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05

「ねぇ、カンセル」

11は隣に立つカンセルを見上げた。
コスタ・デル・ソルへと赴いていた修学旅行は滞りなく終了し、11は昨晩に帰宅を果たしていた。
カンセルも急な二泊三日という小旅行を終えて、11とは違う便で昨夜にはミッドガルへと戻ってきていた。
そして一晩明けた本日、学校帰りの11と一週間の休暇の最終日であったカンセルは待ち合わせをした。
11の登校は午後からで、それも連絡事項を聞くだけというあっという間の解散だったのだという。
それならいっそのこと1日休みにして欲しかった、と愚痴を零す11の話に耳を傾けていた所なのだが、不意に小声になった11へとカンセルは目を移した。

「私、悪目立ちしてない?」

そう11は辺りをキョロキョロと見渡した。
目の前を忙しなく行き交う人々は、ほとんどがスーツ姿だ。
中にはその上に白い、化学の実験で着るような羽織物を纏っている者もいる。
その中に紛れて時折軽装の者も見かけるのだが、11にとってはどうも落ち着かない。
こんな時間に学生が、なんでこんなところに、なんて声が聞こえてきそうな居心地の悪さ。
ここは神羅ビル1階フロア。
少し奥には受付カウンターがある。
そこに立つ受付嬢の人当たりの良い笑顔が何だかとても眩しい。

「そうか?そんなことはないと思うけど」

気にするなと言うカンセルは元々このビルで働く者なのだし、休みとあって私服だからまだしも、さすがに制服姿はあまりにも違和感がありすぎじゃないだろうか。
せめて一旦着替えに戻ればよかったと11は今更ながらに後悔する。
今ここに居るのは、ザックスに会うためだ。
カンセルと11、ふたりそれぞれザックスへの土産を避暑地にて購入していた。
それを一緒に渡すために神羅ビルの前で待ち合わせをしていたのだが、外は暑いとのカンセルの申出にこうしてフロアの一角にて待つ事となっている。
すぐに来るからとのカンセルの言葉だったのだが…一向にザックスの姿は現れない。
ザックスと連絡を取っていたカンセル曰く、今日は宿直当番なのだという。
通常出勤してきた者との諸連絡を交し、その後の午後からは半日の休みが与えられるらしい。
夜勤明けでは疲れているのではないのかと心配したが、入ったばかりの頃と違い勤務に慣れた現在は夜勤くらいはどうってことはないのだという。
日々の激務の賜物だなと笑ってはいたが、夜遅くまでのバイトをしているとはいえ普通の学生生活を送っている11からしてみれば聞くだけでも充分に辟易としてくるものだ。

「しっかし、おっせーなアイツ。何してんだ?」

ビル内に入ってから早30分は経っただろうか。
ザックスは決して時間に正確な方ではないが、さすがに待たせ過ぎではないだろうか。
そもそも約束の時間に遅れるというのなら、連絡のひとつも入れて欲しいところだ。
もし急な任務が入ったというのならそれこそこんな時間にここへと戻って来ることもないだろうし、とカンセルが携帯を手にした時、ひとりのソルジャーが歩いてくるのが視界に映った。

「アンジールさん」

カンセルはそのソルジャーへと声をかけた。
その呼び声にソルジャー、アンジールは声の方へと目を向ける。
年若い男が呼んでいるようだが、とふと気がつく。
あの面立ちは確かザックスとよく一緒にいるカンセルという男ではなかっただろうかと。
部隊は違うが何度か同行したことはあるし、話したこともある。
いつもの戦闘服ではないから一見気が付き難いが。

「カンセルか。どうした、今日は休みか」
「お疲れさまっス。えーと、御覧のとおりに休暇なんスけど…アンジールさんは、外出ですか?」

そうだと応えるアンジールの背後をカンセルはさり気なく窺った。
アンジールが任務に赴くということは、もしかしたらザックスも、と思っての行動だ。
しかし、カンセルの思惑も虚しくザックスの姿は見えない。
一体どうしたのだろうかとカンセルが頭を捻っていると、アンジールが11の存在へと気が付いた。
君は…と11を見やってきたアンジールに、急に声をかけられた11は図らずも身を硬くしてしまう。

「確か、11という名だっただろうか」
「あ、はい。……えっと、…あれ?」

初めて対面する相手に名前を呼ばれたことに、11は首を傾げた。
カンセルはこの人をアンジールと呼んでいた。
ソルジャー世界とは無縁の11にも聞き覚えがある名だ。
いや、目にした事があるといった方が正しいのかもしれない。
ザックスがソルジャーへと昇進した頃から新聞のTV欄だけでなく、世の中の情勢、特に神羅の話題の綴られた項目にも目を通すようになっていた。
その中で何度かこのアンジールという人物の名も目にしていた。
ということは、今自分の名を口にしたこの男はソルジャー1stということである。
だがその1stがなぜ自分の名を、と11は困惑してしまう。

対してアンジールもまた11ほどではないが動揺していた。
もちろん訓練された兵士であるから顔になど出てはいないのだが。
彼女が11だと知っているのは、先日ザックスから教えられたばかりだからだ。
携帯の画像を見せられ、それから少しばかり気になっている娘なのだとも言っていた。
それはいい。
話の流れで顔と名を知ることになっただけなのだから。
問題はあの見せられた画像だ。
いい大人がたかだか水着姿を見たからといってどうこうという話ではない。
ただ、年頃の少女が自分の知らぬ間に、会ったこともない男に己の肌も露な姿を見られてしまったのだと知ってしまったらどう思うだろうか、というところにアンジールは懸念を抱いていた。
軽はずみにも名前を確認してしまったことに後悔が過る。
決して容易くあの画像を見たから知っていた、などと告げてはいけない。
しかしすでに見知っているかのように話し掛けてしまった。
あとは誤魔化すしかないだろうと、アンジールはザックスの名を出した。

「あー、ザックスから聞いた事があってな」

引越しは手伝ってくれるし、料理も上手い。
少しぼんやりとしているところもあるけれど、自分の仲間ともすぐに打ち解けてくれるし本当にいい娘さんだと聞いていた。

「それからその…カンセルと共にいたからそうなのかと思ったんだが」

あの後、この11という少女の人となりをザックスが話してきたのだから今告げた内容に嘘はない。
だが、ただカンセルと一緒にいたからというだけでは些か説得力にかけるのではないかと思う。
我ながら安易な誤魔化しだと。
しかしそんなアンジールの杞憂も余所に11は納得といった面立ちを覗かせてきた。
それを見て、当たっていたようで何よりだ、と一言の後、アンジールは胸の奥でそっと安堵の息を吐く。

「あ、そのザックスなんスけど」

カンセルが声を上げた。
宿直当番だったというザックスの行方を知らないかとアンジールへと尋ねる。
ここで待ち合わせをしているのだが、一向に現れないということは急な任務でも入ったのだろうかと言うカンセルにアンジールは苦笑いを漏らした。
宿直の業務を終え、本来ならばもう非番となっているこの時間帯。
それなのにザックスが未だに待ち合わせの場へと赴いてきていない理由をアンジールは知っているからだ。
その原因にはアンジール自身も含まれている。
業務の引継ぎの際にそれは起こった。
そして今思えば、このふたりとの待ち合わせを楽しみにしていたのだろう。
慌しく報告書を纏め終え、ザックスが立ち上がったその時だ。
ザックスの後ろを歩いていた人物へと勢いよくぶつかってしまったのだが、運悪くもその人物は缶コーヒーを手にしていた。
書類に降りかかったコーヒーはみるみるうちに文字を滲ませていき、目を通そうにも通らない状態へと変化を遂げた。
嘆くザックスに、缶コーヒーの持ち主はオロオロとするばかり。
一部始終を目撃していたアンジールは、ザックスへの説教を開始した。
もちろん、飲みかけの缶コーヒーを狭い執務室内で持ち歩いていた人物にも注意をしたうえでだ。
終業が楽しみなのはよくわかるが、最後までしっかり業務を終えることは大事であり、周りを配慮せずに行動を起こしたザックスにも非はあると。
その説教が終わった後は、報告書の再作成。
それらに時間を取られたから遅れているのだ、…というザックスの失態については言わないでおいた方がいいだろう。

「ザックスなら、そろそろ来ると思うぞ」

この11という娘に惚れているようだし、落ち着きないながらもどこか憎めない後輩の名誉のためにもそれだけを言うに留めておいた。

「ちょっとばかし落ち着きのない奴だとは、君の方がよく知っていることだろうが」

いい奴なのも確かだからこれからも仲良くしてやってくれ、とザックスへのフォローの言葉を11へと告げて、アンジールはビルの出入口へと向って行った。
そのアンジールとちょうど入れ替わるように、ふたりの名を呼ぶ声が聞こえてきた。
声のする方へと振り向けば、案の定、時間に慌てた様子のザックスがいた。
しかしあまりにも大声で呼んでるものだから、周りの人々が何事かとザックスへと訝しげな視線を送っている。
それに気がついていないザックスは、顔を向けたふたりに大きく手を振ってきた。
人々の訝しんだ視線がカンセルと11に移る。

(あぁ、もう……)

せっかく居心地の悪さを忘れかけていたというのに、と11が息を零す。
カンセルもさすがに人々の突き刺さるかのような視線には居たたまれないらしく、若干ザックスの行動に引き気味だ。

「外、行こう。カンセル」

11はカンセルの腕を引っ張り、そそくさと外へと急いだ。
そんな11の行動に成されるがままのカンセルは、11に引っ張られながらもちらりと背後に目を向けた。
すると、更に慌てた様子でこちらに向って走ってくるザックスの姿を捕えた。
思わず呆れた笑みが浮かんできてしまう。

(とりあえず、落ち着け)

悪目立ちな行動は11ちゃんに嫌われちゃうぞー、とカンセルは心の中でツッコミを入れつつ、11と共にザックスよりも一足先に人々の好奇の目から脱出を果たした。

2011/5/26





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