそこまでしてもらう義理もない。
それにザックスだって仕事の帰りだというのにわざわざ彼の帰宅時間を延ばしてしまうことになるのも気が引ける。
そう何度も断ったというのに、終いには閉店まで待ち伏せているという強行に出られてしまった。
そこまでされてはさすがに無碍に断ることも出来ない。
11は仕方なく 「今日だけね」 と念を押してその時は送ってもらったのだが、偶然にも11のアパートはザックスの帰路の途中にあり、それ以来 「どうせ通り道だし」 と時間さえ合えば送ってくれるようになってしまった。
ついでだからと言う気さくなザックスに流されて彼の親切に甘んじている自分が少しばかり情けなく感じてしまう11だが、正直ザックスと過ごしている時間が楽しいのも事実である。
そんなことから家も近いこともあり、次第に店員と客としてだけではなく、友人として一緒に遊びに出掛けることも増えていった。
”いつものトコ” といえば待ち合わせ場所に指定されたゲームセンターに足が向いてしまうほどに。



何度もくぐった自動ドアを通り抜け11は店内へと入って行く。
入ってすぐに目に映るのはシューティング・ゲーム。
いつもならこれに夢中になって11が来たことに気がつかないなんてことも多々あるのだが、今日はここではないようだ。
ぐるっと店内を軽く見渡してみる。
年齢にしてはザックスは体が大きい方だ。
それに加え兵士として鍛えてるだけあって、一般の者たちよりは幾分か目立つ。
24時間営業の店内は時間帯にも関わらずほどよく賑わっているが、おかげで容易にザックスの姿を見つけることができた。
あれだけ身長があると成長しきった感もあるがまだまだ育ち盛りである年頃なのだし、もう少し伸びるのだろうなとそんなことが不意に11の頭に浮かんだ。
そんな体格のいいザックスが背中を丸くして、なにやら一生懸命にのめり込んでいる様子が11にとって少しばかり面白い。
でも探す時には見つけやすくて便利かもしれないなんて考えながら近づいて行く。

「ザックス、お待たせ」

笑いを堪えた声音で声を掛けると、少し驚いてからちょっと待ってと返してきた。
言われるままにその場でぼんやりと待っていると、ザックスが急に屈み込んでゲームの景品の排出口から何かを取り出し11に差し出してきた。
11に渡されたモノは手の平に収まる大きさのチョコボのヌイグルミ。
リアル物ではなくデフォルメされた可愛らしい形のものだ。

「私に?」
「うん。もらってやって」

そう苦笑をしながらザックスがチョコボのヌイグルミを撫でる。
さっきまでは自信に溢れていた。何でもできそうだと、根拠のないものだったけれど。
でもやっぱり根拠はないわけで、苦手なUFOキャッチャーはいつもと変わらず苦手で、ようやく11の手にしているモノを掴むことが出来たのだという。

「そんな、せっかく取れたのに。ザックス自分で持ってなよ」

ソルジャーになれた日にいい記念品じゃないのかと11が遠慮する。

「いや、いーんだよ。11、持っててよ。それ、欲しがってただろ?」

そう言うザックスの言うとおり、確かに11はこのチョコボのヌイグルミを狙っていた。
しかしUFOキャッチャーの腕前は11もザックスに負けず劣らずなもので、手にすることは適わないと思って諦めていたのだ。
本当にいいのかとザックスに尋ねれば笑顔で頷いてきてくれた。

「ありがとう」

そう礼を言う11にザックスは満足そうに再び頷いて、それから時計に目を向ける。
時刻はまだ0時を過ぎたばかりだが、11を送ってしまわなければならない。

「よし。じゃあ、行こうか」

ザックスに続いて11もゲームセンターを後にした。



11の住むアパートは、八番街の噴水広場を通り抜けて少し歩いた所にある。
街灯に照らされた広場を歩きながら、あらためて11はザックスにソルジャー合格の祝いの言葉を贈った。

「ありがとな。ってか、こんなあらためて言われるとなんか照れくさいな」

そう、はにかんで頭を掻くザックスに11は笑みを零す。

「あ、そうそう。俺、引っ越すことにしたんだ」
「引越し?」

結果発表後のオリエンテーションでソルジャーへの待遇についても語られたという。
ほんの触り程度の内容だったのだが、その中で一際ザックスの興味を引き付けた話があった。
住まいの話である。

ソルジャーという性質上、一般兵に比べ多忙でより家を不在にしがちになる。
帰宅すら出来ない日々が続くことも時と場合によっては頻繁に起こりうることだ。
そのうえで、家賃等負担させるのは如何なものだろうか。
神羅のために日夜職務に励む者たちのためにも、それくらいは社が持つべきではないのだろうか。

との考えから、ソルジャーの住まいについては家賃半額分の補助が出るらしい。

「寮、とかじゃないんだね」
「そうなんだよ。俺も聞いてみたんだけどさ」

11の感じた疑問はザックスも同じだったらしく、その辺りはしっかり質問してきたのだという。

「貴重な戦力をわざわざ一箇所に留めておく必要がないんだって」

市民から絶大な支持を受けている神羅という企業だが、いつの時代もそれに抗う勢力はいるもので神羅もその例に漏れず反抗組織は存在する。
しかし奴等の狙いはあくまで神羅という組織であって、一般人には危害は極力及ばないよう行動しているらしい。
それならばここを狙えば一網打尽と言わんばかりの寮を備えるよりも、個々で住居を持っていたほうが無駄な抗争を回避できる。

「言われてみれば納得ってカンジだろ」

よく考えてるよなー、とザックスは感心しているが11にしてみれば穏やかな話ではない。
いつもザックスが何気に話してくる戦地についてのことだって、経験したことのない11にとってはそれは遠くの地で起こっている絵空事のできごとで、聞きながらも当然ながら実感できずにいた。
でも今聞いた話によれば、例え市街地でも状況によっては戦地になり得るのだという。
一般の感覚からしてみれば充分にコワイ話だ。
しかし現状そうなっていないのはやはり神羅のおかげであって、普段彼の人柄に忘れてしまいがちになるがそれに所属するザックスも戦う者。
それも明日からは…すでに今日になっているが、前線に先立ち兵士を率いていくソルジャーとしてザックスは歩んで行くのだ。
11は今更ながら、スゴイ人と知り合ってしまったのかもしれないと思う。

「あぁ、それでそれで」

そんな11の考えをザックスが知る由もなく、話が脱線したと笑いかけてきた。

「お祝い。さっき、欲しいものないかって言ってただろ」

ゲームに夢中になっていたかに思われたザックスだが、夢中になりながらもそれなりに考えてみたのだという。
一番に欲しいものではないが、それに進む為の一歩は手に入れたばかりだし後は夢に向って突き進むのみ。
そんな現状満足といった状態で欲しいモノが浮かんでくるはずもなく、ザックスが祝いにと選んだことは先の話に関与しているものだった。

「引越し、手伝ってくれないかな」

今ザックスが住みかとしているアパートは、上京したての頃、少ない資金ながらに格安で見つけた物件だ。
お世辞にも住みやすい、とは言い難いほど家賃に見合った佇まいである。
生活にもなれ、貯金も程よく溜まった頃合にでも引っ越そうと考えていた矢先の家賃補助の話。
それならば心機一転、これはぜひ活用しなければとさっそくその場で申請をしてきたのだという。

「引越し先はこれから見つけなきゃなんだけどな」

深夜ともあって車の通りは殆どない。
信号機の点滅する交差点を渡りきれば、もうすぐ11のアパートに到着する。
どんな部屋にしようかと、楽しそうに話し掛けてくるザックスに11は返事をしながら、ふと思った。

「ねぇザックス。私、力仕事とか向いてないと思うんだけど」

それでも大丈夫?と11がザックスを見上げてきた。
合格祝いに引越しの手伝いというのならそれはそれでザックスが望んできたことだし、11もやる気満々なのだが、そうなると一人暮らしとはいえ冷蔵庫やら洗濯機などの家電くらいはあるわけで、そんな重たいものを自分が果たして運べるのかという疑問が過ったようだ。
ザックスはといえば、彼女に重たいものを運ばせようなんて考えは当然ながら全くなく、思わず立ち止まる。

「え?いや、そういう手伝いって意味じゃなくて…」

そう苦笑を零して11を見やる。
足を止めた場所は丁度11のアパート前。

「荷物は引越し屋に頼むし。だからその後、手伝ってくれないかなって思ってさ」

整理整頓得意だろ、とザックスは11の部屋を指した。
それに納得したのか11が安堵したように、それならまかせてと笑顔で胸を撫で下ろす。
そんな11の様子に、放っておいたら本当に力仕事でもなんでもやってくれそうだとザックスは再び苦笑する。

「引越し先決まったら連絡するからさ。頼むよ」
「うん。いいトコ見つかるといいね」
「おう。んじゃ、おやすみ」

そう手を振り歩き出すザックスにおやすみなさいと11は手を振り返す。

「あっ、ザックス」

11が思い出したかのように小走りでザックスを追いかける。
名前を呼ばれて立ち止まったザックスは、何事だろうかと11を待ち受けた。

「送ってくれてありがとね。それと、合格、本当におめでとう」

満面の笑みでそれだけザックスに告げ、おやすみ、と11は再び小走りでアパートへ戻って行った。
その背中をザックスは見つめる。

女友達は11だけじゃないし、一般人にも男の友人はいる。
皆それぞれ思い思いの喜びを表わしてくれるだろうけど、その中でも1番最初に報告したいと頭に浮かんだ人物は11だった。
11と過ごす時間が心地よい、といえばいいのだろうか。
エントランスに入る直前にまだ立ち止まっているザックスに気がついた11が、軽く手を振ってきた。
こういった仕草ひとつにしても男に媚びてるようなあからさまなモノではないし、きっとそんな11の自然さが自分にはあっているのかもしれない。
11に手を振り返したザックスはそんなことをふと頭に過らせながら、もう少し先にある自身のアパートへと足を向けた。

2010/6/16





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