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03

「俺と同じ2ndで、カンセルって言うんだ」
「えぇっと、11です。よろしくお願いします」

本日は晴天日。
引越しにはもってこいの日和である。

先日ザックスとした約束を果たしに訪れた11を待っていたのは、この引越しの主であるザックスと友人のカンセルという青年だった。
引越しするにあたって他にも頼るあてがあるとは聞いていたが、まさかソルジャーだったとは。
いや、ザックスの仲間といえば当然の選択肢なのだろうが、11の頭にはなかった相手との急な対面に思わず恐縮してしまう。

「11、なんか緊張してる?」

いつもらしからぬ面持ちでお辞儀をする11に、ザックスが苦笑とともに窺ってきた。
当たり前だ、と言わんばかりに11はザックスを見やった。

神羅の拠点地であるこのミッドガルに居る以上、一般兵などは目にすることはよくある。
だが、その上ともなるとそうそうお目にかかれるものではない。
ザックスとはそれこそその一般兵時代からの付き合いだが、またこうして新たにソルジャーと顔を遭わせることになるとは思いもよらなかったこと。
それにザックスにとっては確かに一介の友人かもしれないが、ただの学生兼アルバイターである11にはソルジャーとは、遠い世界の存在で、緊張してしまうのは無理もない話だ。

「こいつ、目つき悪いけどさ。俺とさして変わんないってか、いいヤツだから。そうあんま怖がんないでやってよ」

ザックスが朗らかにカンセルの肩を叩く。
そうは言われても、でもやっぱりザックスとは違い近寄りがたいような。
そんな11の複雑な心境を察したのか、11の不安を少しでも緩和させるべくカンセルは満面の笑みで手を差し出した。

「こちらこそ、よろしく」

そう、精鋭な顔立ちに浮かんだ笑みに、11は差し出された手を遠慮がちに握り返した。
とりあえずの自己紹介を済ませたところで、3人はザックスの部屋へと向う。


とはいえ、ほとんどの物はザックス自身が既に他の仲間たちの手助けの下新居の方に運び終わっていたため、部屋の中は閑散としたものだ。
ある物といえば、ベッドや冷蔵庫など大きな荷物だけ。
力仕事はザックスとカンセルが担い、部屋の掃除は11に頼むと役割分担をして、さっそく取り掛かることにした。

ザックスたちが、借りてきた中型のトラックへと荷物を運んでいく。
そうしている間に空いたところから11は掃除を始めた。
普段退かす事のなかった洗濯機裏など埃が積もっていて11の掃除魂に火が灯る。

ザックスたちの手により軽々と運ばれていく道具に、やはりソルジャーとは一般人とはかけ離れた力を持っているのだと感心しながら11も掃除に精を出す。
掃除機を持ち出してきてあらかた綺麗になったところで雑巾片手に床磨き。
絶対所持していないだろうと思っていた住居用洗剤は案の定無く、持ってきておいて正解だったと内心息を吐きながら一心不乱に部屋を磨き上げていく。
そうしていうるちに荷物も運び終わり、部屋の中には掃除用具のみの何もない状態になった。

「おぉ、すっげーな。床、ピッカピカじゃん」

あいつの部屋とは思えないな、とカンセルが上がってきた。

「あ、ザックス…は?」

決して人見知りな性質ではないと自分で思っていた11だが、顔を合わせてまだ僅かな相手…それもソルジャーともなるとザックスの友人とはいえふたりきりは少し緊張する。
ザックスの姿を探す11の問いかけに応えるように、カンセルは外に目を移した。
釣られて11が窓から外を窺うと、トラックの荷台に乗り込み、ロープを使って荷物が落ちないように養生を施しているザックスが見えた。

「ちょっと休憩してこいだってさ」

そう手に持ったドリンク缶をひとつ11に手渡してきた。
掃除の方も落ち着いていた11は、ありがとうとそれを受け取り、窓枠に寄りかかる。
無言でドリンクを飲んでいるカンセルの様子に気を配りながら缶を開けて11も口を付けた。

休憩だというなら、ザックスも一緒にすればいいのに。
会ったばかりの人とふたりきりにさせるなんて意地悪だ、と心の内で愚痴りながらも、ザックスのあの性格ならそれも当たり前なのかもしれないとも思う。
誰とでもすぐに打ち解けることのできる人柄であるザックスだから、ふたりきりで気まずい思いをする、なんてことは彼の辞書にはないのだろう。
ある意味羨ましいが、誰もがそうでないことくらい察して欲しいと思いながら11はちらりとカンセルを窺った。
するとカンセルと目が合ってしまった。

目が合った11にカンセルは笑顔を向ける。
どうやらこの少女には少々警戒されている気がする。
出会って僅かしか経ってない男とふたりきりじゃそりゃあ当然だとは思うが。
でも、それにしたってドリンクを受け取る時のオドオドした様子やこっちを気にしたような気配やら萎縮しすぎじゃないだろうか。
これは少しでも場を和ませなければとカンセルは口を開いた。

「俺とあいつはさ、2ndになってからの付き合いなんだ」

カンセルも以前は一般兵だったのだが、その時はザックスとは違う地区を担当していたという。
ソルジャーになってから何度となく任務を組んだりと顔を合わす機会が多くなり、そうしているうちに自然とお互いつるむようになっていった。

「なんていうのかなー。人懐っこい?」
「あ、わかりますそれ。うん。確かに人懐っこい」

初めてザックスが11のバイトする定食屋に来た時も、ザックスの方からあれやこれやと話しかけてきたものだ。
最初はなんだろうかこの人はと思いもしたが、気さくで裏表のない話し様に、親しくなるのに時間はかからなかった。

「んで、お節介」
「そんな、こと…あー」

何か身に覚えあったりするだろと苦笑いに尋ねてくるカンセルに、11は家まで送ると言って引かなかったザックスを思い出した。
あの雨の日もそうだ。
11は遠慮しているのに一歩も引かず、結局はお世話になってしまったのだが。

「でも、 ”お節介” じゃちょっとかわいそうかな」

ザックスなりに心配してそうしてくれてるんだろうし、と苦笑を零す11にカンセルは、ちょっと慣れてきたかもと安堵する。

「んじゃあ、気配り屋。今だってひとりであぁしてるだろ」

一緒に休憩だと声をかけても、頼んだ以上自分でやれることは早々にやってしまうからと休む間もとらずに荷造りに勤しんでいる。
変なトコで几帳面だとカンセルが呆れる。
今日だってそうだ。
そこそこ稼いでいるのだから大きい荷物くらい引越し屋にでも頼めばいいと言ったのに ”節約できるならそれに越したことはない” でこうして駆りだされてきたのだ。

「ま、あいつらしいけどな」

と笑うカンセルは引越しの手伝いにたいしてイヤというわけではない。
そもそもイヤなら頼まれた時点で断っているのだから。

「ザックスみたいにさ、ソルジャーって言ってもいろんなヤツがいるわけだ」

最初俺のこと怖がってたでしょ、とカンセルが11を窺ってきた。
実際、畏れ多いとは思ってはいた。
だが怖いというよりも、11の周りの世界とは違うものへの戸惑いというべきか。
些か複雑な心境を持っていたのは事実だが、なんと応えるべきかと返答に困っている11にカンセルは言う。
ソルジャーといったって、その殆どは普通の人間と変わらない。
確かに特殊な訓練を受けて一般兵とは違う様相かもしれないけれど、とカンセルが自身の目を指し示した。

「変化。わかる?ザックスも、俺も、ちょっとばかし一般人とは違う所もあるけど」

前にザックスが言っていたことを11は思い出す。
魔晄を浴びると徐々にだが眼孔に変化が生じてくると。
その魔晄に耐えられる肉体を持つ者だけがソルジャーになれるのだと、そう言っていた。

「でも、思ってることとか気持ちとか、そーいうのは11ちゃんたちと変わらないもんだよ」

一部には神羅の犬だとか言われてるみたいだけど、皆が皆、プレジデントに忠誠を誓っているわけではないし、ザックスみたいに英雄に憧れて志望した者や、自分みたいに誰かの力になれたらなんて漠然としたものを抱えて入った者。
思惑だってそれぞれだ。
だから怖がらないでいてくれると嬉しいとカンセルは紡ぐ。

「あー…なんか、ごめんなさい。私、全然そんなつもりはなくて…。ただちょっと、遠い存在だからその…」

カンセルの言うように、ソルジャーだって人間だ。
喜んだり悲しんだり、そんな感情あって然るべきなのに、自分ときたらソルジャーというだけで腰が引けてしまっていたなんて失礼にも程があると11が項垂れる。

「気にすんなって。皆最初は大抵11ちゃんと同じ反応するよ。慣れたらなんてことないけどな」

そう笑顔を覗かせるカンセルに11は益々申し訳なく思ってしまう。

「でさ、俺が11ちゃんのことかわいいなーって思うのも、普通の男となんら変わらない気持ちだってこと、わかってもらえるかなー」

急に11の手を握ってきたカンセルはとびきりの笑顔だ。
11はそんなカンセルの笑顔を見つめ考える。

今自分はかわいいと言われた。
かわいいなんて言われたのは何時ぶりだろうか。
幼い頃は両親にそれはそれは言われたことだけれど、生まれてこの方身内以外にそんな言葉は言われたことはない。
だが容姿に関して褒められたことは嬉しい。嬉しいが、言われ慣れていないことに戸惑い、また手に持っているドリンクが零れてしまわないかと変なところに気が回ってしまう。

「はぁ、…ありがとうございます……?」

いきなりのカンセルの言葉に頭を巡らせ、11はなんとかそう返した。

「おーい、人がいない間に何ナンパなんかしてんだよ」

荷造りの終えたザックスが、部屋に入ってくるなり胡散臭いものでも見るかのようにカンセルに目を向けてきた。

「なんだよザックス。そんな下心なんてないぞ。俺はただ素直な気持ちをだな」
「あーはいはいわかったわかった。11ももう終わり?」

部屋を見渡しそう尋ねる。
綺麗に磨かれた床に窓。
これなら退去費用もそうかからないかもしれない。
11に頼んで良かったと礼を述べる。

「こっちこそ、お役に立てて良かったよ」

あれから何ヶ月か経ってしまったが、やっとお祝いを果たすことができたと11が胸を撫で下ろす。

荷物は全て出しきった。
部屋も思ってた以上の綺麗な仕上がりだ。
あとは引渡し時にもう一度軽く掃くくらいでいいだろう。
新居にはカンセルと向えば事足りるのだし、11のバイトもそろそろだ。
帰り仕度を済ませた11に、仕事前なのに申し訳なかったと玄関まで見送る。
本当はバイト先まで送っていけたら良かったのだが、あいにくレンタルできたトラックはふたり乗りのもの。
さすがに三人では窮屈だ。
それについても申し訳ないというザックスに、お祝いなんだから気にしないでと11は返す。

「落ち着いたら、遊びに行かせてね」
「うん。俺も11んとこ食いに行くし。またメールするよ」

手を振り去っていく11の姿を見送りザックスは部屋に戻る。
ガランとした室内。
そこに佇む体格のいい男がひとり。
カンセルが窓から11に手を振っているようだ。
全く、人の友人をナンパとか、見た目に反して意外とそういうとこ軽いよなと思いながらザックスはカンセルに声をかける。

「よーし、カンセル。もうちょい頼むよ」
「おー。なぁザックス」

カンセルは振り向きザックスに視線を移した。

「11ちゃん、…天然?」

急に手を握っても、かわいいなんて言ってみても、何の反応も示さなかった。
それどころか束の間の間。
そして返された言葉は ”ありがとうございます?” との、なぜかの疑問系。
俺ってもしかして対象外?とカンセルがへこむ。

そんなカンセルの問いかけにザックスは頭を捻る。
バイトをしている姿はしっかりしたものだ。
キビキビと動き回っているし、常連さんとのコミュニケーションもお手の物。
今日の部屋掃除だってこんなに綺麗にやってくれたし。
だからしっかりしている、かと思えば案外そうでもなかったりする。
忘れ物は多いようだしバイト帰りとはいえ深夜に出歩くことには抵抗はないようだし。
そんな11を心配して何かと構ってしまう自分に対してはなんだか無防備な感すらある。
人の機微に対してはイマイチ聡さが足りないような、そんな気がする。

「…天然ってよりも、きっと鈍いんだよ11は」

男として見られていないからの無防備さなのだろうし、そういうところに頭が回らないのが11らしいというのか、思わず苦笑が漏れる。
11に対して少なからずの好意を寄せているザックスからしてみれば、変に意識され過ぎるよりはお互いが心地よい距離感を持っている今の状況のほうがずっといいものだと思う。
ただ、本当の恋心に移行してしまった時には11の鈍感ぶりにもどかしい気持ちを抱えるはめになってしまうのだろうけれど。
そんな心の内は、へこんでいるカンセルには明かさずに、ザックスは引越し作業の終わりに向けてトラックのキーを取り出した。
新居にての新たな生活に、胸が弾むのを感じながら。

2010/11/12





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