DdFF | ナノ




希覯

「お?11じゃん」

鬱蒼と繁る木立を足場に、ふと視界に入った姿を目に留めてジタンは声を漏らす。
いつもなら11の傍らにいる……いや、逆だろうか。
あいつの傍に11がいると言った方がしっくりくる気がするか?
付かず離れずの距離を保ちながらも、ふたりセットを常としていたのだから11がひとりでいるなんて何とも珍しい光景だ、などとひとり思いながらジタンは木の上から地面へと降り立った。

「あれ、ジタン。お疲れ〜」

ジタンの姿を見つけた11が手を振り近づいてくる。
それに手を振りかえしながらジタンも11の元へと向かった。

「珍しいな。今日は一緒じゃないのか?」

そう声を掛ければ11が苦笑を返してくる。

「いやいやそれがねぇ、鬼の霍乱ってやつ?」

11曰く。
今日も今日とて、スコールのテントに早朝から散策のお迎えに行ったのだという。
わざわざ11が迎えに行くのはスコールに逃げられないためだ。
ひとり単独行動を好むスコールは、如何に11が日々纏わりつこうがやはり基本ひとりがいいらしく、11が強制的にでも引っ付いて行かないと巡り合うことは難しいらしい。
だから毎朝、日の出とともに……ともすれば日が昇り切る前からテント前にて待機しているらしいのだが。

「……ストーカー?」
「いやだ、人聞き悪いこと言わないでよー」

ジタンの言う不審な言葉にケラケラとした笑いを向けながら11は続ける。
テントの前で待てども待てども、一向にスコールは姿を現さない。
もしや上手いこと逃げられたのだろうか。
しつこいのは自覚している。
しているけれど、そんなあからさまに態度に出さなくたっていいじゃないか。
それにしたって逃げるにしてもテントの裏から物音も発てずに脱出するなど不可能なこと……とは思えど、万が一はある。
不可能なんて言葉はこの異界に中にはないのだ、などと焦りつつテントの幕を捲ろうとしたその時、中から何やら咳き込む音が聞こえてきたのだという。

「結構熱も高かい感じでねぇ、咳も辛そうだったし」
「風邪か?スコールが……」

体調管理はバッチリしてそうなスコールが風邪を拗らせているイメージがジタンにはさっぱり浮かばない。
まぁ、体調管理云々なんてのもそれこそジタンの勝手なイメージでしかないけれど、少なくとも11も鬼の霍乱などと言っている辺り、あながち遠くもないイメージなのだろう。

「つーか、看病しなくてもいいのかよ」

常日頃11がスコールと行動を共にしているということは、所謂、そういう女心ってものが働いてのものだと思っていた。
だから、好意を寄せる相手が病んでいる時にこそ傍に居たいと、看病してやりたいと思うのが当然なのだとジタンは思うのだが。

「え、だってうつったらイヤじゃん」
「おいおい、案外ひどいな」

スコール、何かいろいろご愁傷様…とジタンが心中手を合わせる中11は話を続ける。

「それにさ、スコールもうつると嫌だからどっか行けって言ってたんだよねぇ」
「おぉ。優しいなスコール」

普段あんなに嫌そうな顔をしているわりには意外と満更でもないのだろうか、うつるとか気にしたりして。
いや、体調が優れないからこそ傍にはいて欲しくないとか……?
……だったらちょっとばかし11が不憫に思えてきてしまうのだが、まぁでも、ひとり静かに寝ている方が体調回復には何だかんだで一番いいし合理的だ。

「だから遠慮なく今日はひとりで散策ってわけで。そう言うジタンはどうしたの?バッツは?」

そっちこそ単独行動なんて珍しいじゃない、と11が小首を傾げてジタンを見やる。
そうそう、そうやって大人しく、可愛らしく振舞っていれば、あのスコールだってあそこまで迷惑そうな顔は向けないんじゃないのだろうかというのは余計なお世話だろう。
未だ11がスコールに構うのを無碍にせず、かといってくっつく様子もないのだが、ふたりにはふたりなりの距離感があるのだろうし。
そんなジタンはスコールとは違い、色気も何もあったもんではないバッツと行動を共にしていることが多い。
しかし、11の言うように今日はひとりだ。
何でも今日はひとりな気分等と言っていた気がする。
そんな日もあるよな、と思いつつジタンはひとり散策に赴いていたところに11を見つけたのだ。

「バッツがひとりな気分とか」

語尾に(笑)でも付きそうな勢いで11がニヤニヤとした顔をしている。
ジタンはといえば、11の言わんとしていることに何となく察しが付き苦笑を漏らす。
確かに奔放で誰彼かまわず構い倒すタイプのバッツではあるが、そこは11とは違い付き合いの長いジタンだ。
意外と聡く、人の機微に対して察しのいいところはよく知っている。
ホント、損な奴だよなとは思うものの、別段フォローすることもないのだが。

「そんじゃあ、はぐれ者同士、今日はふたりで散策するか?」
「あ、それいいね。なんか新鮮かも」

じゃあよろしく、と一言、ジタンと11は”歪み”を探すべく歩み出した。





異界の其処彼処に点在している次元の”歪み”。
それを開放することにより新たな次元に辿り着くことができるのだが、中には攻略しても消滅しない”歪み”もある。
その場合、開放などは関係なく、レベル上げのための場にしてみたり素材集めのために使用してみたりと便利な場として利用されている。
異界にあって、なんとも親切設計な”歪み”であるが、これを大いに有効活用するほかはない。
例に漏れず、ジタンと11もその消滅しない”歪み”を見つけ、次なる新たな次元の為にとレベルアップに勤しむことにした。
向かい来るイミテーションを身の軽さで翻弄するジタン。
その隙を突いて止めを刺す11。
11の逃した獲物もジタンのさり気ないフォローにより息の根を止め、ふたりの連携はなかなかのものだ。

「結構、息が合うよな。俺達」
「だよねぇ。なんかすっごくやりやすいもん」

これがスコールとならば、と11は言う。
お互い好き勝手に相手を蹴散らし放題、取り逃した獲物は早い者勝ちと言わんばかりに、普段のクールさはどこ吹く風に奪い合いが繰り広げられるのだという。

「まぁ、それも楽しいといえば楽しいからいいんだけどさ」
「いや、なんか意外だよ、そんなスコール……」

見たいような見たくないような、いや、やっぱり怖いもの見たさでそんな必死なスコールを少し見てみたい気もしないでもないとジタンは唸る。

「私もだけど、負けず嫌いなんだろうねぇ」
「んまぁ、でもそんなこと言ったらここに来てる連中皆そんなもんだろ」

程度の差もあるだろうし、顔に出る者もいれば出さない者もいるが、そうでなければここでは戦っていけない。
負けを認めてしまえば敗北へと繋がってしまうのだから。
とはいえ、敵を奪い合うスコールの様子には些か興味が惹かれるものはあるのだが。

「バッツなんてパーっと行って独り占めしちゃいそうなカンジがする」
「まぁな。それならそれでいいんだけどよ」

何がイヤかって、アイツ、ニヤニヤしながらイミテーション倒すんだぜ?
これで何体目! とかいやにはりきっちゃって。
あれには最初どう反応したもんか悩んだもんだよ。
いくらレベル差があるからってさ、流石に笑いながら敵を倒すとかないわー、とジタンが言う。

「うん、でもまぁ、…バッツだし?」
「おう。もうそう思うことにしたんだよ、俺も」

でも流石にウォーリアの前で戦う時には笑って、なんてことはしないんだから、一応理性は働いているらしい。
ならば普段からもそうして欲しいと言ったことがあったのだが 「笑ってでもないとやってられない」 との一言に、あれはあれでバッツなりのストレスの逃し方なのだと理解すれば少しは我慢できるようになったのだと言う。

「あぁ、気持ちはわかるけどねぇ…でもあれだよね。ってことは、バッツにとってウォーリアに指摘される方が精神的に来るってことだよね」
「そうなんだろうな」

そう告げるジタンの目の前のイミテーションが消滅する。
辺り一面もぬけの殻。
この”歪み”内のイミテーションは倒しつくしてしまったようだ。
とはいえ、さしてレベルが上がった感じはない。
ということは、そろそろこの次元よりも先に進むべき頃合いなのだろう。
身体を引っ張られるような感覚とともに”歪み”内から解放される。
今目の前に広がるのは数刻前まで散策をしていた平原だ。
陽はそろそろ傾きかけている。
これ以上暗くなっては、さしたる目印のないこの平原では宿営地に戻るには苦労してしまうのは経験から知っていることだ。

「今日はここまでかな」
「だな」

そう言葉を交わし、ふたりは帰路へと向かった。





「スコール、具合どうー?」

テントの外より声を掛け、11はテントの幕をはぐって中へと入り込む。
その後ろに続くのはジタンだ。
道中、スコールの体調を何となく心配して、ついでだからと11とそのままお見舞いに来てみたのだが。

「え、ちょっと、熱上がってない!?」

薬置いてたのに何で!?と狼狽える11の傍に見えるのは、どこから手に入れてきたのだろうか、よくある感冒薬の袋だ。
その隣には水差しも置いてある。
コップもしっかり置いてある辺り、最低限の看病はしてきたのだということは窺えた。
ああは言っていたものの、結構その辺りしっかりしてるもんだよなとジタンは感心する。
が、しかし、それらには使われた形跡が一切ない。
薬はともかくも何で水分すら摂らなかったのかと11がスコールの額に当てられた濡れタオルを取り換えながら言う。

「あぁもう、こんなに汗かいて……。ジタン、悪いんだけど手伝って」

11が道具置き場を漁り始め、タオルをジタンへと手渡してきた。
それを受け取りジタンはスコールの体を拭いてやるべく傍へと近寄る。
さてどこから拭こうか、とりあえず今着てる服を脱がせないとだよな…等考えているジタンを他所に、11はテキパキとスコールの衣服を剥ぎ始めた。

「体、起こせる?」

甲斐甲斐しく世話を焼く11の手際は良く、ジタンの出番など無いに等しいのではと思いながらも身を起こしたスコールの背部をタオルで拭いてやる。

「スコール、大丈夫か?」

どう見ても大丈夫ではなさそうな雰囲気ではあるが、ジタンにはそんな言葉しか浮かばず。
しかし、スコールからの返答はあった。
微かに、掠れた声音で、聞き取り難いものではあるが。

「……が……」
「ん?辛いだろ、あんま無理するなよ」
「あ……が……」
「お?礼なんて気にすんなよ、こういう時はお互い様だって……」
「スコール!俺特製特効薬第二弾完成したぞ!これなら一発で熱もー…て、ジタン、11」

帰ってたのか、お帰りーと声も軽やかに入って来たのはバッツだ。

「あ…いつが……」
「えっ、何スコール?」
「あいつが……無理矢理……」

辛そうに、しかし漸く捻り出てきたスコールの言葉に11の目がバッツへと向いた。
目線はバッツの顔へ、そしてふとバッツの抱えているモノへと移動する。

「バッツ…それ、何」
「これか?これは俺特製特効薬第二だ……」

バッツの言葉は最後まで紡がれることはなく、素早い動作にて腕に抱えていたモノを11により奪われてしまった。
11はバッツより取り上げた壺の蓋をあける。
そこにジタンも寄ってきたのだが……。

「うっ……!?」

得も言われぬ匂いに顔を顰め、ジタンは咄嗟に身を引いた。
11も漂ってきた得体の知れぬ匂いに眉間に皺を寄せつつ急いで蓋を閉める。

「……これが、薬だと」
「スコール、具合悪そうだったしな」

丁度、見覚えのある薬草に似た感じの草が生えていたから、それを使用して思い出しながら作ってみたのだという。

「”薬師”ってジョブもあったんだよ、どんなカンジだったか忘れたけどさ。それにチェンジできれば完璧に作れるんだけどなぁ」
「こんなもん、効くか!」

形相険しく、11はテントの幕をはぐり、壺を一思いに投げやった。
そしてバッツを見やる。

「ねぇ、なんでそういうことするのかな。似た感じってさ、感じってだけでその薬草ではないよね?知識もなく余計なひと手間かけた上にスコール、今こんな状態になっちゃってるわけ、判る?苦しそうでしょ?ねぇ、これってバッツのその薬のせいじゃないかな」

せっかくコスモスにお願いして無理して無難な薬、召喚してもらった自分の努力は一体なんだったのかと11が喚き始めてしまった。
そんな11を宥めるジタン。
11の怒りの矛先であるバッツはキョトンとしたまま。
スコールはもはや起きている気力もなく寝具に伏している。
あぁ、そんな恰好のままではまた余計に具合が悪くなってしまうんじゃないだろうかとジタンは思うがバッツに対して威嚇を止めない11を留めることで精いっぱいだ。

「11落ち着けって。バッツだって悪気があったわけじゃないんだから」
「悪気があってやってたんなら余計に性質が悪い!」

火に油を注いでしまったようだ。
だがここで挫けていては事態は収拾しない。
図らずもフェミニストを自他ともに認めるジタンだ。
大事にならずに事を収めたい。

「まぁまぁ。ほら、よく言うだろ?良薬口に苦しってさ。もしかしたらすっごい効果を発揮するかもなんだぜ?」

匂いとか、見た目とかはともかくも、効果の程はもしかしたら出てくるかもしれないし、まず様子を見るのが一番だとジタンは言う。
そして喚いてみたところで今の現状が変わることはないのだとも。
とは言ってみたものの、この場を収めるための苦し紛れな口実なだけであってジタン自身も胡散臭い薬だとは思っているのだが。

「……」

しかしジタンの言葉の効果はあったようだ。
静まる11に胸を撫で下ろし、ジタンはまずはスコールをどうにかするのが先決だと11を促す。
11はジタンに促されるまま、放置されていたスコールに気が付き看病を始めた。

「おぉ、流石ジタンだな」
「いや、おまえが原因だろうが……」

もはや怒る気力もない。
ひとりな気分とか言いながら、まさかスコールをこんな目に合わせているだなんて思いもしなかった。
先にスコールが寝込んでいることを知っていれば。
そうしたらこんな可能性も考えて、バッツを放置してくるなんてことは回避できたかもしれないと思ったところで、これもまた返ることのない現状だ。
出来ることと言ったらスコールの体調が早く良くなるよう祈ることと、バッツの相棒として、監督不行き届きだった件について11に謝ることだけだろう。
だが今はひとまず看病に勤しむ11の邪魔になってはならない。
謝るにしても明日にした方がいいだろう。
そう結論したジタンはバッツを伴いテントを後にした。


そして翌日。
ジタンの言葉が少なからず当たっていたのか、はたまた偶然なのか。
すっかり回復したスコールの姿があった。
そんなスコールの姿にバッツが誇らしげに胸を張っていたことに、複雑な心境を持ちざるを得ないジタンと11であった。

-end-

2012/11/27 ウェレア様リク




[*prev] [next#]
[表紙へ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -