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不撓



華麗に舞う真紅の花びら。
一風変わった武器を翻し、身軽に相手へと突進していく。

「11!」

怯んだ相手を高く打ち放ち、ライトニングが仲間を呼んだ。

「おまかせあれ〜」

と呑気な声音で援護に入った11の魔法による攻撃が相手の身へと迫っていく。
しかし、届くことはない。
そして空回った攻撃の隙を突かれて、相手からの反撃が始まった。
途端にライトニングの顔が苦渋に顰められる。
気持ちは……、わからんでもない。
なんたって、彼女の現在のアシスト役といえば11だからだ。
迸る漆黒の靄から逃れるべく、ライトニングの手が己の傍に居た11の手を掴んだ。

(…容赦、ないな)

11を引き摺り盾として靄から逃れたライトニングは、次の攻撃へとは移らずにそのまま武器を仕舞いこんだ。
どうやら、手合わせは終わりらしい。
相手をしていたセシルもライトニングの様子に気が付いたようだ。
攻撃の手を止め、蹲っている11のもとへと寄って行った。

「どうしたものかな。あの娘は」
「…すまない」

心底呆れたように息を吐いたライトニングについそんな言葉を返したら、なぜお前が謝る必要がある、と返された。
なぜ、と言われても、自分が連れてきたから、としか言い様が無い。
とはいっても、それもウォーリアに半ば押し付けられるようにしてだが。

11は最近調和の仲間となった少女だ。
ウォーリアがどこからともなく見つけ、しばらくはふたりで行動をしていたらしいのだが、 ”義理だが妹がいる” という自分の僅かな記憶のことを覚えていたようだ。
それならば面倒を見るのに最適ではないのか、と久しぶりの再会の果てに彼女を一任されてしまった。
そこまではいい。
仲間が増えたことは嬉しいし、手に持つ杖から魔導士だということも窺えた。
魔法を専門とし戦う者がこちら側にはいなかったのだし、心強い戦力に期待もしたのだが…この有様だ。
何度かの戦闘において、どうもやる気が窺えない様子に11の力量を図るべくこの手合わせの場を設けてみた。
だが結果は散々たるもので、アシストさえ禄にこなせないようではこの先が思いやられる、とライトニングが再び息を吐く。
そんな彼女の様子に釣られて自分も溜息を零していると、11を小脇に抱えたセシルがこちらにやってきた。

「どう?ライト。なにか掴めた?」
「さっぱりだ。これではメインで戦う事なんて、到底無理じゃないのか」

ライトニングが、セシルに抱えられた11の顔を覗き込む。
それから目を回しているらしい11の頬をパシパシと軽く叩いた。
すると、頭がグラグラすると零しながら、11の目が開く。
その様子を確認してセシルは11を地面へと降ろした。

「まったく。ウォーリアは一体お前に何を教えてきたんだ」

ここでの基本的な戦い方すら学んでこなかったのかとライトニングが聞く。

「うぅ…。あそこが危ないとか、そっちはまだ行ってはいけないとか、そんなカンジでしたけど」

そう紡ぐ11にセシルと顔を見合わせ、目を瞬かせる。
扱い方が子供に向けた、そんなような感じだ。
どう見たって戦いには不向きな風貌であるしそう扱ってしまうのも頷けるが、それにしたって…と思わず苦笑が漏れる。

「笑い事じゃないぞ、お前たちも」

見た目に惑わされているのでは、相手の思う壺だと叱責の言葉が注がれてきた。
確かに。
万が一にも強力な力を持っていたかもしれないという可能性は無きにしも非ずだ。
あの召喚獣を使役している彼女も見た目は儚いが、それは恐ろしい攻撃を仕向けてくるのだし、姿形が実力と比例するとは限らない。

「しかし、まぁあれか。逆に考えてみれば、ウォーリアから学ばなくて正解だったかもしれない」

あの男は手加減しきれない部分があるからな、とライトニングが言う。
さすがにオニオンナイトほどの子供といえばあからさまな力の抜き加減だが、スコールやヴァン、ユウナといった自分たちとそう変わらない年の頃であろう11に手抜きをすることなんてできないだろう。
彼は実直で、真っ直ぐだから。
それゆえに自重して、あえて稽古を付けなかったのかもしれないとライトニングが紡ぐ。

「不幸中の幸い、といったところか。11」

だが、このままの状態でいるわけにもいかないとライトニングが11の前へと屈みこんだ。

「私がお前をそこそこ使える程度まで鍛えてやる」

そう告げたライトニングに11の目が大きく開かれた。
驚き、と捉えてもいいのだろうか。
日頃なにかと突き放すような物言いをするライトニングからの意外な言葉だとは自分も思うが、あの力量を見る上では彼女が痺れを切らしてしまうのもわかる話だ。
危機に陥ることのないようにしっかりと鍛えてもらうのには最適かもしれない。
そんなことを思っていると、不意にマントに11が纏わりついてきた。

「え。イヤですよ。ライトさんたら厳しそうなんですもの」

そう隠れるように自分の背後へと回り込む。
するとライトニングの鋭い視線が自分、もとい背後に隠れた11へと向けられてきた。
自分に向けられてのものではないとはわかっているが、妙に鼓動が冷え切ってしまうのはどうだろうか。
ライトニングの視線を回避するべく、ほら、と11を引っ張り出そうにも、うまいこと自分の手を逃れ掴む事が適わない。
身を反転させ、スルリと自分の手を掻い潜っていく俊敏性をどうにか戦いに生かせないものかと思いながら11をようやく捕獲した。
首根っこを掴み、ライトニングの前に差し出すと恨めしげな視線を送ってきたが無視を決め込む。

「ライトは厳しいけど、力に応じてしっかり相手してくれるから安心しなよ11」

女性同士仲良くね、と紡ぐセシルに11は未だ不審そうな視線を崩す事はない。
それどころか女同士ならユウナに鍛えてもらいたいと言ってのけた。
ユウナなら怒っても怖くないし、あの召喚獣たちとも仲良くなれそうだしと、なにやらグチグチ言い出したが、そんな言葉が余計にライトニングの何かに触れたらしい。

「よし、わかった。その根性からまず鍛え直してやる」

そんな言葉とともに11はライトニングによって、再び戦域へと運ばれて行った。





ふたりが戦域に向かい、今日のところはこれといってやることもなくなった自分とセシルは一足先に宿営地へと戻ってきていた。
男ふたりで食事の仕度を済ませて、あとはライトニングと11が帰ってくるのを待つばかり。
少しばかり侘しさ漂う光景に見えなくもないが、手の空いているものが担うと決めたのだから仕方ないだろう。
辺りが薄暗くなってくる。
そろそろ戻って来る頃合だろう。
11は果たして大丈夫なのだろうかと、そんなようなことを思わず呟いてしまった。

「心配なら、見に行けば良かったじゃないか」

苦笑いにセシルが首を傾げる。
セシルの言うことももっともだが、しかし自分が行ったところであの11の状況が変わるわけでもないし、逆に助けてくれと纏わりつかれても困る。
というか、そんな事態にでもなったりしたら今度は自分の身が危ないことくらいは察する事はできる。
ライトニングの怒りの矛先が自分に向いてしまう事は間違いないだろう。
それだけは勘弁願いたい。
ただでさえ馬の合わないライトニングと11の間を取り持つのに苦労しているというのに、これ以上の災難はゴメンだ。
そんな想像に辟易していると、ふたりが帰ってきた姿が視界に映った。
帰ってきたね、とセシルがふたりに向って手を上げる。
それに応えるようにライトニングが軽く手を上げたが、隣を歩む11の様子はいつもの彼女らしからぬ疲弊しきった項垂れたもの。
相当に厳しかった様が窺える。

「扱かれたみたいだね」

お疲れさまとセシルが11に座るよう促した。

「ライトは…平気そうだな」

食事の仕度が済んでいるのに気がついたライトニングが、早速皿へと盛り付けるのを目にそんな声をかける。

「私はただ指示をしていただけだからな」

疲れてなどない、と皿を11の元へと運んでいった。
ライトニングから皿を差し出された11が、首を振る。
どうやら食べる気力が沸かないらしい。
グッタリ、といった様から胃が拒否反応を示しているのも頷ける話しだが

「食べないと、力が持たないぞ」

とのライトニングの言葉には同意だ。
病でもないのだから、一口でも何か口にしておいた方が身のためだ。
食べられるだけでいいとライトニングが11に強引に手渡す。
コンモリと盛られた食事に顔面蒼白な11だが、ライトニングからの無言の圧力を感じたのか渋々とスプーンを差込み始めた。
その様子を見て、ライトニング自身も食事を持ってきて11の前へと腰を降ろす。
食べれるじゃないかとライトニングが言えば、根性ですと11が返す。
なんというか、これだけを見ていれば微笑ましい光景なんだが。

「ていうか、なんで私のばかり、こんなに山盛りなんですか〜」
「私はさして動いていなかったからだ。それが嫌なら満足な動きを見せてみろ」

と、会話はいたっていつもと変わらずだ。
もっと和気藹々とできないものだろうか。
そっと息を吐いている自分にセシルが自分たちも食べてしまおうと食事を運んできてくれた。
嘆いても仕方の無い事だと自分に言い聞かせ、食事へと手を伸ばす。



食事を終え、食器類の片付けにと11を伴い行う。
あれだけ食べるのを拒否していたにも関わらず、食べ始めたら割と平気だったようであの山盛りの食事をすべて食べ終えた11の胃がとても不思議だがとりあえず雑用をこなす元気が戻ったのは幸いだ。
洗う自分の手から皿を受け取り、鼻歌混じりに拭きあげていく。
…のはいいんだが、積み重ねられた皿に11の肘が当たりやしないかと些か冷や汗ものだ。

「11、皿、危ないぞ」
「フリオさんこそ、その辺りに包丁見えてますけど」

そう指摘してきた11に下方へと目を移すと、言うとおりに包丁の刃が見えていた。
11に気を取られていたせいで気付かなかった。
危ない。

「で、訓練はどうだったんだ」

順調だったのかと11に尋ねる。
食事の時に聞こうかとも思っていたのだが、結局あのままふたりのやりとりが終わることもなく今に至っていた。

「順調〜。じゃないですか?」

と首を傾げて自分に聞かれても、その場にいたわけではないのだから自分が図り知ることなんてできないのだが。
どういったことをしてきたのかと質問を変えてみた。

まずは11の戦力となる魔法の範囲を見られたのだという。
どの魔法がどの程度の距離にまで届くのか。
それから精度。
距離を知って、確実に目的のモノへと当てる事ができるのか。
あぁ、確かにこれではライトニングが動く必要もない。
本当に指示していただけなことがよく判る。
しかしそんな基本的なことだけで、よくもあれだけ疲弊したものだと逆に感心してしまう。

「主立って精度を指摘されたんですよ〜。ちゃんと当てろって、何回も何回もやり直しさせられて」

魔力も底を尽きてクタクタですもの、と11が項垂れた。

「でもライトだって11のことを思ってのものだろ」

どうでもいいと思っている相手になんか、あそこまで厳しくなれないものだと言えば、それはわかっていると11から返ってきた。
わかっているのなら尚のこと、もっと温和に親しく接してもいいのでは、と告げると11がこちらを見上げてきた。

「ん?どうした?」
「充分、親しいですよ?」
「…あれでか?」

どう見たって反発しているようにしか見えないんだが。
テントは一緒だし、いろいろと口煩い事も多々あるけれど結局は仕方ない、と11の意図を汲んでくれることもあるのだと11は言う。

「あ、でも、皆の前だと結構厳しいお言葉いただいちゃってますね〜」

ライトさんたらツンデレさん〜、となぜだか11が妙に楽しそうだ。
しかし楽しそうだということは、ライトニングとのあのやりとりは11にとっては距離を生むようなものでもなく、ただ単に素直な気持ちを返しているに過ぎないということなのだろう。
まったく、女同士のことはよく判らん。
合流して以来の自分のあの気苦労は杞憂だったのかと肩を落としたくもなるが、とりあえずは自分が懸念していたような不仲さなどは無い、という解釈で構わないということか。

「まぁ、ライトの言う事も正しいんだから、もっと真剣に…て何だ?」
「いえ。さっきからフリオさんてば、ライトさんライトさんって」

ライトさんのこと好きなんですか?と11が不思議そうに首を傾げてきた。

「は?いや、…なんでそんな話になるんだ?」

ライトの気苦労を思ってのことだったんだが、どうしてそこで ”好き” という単語が出てくるのか。
こいつの頭の中身は一体どうなっているんだと頭を捻りもするが、なんとなく聞くのは憚れる。
聞いたら地雷が待っていそうな、そんな気がするからだ。
馬鹿なことを言ってないでさっさと済ませてしまおう、と洗った包丁を11に手渡したら11の手から包丁が滑り落ちた。
ドスっと地面に包丁が綺麗に突き刺さる。
自分の足、スレスレにだ。
ちゃんと洗い流しましたか〜、と11が包丁を拾う。
それを受け取り、もう一度、しっかりと洗って、今度こそしっかりと11にと手渡した。
拭き上げるのを見届け、仕舞ったのを確認して安堵の息を吐く。

「隠さなくたっていいじゃないですか〜。私、ちゃんと内緒にしますよ?」

で、どうなんですか? と11が詰め寄ってくる。
お似合いですよ、やら、フリオさんならライトさんの猛特訓も堪えられそう、だとか、とてもどうでもいいことを紡いできた。

「あ、ライトさんたらちょっとSっぽいですもんね〜。ってことはフリオさん、Mですか?」
「いい加減にしろっ」

そう11の肩を掴む。
SだとかMだとか、そんなことは非常にどうでもいい…と、ふと視界に捉えたもの。

「何を、している」

11の姿の後方に、こちらを睨みつけているライトニングの姿。
ツカツカとこちらへと歩み寄ってくる。
それは鬼のような形相で。

「不謹慎だぞ、フリオニール」

そう言うや否や、11の肩に置かれた自分の手を払いのけてきた。
そして咄嗟に繰り出された腹部への一撃。
突然の出来事に身構える事も出来ずに受けた打撃にその場に蹲る。

「大丈夫か、11」

前々からこいつはお前に甘いと思っていたがまさかこういうことだったとはな、と吐き捨てるかのような言葉が降り注がれてきた。
自分で言うのもなんだが、確かに自分みたいな大男が11の両肩を掴んでいたらあらぬ誤解を生んでしまうような事態に見えるかもしれない。
だが、しかし違うんだ。
あまりにも11がどうでもいいことを詰め寄って言い寄ってくるからそれを拒むためのものであって…と言いたい所なのだが、渾身の一撃によりそれも適わず。
しばらくはこいつの傍には近寄らない方がいいと11の手を引き去っていくライトニング。
果たして言い訳を聞き入れてくれる日がくるのだろうか。
突如として降りかかった災難に、深く溜息を吐く。

-end-

2011/4/11




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