My favorite,thinking of you――A
「なあなあー、11はカインのどういうとこが好きなんだ?」
昼下がり、ヴァンの一言。
「ちょっとヴァン? そういうことを軽々しく女の子に聞くもんじゃないの」
ティファが窘める。それに対しヴァンは
「だってアイツ、11のこと避けてたじゃん。そんなヤツのどこを好きになったのかなーってさー」
ズバッと切り込む彼に悪気は微塵もない。
案の定、11の顔は真っ赤になった。
「そ、そんなのたくさんあるさ。強いとことか、縁の下の力持ち、というのかな、目立たないところで目配りして、皆のこと支えてくれてるとことか、無言実行なとことか……」
「11は外見より中身をちゃんと見てる子なんだなぁ」
ラグナが感心する。若い男女というものは相手の容姿に重点を置きがちだ。カインは女性にもてはやされそうなルックスをしているが、11が評価したのは彼の外見では判断しきれない部分だ。
「11さん可愛い……」
赤面して恥ずかしそうに、しかしきちんと答える11のいじらしい姿に、思わずユウナが呟く。
「んじゃあさ、いつから好きになったんだ?」
再びヴァンが問う。実は少し離れた位置にライトニングがいて、彼に厳しい視線を送っているのだが、本人はちっとも気付いていない。
「あ……うん、最初から気にはなってたんだ。よく独りでいるなって」
スコールもよく単独行動を取るが、彼とはまた違った雰囲気を感じたという。
こんなこと思うのは失礼かもしれないけど、自分と似ているかもしれない。そしてもしかしたら自分と気が合うかもしれないとも。
今思えば願望だった。気が合っていてほしい、そしたら彼と話が弾んで、寂しさを忘れることが出来るかもしれない。
「友達を亡くしたばかりの私には、あの人はとても特別に見えたんだ」
自分勝手な思いだけれど。
「11ちゃん……君って子は……!」
ラグナが11の頭を髪がぐしゃぐしゃになるくらいに撫で撫でしてきた。その目にはうっすらと涙を浮かべている。
大切な人を失ったばかりの彼女に、この世界はどう映ったのだろう。たった十数人しかいないこの世界は彼女にとって救いとなるのだろうか。
「辛かったろう? おじさんのむ」
「11、私の胸に飛び込んでこい」
腕を広げるラグナを押し退けてライトニングが進み出る。
「ははっ、ライト、大丈夫だよ」
ギュウ、と抱きしめられ11は微笑む。
「皆がいるから」
◆◇◆
11がカインと現在の関係を築く前、実は一度だけ、行動を共にしたことがあった。
とはいえそれは偶然の出来事で、恐らくカインは憶えてはいないだろうと11は思う。
あれは、11が探索中に急激な天候の変化で雨宿りを余儀なくされた時のことだ。
岩陰で身を潜めていた11のところへ、同じ目に遭ったのだろうカインが飛び込んできたのだ。
隣り合うまで彼は、そこにいた先客が11だとは気付かなかったようで、一瞬だが足を止めた。
「……邪魔をしてすまない」
まだ余裕はあれど、限りあるスペースを割いてしまったという思いからか、カインは短く断りを入れる。
「え、いや別に気にすることはないさ。災難だったね」
今までまともに話す機会のなかった11は、ほんの少し緊張しながらも確りとした声で返す。このまま会話が続けば……と彼女は期待したが、カインが言葉を繋げることは無く、沈黙の間が横たわる。
心なしか気まずい雰囲気を感じ、話題になりそうなことを模索している最中、11の目に留まったものがあった。
「カイン。怪我、してるじゃないか」
彼の利き腕の防具が一部破損し、赤い傷口を覗かせている。防具が壊れる程の衝撃だ、もしかしたら骨にまでダメージが及んでいるかもしれない。
そう判断した11は有無を言わさず彼の左側に回り、回復魔法を発動させた。
魔法剣を身に付けている11は白魔法があまり得意ではないが、根気強く傷を治してゆく。その真摯さが伝わったのか、カインは口を挟むことなく11に治療を委ねた。
やがて時間はかかったものの、彼の傷は塞がり11は安堵の溜息をついた。
「遅くて、ゴメンな」
「……いや……助かった。礼をいう」
その言葉は簡素なものだったが、11は嬉しかった。
その後暫くして雨は止み二人は共に帰還した。あの後二人の間に会話は起こらなかったが、11の胸には自分の前を歩く彼の大きな背中と、仄かな想いが重なって舞い降りていた。
End.
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ユリス様よりサイト復活のお祝い小説いただきましたー!
前回いただいたお話のその後ですね。
カイン、思う存分もてはやしたい(笑
いやでも人間やっぱり見た目よりも中身が大事ですよねー。男女問わず。
そして過去回想、夢主さんの仄かな想いとは裏腹に、治療を受けるカインの心情は如何に……気になりますv
ユリス様、ありがとうございました!
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