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興起 後


「そういえばさ、ひとつの可能性としての話なんスけど」
「可能性…って言葉知ってたんだね、ティーダ」

心底驚いたような面持ちで11は隣を歩くティーダに目を向けた。
そんな11に対してティーダは心外だと言わんばかりにむくれてみせる。

「人をなんだと思ってるんスかー、11は」
「あぁ、うん。子犬?」

子犬と言えば庇護欲をそそるもの。
暇さえあれば元気に動き回って、構って欲しい時には主の元へと纏わりついてくる姿は可愛いらしい。
つぶらな瞳で見つめられたら撫で繰り回したくなってしまうし、未知なるものには貪欲で、好奇心の赴くままに行動する様は微笑ましいもの。
餌付けてしまえば忠実に言うことも聞いてくれるようになるし、躾だって可能だ。
11のそんな子犬感は概ねティーダに当て嵌まると自負していたのだが、言われた本人はやはり不服のようで、即答してきた11の言葉に些かいじけ始めてしまった。

「ああ、ごめんごめん。冗談だって」
「…冗談に聞こえなかったんスけど」
「冗談なんだってば。ほら、どっちかっていったらもう成犬でしょ、ティーダは」

もう子犬って年でもないもんねぇ、と言い直してきた11なのだが、どうやら犬類から離れる事はないらしい。

「体だって私よりも大きいしね、うん。大人大人。で、なんだっけ?可能性?」

パシパシと背中を叩きつつ、話題を元にもどしてきた11は未だに掴みどころのない性格だとティーダは思う。
この異界に召喚されて、初めて出会ったのは11だ。
不確かなこの世界で身を確保してくれたのは本当に感謝している。
異界の中での在り方を教えてくれたことだって、恩に切っている。
一緒にいれば楽しいし、話題にだって事欠かない。
ただ、時折ティーダ自身をからかう様なことさえ言わなければ素直に尊敬できるのだが。
年だってそんなに離れていない…ともすれば同じ年かもしれないのに、やたらとお姉さんぶりたがるというか、可愛がりたがるというか。
まぁそう扱われるのは決して嫌ではないからそれはそれで構わないのだけれど、たまにこうして話しを折ってくるのはどうかと思うというのがティーダの思うところだ。

「……ひとつの可能性ってだけなんだけどさ」

話しの先を促され、ティーダは本題を紡ぎ始めた。

「知り合いだったかもって子に会ったって、大分前だけど話したの覚えてる?」
「うん。覚えてる。可愛かったんでしょ?」
「えっ、そ、それは…、あぁ、うん。そうなんだけど……って、それは今関係なくって」

また話を折られそうだったところをティーダは堪える。
11のペースに巻き込まれてはいつまでたっても話は進まない。

「戦いたくないなら戦わなくたっていいって、あの時言ってくれたでしょ」

そう言ってもらえて、気が楽になったのは確かだ。
剣を、拳を交えたくないのならば、そうしなければいい。
誰にも指示などされてはいないのだ。
混沌と調和という二派に分かれて闘う中で、不自由ながらも自分の意思で決めることのできる貴重な一因。
でも、それって本当にそうなのだろうか。
だって、戦って相手を倒さなければこの戦いは終わらない。
自分の居た世界に戻ることができないのだ。
今はない記憶だって、戦いを重ねるごとに蘇ってくるもの。
ならばやっぱり敵である調和の戦士と戦わなければならないわけで、知り合いだったかもしれないからと避けてるだけではいけないのではないのだろうか。

「オレは自分の世界に帰りたい。記憶だって虚ろなままなのは不安だ」

そうするためには戦いが必要だ。

「だからやっぱその子ともだって戦うべきなんだと思うんだけど」

躊躇してしまう気持ちばかりは止められない。
やらなければならないのに出来ないもどかしさ。
どうにかならないものかと考えた末に、ひとつの可能性が思い浮かんだのだと言う。

「仲間だったかもしれないけど……、でもそうじゃないかもしれない、ってこともあるっスよね」

戦いを避けてしまったのは、あの子の見た目に惑わされたからなのかもしれないとティーダは言う。
儚げで、可憐な佇まいは戦う者には到底見えない。
それに加えてそこで入り込んできたのが、クラウドの話だ。
調和にかつての仲間がいるのだと言うクラウドの話に、じゃあ自分もそうなのかもしれないと、そう思ってしまったから余計に戦闘意欲が削がれてしまったのではないかと。

「うーん。うん。まぁ、そうかもしれないけどさ。で?それで?」
「や、それでっていうか。そういう可能性もあるんじゃないのかなー…てだけなんスけど」

キョトンとした面立ちで11を見下ろしてくるティーダに11はそっと息を吐く。
ティーダはわかってない。
何で自分にこんな可能性の話をしてきたのかということを。

「じゃあ、そうだよって言ったらどうするの?」

いつの日か蘇った記憶がほんの少しでも、彼女は己の世界でも敵だったのだと知らせてきたら。

「そしたらやっぱ戦うしかないっスよね……」

切なそうに歪められたティーダの眉間に皺が寄る。
そんな顔が出来るということは、もう答えが出ているじゃないか。
ティーダ自身は気が付いていないけれど、記憶とは違う心の奥底に深く刻み込まれている感情。
それに素直に従っていればこんなに無駄に悩まなくてもいいものなのに、素直すぎるが故に混沌と調和という立場ばかりを深く考え過ぎてしまっているのだろう。

「んー、ティーダがそんな辛そうな顔してるんなら、私が倒してきちゃおうか?」
「だっ!ダメっスよ、それは!」
「何でさー。だって倒さなきゃ終わらないんだよ?」

ティーダに辛そうな顔は似合わないし、いつだって元気に笑っていてもらいたい。
こうして顔を曇らせている元凶は、ティーダの言う”あの子”だ。
ならば混沌で、ティーダの仲間である自分が、ティーダの代わりに倒してくる。
そう考えるのは至極当然のこと。
それに目的なく戦うことが面倒なだけで戦うこと自体は嫌いではない。
”あの子”は、召喚獣を使役してくると聞いているし、なかなか戦い甲斐もありそうだ。
武器ともいえる召喚獣達を倒してしまったら”あの子”はどうやって戦うのだろう。
あの細い杖でもって、魔法でも使ってくるだろうか。
それとも……。

「11っ!」
「…って、冗談だよ」
「冗談に聞こえなかったっスよ」
「そう?」

半分は本気だったけれど。
だってそうじゃないか。
この異界でティーダを拾ったのは11自身。
右も左もわからない、まるで子犬のようなティーダをここまで保護してきたのは11なのだ。
それなのに、たった一目かちあっただけのかつての知り合いかも知れないという相手にばかり頭を悩ませて、こちらの言い分を聞かずに苦しんで。
少しくらい、自分に対して頭を悩ませてくれたって悪くはないはず。
でも、知っている。
ティーダはただ背中を押してもらいたいだけ。
自ずと出ている答えを肯定してもらって、一歩を踏み出す勇気をもらいたいだけなのだ。
だから、ちょっとした意地悪はこれでお終い。
もしかしたら、本当にこれで最後になってしまうかもしれないけれど、でも11自身、ティーダにとって何が一番に必要なのかと言うことを考えたらこれしか浮かばなかった。

「私が思うにさー、スッキリするにはやっぱり親子で語らうのが一番なんじゃないかと思うのね」

”あの子”とやらの正体だって本人に聞く勇気がないのなら、蘇った記憶の中の”あのおっさん”…父親にでも相談してみたらどうだろうか。

「はぁ?なんだよソレ」

物凄くイヤそうな顔を向けてきたけれど、11は気にしない。

「親子で拳で語らうも良し、だと思うけど?」

そう11はいつの間にか辿り着いていた歪みへとティーダを押し込んだ。
ティーダは突然の出来事に為す術もなく歪みに飲み込まれていく。
この歪みには現在ティーダの父親であるジェクトが居ることは調査済みだ。
遊んでいるようで情報収集には余念のない性格の賜物ではないだろうか。
何の気なしに散策に誘って、何気のない話を楽しんで。
ティーダの予想外の”可能性”の話には少しばかり驚いたけれど、でもこれで反って決心がついたというものだ。
そうして到着した先は11の目的としていた歪み。
そしてもうひとり ”あの子”も直にこの歪みへと到達するだろう。
感動のご対面……とは行かないだろうが、どう転んでもこれが11自身が選んだ結果だ。

「思い切ったことをしたな」
「クラウド。いつから居たのさ」
「お前の行動が気になって、後を追ってきていた」
「クラウドってば、心配性ー」

ティーダと出会って、一緒に過ごしているうちに感じていた違和感。
どんなに愛でても、可愛がっても、からかっても、大事にしても、拭えない違和感に残す道は突き放すしかないと11は考えていた。
そんな思いをたまにクラウドに零してはいたのだが…様子を気にされるほど自分は病んで見えただろうかと11は苦笑を零す。

「自己満足でしかないけどね。白黒はっきりしてないとイヤなの私は」
「…耳が痛い話だ」
「まぁね。クラウドのことだって信頼してるけど信用まではいかないし」

我ながら嫌な性格だと11はため息を吐く。

「でもクラウドの場合だとスッキリできないのは明白なんだよ。なんたってクラウド自身の記憶が割としっかりしてるからねぇ」

何をけしかけてもあしらわれそうだし、と11は些か悔しそうな面立ちを覗かせた。
そんな11の仕草にクラウドは肩を竦めて見せる。
11の言うように、確かにクラウド自身、混沌に身を置きながらもその立ち位置ははっきりとしたものではないのは自覚していた。
記憶がある分厄介に思われているのも頷ける。
それでもまだ、信頼に足る分味方として扱われているのは良い方なのだろうが。

「でもまぁ、これでさ。強敵ジェクトを倒してくれればそれはそれで大助かりなわけだし」
「倒されたら倒されたで、こんな戦いから解放されるから万事解決…ってことか」

なら泣く必要はないんじゃないのか、という言葉をクラウドは飲み込む。
顔を俯け、静かに涙を流す11。
信頼はされているが、信用に足らないクラウドは11に何かを言える立場にはない。
出来ることといえば、こうしてただ傍に居るだけ。
次元の歪みが薄くなっていく。
内部での決着が着いたのだろう。
不器用な愛情の結末は、11の望んだ通りになっただろうか。

-end-

2013/02/13




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