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研鑚

「お宝お宝、ザックザクー、と」

はちきれんばかりに膨らんだ袋を抱えて11が足取りも軽く宿営地へと帰ってきた。
そんな11の姿に途端にジタンの目の輝きが増す。

「すっげぇじゃん、11。大収穫」
「でしょ?ちょっと奥の方に足伸ばしたらさ、まだ未開放の”ひずみ”があって」

お宝取り放題とばかりに励んできたのだという。
もちろん、”ひずみ”の開放も忘れることなくこなしてきたみたいだ。
この辺りも大分散策しつくして”ひずみ”ももう無いだろうと踏んでいたんだけど、この様子だとまだあるのかもしれない。
となると、もう少しこの宿営地を拠点として動いた方がいいだろう。
素材はたくさん有るに越したことはないし、なんてひとり思いながら、お宝仕分けを始めたふたりの会話に耳を傾ける。

「お、ラッキー。ポーション、ありがたいよな」

あー、ありがたいよなぁ。体力は回復するしEXも溜まるし。

「うんうん、そうだよねぇ。あ、そういえばモーグリのお守り、壊れちゃったんだ」

あぁ、あれか。結構酷使してたからな、そろそろヤバそうとは思ってたけど。

「これだけドロップ出来たんだから、充分活躍してもらっただろ。寿命寿命」
「だよね。もう一個新しいのあったっけ?」

おお、まだまだお宝探しする気満々なんだな。
でも11なら別にあのお守り装備してなくても充分に運は悪くはないと思うんだけど。

「確かあったと思うけど…そういやスコールが持って行ったような」
「えっ、スコールっ?」

意外だと言わんばかりの11の声音が響く。

「あー、うん、そうだ。ラグナ避けがどうのこうのとバッツに押し付けられてた」
「…なんか、使用用途間違ってない?」

確かに運は上がるけど、あれはドロップ率を高めるためのモノであってそういった意味での運を上げるわけではないんじゃ、と11が言っている。
でもまぁ、名前的には”お守り”とか付いてるし、もしかしたら守ってくれるかもしれないし、少しでもスコールの気休めにでもなればと思って持たせたんだけどな。

「スコール、いつもより二割増し位眉間に皺寄ってたぜ」
「あぁ、まぁラグナよりもね。うん、絡んでくる人いるもんね」
「だよなー。やっぱ効果ないって」

ふたりして、乾いた笑い声を上げている。
ふーん、ラグナよりも絡んでくるヤツなんかいたのか。それは初耳だ。
スコール帰ってきたらちょっと聞き出してみよう。

「ところでさ、ジタン」
「おう、何だ?」

アクセサリと素材を振り分けながらもふたりの会話は続いている。

「バッツ、さっきから何してんの?」
「……アレか?」

と、ここでようやくふたりの手が止まって、自分に視線が向けられてきた。
だからといって、自分の研究の手を止めることはない。
確かこんなカンジだったと、足を踏み込む。

「ジェクトの技のものまねだってさ」
「ジェクトさんの?」

大抵の仲間の技は、習得済みなんだ。
あとは残すところジェクトの技だけなんだけど…あのおっさん、隙がないというか見せてくれないというか。
さっきたまたま戦闘中のジェクトに遭遇したから、これ幸いにと思って見学してたんだけどあっという間に終わってしまったし、ほんの少ししか見れなかった。
そのほんの少しを頭に繰り返し描いているんだけど、なんか違う。
こう、あの一歩が肝心なんだと思うんだけど……。

「なんか…真面目なバッツって新鮮だよね」
「それには同意。明日は雪が降るぜきっと」

こんな快晴なのにな、なんて失礼なやつらだ。
俺はいつでも真面目に本気で…って、拳はこうだったっけか?
裏拳じゃなくて、突きだったような気がしなくもないようなーって、こうか?

「とうっ!」

気合一発、力の限りに拳を突き出す。
すると急速に力が漲ってきた。
そして途端に聞こえてきた笑い声。

「ちょっ…そりゃねーよ、バッツっ……!」
「もっ、ほ…星っ……星、出て……」

頭上に燦然と輝く3つの星。
どうやら力の漲りは、EXモードに突入してしまったためのものだったようだ。

「…おまえら、笑いすぎ」
「いや、だって……」

よほどツボだったのか、ジタンが腹を抱えて笑い転げている。
11はまだ少し顔がにやけているけれど、落ち着いてきたみたいだ。
今は、出現した星の方に興味が注がれている。
キラキラしいよね、と頭上の星に手を伸ばして突いてみたり引っ張ってみたりとやりたい放題だ。
普段EXモードになるのなんて戦闘中しかないのだから興味は尽きないんだろう。

「やっぱり、何度見ても不思議だよね、星」
「言っとくけど俺も不思議だからな、この星」

どうやって浮いているのか、なんで自分にばかり現れるのか疑問は尽きないけれど、害はないわけだから気にしない。
それよりもまずはジェクトの技だ。
ここまできてコツが掴めないとなると、やっぱり一回くらいまともにあの技を見るしかないんだよな。

「難しいなー、あのおっさんの技」
「まぁ、早くて何やってるか判断し難いしね」

難易度高い技だよね、と11が紡ぐ。
確かに難易度は高い。
いろいろな技を身に着けてきた自分が、きちんと技を見ていないとはいえここまで手こずっているんだから。
もはや諦めるしかないんだろうか、とそう思っていた時、ドンと11が体当たりをかましてきた。

「こう、ね。当身から始まってたんだと思うの、確か」

それからパンチしてキックして、とおそらくジェクトの技のマネをしているんだろうけど……。
何だこれ。
やばい、なんか可愛くないか?
素早さは11の専売特許だから、たぶん本気だせばジェクトよりもずっと早く動けるだろう。
でも力なんかは女ってのもあるけれど、まず体格も筋肉量も全く違うものなのだから微々たるものだ。
これくらいなら自分でも受け止めることは充分に可能で、いきなり体当たりをされたところで微動だにしないわけで。
なのにジェクトのマネして体勢崩そうと一生懸命体を押し付けてくる。

「ねぇ、ちょっと。ちゃんと聞いてる?」
「聞いてる聞いてるって」

本当かと訝しげな視線を一瞬向けてきたけど、もう一回やってみるからと11が再度体を当ててきた。
11の肩が胸元に中る。
これでもう少しこっち向いてくれれば当たり所がいいカンジなんだけど、とそんなことを思いながらそのまま11を抱え込んでみた。
鼻につくのは甘い香り。
シャンプーとは違うこの匂いはきっと11の匂いなんだろうなぁ。
普段、お宝探し!とはりきってる姿に今まで特別意識したことはなかったけれど、こうした香りは女の子らしいものだし、抱え込んだ体の線の細さや柔らかさもやっぱり女の子だ。

「ちょっとバッツ、動けない」
「お、ごめんごめん」

そう体を解く。
そうすると、今の続きとばかりに11から蹴りが繰り出されてきた。
でもそれは形だけのもので、蹴り自体はゆっくりで威力なんてものはない。
手で受け止めて、その次を促す。

「あれ、でも何か順番違う、かな…」

ごめんもう一回と11が少し距離を取った。
そして少し身を傾けて、再び当身を中ててくるんだけども。
この後ってパンチだったっけ?と首を傾げてこっちを見上げてきた。
自分でさえ習得していないんだから、ものまねの出来ない11がそもそもそう易々と出来るはずもなく。
次は俺がやってみると、また少し距離を取る。
と言っても、さすがに11相手に本気のタックルをかますわけにはいかないんだけど…。
ドーンと来いと腕を構える11に、じゃあ遠慮なくと一歩踏み出して、今度は正面から抱き着いてみた。
うーん、やっぱり柔らかくてフワフワしてて、こうしていると何だか気持ちいい。
ただひとつ、胸元にくっついた柔らかさがイマイチ物足りない気がしなくもないけれど、もうちょっとくっつけばもう少しは感じられるのかも、なんて思ってぎゅうぎゅうと抱きしめてみる。
うん。多少…多少はさっきよりは、まぁ。
と、そんなことを思っていると11が背中を叩いてきた。

「バッツバッツ、苦しいって…!」
「いやぁ、でもほら練習だし?それに俺は気持ちいいし?」

ホント、柔らかいなーと頬ずりなんかしてみたりして。
くすぐったそうに、でも苦しそうに11が身を捩るけど腕から逃れることは出来ずに自分のなされるがままだ。
あわよくばあんなことやこんなとこ出来るんじゃないかと、高揚してきた気分に悪戯な思考が頭を過った時、誰かに肩を掴まれた。
そして引き剥がされる感覚に、11との距離が離れる。

「…アンタ達は何をしている」
「何って、ジェクトの技の練習?」

いつも以上のしかめっ面を隠すことなく登場したスコールにそう返す。
てか、肩痛い。
放してくれないかな。

「ジェクトにそんな技はない」

至極もっともな意見だ。
そんなスコールの言葉に11はそういえばそうだよね、と今気が付いたと頷いている。
11のそんな様にスコールが深く息を吐いた。

「11、アンタもバッツの言う事をいちいち真に受けているな」

こう見えてコイツはいろいろと危険だ、と酷いことを切々と11に語り始めたけど11はと言えばスコールの話に首を傾げてただ聞いている。

「でも、バッツだし」
「その認識はもう少しどころか大分改めた方がいい」
「スコール、今日はなかなか饒舌だね」
「…11」

本当に聞いているだけで内容はさほど11の頭には入っていないみたいだ。

「それにしてもさ、あんな締め付け技、ジェクトさんにやられたら瀕死確実だよね」
「だろ?そんな可能性秘めてるよな」

ははは、と笑う自分たちに呆れたのかついて行けないのか、はたまた苛立を感じたのか…スコールが無言でテントの方へと向かって行った。
スコールの背中を見送りながら11は首を傾げる。

「なんか、機嫌悪いのかな」
「スコールにだって、いろいろあるだろ」
「うん、そうだろうけど…」

気になるから見てくると、11はスコールを追って行ってしまった。
そうやってすぐ甘やかすから、スコールだって気持ちの踏ん切りつかないんだろうけどな。
でもそうやって人の機微に鈍いところが11らしいって言うか。

「いーのか、バッツ。スコール追わせて」

いつの間にか頭上の星も消えていて、笑いから復活したジタンが心持心配そうな声音で近づいてきた。

「あー、平気平気」

ふたりきりになったところで、スコールに11をどうこうする根性なんて今のところは見受けられない。
それにそもそもそんな根性あるのなら、自分なんかに構わずにさっさと11に告白するなりなんなりしているのだろうし。

「でも、さっさと告白でもすればいいんじゃないのか?11だってバッツとは気が合うとかよく言ってるし、いけると思うんだけどな」

そうすればスコールだって諦めるだろうし、わざわざあんな思いをする必要もなくなるだろうしとジタンは言うけれど。

「でもスコール、からかい甲斐あるし?」
「つか、意地が悪いっつーか、性質悪いっつーか…」
「おー、なかなかヒドイこと言ってくれるなジタン」
「俺は事実を言ったまでだよ」

いい加減にしとかないとスコール可哀そうだろ、と肩を竦めるジタンの言うことも尤もだとは思う。
でも、11の気持ちだってあるじゃないか。
今はまだ良き仲間よりちょっと上くらい。
好意は寄せられているだろうけれど、それは恋心的なものでないのはさっき抱き着いた反応からして確実だ。
ちょっとずつでも男として意識してくれるようになってくれたらな、と思ってはいるけれどまだまだ楽しむ余地はあるんだから、そう焦ることはない。
それに今の距離感が心地良いのもあるし。
スコールの扱いはそれに付属したお楽しみ的なもので、本気なわけじゃないし。
もし11がこの先スコールに想いを寄せるようなことになったとしたら、それはそれでまた燃えるものだし。
何にでも楽しむ価値があるのには変わりはない。

「まぁ、も少し見てろって」

思う存分楽しんで、最後はきちんと11を手に入れてみせるから。

-end-

2012/6/20




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