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07

「アンジール。こんなとこにいたのか」

アンジールはかけられた声の方へと振り向き、カフェ店内からオープンテラスへと姿を現したジェネシスを見つけた。

「あぁ、ジェネシス。やっと来たか」
「まさかおまえがこんな目立つところに居るなんてね」

普段、時間にうるさいアンジールがなかなか現れないことに苛つきながら、10分くらい、店内で待っていたのだという。
ふと目をやったテラスに姿を捕らえ、訝しみながら赴いてみれば正面には女が座っていた。

「…しかも、女と一緒だなんて。全く想像つかないだろ」
「まぁ、確かにな。俺がひとりで居座るには向かない場ではある」

そう苦笑を漏らすアンジールの対面にジェネシスは腰を降ろす。
それから頬杖を付き、隣に座る11へと目を向けてきた。
11は身を硬直させて、ジェネシスからの視線を顔の横で受け止める。
アンジールの待ち人が、まさかジェネシスだったとは。
いや、アンジールだってソルジャーなのだから同僚であるソルジャーと待ち合わせくらいしたって何らおかしくはない。
普段着で現れたアンジールに恋人と会うのだろうという勝手な想像をしていた自分の思考が単純だっただけだ。
いや、それはともかくも、ここはきちんと顔を向けて挨拶のひとつぐらいするべきだろう。
アンジールと席を共にしているのだから。
そうしたいのは山々なのだが…相手はソルジャー1stジェネシスだ。
日々目を通す新聞やニュース等でも名の知れた人物ということはアンジールもジェネシスも同じだが、アンジールはザックスを介して知り合ったということもあるし、見た目と違って話しやすい人柄が11の緊張を煽ることはなかった。
しかし、今隣に座るジェネシスは違う。
1stであるという実力は然ることながら、その端正な面立ちでも有名であるジェネシス。
最強と謳われる神羅のソルジャーセフィロスと肩を並べるほどに、女性からの人気があり、聞くところによるとファンクラブなるものまであるらしい。
そしてミーハーかもしれないが、11もジェネシスの容姿はカッコいいものと認識している。
そんな人物がいきなり隣に座ってくるだなんて、緊張するの一言に尽きるものだ。

「なんか、幼くないか?こういう趣味だったっけ?」
「勘違いするな。ザックスの友人だ」
「ザックス…あぁ。おまえの面倒見てる2ndか」

アンジールと何気ない会話をしながらも、ジェネシスは11から視線を外さない。
11はそんなジェネシスからのヒシヒシとした視線に、変な汗が出てきそうになってしまう。
だが、そんな11に気が付く風でもなく、ふたりの会話は続けられている。

「ツンツン頭の」
「そうだ」
「ふーん」

そう11の顔を覗き込んでこようとするジェネシスに焦る思いを抱きながら、11はアンジールにどうにかしてくれと懇願の目を向けた。
顔を真っ赤にして今にも泣きだしそうな目を向けてきた11に、アンジールは思わず吹き出しそうになってしまう。
ソルジャーという存在が苦手なのかなんなのか、アンジール自身も出会ってしばらくはこうした緊張の面立ちを11から向けられてはいたが…言い方は悪いが、さすがにここまで酷くはなかった。

「で、なんでそのザックスの女とアンジールが一緒に?」
「たまたま、だ。偶然ここで会って、お前を待つ間、相席させてもらった。あと、あまり不躾に見るな。怖がっているだろう」

アンジールの窘めの言葉に、ようやくジェネシスの視線が11から外された。
11はホっと肩の力を抜く。
そして手にしていたパンフレットを急いで片付ける。
ジェネシスが現れたのには驚いたが、アンジールの待ち人が来たことには変わりはないのだし、もう自分の役目は終わりだ。
早々に席を外したいところなのだが、話しの流れとはいえ11自身の進路のことについて親身に聞いてもらったりしたのだしお礼を言っておきたい。
しかし、続くふたりの会話に口を挟み込むことなど11に出来るはずもない。
どうしようか。
いつまでもここに居るわけにもいかない。
一言告げて早くこの場から解放されたいのだが……。

「あ、あの…アンジールさんっ……」

11は意を決して声を掛けた。
それに応じるかのように顔を向けてくるアンジールと、なぜか一緒に目を向けてきたジェネシス。
余計な緊張を煽ってくれるものだと思いながらも、ここで去らねば去る機会はない。
チャンスを逃してなるものかと、11は言葉を続ける。

「私、そろそろ」
「そういえば、名前は?」
「お暇…って、?」
「あんたの名前。聞いてないんだけど」

席を立ちかけた11の腕をとり、ジェネシスは11の言葉をそう遮った。
ちなみに俺はジェネシス、ソルジャー1st、とご丁寧にも自己紹介をしてくれたジェネシスに、それくらい当然知ってますとも!などというツッコミを入れることなど11には出来ないので脳内に留めておくことにする。
それよりも、まず名前だ。
聞かれているのだから僅かだが席を共にした以上、名前くらいは名乗るべきだろう。

「えぇと、11…と言います。あの、2ndのザックスと友達で」
「うん。それはさっきアンジールに聞いた。で、いくつ?学生?」
「は、あ、まぁ、そうですね。まだ学生ですけど…」
「ジェネシス、いい加減にしておけ」

目の前で口説くな、とアンジールから戒めの言葉が入る。
それを受けジェネシスが不満そうにアンジールを見やった。

「いいだろ、別に。この場で取って食おうってわけじゃないんだし」
「お前が言うとシャレにならんな」
「たまには若い子と純粋に話したいんだよ」

学生なんてそうそう滅多に知り合わないんだからというジェネシスに呆れた眼差しを向けつつも、アンジールはそれでと話の続きを促した。
去ろうとしていた11としては、いよいよタイミングを失ってしまう。
いや、去ろうとすれば無言で去ることも可能だが、それはそれで失礼になってしまうし、何よりジェネシスが11の腕を掴んだままだ。
この手を振り解くことなどなんとなく憚れる気がしてできるわけがない。
どうしたものかと再び11が頭を捻っていると、ふと11へと話しが振られてきた。

「観葉植物ですか…?」

ジェネシスのファンクラブとやらから観葉植物が送られて来たのだという。
もちろん、自宅ではなく神羅経由でだが。
苦手というわけではないが、なるべく関わりたくはないと思っている虫の着きにくいものだということで、たまには部屋に置くのも悪くはないと持ち帰ってきたのだが、よくよく見てみれば土から掘り起こした状態のままだ。
それでアンジールへと連絡をとって、器となるものを買いに行こうとしていたのだという。

「こいつの部屋なんか葉っぱだらけでさ、ホント、こっちにまで虫が入り込んでくるのは勘弁してもらいたいよ」
「田舎ではもっといただろう。何を今更」

ふたりの話す内容から察して、どうやら同郷なうえに住まいも隣同士のようだ。
となると、幼馴染同士なのだろうか。11の勝手な憶測だが。
こうして見ていると穏やかに話をするふたりは普通の成人男性でしかなく、戦で戦うソルジャーということを忘れてしまいそうになる。
こんな感覚はザックスやカンセルとも起こることだが…でもやはり、時々合う視線の先にある瞳は一般の者とはかけ離れたもので、態度にこそ出しはしないが未だに少し慣れない。

「それで、こんなのが一緒に送られてきてて」

足元にあった観葉植物が入れられているであろう紙袋から、ジェネシスが小袋をひとつ取り出した。
そこに描かれているのは色とりどりの花。

「こういうのは女の部屋にあった方がいいんじゃないかって、今思った」

そもそもある程度育ちきっている植物ならまだしも、種から育てるとなるとひと手間かかる。
だから買い物に付き合ってもらうついでにアンジールにくれてやろうかとも思ったらしいのだが…11にあげる、とジェネシスが11へと小袋を手渡してきた。

「え、いいんですか?」
「いいから、あげたんだろ」

それに花なんてミッドガルでは自然には生えてこないものなのだし、面白そうだから育ててみなよとジェネシスが紡ぐ。
確かにこのミッドガルには自然の花なんて存在しない。
欲しければ店で買うしかないのだし、生花を拝むのなら自分で育てるのもありだろう。

「じゃあ…遠慮なく……ありがとうございます、ジェネシスさん」

そう11が頭を下げると、ジェネシスは目を細めて満足そうな笑みを浮かべた。
それから、よし、と一言立ち上がる。
そうすると、捕らえられたままの11の腕は引っ張られ、釣られるようにして11も慌てて立ち上がった。
続いてアンジールも席を立つ。
ひとりで会計を済ませて、すぐにジェネシスと11の元へと戻ってきた。
アンジールの様子から、ジェネシスのものだけではなくどうやら11の分まで支払ってきてくれたようだ。
自分の分を、と11はアンジールに告げ財布を取り出そうとしたが、生憎鞄とジェネシスの手により11の手は塞がっている。

「こういう時はアンジールに払わせておけばいいんだよ」
「大の男がふたりも居て、女性に払わすわけにもいかんだろう」

気にするなとアンジールが11の頭を撫でる仕草は、まるで子供をあやしているかのようだ。
なんとなく気恥ずかしい思いを抱きながらも、ここで遠慮をしてしまっては反ってふたりに悪いだろう。
人々の往来ある路地に面したオープンテラス。
ソルジャーふたりもいれば、人の目は否が応にも集まってしまうもの。
気が付けばチラチラと人々の窺うような視線が感じられる。
すいません、と今度は身の縮こまる思いをしながら11は礼を告げた。



カフェを後にした今も、11の手を捕らえるジェネシスの手は離れることがない。
戸惑いながらアンジールを時々見上げる11なのだが、そのたびにアンジールは苦笑を向けてくるばかりだ。
今三人は、花屋へと向かっている。
もちろん件の観葉植物の器となるものを購入するためだ。
なのに、なぜだか関係のない11まで行くことになってしまっていた。
なんでもジェネシス曰く、「男同士よりも女もいた方がむさ苦しくないだろ」ということらしい。
それならそれで、11も今日は特に用事もないから付き合うのは構わないのだが…なぜ腕を掴まれていなければならないのか。
そんな戸惑いをずっとアンジールに向けてはいるのだが、相変わらずアンジールから齎されるのは苦笑のみ。
一体この状態は…と先のカフェでのような人々の好奇の視線も11にはどうにも気になる。
ふたりは慣れているかもしれないが、11はただの一般人だ、こんな状況は違和感ありまくりでしかない。
ひっそり聞こえた”妹さんかしら”との声から、ふたりのどちらかの妹的に周りには見えているらしいというのが、せめてもの救いだろうか。
微塵も似ていないのに。

「あぁ、そうだ」

ふと、思い立ったというようなジェネシスの声が聞こえてきた。

「ついでだから、さっきの花の種植えるやつ、アンジールに買ってもらうといいよ」
「え、あ。いや、必要ですけどそれは自分で」
「そうだな。結構な量が入っていたからそれなりのものを見繕っておいた方がいいだろう」
「あのアンジールさん、さっきご馳走してもらったっていうのにそこまで」
「そうか?なら、植木鉢はお礼ということにしよう」

この間の差し入れの、とアンジールが言う。
それに反応したのは、ジェネシスだった。
差し入れとは一体何なのかと聞いてくる。

「お前も食べてなかったか。先週だったか、ミーティングルームにタッパが置いてあっただろ」

あれを作ったのは11なのだとアンジールが告げると、ジェネシスが11をジッと見やってきた。
頼むから、そんなに凝視しないで欲しいと11は思う。
ただでさえ、端正な容姿に鼓動が高まってしまうというのにさらに見つめられてしまっては、本当に居た堪れなくなってしまう。
生まれてきて申し訳ない、とすら思えてしまうのは大袈裟だろうか。
しかし、同じ人間だというのにこうも完成された姿形をしているのは神様は些か不公平だと11の思考が斜め上に及びかかった時、ジェネシスの声に現実に引き戻された。

「…美味かった、けど…」

差し入れにしてもタッパはないだろう、とのジェネシスの言葉に11は頭を垂れる。

「はは…、ですよねぇ。本当、まさかザックスがソルジャーの皆さんに振舞ってたなんて思いもよらなくって……」

アンジールに続いてジェネシスまでもが口にしていたとは。
味はともかく、いや一番肝心なところだが、それよりも何よりも、こんな美意識高そうな人物にタッパ詰めのモノを図らずとも提供してしまっただなんて。
しかもズバリとダメだしまでされてしまって……穴があったら入りたいとはまさしく今の11の心境にピッタリだ。

「次があるんなら、もう少し見た目も頼むよ」
「その、つもりです……」
「そう気を落とすな11。ジェネシスに美味いと言わせただけでも充分なものだと俺は思うぞ」

こいつは味に関してはうるさいからな、とアンジールは11の頭を撫でる。
うわぁ、二度目だ…と思いながら、11は味にうるさいジェネシスという言葉を聞き逃さなかった。
ということは、味に関しては本当に美味しいと思ってもらえたということだ。
いや、疑っていたというわけではないけども。
ならば余計にタッパ詰めで提供してしまったことに後悔が込上げてくるのだが…ここはアンジールの言うとおり、気を落としているばかりではいけない。
見た目も楽しんでもらうのも料理人を目指すものとして腕の見せ所だ。
それでもジェネシスのお目がねに適うには11の腕前ではまだまだ遠いものだろうけれど。
しかしタッパ詰めという最低ラインを披露してしまったのだから、もう何も恐れることはない。
次こそは見た目も、と11は再度心に誓うのだった。

2012/6/4





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