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奇縁



最近、ジェクトと11の身内が敵方にいるのだということを知った。
何でもジェクトにとっては息子であり、11にとっては双子の弟なのだという。
彼らと同じ世界から来たユウナとその敵との関係も、少しばかりの事情があったようだ。
11とは異なる控えめな明るさを湛えていた彼女だが、判明してから後はやや塞ぎ込んでいる。

ジェクトは 「なるようにしかならねぇよなぁ」 と相変わらずの適当っぷりさを口にしていたがその面立ちはやはり親としてのものなのか暗く沈んだものだった。
そして、同じ血を持った双子の姉である11はだ。
ジェクトと同じように 「なるようにしかならないしねぇ」 と言っていたが、その顔はジェクトのように沈んだものではなく、軽く苦笑といった程度だった。
悪戯をした弟をいつものことだから、と笑って呆れているかのような振る舞いに思わずこっちが拍子抜けしたほどだ。

ユウナをなだめている姿を何度か見かけたことはあったが、それ以外に11の様子が改めて変わったということもない。
憎しみ合っているのならまだしも、仲の良かった相手との対峙は苦みを伴うものなのだとその立場にならずともはかり知ることはできる。
しかし、だからこそ11の変わらぬ様子には違和感が拭えない。
そのせいなのか、いつもなら付いてくるなと苦言を漏らす散策だが、一向に聞く耳持たずについてくる11に今日は無言で彼女の同行を受け入れていた。



「この辺りのひずみも、大分開放しきってきたね」

小川を挟んだ地を結ぶ橋より辺りを見回し、11がそう声をかけてきた。

「あっちにひとつと…そっちの、ふたつ」

遥か遠くに歪む不穏な空立ちを眺めて一瞬眉根を寄せていたが、ふと振り向きこちらへと顔を向けてくる。

「スコール、行く?」

開放するのなら手伝うよ、とふたつのひずみを交互に指し示してきた。
ふたりで開放に向かうというのなら、なるべく敵の数が多い方がいいだろう。
その方がひとりで開放するよりも効率もいい。
幸いふたつのひずみの距離はそう離れていない。
一度相手の手勢を窺ってからどちらを開放してしまうか決めても大した手間にはならないだろう。
それに体力に余裕があれば、手勢によっては両方とも開放してしまうこともできる。

「この大陸には、これといった手掛かりもないようだしな」

こちらのレベルも十分に上がった。
新たな大陸に移動してもいい頃合いではないだろうか。
そう告げると、11の目が僅かに見開いた。

「…なんだ」

おそらく、驚きを表しているのだろう。
が、しかし何をそんなに驚く必要があるというのだろうか。
訝しげに11を窺っていると、瞬きひとつの後に11は笑みを向けてきた。

「あぁ、だって、ねぇ。スコールってば、珍しく返事してくれたなぁって思ってね」

いっつも無言で人の顔を一瞥してから勝手にフラっと行っちゃうから驚いたと、思っていたことを隠すことなく述べてきた彼女は素直でその辺りは好感を持てるが、もう少しオブラートに包んだ言い方ってものも学んだ方がいいのではないだろうか。
確かに彼女の言うとおりなのかもしれない。
そうしている自覚もある。
しかしだからといって、そうあからさまに自分の行動を述べられると何というか…ただのイヤな奴にしか聞こえない。
もう少し態度を改めるべきだろうかと考えを巡らしているうちに11と目が合った。
そして11が自身の眉間を指でトントンと示してきた。

「眉間、皺寄ってる」

老けちゃうよ、と苦笑を向ける11へと無意識ながらに更に眉間に力が入っていくのがわかった。
そんな自分につい、溜息を吐く。
11は11でこちらの様子に構うことなくどっちから先に行こうかと話を続けている。

「…どっちでもいい。好きにしろ」

半ば投げやりにそう言えば、じゃあこっちからと11が歩みはじめた後に自分も続く。



枯れた大地に点在する瓦礫に、どこかの次元の建造物であったであろう痕跡が覗く。
どんな世界であれ、人が住んでいたのだという証となるものだ。
それがこうも無残にも朽ち果てている。
この異界に来る前からこうであったのか、それともこの異界に呼び込まれたからこうなってしまったのかはわからない。
しかしどちらにしろ、見ていて気分のいい景色ではないのは確かだ。
だというのに11の足がその場に止まる。
無視して通り過ぎることは可能だ。
今までだってそうしてきた。
何かと構いたがる彼女の言葉に禄に返事もせずやり過ごしたところで11は追ってくる。
だからいつもと同じように立ち止まった彼女を通り過ぎるはずだったのだが、ふと、少し後方にて歩みを止めた。
そうした自分に気が付いた11が首を傾げる。

「スコール、何かヘンなものでも食べた?」

今朝の食事には特に変わった物など入れていなかったはずだと11が紡ぐ。
それに対し普段は何か入れていたのだろうかと一抹の不安が過ったがそんなことは今はどうでもいい。

「おかしいのはお前の方だろう、11」
「私が?なんで?」

そう逆方向へと首を傾げ治す11へと並ぶ。

「お前の弟の件だ」
「ティーダ?それは、言ったでしょ」

今更何を言ったところで何かが変わるわけではないと言う。

「ユウナちゃんにとってはティーダは特別みたいだから、姉として申し訳ないと思うけどね。でもそこで私までが一緒に悩んだってしょうがないじゃん」

だから 「なるようにしかならない」 としか言いようがないと11が歩き始めた。

「それがおかしいと言っているんだ」

思わず11の腕を掴み立ち止まらせてしまった。

「……身内、なら、多かれ少なかれ葛藤するものじゃないのか?なのにお前にはそれが一切感じられない」
「…もしかしてスコール。心配してくれてるの?」

掴んだ腕に視線を落としていると、そう11が顔を覗き込んできた。
ニヤニヤとした笑みを浮かべ、楽しそうな面立ちははぐらかす気満々の証だ。
人が真面目な話をしているのだというのに、こういったペースは彼女の得意分野だ。
しかしここでこのまま11のペースに飲み込まれるわけにはいかない。
そう思ってしまうのは、やはり自分は11を案じているからなのだろう。
だから、いつものように11の容易い挑発になど乗りはしない。

「心配、しているんだろうな。俺は」

顔をあげ、少し下に位置する11を見下ろす。
常に強気の彼女だから、誰かに弱った部分を見せることなどはしないのだろう。
そう考えれば違和感の正体はスッキリする。
ただ、強がっているのだと。
しかし、それだけではないような……。
いつもと違う自分の反応に、些か拍子が抜けたかのような顔をして11がこちらを見上げてきた。
そして小首を傾げる。

「私とティーダはさ、双子なんだよね」

それは聞いていたことだ。
男と女の双子だなんて珍しいと、その辺りに微妙に感心した記憶もある。
ジェクトに至っては、男と女がまとめて生まれてくるなんてさすが俺様だよなと苦笑の中であってもなんだかとても誇らしげだった。

「だから、わかるっていうか」
「わかる?」
「うん、そう。なんか、わかるんだよね」

あの子は大丈夫。
そんな気がするのだと11が言う。
ただの勘だと言われればそれまでだが、何度となくそういった予感は的中してきたらしい。
例えばテストの成績の良し悪しだとか、風邪を引く予兆だとか。
果ては怪我をして帰ってくるだろうことまで当てたのだという。

「あとはー、恋してるんだろうなぁとか」

そんな時期は、なにやら身体が暖かいモノに包まれている感覚に陥るらしい。
でも所詮は勘でしかない。
全てがわかるわけではないし、外れる時だってある。
しかし、今弟の身を案じる必要性は微塵も感じられない。

「不思議でしょ。自分でもよくわからないんだけどね、でも双子の繋がりってやつかなって」

だから今はまだ大丈夫なのだという。

「そういう、ものなのか?」
「そういうものみたいだねぇ」

ヘラっと笑顔を覗かせる11にやや脱力しつつも、自分が思っていたほどどうやら11は弱くはないのだと安心する。

「でも、ありがとうねスコール」

心配してくれて嬉しいと、少しばかりの照れを覗かせた11に新たな一面を見つけた気がする。
何せ彼女ときたら、女版ジェクトなのだ。
姿形こそは少しも似ていないが、立ち振る舞いはジェクトにとても似ていて一筋縄ではいかない。
そんな11の女らしい一面に僅かに鼓動を高まらせていると、ふと、その11の目が鋭く細められた。
次いで咄嗟に身を引かれる。
思わずその場に雪崩れ込むも、態勢はなんとか持ち堪えた。
何事だと11に再び目を向けると、武器を構えた姿を捉えた。

「ひずみから、溢れちゃったみたいだね」
「…イミテーションか」

目の前の瓦礫に刺さっている鋼鉄の鏃。
この攻撃を避けるための行動だったようだ。

「ひずみ内だったら楽なのに」

回復とか回復とか、あと回復とか。
何やらぶつくさ文句を言い始めた。
確かにあの異空間内では入手してある回復スキルを使うことができるが。

「そうも言っていられないだろう。行くぞ」

自分も武器を構え、敵へと向かう。
瓦礫と化した廃墟の外には何体ものイミテーションがうろついていた。
さっきの攻撃は自分たちを狙ったものというわけではなく、むやみやたらに放った結果だったらしい。
こちらの姿を見つけるなり、襲いかかってきた。

強くはない。
ただ、思っていたより数は多かった。
何体か纏めて一息に屠ったところで、これで終わりかと辺りを見回した時だ。
背中に何かがぶつかった。
痛みはない。
その衝撃は尖ったものではなく、何やら柔らかなモノだったのだから。
咄嗟に身を反転させた目に飛び込んできたのは、剣を振りかざしたイミテーションの姿。
そして、自分の足元には倒れた11。

「11!」

思わず手を差し伸べようとしたが、それはイミテーションの攻撃により阻まれてしまった。
その攻撃を薙ぎ払い、即座に武器の引き金を引く。
一度距離を取ろうと牽制のものだったのだがイミテーションの体力はそこまでが限界だったのだろう。
たった一発の銃撃により、掲げていた球体の飛び道具はその場に落ち消滅し、イミテーション自体も断末魔をあげ塵となって消え去った。

「11っ、おいっ、11!」

その場に屈み、11を抱き起す。
すると、背部に回した手にぬるりとした感触がした。
そしてその手を伝うように滴る体液が地面へと落ちていく。
11を抱え直して背部に目をやれば、剣により引き裂かれた衣服の奥の11の肌にははっきりとした裂傷が刻み込まれていた。
右肩より、左腹部に向かってできたその痕からは今もまだ止めどなく体液が溢れ出てきている。
どんどんと冷たくなっていく11の体温。
顔色どころか見えている全ての肌がひどく青白い。

「11っ、しっかりしろ!聞こえるかっ」

気を失っては駄目だと頬を打つ。
微かに開かれた11の瞼。
まだ意識はあるらしい。
ひずみに赴けば、回復する手段はある。
だがここからでは宿営地へと戻った方が距離は近い。
しかし、ポーションはあっただろうか。
いや、そもそもポーションで回復できるようなものか?
どうすればいい。
まずは怪我の手当……、どちらにしろ移動はしなければならない。

「す…スコー、る……」
「喋るな、傷に、障るっ」

意識だけしっかり保っていろと声をかけ、背に11を抱える。

「揺れるが、我慢しろ」

そう、11を背負って走り出す。
とはいっても常の速さを出せるはずもない。
負傷した人ひとり背中に抱え、その人物は意識を失いかけている。
徐々に弱まっていく回された腕の力に、落とさないよう注意を払いつつ、それに加えて下半身を支える手は11の体液によりぬかるんでしっかりと抱えることは難しい状態となっているのだ。
このまま失血が続けばどうなってしまうことかくらいは容易にわかることだ。
まさか、そんなことは…などと生温い感情は今は必要ない。
とにかく急がなくてはならないという気持ちばかりが逸り、うまく進むことのできない退路に焦りを覚える。
不意に解かれかかった11の手に慌てて足を止める。

「11、頼む。意識を保てっ」

屈みこみ、背負い直すがしかし濡れた腕では思うとおりに事が運ばない。

「11っ」

意識をとうとう手放してしまったのかいくら名を呼んでも返事はない。
一刻の猶予も儘ならないというのに、とどうにか態勢を直していると生い茂る草原より少し奥まった辺りにチカリと光が覗いた。

(敵、か……?)

この状態で戦うことなど到底できやしない。
慎重にその光のあった方向を窺う。

(…あれは)

ライトニング、だ。
彼女もまたイミテーションと遭遇していたのか、剣を鞘へと納めている姿が確認できた。
先の光は、ライトニングの放った閃光だったのだろう。
見つけた仲間の姿に安堵はするものの、已然11の容体が変化するはずもない。
それにこのままこの場にいてはライトニングがこちらに気が付くこともないだろう。
滑る手で遮二無二11を背負い、立ち上がる。

「ライトっ……ライトニングっ!」

向かう足を止めることなく、息も荒く名を叫ぶ。
何度かそう叫んでいると、ようやく声に気が付いたのかライトニングがこちらへと振り返ってきた。
徐々に狭まるライトニングとの距離。
そうして顔が確認できるほどまで来たところでライトニングの表情が一気に険しいものへと変化したのを見た。

「何を、やっている!」

怒声とともにライトニングが駆け寄ってくる。

「何か回復させるものは、ないか」

背後の11を受け取るライトニングにそう声をかけるものの、ライトニングはただ黙って静かに11を地面へと降ろしている。
俯せに寝かせ、傷の具合を見ているようだ。
そして11の破れた衣服をまた更に破き、自身のマントを外した。

「お前は、馬鹿か」

ライトニングが静かにそう紡いできた。

「こういった時は止血がまず第一だろう」

戦う者だというのにそんなこともわからないのかと淡々としたライトニングの言葉が降ってくる。
その間にも己のマントを11の傷に宛がい、圧迫している。

「それにこれほどの傷だ。外気に晒したままだなんて常軌を逸しているにもほどがある」

何か異質なものが入り込んでしまったら出血だけではすまない。
そう言いながらライトニングがマントを押さえつつ11を肩に抱えて立ち上がった。

「こうなった原因は後で聞く」

まずは11の治療だ。
そうライトニングは急いで宿営場へと足を向けた。



幸いにも、宿営場にはポーションはあった。
しかし貯えはひとつしかなく、せいぜい出血を押さえる程度の効果しか成さなかった。
傷自体の治癒にはまだまだ時間がかかる。
そして多量の出血が原因なのだろう、11の意識はそれから3日程戻らなかった。



「起きていたのか」

11の休むテントに入ると、11が身を横たえながらも腕を上げ眺めていた。
掲げた腕の先にある手を握り、開く。
それを何度か繰り返した後、こちらへと視線を寄越してきた。
11の傍らに腰を降ろすと、その腕がこちらへと伸ばされる。
そして手招きされるがままに身を屈めれば、11の手が頬に触れてきた。

「まだ、消えないねぇ」

ふふっ、と11が軽い笑みを浮かべる。
11の触れている左頬の痣。
治療がひと段落した後、ライトニングへ事情を話した際に 「お前の油断が11をこうさせた!」 と喰らったものだ。
腫れは引いたが、未だ痣となって残っている。

「…体はどうだ」
「だいぶ、マシ」

まだ背中の傷は痛むし手の力もあまり入らないけれど今日の気分はとてもいいのだという。
散策に赴くたびにポーションも探してはいるのだが、何にしろ不確かなこの異界の中ではそう思うように見つらない。
それに傷を負ってから早一週間も経とうとしている。
今更回復道具を使ったところで目覚ましい効果は期待できないだろう。
となると、あとは11の治癒能力に頼るしかない。

「食事は摂れそうか」
「さっぱりしたものなら、いけそうかな」
「わかった」

落ちる沈黙。
だが11の手は自身の頬に充てられたまま。
柔らかく撫でられる感触は心地良い。
あの冷たさが幻だったかのように、今はこんなにも暖かい温もりを保っている。

「…本当に、すまなかった」

撫でていた11の手を取り、緩く握る。
あの出来事は、ライトニングの言うとおり自分の油断が招いた結果だ。
自分さえ気を抜かずにもっと周りを見ることができていたなら、11の無謀な行動など起こすことなどなかったのだ。
敵に背後を取られただなんて、未熟にもほどがある。
11の目が覚めてからもう何度謝っただろうか。

「もういいって、スコール」

私が勝手にやったことなんだからと11もまた何度目かとなる言葉を口にした。
そうは言うが…何度謝罪を述べたところで事態が変わることなどないことは理解している。
だが、やはりこの痛々しい姿を目にしてしまうと口に出さずにいられない。
この11の姿は、本来なら自分が負うべきものだったのだから。
少しばかり握る手に力が篭ったせいか、そんな自分に11が苦笑を漏らした。

「そうだねぇ…、……うん。私はね、スコール」

スコールを守りたいと思ったからああしたんだよ、と11が言う。
何でも自分ひとりで行動して、何でもひとりで完結してしまう自分がひどく気にかかっているのだという。

「スコールの気にしてたティーダのことは、双子だから何となくわかるんだって言ったでしょ?」

でも自分とは他人だから、何を考えているかなんてことはわからない。
何を思ってひとりを好むのか、どうして仲間と距離をとってしまうのか。
ひとりで何事も完結してしまっていてはつまらなくはないだろうか。

「厚かましいけどね、こうして気にかけているヤツもいるんだって知ってほしかった…なんてね」
「そんなのは…随分前から知っている」
「はは、そりゃそうだよね…っ」

と、11の顔が苦痛に歪んだ。
大丈夫かと声をかけると大丈夫じゃないと返ってきた。
握る手から名残惜しそうに手を離し、身を俯せに動かす。
ほぅと11が軽く息を吐く。
傷に差支えのない俯せは息苦しい。
かといって横向きは楽だが傷が引き攣れてあまり長い時間は保てないらしい。

「んー、というわけだから、スコール気にしないで」
「気にしないわけないだろう」

そう即座に返すと、こちらを窺うように11が顔だけを向けてきた。

「お前がそうやって俺を守るというのなら、俺はお前を守る」
「スコール」
「放っておけないのは、こっちも同じだ」

世話焼きで、かといって器用な性質ではないくせにあれこれと首を突っ込んで。
自分を顧みない行動は見ていて気が気ではない。

「その最たる結果が、これだろう」

そう11の背中をやんわりと撫でる。
自身の招いた結果でもあるのだが、やはり11の性分が災いしている部分も多いのだ。

「スコールってば、意外と強引?」
「人のことを言えた義理ではないだろう」
「ですよねー、ってことで、対等なカンジでヨロシク…っイタタタタ……」

と顔を伏した11にそっと息を吐く。そして 「頼りにしてるよ、スコール」 と、そう静かに紡いできた11の頭を撫でて立ち上がる。

「それは、こっちの台詞だ」

食事の支度が整うまで休んでいろと声をかけ、テントを後にした。


自分の知っている11はいつだって無駄に元気で自信に満ちていて、少なくとも自分はそんな11を好ましく思っていた。

(だから、あんな11の姿は二度とごめんだ)

冷たい体に弱まる鼓動。
幾度となく呼びかけても応えは返ってこない。
いつもはしつこいくらいに絡んでくる11の姿の変貌ぶりに自分は為す術もなく狼狽えるしかなかった。

誰かを守る。
この不確かな世界では当然のことだったというのに、ようやく気付いた確たる気持ち。
11は対等であることを望んでいるようだが…、自分としては、11が仲間だから守るのではない。
11が危険な目に合うことが自分の気持ち的に厄介だからだ。
ではなぜ、そんな気持ちを抱いてしまうのかは……。

(それも…、悪くはないか)

11が自分を頼ってくれるよう、あのような無茶をしないよう、そう手懐けるのには些か手を焼くことだろう。
しかしそれは他人との関わりを避け続けてきた自分に一筋の光を齎すものとなるのかもしれない。
そんな予感に、僅かに口元を綻ばせた。

-end-

2011/11/2 ウェレア様リク




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