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堕する



「えー、と。セフィロス。ちょっと聞いてもいい?」

11は小首を傾げた。
数分前まで、自分は眠りに就いていた。
夢の中はなかなかに楽しく、目的の代物を追いかけて、手に掴むまであと少し…というところだった。
手を伸ばしても伸ばしても代物に手は届かず、あまつさえその腕はどんどんと重くなる一方。
重くなった腕は次第に支えている事も適わずに、地面に向って急降下……と、その辺りで目が覚めた。
楽しい夢が悪夢に成りかかろうかとした所に目覚める事ができたのだから、幸いと言っても差し支えはないだろう。
安堵の息を吐き、顔に掛かっていた髪を払おうとした時に、気がついた。
自由にならない両の腕。
奇妙な違和感に飛び起きてみれば、ベッドに腰掛けているセフィロスの姿が視界に入ってきた。
なぜここに、という疑問こそ持ちつつも、とりあえずにこの状態は何なのかを聞いてみることにした。

「これは、何かな」

合わさったふたつの手首が縄により強固に縛られている様を、セフィロスへと掲げて見せる。

「見てわからないのか。拘束だ」

さも当然と言わんばかりにセフィロスはそう返してきたのだが、11としてはもちろん聞きたいところはそこではない。
幾ら寝起きとも言えど、拘束されているのだということは理解できているのだから。
知りたいのは、なぜ拘束されているのか、ということだ。
何も悪い事はしていないはず。
少なくともセフィロスには。
そもそもこの異界で目覚めたばかりのセフィロスの面倒を見てきたのは11である。(皇帝が見るなり気に入らんと言って押し付けてきたのだが)
二柱の神の元、ふたつの勢力に別れて戦いを続けているのだということから始まり、混沌の地の中でのことは知っている限りのことを教えてきた。
だから、感謝されることさえあれ、こんな拘束される謂れなどはないはずなのだが。

「いやさ、なんでこんなことすんのかなって」

何か気に障ることでもしただろうかと11は尋ねる。
当初は異界での戦い方を教えるためによく行動を共にしていたものだ。
そして随分と経った今でもよく組むことがある。
でもそれは、11から誘っているわけではない。
セフィロスから声をかけてくるのだ。
くだらない戦いなどに興味はないと言っていたはずなのだが、どうも失ってしまっている記憶を取り戻すためらしい。
しかしやはり戦い自体に関心は高くないらしく、もっぱら11の援護といった形をとっている。
気紛れなうえに面倒くさいものだと思いながらも、戦闘に対する相性は合うと感じていた11も別段断る理由もなく付き合っていた。
そうして昨日も戦いをこなして来たばかりであり、いつもと変わらずに別れた。
昨晩から今に至るまで、セフィロスとは顔を合わせていない。
となると、やはりセフィロスの気に障るような何かをしでかしてしまったなんてことは思いつきもしないのだが。

「そうだな」

11の問いかけにセフィロスは手をベッドに軋ませた。
少しの傾きに腕の自由の利かない11はバランスを崩すも、なんとか転がらないよう堪える。

「確認、と言えばわかりやすいか」
「は?確認?」

何それと眉を顰める11の手を捕り、セフィロスはそのまま11をベッドへと倒した。
11の目が驚きに大きく開かれる。
そんな11の面立ちを受け、セフィロスは目を細めた。
戦闘における11との相性は、悪くは無い。
だから、手間のかかるくだらない戦闘に連れて行っていた。
自らが先だって戦わずとも、11の援護だけでも充分に記憶の取得に繋がるものだと考えてだ。
思っていた通りに僅かづつにだが、記憶を取り戻す事は適ってきている。
しかし、全てを思い出すまでにはまだ時間はかかるだろう。
だが、この異界から出ることが出来ないという現状、そう急ぐこともないと気の向くままに戦いに赴いていたのだが、少し事情が変わってきていた。
自身に余裕があればあるほどに、周りをよく見通せるもの。
戦いのほとんどを11に任せていたのだからセフィロス自身そうであるのだが、その中で少し前から気になっていたことがあった。
常ならば飄々と戦いに挑んでいる11なのだが、些か苦戦を強いられる相手との戦闘時に見せる苦渋の面立ち。
それを目にする度に、不思議と体に違和感が走る。
そしてその違和感が何なのかを確かめるべくにこうして11の手首を縛りあげるという行為に及んだ。
最初の反応は、まずまずだろう。
それでもあの面立ちに比べたら物足りない。
もっと、こう、体を何かが這うような感覚だったはず。

「ちっ、ちょっとセフィロス!」

倒れた身を起こそうと、拘束されている両手を駆使しながら11はもがく。
しかし突然の出来事に慌てているせいか、思うように体が動かない。
そんな11の顔をセフィロスは覗き込んだ。
それから、11の顔に掛かっている髪を避けてやる。
すると、11の目がぎゅっと閉じられた。
身を硬直させ、触れられる事に怯えているように見える様は、とてもセフィロスの関心を惹きつける。

「11」

耳へと口を近づけ、名前を紡ぐと11は更に身を固くさせる。
そのまま頬へと唇を寄せると、11の腕が抗うかのようにセフィロスの身を押しやってきた。
何の確認だか知らないが、なぜ自分がこんな目に合わなければならないのか。
相手が格上のセフィロスといえども、このまま好きにさせて溜まるかと11は渾身の力を篭めてセフィロスを押しやる。
しかし努力虚しくもセフィロスの体は微動だにしない。
これが力の差か、と冷や汗滴る思いながらも11はセフィロスを睨みつけた。

「あっ…あのさっ、こーいうのはダメってか、そーいう関係じゃないでしょ私たちって」

だからこんなことやめて、と告げるもセフィロスからは 「こんなこととは?」 と返されてしまった。
11の頭に疑問符が浮かぶ。
こんなことと言ったらここまできたら普通はつまりそういうことを思ってしまうものだろう。
しかし、今の返答からするとセフィロスと11の思っていることには食い違いがあるようだ。
ということは、11の懸念する貞操の危機に関しては大丈夫だということなのだろうか。
いやしかし、相手はセフィロスだ。
何を考えているものかわかったものではない。
ヘタに応えでもしたら 「それが望みか」 とか何だとか言い出して、それこそ身が危ないのではないだろうか。
どうこの場を乗り切るべきかと頭を捻らせている11は落ち着きなく、さっきまで睨んでいたかと思えば今はこうして焦燥めいた面立ちを覗かせている様子に、あぁ、なるほど、とセフィロスは思う。

「そういう顔も悪くない」
「……は?」
「いや…」

口に出すつもりなどは一切なかったのだが、つい言葉を漏らしてしまった。
そんなセフィロスに11は眉根を顰める。
表情にこそ出していないがもしかしてこちらの反応を楽しんでいるのではと。
反応を楽しんでいるというのなら、無反応を演じればいいだけのことだろう。
だが、そんな演技は11にとっては到底無理な話である。
首筋を伝う唇の感触を堪えるだけで精一杯だ。
背中を這う手も、腰を弄る感触も、声を漏らしてしまいそうになるがただひたすらに目を閉じて堪えるのみ。
必要以上の反応はセフィロスを喜ばせてしまうことになってしまうのだから。
そうしているうちに体への感触がふと離れた。
ようやく飽きてくれたのだろうかと11が目を開くと、セフィロスと目が合った。
微妙な居心地の悪さを感じている11をよそにセフィロスが 「やはり」 と口を開く。

「そういった苦悶の顔が、私を昂ぶらせているようだ」
「…それを確認するためにこんなことしてるってこと?」

そう聞く11にセフィロスは頷く。
馬鹿らしい、と思うと同時に悪趣味だと11は思う。
人の嗜好をとやかく言うつもりはないが、それならそれで、何も自分である必要はない。
とはいっても、こちら側にいる女性の形をした者たちは些か一癖も二癖もありそうであるから一番手軽そう、かつ、人間である11を利用してみたのだろうことは察するが。

「なら私じゃなくて。仮にも同じ混沌にいるんだからさ、仲間でしょ一応」

こういったのは調和陣営にいる女たち相手にやってくれと苦言を向けると、それは違うとセフィロスの手が11の頬に触れてきた。
11は思わず肩を振るわせる。
セフィロスの手は11の頬を滑らかに撫で、それから摘んできた。

「泣け」
「…は?」

突如として紡がれたセフィロスの言葉に、11は再び頭に疑問符を浮かび上がらせた。
泣け、とは一体…。
というか、何をそんないじめっ子みたいなことを言い出すのかこの男はと呆れた目を向ける。

「泣いた顔を見せてくれないか」
「いやだから、そーいうのは調和の子にでもっ…って、イタイイタイイタイっっ!」

容赦なく摘まれる頬に、図らずも涙が滲み始めてしまう。
これではセフィロスの言い成りだ。
しかし自分の意志とは無関係に出てきてしまうものは堪えれるものではない。

「調和の戦士たちとはもうすでに対戦済みだ」

確認のためにと、珍しくも自ら赴いて戦い挑んできたのだという。
もちろんセフィロス自身が苦戦を強いられる事などはなく、いつものごとくに特と相手を甚振りつけ勝利に終わってきたと言うのだが。

「どんなに痛めつけて相手が苦痛の面立ちを覗かせようが、それだけだった」

つまらないものだと思いつつも、興奮を促すのは11に限られているのかもしれないという考えに至ったのだという。
赤く色づいた11の頬から手を離し、柔らかに撫でるセフィロスの目が愉悦気に歪む。

「お前にその顔を齎しているのが自分だということほど楽しいものはない」
「や、なんかとっても自分勝手な話で迷惑なんだけどっ」

こうされている身にもなってみろと11は言うが、セフィロスにとっては11自身がどう思おうが構ったものではない。
せっかく見つけた楽しめそうな獲物を、そう易々と手放す気などないのだから。
それにだ。
久しぶりに抱いた感情がセフィロスの心をひどく揺さぶっている。
あの男に抱くものとは違う、欲、と言えばいいのだろうか。
その単語が、自身の感じていた違和感を表すには丁度いいかもしれないとセフィロスは思う。

「もっと、抵抗してみろ」

11の固く結ばれた唇へと、顔を寄せていく。
そうすると11は険しい面立ちにセフィロスを押し返そうと試みてきた。
足をも使い、必至に。
こうして抗う行為自体がセフィロス自身を楽しませていることになっているのは、11にも理解できていることだろう。
それなのに大人しくもせずに抵抗し続けるのは面白い。
そう思うと同じくして、もっと抗う様を見せて欲しいと思うこの欲は、我ながらにおかしなものだとも思う。
そもそも嫌がる女を無理やりに、なんて野蛮な趣味は持ち合わせていなかったはずだ。
なのになぜこの11という女に対してだけはひどく嗜虐心を揺さぶられるのか。

「んっ…とにもうっ、勘弁してよ!」

息も荒く、そう吐き捨てる。
すると、セフィロスを押しやっていた拘束されている腕が11の頭上へと引っ張り上げられた。
11はハッと息を呑む。
そしてあらためて力の差を知る。
楽しそうな笑みを浮かべ、未だ力を行使しているわけでもないこの男に、どんなに抵抗したところで結局適うわけがないと。

「抵抗は終わりか」

泣きそうになるのを堪え、11はセフィロスを見やった。
なんで自分なのだろうか。
ずっと仲間だと思って接していたのに、こんなことになってしまったらこれからどんな顔をしていけばいいのかわからない。
しかしそれこそセフィロスの思う壺なのだろうか。
11自身を困らせて、抗わせて、悩ませて。

「もう、本当、理解不能」

そう呟いたところで、11の手が軽くなった。
セフィロスの、触れるか触れないかの位置で止まっていた顔も離れていく。
それから次には手首に架せられていた拘束が解かれた。
ようやく自由になることが適った11は即座に身を起こす。
11による警戒の視線がセフィロスに向けられる。

「いい顔だ。11」

堪らないものだとセフィロスの手が11の腕を掴む。
手首についた赤黒い痕。
指でなぞり、それからそこへと口付ける。

「この痕が消えるのは、いつだろうな」

五日後か、十日後か。まぁ、いつになろうが構わないが…消える頃にはまた新しく付けさせてもらうと、薄い笑みを向けてきたセフィロスに11は掴まれていた手を振り払った。
そんな11の反応に満足しきりのセフィロスは、ベッドから降り立つ。
そしてそのまま部屋から去っていった。

ひとりきりとなったベッドの上で、11は手首の痕へと目を落とす。
力の差を目の当たりにして最後には抵抗を止めてしまった自分は、セフィロスに齎されたあの行為が心底嫌だったのだろうか、と自問する。
本当に嫌ならば、力で適わずとも抗い続けたはずだ。
でもそれをしなかったのは……。
セフィロスだって決して本気ではなかった。
本気なら、あの時点で自分如きなどどうとでもできたのだから。
そして11の脳裏を過るのは、セフィロスの最後に覗かせてきた薄い笑み。
この痕が消える頃には、セフィロスはまた訪れてくるのだろうか、この部屋へと。
気紛れなあの男の紡ぐ言葉に信憑性などは求めていないが……。
胸の内に湧き上がった不可思議な蟠りに、11はそっと息を吐いた。

-end-

2011/6/17 まな様リク




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