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浮塵

些細なことでも積み重なっていけば、それなりな大きさになるもので。
それがどんなことでも。
そう、人の気持ちだって。

尻尾なんてあって不思議な人だなぁ、というところから彼への興味は始まった。
でもまぁ、この辺りの興味は他の皆も同じだったと思う。
何せそんなものを標準装備している者なんて彼以外皆無なのだから。
バッツなんかもう、出会った当初から興味深々でそれを隠すことなく彼に絡んでいた。
彼…ジタンはジタンで、好奇の目に慣れているのかそんなバッツに不愉快さを表すこともなく、至って素っ気なく受け答えをしていたのだから、どっちが年長なのか少しばかりバッツの年齢について疑問を持ったものだというのはともかく。
うん、なるほど。
年頃に見合わず、なかなかしっかりとした性根の持主だということが判明。
自分だったらあんな「なぁなぁ、なんでそんなのあるんだよ、感触あるのか?引っ張ったりすると痛いのか?体は?体にも毛が生えてんのか?」等々しつこく纏わりつかれたらキレる自信がある。
尻尾の生えた出来た人物。
それがジタンに対する第一印象だった。

それから徐々に顔を合わせる仲間達に対しても、ジタンの態度は大人なもので。
といっても冷めているとかそういうことでは一切ない。
なんていえばいいんだろうか。
うーん、社交性があるっていうのかな。
年頃の近いヴァンだとか精神年齢のやや低いバッツと一緒になってはしゃいでいる時もあるし、スコールみたいにちょっと仲間との隔たりのある感じのタイプとも上手く対応している。
流石にウォーリアとかジェクトとか、年長者と一緒に居る時には年相応に見えるけれども、でもそれが当たり前というものだろう。
そしてそんな日々を過ごしているうちに、またしても気が付いたことがひとつ。
彼は女の子に対して、とても優しい。
紳士というかフェミニストというか。
ちょっとした雑用なんて当番ってわけでもないというのに気が付けば手伝ってくれてるし、何かと気を使ってくれる。
それは戦闘でも変わりなくて。
後衛で戦うユウナは言わずもがなだけど、前線に立って戦わざるを得ないティファやライトニング。
そんな彼女達の負担をなるべく減らせるよう、敵の意識を誘導させたり構掛けたり、そんな戦い方をしている。
決して「俺に任せろ!」的なやり方ではないのが、彼らしいというか。
そういったちょっとした心遣いはやっぱり戦う者と言っても女の子的には惹かれるものだったりしてティファ、ユウナの好評はもちろん、普段何かと辛辣なライトニングからでさえ「あいつはなかなか男前だな」と好意的なことを言わせてしまうのだから、総じて自分たち女子群の評価は高いのだ。
そんなことをジタンに告げてみたら至極嬉しそうに笑顔で

「女の子を護るのは男として当然だろ?」

なんて、気障かっこいいこと言っちゃって。
でもそんなことをスラっと言えてしまうのがジタンなんだ。
これがスコール辺りが言った言葉ならば、ちょっと嘘くさく訝しんでしまうところだもの。
いや別にスコールのことを胡散臭いとか思ってるわけじゃなくてね、うん、キャラクター性ってものがあるじゃない。
絶対言わなそうだから、そんなこと言いだしたら本当「頭でも打った?」とか余計な心配すらしてしまいそう。

「でもさ、女の子ってあぁいうカンジが好きなんじゃないのか?クールってやつ?」
「それは人それぞれでしょ」

まぁ確かに寡黙なタイプはかっこいいとは思う。
ウォーリアとかね、カインも渋いなあ。
あぁ、でも何かいろいろと小言とか凄そうだからやっぱり除外と溜息を吐く。

「かと言ってさ、バッツとかヴァンはちょっと騒がしいからやっぱり除外」

ちなみにセシルはなんだかもう神々しくて考えるのも憚れる、って何の話をしてたんだっけ?
あぁ、そうそう。
ちょっとした暇つぶし。
なんてことはない、お互いの好みのタイプについてってやつだ。
何でこんな話になってるかといえば……自分のためというか。
些細な事の積み重なりで案の定惚れてしまった相手は、誰にでも…特に女性には顕著に紳士なジタン。
その彼の好みとは、ということを浅ましくも聞き出そうとしていたところがなぜだか自分の思うところを暴露するに至ってしまっていた。
何たる失態。
しかもこれじゃあ選り好みのひどい女だと思われてしまうじゃないか。
でも、だって仕方ないよね。
目の前に、好きな人がいるんだもの。
それを悟らせず、かつ、仲間達の中には好みはいませんよ、というのを伝えるためには、ああ話を持っていくしかないじゃない。
それにこんなノリはいつもの軽い言葉の応酬的なもので、ジタンだってそんなこと気にしていないでしょう。
……いや。てか、あれじゃん。
気にしてないならないで、それは自分はジタンにはどうとも思われていないということになるんじゃないだろうか。
うん、そうだ。
だって少しでも気になってる子があれやこれや異性について云々言い始めたらイヤでしょ。
そういった感じが一切ジタンから感じられないってことは……。
うわ、なんかもしかして、自分墓穴掘っていないだろうか。
どう解釈したところで自分にとっていいところなんてひとつもない。
失態どころか大失態だ。
と、ひとり心の中で大反省会を開いているところにジタンが口を開いてきた。

「んじゃあ、俺は?」

との自分にとっての爆弾発言。
さらっと、サラっと本人目の前に聞きますか!?
いや、ジタンが自分の気持ちを知っているわけじゃないからそう聞いてくるのもわかるけども!
こっちとしてはあえて避けてたし、そりゃあここまでメンバーの名前だしたら気になっちゃうよね!

「ん〜…そうだねぇー、…てか、ジタンはどうなのよ」
「俺が聞いてるんだけど」
「いやいやいやここはね、女子群評価の高いジタンさんの好みを聞いとくトコでしょうよ」

ははっ、と乾いた笑みを向けて誤魔化す。
こうなったらジタンの好みをどうにか聞き出して、挽回とまでは言わないが自分なりに彼の好みに近づけるよう努力するしか道は残っていない。
少し訝し気にこっちを見やるジタンに笑顔でどうぞどうぞと促す。

「まぁ…、とりあえずは身長気にしないことかなー」

ホントこればかりは自分でもどうしようもできないしよー、とジタンが嘆く。
毎日牛乳は欠かさないし、適度な運動も心掛けている。
つーか、あれか?
戦闘してばかりいるのがダメなのか?
俺、筋肉付け過ぎだろうか。
そんなジタンの悩みともとれる言葉は自分にとっては些細なことだ。
確かに同じ年代の仲間よりは小さめだけれど、まだまだ10代成長期。
実際、男が気にしているよりも女はそういったこと気にしてないもんだし。
とはいってもそんな些細な悩みだって積もり積もれば大きな悩みとなるものだ。

「私は、その辺り気にならないけどなぁ」

そんな慰みにもならない言葉を漏らせば、そうなのか?と聞き返してきたジタンに「私はね」と念を押す。
これで少しでも気にすることが減るというのならお安い御用だ。

「あとは…。好みかー。ううん好みねぇ」

あれ。意外とはっきりしない?
あんなに女の子大好きなのに?
え、それって誰でもいいとか、そういうやつだったり?
あ、でもフェミニストだから女の子皆平等で誰にでも公平ってやつ?

「そーだなぁ。…強いて言うなら」
「うん。強いて言うなら?」
「お姫様?」
「…あー、お姫様、ねぇ……」

なるほど。
やはり紳士としては最大限にお護りできる”お姫様”というのはタイプなのだろう。
か弱くて、可愛らしくて、美しくて。
男に護られなきゃ生きていけません的な。
これは、積んだ。間違いなく積んだ。
だって自分はどうあがいても”お姫様”になんかなれやしない。
そりゃ、護られれば嬉しいけれど護られてばかりはイヤだしさ、か弱くもなければ可愛くもない。
紳士な彼は紳士が故に理想も紳士だったと。
儚くも努力以前に玉砕ですか、自分は。

「まぁ…確かにね。お姫様はお護りしなくちゃだもんね」
「しなくちゃ、じゃなくて。日々してるだろ、俺」
「えっ、そうなのっ?」

お姫様なんて仲間にいたっけ?と頭を捻るも出てくるはずもなく。
疑問符を浮かべながらジタンを見れば、不敵な笑みを覗かせてきた。

「なーに恍けてんだよ。11達、レディをしっかり護ってるだろ?女の子全てが俺にとってはお姫様だっての」
「うっはー……クサい、クサいよその台詞!」

聞いてるこっちが恥ずかしい、と身悶え訴えるも言ってのけたジタン本人はなんのその。
しかし、その発想は流石ジタンというか…あれ、結局好みのタイプとか、その辺り核心部ははぐらかされた感じ?
ていうか、そもそもそうだよね。
ジタンだもん。
やっぱ女の子には公平であって、そんなジタンに自分は惚れたんだ。
だからまず、好みのタイプなんちゃらを聞き出そうってのが間違ってた。
ん?
ということは、この先未来永劫ジタンの好みは不明のままってこと?
え、じゃあ、気にもとめられていない自分はやっぱり結局玉砕ってこと?
いやいや、別に好きだって知ってもらいたいわけじゃないし、そりゃ好きになってもらったら嬉しいけれど…。

「ってのはまぁ、冗談だとして」

流石の俺でも誰でも彼でもお姫様ってわけにはいかない、とジタンがこっちに真っ直ぐ目を向けてきた。

「そうやってさ、コッチの言うことにいちいち顔色変えてるのが面白いってか」

そういう反応ホントカワイイよな、とジタンが言う。
かっ…カワイイ?!
ちょっ、一体何言い出すのっ…としどろもどろになっていると、ジタンがその様子を見て苦笑を漏らしている。
あぁ…、ホント何なの一体……。
そんなに顔に出てたのか自分。
穴があったら入りたいとは、まさしく今の自分にピッタリな言葉じゃないだろうか。
一喜一憂さがまんまと顔に出てしまっていた自分が恨めしい。
そんなことをまたひとり脳内で悶々と考え込んでいると、誰かの自分を呼ぶ声が聞こえた。
声のする方を見やれば戦闘準備の整ったライトニングの姿。
あぁそうだ。
午後から彼女と散策する予定だったのだ。
そしてこの状況から逃れるのには絶好の機会。
ライトニング、貴女は私の助け舟です!
と心の中で拝みつつ、さり気なく…そう、あくまでさり気なくを装って立ち上がる。

「じ、じゃあ、ライトが呼んでるからまたね、ジタン」

そう、さっさとその場を去ろうとしたんだけど

「さっきの続き」

そう紡いだジタンに手を掴まれ、立ち止まる。

「俺のこと、どう思ってるか。あとでゆっくり聞かせてくれよな」

そう笑顔で気をつけてと見送ってくれたのだけど……これって…。
これってもしかしてちょっと期待しちゃってもいい感じ?!
だって、自分の杞憂を見透かしていたし、それでもまだどう思っているのか聞きたいって言ってくれたし!
え、でも、まさかね、なんてイマイチ自分の単純な思考に早とちりは如何だろうかとチラリと後ろを振り返れば、笑顔で手を振るジタンが見えた。
そして

「俺にとってのお姫様は、11だけだからなー!」

なんて言葉を叫ばれてしまったとあっては、もう勘違いも何もないだろう。
火照る顔を手で隠しながらも、ライトニングに耳の赤さを指摘されてしまった。

「相変わらず、男前じゃないか。お前の”彼氏”は」

そう苦笑を漏らすライトニングに頭を撫でられながら、さて、恥ずかしげもなくあんな言葉を贈ってくれたジタンには、どうやって自分の気持ちを伝えよう。
とは言っても、自分の単調な言葉では敵わないだろうけど…。
そこは塵も積もれば山となる、だ。
積もり積もった想いを存分に打ち明けることで対抗してみようか。

−end−

2012/5/14 るな様リク




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