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そんな2人の休日です

私は今、ぶすくれていた。
毛足の長いモスグリーンのラグの上で、寝そべってバタバタと足を動かしているのはそのアピールだったりする。
お気に入りのクッションは、ぎゅうっと力いっぱい抱き締めているせいで、その形を保てていない。
体を横向きに変えて視線を上げた先には、真面目な顔でキーボードを打っているセフィロスがいた。
長い銀髪をゆるりとまとめて、いつもはしない眼鏡なんかしちゃって。
真っ直ぐパソコンの画面を見つめている。

「ね、それ、いつになったら終わるの?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

どれだけ待っても返ってこない返事に、うおい、無視かい!とつっこみたくなったけど、とりあえず我慢した私は偉い。
もう一度、気を取り直して聞いてみる。

「セフィロスさーん。それいつ終わるんですかー?」
「・・・・・・さあな」
「・・・・・・」

今度は少し遅れて返答があった。
が、それはつれないものだった。
2人一緒の休日は久々で、どこか行きたい、なんて思っていた私からしたら絶望ものの返事である。
朝起きてから聞いた予定は、本日休業のはずだったのに、おかしいな。
あれか、朝ご飯の最中に彼の携帯にかかってきてた電話が原因か。
朝食を食べ終わってからかけ直すと言って無視してたら、再びしつこく何回もかかってきてたあれのせいか。
苛々しながらセフィロスが取った電話は不機嫌全開の声で、さぞかし受話器の向こうの相手は怖かっただろうなって思ったあれのせいだ、絶対。

「うー・・・・なんでこうなるの」

なんていうか、もう、ね。
休みの日に仕事の電話してこないで欲しいよね。
貴重な休日なのに、どうしてくれんだっての。
時間返してくれよ、って。
あー、もー。あー、もー。
唇を尖らせて、口の中でぶつぶつ呟く。
抱いているクッションは、私の気持ちを表すかのように大きく形を歪め、可哀相なことになった。

「11」
「終わった?!」

突然呼ばれた名前に、期待を込めてガバリと体を起こす。
セフィロスは、そんな私を少し呆れたように見遣って言った。

「終わってない」

そりゃそうだ、さっきの今だもん。
でも、やっぱりガクリと来る。

「あ、そ・・・・なに?」
「コーヒー」
「・・・・・・・はいはい」

溜息を吐いてキッチンへと向かう私の足取りは、トボトボという効果音がきっとぴったりだっただろう。


湯気の立つカップを2つ持って(ちゃっかり自分のも淹れましたとも)セフィロスの元へ戻ると、彼は相変わらずの格好でキーボードを打っていた。
時折顎に手を当て、何かを考え込む仕草をしつつ、難しい顔をしている。
カップを1つテーブルに置き、手に持ったコーヒーを啜りながらその横顔を観察してみた。
さらさらの銀髪。
浅葱色の瞳。
男性には思えないキメ細かい肌。
秀でた額、通った鼻筋、形の良い唇。
何度見ても、飽きるほど見てても、やっぱりすごくかっこ良い。
自分の恋人ながら、とても目の保養になる男である。

「おい・・・・そんなに見るな、気が散る」
「あらやだ。美形は見られてなんぼじゃないの」
「・・・・お前の言うことは、たまに理解し難い」

じーっと至近距離で穴が開くほど凝視していたら、セフィロスは嫌そうに溜息を吐いた。
まあ、こんなに見られていたら確かに気が散るだろうけれどさ。
こちらとしては、それくらい許して欲しいところだ。
どうせ相手をしてもらえないんだから。

「あ、そうだ!」
「なんだ・・・・」

ぱちん、と両手を合わせて良いこと思いついたと言えば、頼むから余計なことするなよと念を押される。
余計なことって、なんですかね。
私にはわかりません。

「ふっふーん」

鼻歌混じりに立ち上がり、私はそのままセフィロスの背後に回った。
銀の髪を手に取り、まとめているヘアゴムを外して、サラリと流す。
うーん、キューティクル。

「11・・・」
「はい?」
「何をする気だ」
「三つ編みー」
「そうする意味が分からん」
「だって、待ってるだけはつまんないもん。せっかく近くにいるのに、構ってくれないしさー。遊ばせてよ」
「・・・・・・」

止める気のない私を見て、再び前へと向き直る銀髪の彼。
小さく、気が散ると聞こえたけれども、右から左へスルーしておいた。

「ねえ、セフィロス」
「なんだ」
「あなたの髪、サラサラ過ぎて三つ編みにしにくいです」
「なら止めれば良い」
「ほどけてきちゃうな・・・・ま、いいか」
「おい」

さっき外したヘアゴムをもう一度巻き付ける。
緩い三つ編みの先っぽにキュっとね。
ちなみにヘアゴム(黒)は、私のものだ。
ちょっとだけ入っているラメがチャームポイント。
うん、可愛い。

「出来た!」

三つ編みを完成させると同時に、首に腕を回し背後から抱きついてやる。
頬に触れる銀髪が擽ったい。
良い匂いがするから、思わず顔をぐりぐり押し付けていると、ガシっと頭を掴まれた。
あの、それ地味に痛いよ。

「人の話を聞くことを覚えた方が良いな、お前は」

大げさなほど深ーい溜息を吐いてから、セフィロスは眼鏡を外して振り向いた。
ついでに、パソコンを右手でパタリと閉じる。

「あ、終わった?」
「いや・・・気が散って仕事にならん。もう止めだ」
「え、うそ、ごめんなさい」

あれだけセフィロスに構ってほしがっていたくせに、途中で止められるとなると焦るじゃないか。
しかも、それが私のせいっていうんだから尚更だ。
もう邪魔しないから続けてくれと言おうとしたら(それも今更だけど)するりと腰に回る腕。
ん?と思っているうちに、引き寄せられて、抱きしめられてしまった。

「どうせあと少しで終わる。それよりもすることが出来た」
「すること?」

目の前にさらさらと銀髪が落ちてきた。
それはセフィロスが着ている黒いシャツにとても良く映える。
やっぱり三つ編みはすぐにほどけてしまったみたいで。
可愛かったのに残念、だなんて毛先を弄っていた、ら。

「・・・わっ!」

視界が反転し、柔らかいラグの感触を背中に感じる。
あれ?私押し倒されてませんか、これ。
突然何なのと驚いて目をぱちくりしていると、至近距離で見つめてくるのは、浅葱の瞳。
気付いた時には、唇同士が触れ合っていて、唐突なキスにぽかんとしてしまう。

「11・・・」

視線が合ったままで、色気たっぷりの声に名前を呼ばれれば、我に返った私の顔は必然的に赤くなった。

「何故、赤面するんだ」
「だ、だって、セフィロスがいきなりこんなことするから」
「構って欲しかったんだろう?希望通りにしているだけだが」

うわあ、色っぽい声出しながら、ほっぺた撫でないで。
あと、右手。
どこ触ってんですか。
太股くすぐったいし、手つきいやらしいから。

「えっと、私が求めていたのは、こういうのじゃなくて、ですね・・・」

アワアワと焦る私とは対照的に、目の前からは面白そうな視線を感じる。
真っ直ぐ前が向けなくて、ますます熱くなる体温。
困ったようにちらりと目だけで見上げたら、ふっと笑い声が聞こえてきた。

「そんな顔をされてしまうと、冗談に出来なくなるな・・・」
「え?冗談?何が?」
「まあ、良い・・・・今から出掛けるぞ」
「はい?」

何が何やら理解出来ていない私の上から、セフィロスは退いて立ち上がる。
つられて上体を起こすと、こつんと額を小突かれた。

「朝言っていただろう。何処かへ行きたいと」
「言った、けど・・・・」

朝食時、電話がかかってくる直前に確かにどっか連れてってーなんて言った気がする。
でも、電話のせいで有耶無耶になっちゃって。
それ以降、仕事なら仕方ないかと半分諦めていた為、私は何も言っていない。
まさか、あのたった一言をセフィロスが聞きとめていてくれたとは。
予想外すぎて、展開についていけてない。
というか、え、本当に?

「そんなに遠くへは行けないが・・・・何処へ行きたいんだ?」

セフィロスは、ソファーにかかっていたコートを手に取り、私に問い掛ける。
どうやら出掛けようとしているのは、本当のようで。
だけど、何処に行きたいかなんていきなり言われても。
そんなの考えてなかったから、すぐには思いつかなかった。
えーとか、んーとか言いながら、とりあえず出てきた答えは、“近所のスーパー”だった。

だって、買い物行きたかったし。
冷蔵庫、すかすかだし。
近場だし。荷物きっと重くなるし。

それにしても、我ながら色気の欠片もない提案。
私の返答に、軽く呆気に取られた様子で確認してくる彼氏様は、きっと正しい反応だ。

「・・・・・・そんな所で良いのか」
「うん。でね、1つお願いがあります」
「なんだ。荷物持ちか」
「お。鋭い!・・・・・って、それもあるけど、違くて」

苦笑しながら手を差し出す。
セフィロスは不思議そうにしながらも、その手を掴んで立たせてくれた。
そのまま指が絡む繋ぎ方に変え、きゅっと握りしめる。
伝わる温もりに自然と溢れた笑みをセフィロスに向け、精一杯可愛らしく言ってやった。

「こうやって、手を繋いで、歩きたい」

私の言葉に、そんなことで良いのかと拍子抜けしたように呟く声。
繋いだ指先が手の甲をするりと撫でる。


大きく頷くと、見上げた先の浅葱色の瞳は、満更でもないように細められた。





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桜井さまよりいただきました英雄夢ですーvv
我儘聞いてくださってありがとうvv
そして……え、やだ、超鼻血ものなんですけど!
英雄が好み過ぎて辛い……orz
仕事に集中する男性は素敵ですよねv
眼鏡とか!英雄が眼鏡とか!
ずっと横で眺めていたいですvv
桜井さま、素敵な夢、ありがとうございました!



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