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関心0


「何者だ」

冷たい声音でそう尋ねられた。
身長差があるが故に当然の如く見下ろされてきた視線が少女の身に突き刺さる。
しかし殺気は感じられない。
おそらくこちらに戦う気がないことを察知しているからだろう。
それならばこのままこの状態で、彼の左手に握られている刀に刺される心配はない。

「あの…」

攻撃を喰らう心配はないのだが、それとはまた別に身に降りかかっている危機感から少女は遠慮がちに男に声をかけた。

少女の頭に重たく乗せられた手。
その手が少女の頭を鷲掴みにしていて気が気でないからだ。
きっとおかしな素振りでもしたらこの手で頭を締め付けられてしまうことだろう。
指がちょうどこめかみに位置しているのだから、そんなことになってしまたら苦痛は免れない。
ひとまずここは怪しい者ではないことを主張しておくべきである。
咄嗟にそんな思考を巡らせ少女は思いきって言葉を続けた。

「あの…カッコイイですね!」

途端に頭が締め付けられる。
褒め言葉を述べたというのに、この扱いは一体なんなのか。
そもそも自分はただ散歩をしていただけだというのに。

この異界で目覚めてジェクトという男に出会い、自分の立場を知ったばかり。
その後ジェクトからカオスの面々の何人かを紹介してもらい、この世界を少し見て回ろうと出向いてきていたのだが、そこに突然刀を手にした男が現れて ”何者だ” と頭を鷲掴みにされるなど理不尽なことこのうえない。
警戒もせずに呑気に歩いていた自分も自分だが。

それにしたってこんな不躾な態度をとる男が、光を謳っている調和の者とは思えない。
となると、少女と同じく混沌に属する者ということだ。
仲間じゃないかと思えば思うほどこの不当な扱いに腹が立ってくる。

だがふと気付く。
初めて顔を合わせたのだから、相手がこちらの立ち位置を知らないのも当然のことではないだろうか。

では敵と思われているのなら、それは違うと伝えなければ。
だが苦痛のあまりに声をあげる余裕がない。

とりあえず頭に置かれた手から伸びる腕を、バシバシと叩いて訴えてみると余計に力が込められてしまった。
それでも根気強く、手を放してもらえるよう男の腕を引っ張りながら涙目で訴える。
そんな少女の必死な様子に気がついた男はようやく手を離してくれた。
解放されたとはいえジンジンと痺れるような痛みに少女は頭を抱えてその場にしゃがみ込む。

「いきなりひどいですよ。私だって混沌陣なんですよ!」
「そうか。それは悪かった」

愚痴を零す少女を見やり、そう一言告げて男は身を翻し去っていってしまった。




「というわけでして」
「おいおい、それのどこに惚れる要因があるってんだ?」

11が異界に現れてからしばらく経った今日この頃。
いつもと変わらず、くだらない会話に付き合っていたジェクトがふと面白半分に聞いてみたこと。

一体アイツのどこに惚れたのか。

日々あんなに纏わりついているのだからそれ相応の出来事でもあったのだろうと思っていたジェクトの期待を見事に裏切ってくれた内容である。

出会った途端に頭を拘束され、あまつさえキリキリと締め上げられる。
自分だったらいきなりそんなことをしてくる男なんかに惚れることはない。嫌うことはあっても。
それでもまぁ、あの長い刀で刺されなかっただけでもマシな方なのかとは思うが、どっちにしたって第一印象最悪なことには変わりはないのだし、そんな出会いで惚れただなんてこの少女の嗜好は少し変わっているのかもしれない。

そんなことを思いながらジェクトがお茶を啜っていると、11の話にはまだ続きがあったらしく最後まで聞けと強請ってきた。

「だって、優しいじゃないですか」

ここまで聞いた中で優しさを示した部分などあっただろうかと頭を捻りたい所だが、ジェクトは黙って11の話しに耳を向ける。

見ず知らずの意味不明なこんな異界に突然放り投げられて、混沌の神カオスに戦えと言われた。
それはそれで自分の性質上何ら問題はないことだから受け入れることはできた。
だがその後だ。

混沌側の者で初めて会ったのはカオスの元にたまたま訪れていたジェクト。
ちんちくりんだとか、こんな小娘が、とか散々な言われ様だった。

「あー、おまえさん、まだあれ根に持ってるのか…?」

そう聞けば当たり前だときっぱり返してきた。
その後ジェクトに連れられて何人かの人物と顔を合わせたが、どいつもこいつもジェクトと同じような反応を示してくるばかりである。
皇帝に至っては”下僕にしてやろう”などと、言ってくる始末。
何するための下僕だよ、と皇帝によるセクハラじみた視線を回避しながら新たに備わっていた力を駆使していろいろな次元を飛び回っていた矢先の出来事だ。
自分が混沌の者だと告げると、一言で受け入れてくれた。

「見た目で判断しないなんて、充分優しいじゃないですか」

他の誰かさんとは大違いですよね!と11は熱く語る。
しかしジェクトにしてみれば、セフィロスはただ単にこの少女に関心がなかっただけなのだろうと思う。
調和のあのチョコボ野郎に御執心中なのだから、今更カオス陣に人が増えようが減ろうがアイツには関係のないこと。

関心をよせているのはあくまであの男だけ。その他のことは無関心。
これがセフィロスに対するジェクトの評価だ。
概ね他の者たちも同じだと思う。

だからそんなセフィロスに想いを寄せても無駄だと思うが、出現してまだ日の浅い11がそれを知るわけもないし、楽しそうにセフィロスに纏わりついている11の姿を見ていると、どうにもその辺り話し難い。
それにわざわざ ”諦めたらどうだ” なんて言う筋合いもジェクトにはないのだし、当人が良しとしているのならそれでいいんじゃないだろうか。
纏わりつかれているセフィロスにはご愁傷様としか言い様がないが。

「当面の目標は、名前を呼んでもらうことです」

と、11が意気揚揚と宣言する。

名前すら呼んでもらえてないとは少女の想いに気がついてもらうことさえまだまだ先の話になりそうだが、それを傍から眺めているのも面白いかもしれないとジェクトは思うのだった。

-end-

2010/5/20 ヨリ様へ相互記念品



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ヨリさまに贈る相互記念夢です。
セフィロス連載の小話的なものとのことで、出会い編でv
受け取ってもらえたら嬉しいですvv

この度はリンクいただきましてありがとうございましたvv
またお邪魔させていただきます!



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