明日、あの人が幸せでありますように
空一面雲ひとつない快晴日。
彼の名を意味する太陽の日差しが、余すことなく身に降り注いでくる。
珍しい気候。
この異界にもこんな日があるなんて。
水面に足を踏み入れる。
冷たくて、熱くなった身体には心地よい。
彼はさっきからずっと泳ぎまわっている。
疲れることはないのだろうかと、少しばかりの心配も余所に楽しそうにはしゃいでいるのだから大丈夫なのだろう。
泳ぐことの苦手な自分からしてみれば、そんなティーダの姿は自由で元気で羨ましいもの。
自分はこの水辺に足を着けるだけで精一杯だ。
ふと、顔をあげて視界に映った彼の姿。
こっちに向って手招きをしている。
そっちに来いと?
いや、それはムリ。
だって泳げないもの、と否定を込めて首を振ったのに何やら楽しそうな面立ちでこっちにやってきた。
少しだけ強引に手を引かれ、図らずもザブザブと水の中に体が浸されていく。
「ねっ、ねぇ、ティーダっ。ムリ!泳げないから、やめてコワイ!」
「んー、だから、はい。背中に乗って?」
そう背中に促された。
どうやらおぶってくれるらしいけれど。
「大丈夫っスよ。潜らないから」
そう苦笑を浮かべた彼の言葉を信じて、言われるがままに背中に体を預けてみる。
浮遊感と共に、次第に浜辺が離れていく。
「気持ちいいっスかー?」
頷いて返す。水に対する恐怖心から言葉が出てこないから。
それでもその体を伝う振動で感じ取ってくれたのか、良かったとティーダの一言が返ってきた。
コワイけれど日差しで熱っていた体を冷ますのには丁度良くて、気持ち良いと感じたのは本当だ。
「なーんかさー」
ティーダの声に耳を傾ける。
「なんか、こんなゆっくりできるの久しぶりっスよねー」
頷き返す。
「それにふたりきりだしー」
「…」
「こーいうのが幸せっていうのかなー、なんて思っちゃったりしてさー」
自分も、同じこと思ってた。
けど、今は声を出す余裕なんてなくて、肯定の意味を込めて抱きついている腕に力を篭める。
その意も読み取ってくれたのか、ティーダが嬉しそうな声音でありがとう、と告げてきた。
お礼を言いたいのはこっちもだ。
ティーダと過ごせる幸せ。
ティーダもそう思ってくれていたなんて、自分にとってこれほど嬉しいことはない。
ただ今は声にならないけれど。
この幸せが続きますように。
明日も、明後日も、ずっと。
彼が幸せでありますように。
そんな願いを込めて、彼の頬に口付けた。
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