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確信



「確か、このヘンだったと思うんだけどなー」

どこもかしこも似たような風景ばかりでさっぱり見分けがつかないな、と後ろを歩く11に振り返ってみたら困惑の眼差しを向けられた。
いや、困惑というよりも悲観、といったところか。
眉根をハの字に下げ、目には見る見るうちに涙が滲み始めた。
ほどなくして啜り始めた鼻音に、これは本格的に泣かしてしまったのだと一旦立ち止まる。

「うぅっ。だから言ったじゃないですか、あれほど遠くには行かないでくださいって」
「んなこと言ったって、着いて来たのは11だろ」

自分だけでは絶対に帰り道を違えるからと、ライトニングの誘いを断ってまで着いて来たのは11自身だ。
まぁ、だからといってこの状態の責任を11に押し付けるわけではない。
あっちにこっちにと、寄り道を重ねていたのは俺自身なのだから。
そんなだから仲間と合流するのにも日々時間がかかってしまうわけで、それを懸念して11がこうして着いて来ているのもわかるんだが、一緒に道に迷ってしまっているのでは意味がないんじゃないのか?
こっちの行動を止めるでもなく素直に言う事を聞いてホイホイと後を着いて回っているだけだったのだから、いつもの如く遠回りになってしまうのも仕方ないだろう。

「…開き直りですか」

何やら疑わしい視線を向けてきた。
開き直りだなんて人聞きの悪い。

「ていうか遠回りならまだしも、ホントーーっに、この道でいいんですか?」
「おぉっと、なかなか鋭いとこ突いてくるねぇ11ちゃんは」

だけどその突っ込みは、もっと早くに言うべきだったと思う。
なぜならもうすでにどこに居るのか判らなくなっているからだ。

「……泣いていいですか?」
「もう泣いてんじゃないのか?」
「いえ。もっとこう、ワンワンと声をあげて」

そうしたら仲間の誰かが気付いてくれるかもと11は言うが、そんなことしたら敵さんに居所を知らせてしまうハメにもなってしまうかもしれないという懸念も持って欲しい所だ。
…あれだな。
ちょっとばかし道に迷ってしまったから混乱しているんだこの子は。
とりあえず落ち着かせた方がいいだろうと、しばしの休憩を取る事にした。



携帯していた水筒を11に渡す。
こんな悠長にしている場合じゃないと紡いできたが、それを窘め近くの岩場に腰を降ろさせた。
そこまでさせてしまえば観念したのか、受け取った水筒に口をつけ一息つき始めた。
水を通す細い喉下。
そこから下っていくと、宝飾を散りばめた独特の衣服が目に留まる。
この世界で目覚めてから、11のような服装の者と多々知り合うこととなった。
フリオニール然り、セシル然り。
中には鎧兜なんて大層重たそうなモノを身に着けている奴までいる。
逆に覆っているモノが極端に少ない奴だとか。
各自がそれぞれの世界から召喚された者なのだからそういう世界なのだろうことはわかっているが、どうにもそんな奴らと一緒に居ると自分がいかに普通というか地味というか、こんな平凡な服装で戦っていいのだろうかとそんな錯覚に陥ることもあるが…。
今のところこれといって差し支えないから大丈夫ってことなんだろう。

そういえば、いつだったかライトニングが言っていたな。
あいつらはまるでおとぎ話から飛び出てきたようだと。
まったく同感だ。
こんな風にちょこんと腰掛けてるだけでも絵になるっていうのに、戦いともなればそれこそ小説で読んだり、映画で見たような光景が生で見られるってんだからある意味目の保養というか燃えるというか。
ただ、黙っていれば、だが。
話始めてみれば何てことはない、自分と同じ、ただの人間だ。
文句も垂れればどうでもいいことで笑いもするし泣きもする。
そこに劇的な物語なんてものはない。

「…さん。ラグナさんってば」
「んあ、あぁ。どした?」

うっかり思考に取り込まれて、呆けていたみたいだ。
11がどうかしたかと心配そうな顔を覗かせている。

「あー…お前さんに見惚れてた?」

ってのは冗談と続けたものの 「馬鹿なことを言ってないで」 と立ち上がった11の頬がほんのりと桃色に染まっているのに気がついた。
あぁ、これはあれかね。
やっぱり惚れられているって捉えても間違いない。
これがドラマとかなら頭に疑問が浮かんでそこから波乱万丈な展開が待ち受けているんだろうけど、生憎こっちとしてはそんな初な頃合はとうの昔に過ぎているわけで。
ちょっと前から気がついていたというか、11がわかり易いというのか。
わざわざ 「ひとりじゃ絶対に迷うから」 なんて言い分けを盾に着いて来るなんて可愛らしいもんだよ。
それに気が着かない振りしている自分は意地が悪いのだろうけど。
でも、どうしようもないだろうこれだけは。
カオスを倒すことが適ったら自分たちの世界に戻れるのだから、戻る世界の違う者と想いを交わしたところで虚しいだけだ。だからといって11の無言の想いを無碍にするなんて無粋なこともしないが。

「よし。んじゃあ行っか」
「あぁ、今度は私が先導しますからねっ」

ちゃんと着いて来てくださいよ、と先を歩き出す11に苦笑を零す。
ゲームの登場人物みたいに魔法とか使いそうだよなぁ、なんて初見思っていたら本当に魔法使っちまうし、かと思ったら幻想の物語に出てくるような不可思議な人物ってわけでもない。
そこらに居そうな同年代のガキんちょと言動はそんなに変わらない。
しかし、時折覗かせる大人びた表情はきっと11の世界に起因するものなのだろう。

「……なぁ、11」

自分の世界のこと、何か思い出せたかと聞いてみる。
俺自身は未だにさっぱりだが、ジェクトやユウナのように結構思い出している奴らもいるし、その辺りはだいぶ個人差があるようだし。

「さぁ…。戦っていたとしか」

前に話したように、戦っていたという漠然とした記憶以外には何も思い出していないという。
戻るべき世界にどんな人物が待ち受けているのだとか、どんな暮らしをしていただとかは相変わらずに喪失したまま。

「辛くないか?戦いの記憶だけって」
「辛くは、ないですよ。だって、皆居ますし」

この異界に召喚されたのは11自身だけではない。
思惑は各々あるだろうけれど、目的を同じくして戦っている仲間がいるのだから辛くなんてないし、寂しくもないという。

「それにですね、想いを寄せる人がいますから。それだけでも心強いものなんです」
「へぇ」

なんて当り障りのないなんとも無難な声をあげてしまった。
果たしてどういう意図を含めてのものなのか。
本人目の前にして、なかなか度胸のある発言だと思う。
いやそれとも自分の感が的外れなだけで、11の想い人ってのは他にもいるのだとかか?
それにしては日々感じていた11からの好意溢れる態度に謎が残ってしまうが…。

「ラグナさん、気付いてるでしょ」
「んん?何がだ?」

11の言葉にやはり自分に惚れているのだと確認することはできたが、思わず誤魔化した返事を返した。
さっぱり11の意図が読めん。
これは、何だ?もしかして告白されるのか?
となると、なんと返答するべきか。
あっさり断るのは11の心を折ってしまう様で憚れる。
かといって、戦いの後のことなんて先のことを告げてしまうのも結果同じだろう。どうするべきかと頭を捻っているうちに11が続けてきた。

「私、ラグナさんのこと好きなんです」
「…あー」

言っちゃったよこの子は、なんてこっちが心中うろたえているのを悟られないよう、とりあえず気付いていたと返す。

「だからってなんだって話なんですけどね」
「へ?」
「うん。まぁ、戻るべき場所は違うわけですし」

この異界の中でどうこうなりたいと思っているのではないのだという。
好きだという気持ち。
この想いは誰の指図でもなく、紛れもない自分の気持ちだから大切にしていたいのだと。

「なので、気にしないでください。バレバレなの承知でしたし」

さっきも言ったように心の拠り所があるというだけで、心強いのだと11が告げてきた。

「んぁーと…んじゃ、俺からは一切見返りなしでいいってことなのか?俺、想われるだけ?」
「想われるだけじゃないですよ」

今現在、仲間との合流の為にこうやって歩き周るハメになっているのは本当に殺意すら覚えると11が振り返ってきた。
だいぶ見覚えのある辺りまで辿り着いたからまだしも、あのまま途方に暮れることになっていたら本気で泣いていたと苦言を漏らす。
曲がりなりにも片思いの相手に対してなんという言い草か。
だが、こうなったほとんどの原因は自分にあるのだからそんな言葉が出てきてしまうのも当然かもしれんが。

「つか、11ちゃんたら本当に俺のこと好き?」

殺意とか、何をそんな不穏な言葉。
もしかして俺、からかわれていないか?

「ラグナさんの、そういうノリのいいところ大好きですよ」

大丈夫です、なんてあまりにも自信満々に言ってのけるもんだから果たしてどっちがどっちに片思いしているのかわけわからなくなってきた。
それでもまぁただひとつ、確信したことがある。
こんな関係も、案外悪くはないかもしれない、ということだ。

-end-

2011/5/6




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