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謬見


自分の実力の程は自分が一番よくわかっている。
だからさすがに、今のレベルで多勢に無勢をかます馬鹿な行動を起こす気はない。
どこからともなく現れるイミテーションの軍勢を岩場の陰に隠れてやり過ごそうと、そう決めた時だった。

「スコールーっ!」

と声を荒げて駆け寄ってきた11を捕えて、即座に身を隠した。
自分の突飛な行動に11がワタワタと身もがいているが、そんなことには構っていられない。
声を発しないよう口を手で塞いで、暴れる体を羽交い絞めにする。
そんなことをしてしまっては余計に混乱してしまうだろうことは承知のうえだが…顔を覗き込んでみたら不服そうな面立ちを浮かべながらもひとまずは抵抗を止めた。
それから、手に掛かる振動に気が付く。
何やら言葉を紡いでいるようだが、塞いでいるせいで何を言っているのか聞き取れない。
そっと手を離してみる。

「すっ……!」

と、再び大きな声音を発してきた11の口を慌てて再度手で遮る。
どうしてこうされているのだろうか、という疑問は頭に浮かばないものなのだろうか。
口を塞がれているのだから大きな物音は禁物なのだということを言わずとも察して欲しいところなのだが…あぁ、11には無理なのか。
チラリと岩場の奥へと目を向ける。
イミテーションたちはただひたすらに真っ直ぐへと向って行っている。
どうやらこちらには気が付いていないようだ。
ほっと安堵しつつも、11の耳元へと口を寄せて静かに告げる。

「イミテーションの大群がいる。静かにしろ」

でないと囲まれて一貫の終わりだと言うと、11は何度か無言で首を縦に振ってきた。
わかった、ということなのだろう。
そう捉えて、口から手を離す。
すると、口を塞がれて息苦しかったのか11はひとつゆっくりと息を吐き出した。
息を吐きたいのはむしろこっちの方だ。
常日頃から注意力散漫なのはよく知っているが、戦域でまでそうであるとは一体どうしたものか。

先日だってひとつのことに夢中になりすぎて、周りが見えていなかった。
言ったところで素直に認めない性格だってことも知っている。
だから無言で見やって、11の怯んだ隙に (なぜだか自分が顔を見やると彼女はよく怯む) 自分が手っ取り早く相手を片付けてきたから事なきを得た。
そういえば、あの戦闘以来じゃないだろうか、11と顔を合わせるのは。
あの後、妙に機嫌の悪そうな11が自分を避けているようだったのは自分からみても明らかで、別段彼女に用があることもなかったからそのまま放っておいたのだが。
……まぁ、用件があったとしても、言い出せる雰囲気ではなかったのもある。
見た目に反して頑固な11に、如何様な理由でああせざるを得なかったんだと言ったところで、余計なお世話だと返される事は想像に容易い事なのだし。
険悪な状況も時間が経てば解消されるものだとそう考えて日々を過していた。
しかし、そんな彼女がまだ幾日も経っていないうちに自分の元へとわざわざ赴いてくるとは何事だろうか。
そう思考を巡らしていると、11から小さく声が漏れ聞こえてきた。
イミテーションに気付かれないよう、囁くほどの声音は少しばかり聞き取り難い。
何だ、と聞き取り易いように11の背後より顔を近づける。

「…とっても腑に落ちないんですけど、バッツに諭されました」

そう11が紡ぐ。
先日のあの戦いで、自分に助けられたのだと言う事をどうやらバッツから聞かされたらしい。

「別に私、スコールが思ってるほど融通利かなくないですしね、一言言ってくれればちゃんと自分で何とか出来たっていうか…あー」

違う、そうじゃなくてと11が俯いた。

「ていうか、今だって、えぇと、いきなり羽交い絞め…」
「それはお前が状況を弁えずに大声でやってくるからだろう」

いい加減にもっとしっかり周りを見ろと呆れたように告げると、11の頭がより一層項垂れた。
全く、11のこういうところは本当にどうにかした方がいいと思う。
丁寧な喋り方の割には言葉は負けん気の強いものだし、かと思えば確信を突かれるとひどく落ち込みを見せる。
対して自分は、言葉がキツイのだと言われているのだからこういった説教くさい話については11との相性はよくないのだろう。
せめてもう少し、11が素直な性分であるなら……。
……あるなら、何だっていうんだ?

「スコールっ」

そう、勢いよく顔をあげた11の唇が自分の頬を掠めた。

「あ…」
「あ!あぁああ、ゴメ…っ」

三度目ともなる11の大声を、またかろうじて手で塞ぎ込む。
わかっている。
今のは顔を近づけすぎていた自分が悪い。
振り返った時に、偶々当っただけであって11が意図してやったことではないとしっかり自分は理解しているからとりあえず落ち着いて欲しい。
唇同士でなかっただけでも幸いだと……いや、しかし惜しい気も……惜しい?
惜しい、とは何だ。
それじゃあまるで、自分が11を。
塞いだ自分の手を、11が突付いてきた。
離せということらしく、離してやる。

「うぅ…だから、つまり、バッツがどっちもどっちだって言うので、仕方なく私からお詫びの意を伝えに来たんですけど」

ヘンなことをしてしまって申し訳ないと、11の頬が染まる。

(…意外、だ)

そう思う。
たかだか唇が頬に触れただけで、それも少し掠めた程度だ。
それをこんなにも動揺してしまうだなんて、普段の11の態度を見ている限りじゃ想像もつかないこと。

「…変なことだとは、別に思っていないが」
「え?だって、キライな女にあんなことされたらイヤでしょう。ワザとじゃないにしたって」

それともスコールってば意外とその辺り心広いのかと、11が首を傾げてくる。
嫌いだなんて未だかつて一言も告げたことはないのだが、一体いつからそう思われていたのだろうか。
普段の態度が11にそう思わせていたのだとしたら、それはとんだお門違いだ。
確かに自分でも素っ気ないとは思っているが…いちいち相手によって態度を変えているわけではないのだから、あれがいつもの自分であるとその辺りまで察せないのか?

(……)

もしかして、あれだろうか。
嫌われているとでも思っていたから、あんなにも突っかかるような物言いをしていたのか11は。
なら、嫌ってなどいないと教えたら少しは緩和されるのだろうか。

「11」
「な、何ですか」

腕に収まっている11の体が強張る。
そうだ。
羽交い絞めにして、片腕は11に回ったままだ。
そして今更ながらに、どうでもいい…ましてや嫌いな女相手にいつまでもこんなことしている自分ではない、と思う。

「嫌いだとは、一度も言ったことはない」
「や、だってスコール、何て言うか、冷たいっていうか」
「お前にだけじゃない。これは…俺の元々の性分だ」

しかし、事ある毎に11を目で追っていたのは事実だ。
でなければ、11の不注意に気が付くなんて事はない。
と、いうことはだ。
つまり自分は、どうも11に好意を抱いているということになる。
さっき思った、惜しいという気持ちだって好意の現れなのだろう……腑に落ちないが。
覗きこむように11の頬へと唇を寄せる。
掠めるようなものではなく、柔らかな頬に唇を宛がって。
ほんの一瞬の行為でしかないが、それだけでも充分に11の頬が桃色に染まった。
次いで漏れてくるだろう大声に備えて手を11の口元に宛がってみたが、予想に反して微塵たりとも声は漏れてこなかった。
その代わりなのか、11の耳が見る見るうちに真っ赤に染まっていく。
それから何かを訴えるかのようにこちらを見上げてきた。

「嫌いな女にこんなことはしない。わざとでもな。意味、わかるか?」

どうにも人を察する事に関してどこか欠けている11へと確認する。
回りくどい言い方かもしれないが、こちらもあいにく素直にはできていない。

「……。…私も、どうでもいい男相手にいつまでも抱え込まれている性質じゃないんですよね」

精一杯の強がりに不服そうな視線を送ってきても、染まった顔を誤魔化す事など出来やしない。

「なら、その証明できるのか」

自分を見上げている11へと顔を近づけていく。
驚きに大きく開かれる11の目。
それに次いで開かれる11の口を、今度は手ではなくて唇で塞いでやる。
この流れで、イミテーションに邪魔されてしまうわけにもいかない。
そんな言い訳ともとれる言い分を盾に、今しばらく11の唇を堪能させてもらうことにしよう。
無意識に生じていた11への想い。
それに気がつかせてくれたのは腕に収まる11であるのだから。

-end-

2011/7/19 あゆり様へ相互記念品

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あゆり様に贈る、相互記念夢です。
勇者か獅子、とのことでしたので、獅子にさせていただきました。

単独でも読めますが、一応お話的には、お題にある ”ささやかな願い” の続きっぽいカンジですv
裏…はちょっと恥ずかしかったので…orz
またの機会がありましたらで(笑

遅くなってしまいましたが受け取ってもらえたら嬉しいですvv
リンクいただきありがとうございました!



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