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明日、あの人に伝わりますように


その手は優しさ、慈しみ、労り。
それ以外の何者でもないのは知っている。
彼は、大人だから。
だからこうして、意気消沈している自分の頭を撫でやってくれている。
そこに他意はない。
彼は、優しい人だから。

「疲れたかい?」

少し休もうか、なんてこっちを気遣って。
それに甘えて疲れた振りをしてみたりして。

私は子供。
彼は大人。

相手になんかしてもらえないのもよく知っている。
なのにこんな無謀な自分が馬鹿みたいで、なんで好きになっちゃたんだろうなんて思い始めたら無性に涙が込み上げてきてしまった。
慌てて顔を俯ける。
ティーダが心配そうな声をあげているけれど、ゴメン、今はそんな慰みなんていらないんだ。
だからちょっと鬱陶しい。

そんな僅かな苛立ちすら察してくれたのか、彼がティーダに一言声をかけて席を外すよう促してくれた。
こんなところまで気遣えるんだから、やっぱり大人だ。

でも、ホントそんな優しさが今の自分には辛いものだって、そこまで察してくれたら嬉しいんだけどな。
未だ自分の隣から腰をあげないセシルに、ほんの少しの焦燥と、一緒に居れる幸福感。
その幸福感が自分を満足させてくれるんだからやっぱり自分は子供なのだろうか。

「何か、言いたいことがあるんじゃないの?」

急なセシルの問いかけに、思わず肩が揺れる。

「え、な、何…」
「なんか、言いたそうだなって。ずっと待ってるんだけどね」

僕の勘違いだろうかと、苦笑を零す彼のマントを少しだけ引っ張る。

「あ…あのね。私、言いたいことあるんだよ」
「うん」
「でも、今は言えない。だって、なんかきっと今、情けない顔してるし」
「うん」
「だからね。…明日。明日、セシルに伝えたいこと、…ある」
「うん。じゃあ、明日待ってる」

そう撫でる彼の手が今まで以上に優しく感じてしまうのは、浅ましくも自分の期待の現われだろうか。
そして大人な余裕に誘導されてしまった気がしないでもないけれど、それでも自分のこの想いだけは本物だ。

だから明日という日には、自分のこの想いがしっかりと彼に伝わりますように。



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