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悶着の種



あぁ、また何やら話し込んでいる。
いつものごとく11から一方的に声をかけているのだろう。
放って置いても害はない、今の所は。
しかし、余計な関わりを持つと厄介な人物だとは知っているし、そのことも11には伝えてあるというのになんだってあぁやっていつもあの男に近づいていくのか。

「11」

声をかけると、相手に注いでいた言葉を止め、11がこちらへと振り返ってきた。
手招きをすると、怪訝そうな視線を相手へとひとつ投げかけてこちらへと走り寄ってくる。
11の話相手であった男、セフィロスはそんな11の後姿に目を向けている。
だが、何を思ってそうしているのかまではわからない。
あの男の考えていることを自分が図りようも無いわけだし、知りたいとも思ってもいないのだが……ただ、不気味ではある。

「どうしたの、クラウド」

そう、不思議そうな面立ちで自分へと顔を向けてくる11の手を引き、ひとまずはここから去る事にした。



部屋に着き、ソファへと身を沈める。
11はといえば、何か用事があったのかと思ったと肩透かしを喰らったようだ。
この異界にて、急いている用件なんてものはない。
調和の戦士と戦う事はそうそう頻繁にあることでもないのだし、他の連中と違い、自分自身好き好んで戦いを挑んでいるでもないのだから。
しかし、強いて言えば剣を交えるのは ”記憶” を取り戻すため、だろうか。
戦いを重ねていくごとに、自分の世界のことが明確に脳裏に甦ってくる。
あの男のことも、そうしている中に思い出すことができたのだが…果たしてそれは良かったのかと聞かれれば頭を捻りざるを得ない。
思い出されるのは、あの男に齎された苦難の日々が大部分を占めている。
それよりも前の記憶のままで留まって置いて欲しいと思うものの、そう都合よくはいかないらしい。

ただ、幸いなことはひとつある。
あの男の記憶は、自分ほどには戻っていないということだ。
だから、あの世界でのようにしつこく絡まれる事はない。
敵意を向けてくることもないし、人形だとか意味不明な言葉も発してこないのはこちらにとっては大分気は楽ではある。

「あんまり、あの男とかかわるな」

だからと言って、英雄と呼ばれていた頃のあいつではないのは、あの不気味な視線から明らかだ。
へたに絡んで、粘着されてもややこしい。
それが自分に対してではなく、愛しく想っている11へと向うものなら尚更だ。

「そうは言うけどさー」

不服気に11が隣へと腰を降ろしてきた。
今日はセフィロスに、手合わせを頼んだのだと言う。

「11…人の話をどれだけ聞いていた?」

あの男が現れてからというものの、あれほど関わるなと口煩く聞こえるほどに話し込んだというのに、一体あの自分の努力はどこに向っていってしまったのだろうか。
あまつさえ手合わせとか、とても理解に苦しむ。

「や、だってね。丁度いいんだよ、剣っていうか…あぁカタナって言うんだっけ?扱いとか、ホント参考になる」

上から目線の物言いは鼻に付くものの、指摘してくる個所は的確だし指導もわかりやすいと11がひとり頷いている。
腐っても英雄か。
過去に培われた習慣は未だ身に染み付いているものらしい。

「手合わせなら他にも相手がいるだろ」

剣を使う相手を望むというのなら、さしずめガーランド辺りだろうか。
もちろん自分も剣を扱っているのだし、いくらでも修練相手になることはできる。
そう告げると、ガーランドの戦い方は何か違うからと言ってきた。
そして自分と対戦するのも勉強にはなるが、と視線をぶつけてくる。

「結局クラウド、私に甘いでしょ」
「……そういえばさっき、どうしたんだ、あれ」

そんなんじゃレベル上がらないと愚痴を零す11に、つい力を加減してしまっている自分には言い返す言葉なんてものはなく、先ほどのやりとりへと話を逸らした。
自分の元へと寄ってくる直前にあの男へと向けた訝しそうな目。
曲りなりにも手合わせを頼んだ相手だろうに、何かあったのかと尋ねると思い出したのか眉間に皺を寄せてきた。

「ん、まぁ。クラウドの言ってたこと、わかった気がするかなーって思って」

だから今日行った手合わせが、あの男との最初で最後の鍛錬だろうと11が言う。
せっかくいい相手だと思っていたというのにと漏らした11の話を詳しく聞いてみると、どうやら意味不明な思考回路は健在だったようだ。
手合わせ終了後、他愛も無い話をしながら歩いていたのだが、だんだんと話の内容の雲行きが怪しくなってきたのだと言う。

「でさ、手合わせしてもらった立場としてはさ、ちゃんと話に付き合ってたわけよ」

普段何にも興味を示していないあの男の関心ぶりに11も浮き足立ってしまったのもあるのだろう。
その中で、自分との付き合いは長いのかと聞かれ、この世界で出会って心惹かれたのだと真っ正直に応えたようだ。
今現在、こうして恋仲にあるということもだ。

「そしたら急に ”お前を抱いたら、どうなるだろうか” なんて言い始めて」

意味のわからない発想ながらも、そんなことしたら自分が怒るだろうと伝えると、それは面白そうなことだとか何だとか言い始めたらしい。
そして何を馬鹿なことをと訳がわからなくなりながらも、11も律儀に言い返すという押し問答を繰り返していたのだという。
自分からしてみれば、まんまとあの男の策略に嵌まってしまったのだとしか言い様がない。
記憶が不鮮明にも、自分への執着心は残っているということだ。
どうしたものだろうかと息を吐いていると、11が心配そうな面立ちを向けてきた。

「ごめん、クラウド。困ってる?私、余計なこと言っちゃった?」

そう言う11に、大丈夫だと頭を撫でる。

「まぁ、少し慌しくなるかもしれないけどな」

困った事態になってしまったことに変わりはないが、人の不安を煽るのが趣味なのか、実行に移してくることはそうそうない。
あるとしても、まだ先の話だろう。
それに近くにいる以上遅かれ早かれ自分達の関係は知られる事になっただろうし、それが早まっただけ。
だから今はまだ心配は必要ないと、11の唇へと軽く触れる。
すると、途端に11が顔を離した。

「どうした」
「あっ、いや…、今、そんな雰囲気だっけ?」

そう11が口篭もる。
まぁ、11の言うように話の流れからして決してそんな雰囲気ではないのだが。

「心配されるのは、案外悪くないと思ってな」

いつもは自分が心配してばかりだから、逆の立場となると少しばかり新鮮だ。
その新鮮さが妙に心地よく、面している問題はともかくとして、こう、図らずも気持ちが昂ぶってきてしまっているのは11のあの心許無そうな面立ちを臨んでしまったからなのだろう。
離れた11の顔へと追うように近づき、もう一度口付ける。
今度は逃れることは無い。
そのまま流れに任せてソファへ11の体を倒し、唇の奥へと舌を差し込んでいく。
目を瞑ると感覚が鋭敏になるのは気のせいだろうか。
11の柔らかな唇が、自分を受け入れているのだという充足感もあるのかもしれない。
熱い舌触りが、お互いの体温を高めているのを知らせてくれる。

「ん、クラウド…」

唇を放し胸に手を宛がうと、11が手首を掴んできた。
手に伝わる鼓動は早い。
11も気持ちが高まっているのは確かで、今更拒む事もないだろうと思う。
僅かに染まっている頬だって、こっちを誘うものでしかないのに。
そう、掴まれた手首を気にすることなく胸を弄っていると、再び11から名を呼ばれた。

「したいんだよ、ね?」

と確認するように聞いてきた11に頷き返す。

「んじゃ、せめてシャワー浴びさせてよ」

体を動かしてきたばかりなのだし汗が気持ち悪い、と身を起こそうとする11の肩を押し返す。
クラウド、と抗議めいた声を上げてきたが構わない。
首筋に唇を寄せて、痕を残す。
衣服に隠れて見えるか見えないかのギリギリの辺りに付けてみたんだが、しかしどうも11には不評のようだ。
痕に手を当て、難しそうな顔をしている。

「見えたら、どうすんの」
「見せつけてやればいいだろ」

こんな痕跡を残してしまったら余計にあの男を煽ってしまうことになるだろうけど、そうせずにいられなかった自分はまだ子供なのかもしれない。
そんな自分の思いを知ってか知らずか、まるで子供みたいなことをするものだと11が呆れた苦笑を向けてきた。

「私、クラウドのモノってこと?」
「それじゃ不満か?」
「コレ、見えるのが不満、かな」

冗談めいたように11が笑みを浮かべる。
痕をつけるのは一向に構わないが、せめて見えないところにと言う11とのこうした時間は穏やかで、異界に居るのだという事を忘れさせてくれる。
あの男との因縁めいたものも、この一時の中では頭の隅から追いやってもいいものだろう。

「11」

愛しさに、頬に口付ける。
それからさっきの続きだといわんばかりに衣服に手をかけると、また止められた。
あぁ、そういえばシャワーがどうこう言っていた。

「汗とか、気にならないが」
「クラウド気にならなくても私が気になる!」

そう、再度11が身を起こそうとしてきたが、腕をとり、ソファへと押し付ける。
汗が気になるというのなら、気にならないようにすればいいだけだ。
必要最低限に触れるだけで。

「それじゃ、脱がなきゃいいんだろ」

いやそれは違うと紡ぐ11の唇を塞ぐ。
衣服の上から触れる胸は柔らかいが、しかし直接触るよりは劣る。
腰に這わす手も、いつもの滑らかな肌とは違いいまいち物足りない。
そっと、衣服の裾より手を忍ばせる。
さすがにベタつきを嫌がっているのだから胸元までへは伸ばさない。
裾から覗く腹部だけでもと手を滑らせる。
11が僅かに反応を示してきたが、唇を塞いでいるおかげで苦言は漏れてこない。
そのまま腰元を撫でまわしている内に塞いだ口から吐息が漏れ始めた。
下腹部へともう片方の手を下ろしていく。
しかし衣服の上からというのは11も同じくもどかしいのか、弄る自分の手へと11の手が触れてきた。
顔を放して11を窺う。

「脱ぐか?」
「え、あ、いや。なんか充分…なんていうか」

口篭る11が、ふと目を逸らした。
それから手で口を覆い隠し、チラリとこっちを見やってくる。

「なんでだろ。ゴメン。なんか……」

キスだけでイキそう、と恥ずかしそうに視線を伏せた11の手を口元から放す。
羞恥のせいか昂揚している気分のせいか、顔が真っ赤になっているがそんな顔を見せられて黙っていられるわけがないだろう。
何より口付けだけで達しそうだとか、そんな嬉しい事を言われて。

「なら、キスだけでいかせる」

そんな宣言を11へと投げかけ再度唇を寄せた。
11の舌を絡め捕り、角度を変えては口内を余すことなく愛撫する。
漏れる吐息には熱が篭り、次第にこちらの衣服を掴んでいた11の手が震え始めた。
吐息に混じって聞こえる甘い声。
固く閉ざされた瞼の奥では眼球が揺らめいている。

(……かわいい)

と、そう思う自分の気分ももちろん昂揚の一途を辿るばかりだ。
挿入を挑むことなく衣服に覆われている自身が疼いて仕方がない。
だが、まずはだ。
愛しいことを言ってのけてくれた11のために、高みへと誘導していく。
息も荒く、眉根を辛そうに寄せている様は自身の鼓動を益々高鳴らせ、熱く滾らせてくるものだが、ここは堪えどころだろう。
焦る気持ちは禁物だ。
しかし、挿入してしまいたい。
熱く蕩けるような彼女の中へと押し入って……。
そんな葛藤を心中繰り広げていると、11の掴む手に力が篭ってきた。

「ぁ…んん……っ」

一度息を潜め、次に力なく11が衣服から手を放す。



「よかったか?」

口付けに濡れた11の顎を手で拭きながらそう窺うと、11がなぜだか泣きそうな顔で起き上がってきた。
急な11の行動に避ける事もままならず、お互いの額が勢いよくぶつかる。
そのあまりの痛さに頭を抱えて震えていると、11の手が恐る恐るといった風に肩に触れてきた。

「なんかさ、私、ヘンじゃない?」

キスでいっちゃうなんてどれだけだよと、ひとり嘆き始めた。
どうも11のプライド的には許し難い事らしいのだが…。

「俺は、嬉しいけどな」
「……クラウド、ヘンだって思わないの?」
「思わないから、安心しろ」

そもそも汗を流したいからと嫌がる11を無理やりというか場を流して行為に及んだのは自分自身のせいなのだし、自分の疼きを発散することはともかくも、自分の齎した行為に11が気持ちよくなってくれるのならこれほど嬉しい事はない。
ぶつけて赤くなっている11の額へと口付ける。
すると恥ずかしそうながらも嬉しそうな面立ちを11は覗かせてきた。

この笑みをいつまでも見ていたいと、そう思う。
あの男に歪められる事のないように。
自分のせいで彼女が危機に陥ることのないように、守っていかなければと。
そんな想いをひとり胸のうちに秘める。

-end-

2011/6/11 りん様リク




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