other ガラケー | ナノ




明日、あの人が笑ってくれますように


彼の笑顔を見たことがない。
いや、常日頃笑顔を覗かせることは多々ある。
しかしそれは表面上だけであって、心からのものではないことを皆も知っているだろう。
自分たちにも言えることだけれども。

彼は召喚された者の中でも最年少者。
本来ならば守られるべき年頃で、それなのにこの異界で自分たちと同じく戦いに身を捧げている。
辛いか、と尋ねれば彼はきっと笑顔でそんなことはないと否定するだろう。
ともすれば不機嫌そうな面立ちで ”馬鹿にしてる?” なんて聞き返してくる姿は想像に容易い。

己の持ちうる力に誇りを持って、それを示す称号をその身に称えて。
ときには勝てない相手とは戦わない主義だと主張して、その聡明さを知らせてくれる。

無謀に身を任す戦いなど、彼に言わせれば無益なものだという。
幼い考え、とは思うけれど彼の年齢を考えればそんな彼の言葉を否定することはできない。
だって、彼にはまだ先行く未来があるのだから。

無益な戦いなど、自分たちに任せておけばいい。
そうして彼の未来が守られるのなら、いくらでも力になろう。
そんなことを言ってしまったら、大人びた彼は大人びた口調で拒否を示してくるのかもしれないけれど。

それでも、願わずにいられない。

年若い彼が、無事にこの異界から去ることができるようにと。
その時に彼の本心からの笑顔が見れるようにと。
そしてその日が、すぐにでも訪れるようにと。

今また、一日が終わる。
明日こそ、彼が笑ってくれますように。



[表紙へ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -