DdFF ガラケー | ナノ




04

床に散らばる素材たち。
その形容は様々で、色とりどり、と言えば美しく煌びやかに聞こえるものだが決してキレイな素材ばかりではない。
時々、手にするのもおぞましいと思うモノもある。
そんな不可思議に入り混じっている素材たちを11は軽く見渡した。
11が集めてきたモノではない。
この聖域から外に出たことはないのだから。
持ってきたのはプリッシュだ。
11の力を知って以来、何を面白がってか拾い集めてはこうして11の元へと運んでくる。
生成に使えるものから何の役にも立ちそうにないガラクタと、ありとあらゆるものを運び入れてくるものだから11にとっては頭の悩ませどころだ。
とはいえ 「何事も経験だぞ」 と、11の生成の腕前を上げるべくにプリッシュなりに11の成長を思ってのことなのだから11としても断るに断れない。
それゆえにこうして素材に囲まれた一角が出来上がってしまった。

11は素材をひとつ手に取る。
そして背後に並べられた生成を済ませた品物へと目を向けた。
素材は充分すぎるほどたくさんある。
同じくガラクタもたくさんあるけれど、生成に使えるモノとそうでないモノの区別は手に取ることで判別可能だ。
だから素材とガラクタを間違える事はない。
問題があるとすれば、己の腕の未熟さだろう。
横一列に並んでいるいくつかの品物に11は溜息を吐いた。
プリッシュの思いに応える為にもと意気込んで一番初めに生成してみたモノは、もはや武器とはいえない形を成している。
どこを持てばいいのか判別不能な姿に肩を落としもしたが、最初はこんなものだろうと前向きに捉えて次なるモノへと挑戦した。
刃が欠けた剣といくつかの素材を使って試みてみたが結果は同じ。
武器とは言いがたい代物が出来上がった。
こうして生成しては不良に出来上がるモノたちを並べた光景は少しばかり異様である。
一体これは何なのかとプリッシュに尋ねられたこともあった。
事情を話してみれば気を使ってか、そんなこともある、と苦笑を向けられたものだ。
数をこなせばなんとかなるだろ、と励ましの言葉も与えてくれたが…。

(…生成に、向いてない…なんてことは、きっと、ない)

11自身を創造してくれたのはコスモスなのだから。
しかし、だからといってコスモス自身が11に生成を強制しているわけではない。
コスモスが与えてくれた力を有用に使うべくに11が11なりに駆使しているだけ。
話相手としてだけでなく、コスモスの力になりたいと思ってのものだ。

(やっぱり、まだ力が足りない?)

体が小さいからコスモスから与えられた力を存分に発揮できないのは、と11は常々思っていた。
会うたびに成長しているとプリッシュは驚いていたが、そんな11自身の思いが無意識ながら反映されていたのだろう。
そしてつい先日、いよいよプリッシュの頭の頂点を11の頭がほんの数ミリ超えていた。
プリッシュはその事実にとても悔しがり、小さい11の方が良かったと嘆き、でもまぁ仕方ないか、と最後にはあっさりと現実を受け入れた。
ひとり騒々しく喜怒哀楽を覗かせるプリッシュを11は好ましく思っている。
初めこそ人に対しての恐怖心から逃げ周ってしまったが、人懐こく、世界のことを教えてくれたプリッシュの存在は今や11にとってかけがえのないものだ。
コスモスに対してはもちろんだが、プリッシュのためにもやはり早く生成の腕前をあげたい。
異界で戦う、顔を合わせたことのない仲間たちのためにもだ。

数々の失敗作に肩を落としていた11だったが、そう気持ちを盛り上げ次なる生成を試みるために素材へと手を伸ばした。
何もない、ゼロの状態からモノを作ることはできるのだ。
その力を対象物へと伝導させれば生成は成り立つはず。
現に失敗作とはいえ、複数のモノをひとつに纏めることは出来ているのだから、あとは伝導させる力の配分なのだろう。
慎重に、慎重に。
慌ててはいけない。
コスモスから与えられた力なのだから、出来ないわけがない。
素材を手に、11は力を注ぎこんでいく。
己の力を信じて。

「おぉーい、11−」

生成に集中している11へと、ふいに言葉が降りかかってきた。
こんな聖域奥深くにまでわざわざ足を運んでくるのはプリッシュしかいない。
しかし今11は生成中だ。
神経を研ぎ澄ましている現状、声を出せる余裕などない。
申し訳ないが少しばかり待ってもらおうと、11は無言で生成を続ける。
それを目にしたプリッシュが興味深そうに11を見やってきた。
傍まで辿り着き、11の目の前へと腰を降ろす。

初めて目にする生成の様子。
淡い小さな光が11の手元を包み込んでいる。
プリッシュは腕を組み眺めた。
そして首を僅かに傾げる。
こんなキレイな光の収束の先には、またあの形を成していない武器が出来上がるのだろうかと。
そんな事を思っているうちに11の手の光はほどなくして消えていった。
11の手に乗るのは手の平に治まる位の金属の塊。
また失敗だと11は息を吐いた。

「…こんにちは、プリッシュさん」

項垂れ沈んだ声音で、それでも挨拶の言葉を欠かさない11の様子にプリッシュは苦笑を零し、金属の塊を手に取った。
ツルツルと丸く、なかなかに重量感がある。
銀色に光る球体は、これはこれで見事な出来ではないだろうか。
11にとっては失敗作に変わりはないかもしれないが、今まで生成してきたあの品々の形容し難い出来に比べたら雲泥の差だと思うのだが。

「えぇと、また、拾いモノですか?」

11は座るプリッシュの傍らにあるモノへと目を移した。
使い込まれ、輝きの鈍くなった金属の色。
所々にへこみが覗き、被るのは容易ではないだろうことを窺わせる兜だ。

「あぁ、コレな。アイツから奪ってきた」

アイツ、との言葉に11の頭にはすぐに光の戦士の姿が浮かび上がってきた。
しかし浮かび上がった姿にはこのような兜は存在しない。

「なんか拾って来たみたいなんだけどさ、こんなんじゃ使いモンにならないだろ?」

ボッコボコだし、と兜を手に取り11へと手渡す。

「だから生成にでも使えるかなと思って持ってきたんだ」
「…ウォーリアさんが、拾いモノ……」

意外だと言わんばかりに11は兜を凝視した。
よく見ればへこみどころか傷もある。
元の主が連戦を重ねてきた証だ。
これを見てウォーリアは何か思うところがあったのかもしれない、と11は思う。
でなければ素材でも何でもない、使い古され、今や防具として機能を果たさないこんなようなモノを拾ってくるだろうか。
プリッシュのように好奇心旺盛なわけではない。
ましてやシャントットのように何かにつけて研究だという人物でもない。
身を盾にして戦う、ただの戦士だ。
その彼がこれを手にした心境は。

「プリッシュさん。その塊、貸してください」

言われたプリッシュは、丸い銀の玉を11へと渡した。

「生成。…してみます」

静かにしていてくださいね、と11は目を瞑った。
手に抱えるふたつのモノへと力を注いでいく。
ウォーリアがなぜこれを拾ってきたのか。
11の勝手な憶測でしかないけれど、もしそうであるのなら、この兜はきっと彼には必要なモノのはず。
その兜を痛んでいるからとはいえ未熟な11が生成してしまうのは少しばかり挑戦ではあるが、でもなぜだか今の11には自信があった。
コスモスの、プリッシュの、調和の仲間たちのためにこの力を使いたい。
そんな思いで挑んだ生成から創られた銀の塊。
見た目はただの玉だけれど、今までで一番の思いを篭めた生成品だ。
それとこの兜なら、上手くいきそうな気がする。
そんな不可思議な自信が11の身を覆っていた。
次第に小さくなっていく淡い光に11はソロソロと目を開いていく。
11には重く感じる金属の感触。
手にしているのは今まで目にしてきた失敗作のようななれの果てではなく、銀に輝く兜だった。
先の尖った角飾りに気をつけて11はその兜を床へと下ろす。
そして大きく息を吐いた。
溜息ではない。感嘆の息だ。
嬉しさからか、達成感からか、どちらにしても喜びの感情には変わりはない。
同時にプリッシュが11へと抱きついてきた。

「よくやった!できるじゃないか、11!」

と、まるで自分のことのように喜び、頭を撫でまわしてくる。
そしてアイツに渡しに行こうと手を引っ張るプリッシュを11はやんわりと制した。

「え、なんでだよ。せっかくなんだからさっさと渡してやろうぜ」

不思議そうに見やるプリッシュに11は首を振り返した。

「プリッシュさん、渡してくれませんか?私、やっと生成の感覚が掴めたみたいで…」

この感覚を忘れてしまわないうちに、もう少しいろいろと生成してみたいのだと11が言う。

「そっか?まぁ、それがおまえの力だし、大事なことなのかもしれねぇけど…」

んー、と頭を捻った後、プリッシュはひとつ頷き、兜を手に取った。

「わかった。そんじゃ、アイツに渡しとく」

あんまり無理するなよ、と声をかけプリッシュは兜を手に去って行った。



11の言い分はわかる。
掴んだ感覚は忘れないうちに自分のモノにしてしまいというのは。
でもせっかく初めて出来た成功品だし、ウォーリアも含めてお祝いでもと思っていたのだが。

(それに、もしかしたらアイツの喜ぶ顔が見れるかもしんねーってのに)

もったいない、と息を吐き、足を伸ばしてきたのは秩序の聖域の表層部。
そこにある簡素な台座の前でプリッシュは足を止めた。
女神は不在。
シャントットの姿も見えない。
さて、どうしたものかとプリッシュはひとまず台座へ兜を置いた。
静けさに覆われた空間に、ふと耳を掠めた金属の音。
その音の方向へと顔を向けると、ウォーリアが歩んでくる姿を見つけた。
ウォーリアもプリッシュの姿に気が付いたらしく、こちらに顔を向けたウォーリアにプリッシュは手招きで招き寄せた。

「珍しいな。君がこんな時間からここにいるとは」

また途方もない冒険にでも出かけているのだと思っていたとウォーリアが言う。
この世界に慣れた最近では、プリッシュとウォーリアはほとんどを別々に過していた。
プリッシュは相変わらずにひとりで気侭に世界を放浪し、ウォーリアは調和の仲間と日中を共に過している。
顔を合わせる頻度もこれまでに比べたら少なくなりつつあるうえに、会うといっても偶の、時間帯も1日の終わりの頃合だ。
そう言われてしまうのも頷けるものなのだが、本当に会うたびに饒舌になっていると言うのか仲間たちと上手く関わりを持つ事ができている証なのだと思えば拾い主として微笑ましい限りであるが。

「そーいうおまえも、こんな時間からこんなところでどーしたんだ?」

途方もなく世界を放浪しているのはお互い様だと言わんばかりにプリッシュはウォーリアを見やった。

「今日は、この辺り一体の見回りだ。君がなかなか捕まらないとコスモスが嘆いていたからな」

たまにはしっかり見回るのも大事なことだと思うがと告げてくるウォーリアに罰の悪さを感じながらも、それを誤魔化すべくに今しがた11から預かってきた兜をプリッシュは手に取った。
ウォーリアの視線が兜に移る。
ジッと見やってくる様子にプリッシュは口を開いた。

「コレな、おまえがちょっと前に拾ってきたヤツだ」

防具として役に立たないから11の生成の練習にでも使ってもらおうと持っていったのだと、経緯を話す。

「んで、御覧のとおり。無事成功」
「…あの兜か」

思い出したのか、ウォーリアはプリッシュより兜を受け取り方々からその形を確認した。
深く抉られた傷はない。
へこんだ痕跡も跡形もなく整えられ、生成前と同じと言われればそのような気もするが、少しばかり変化を遂げている個所もある。

「見事に生成したものだな」

兜の内側に小さな傷を見つけ、ウォーリアは僅かに口元を弛ませた。
完全ではない。
だが、この程度の傷など兜としてなんの支障もない。
それになにより、懸命さの表れがよくわかる。

「嬉しそうじゃねーか。そんなにコレ気に入ってたのか?」

明らかな笑顔ではないが、穏やかさを醸し出しているウォーリアにプリッシュは尋ねた。

「そうだな。本来ならば気にも留めなかったのだろうが」

ふと手にした時に、元の持ち主のことを思ったのだという。
どんな思いで戦いに赴き、その身を費やしてきたのだろうかと。

「怯むことなく戦った証が、あの兜にはあった。おそらく、それに惹かれたのだろうと思う」

肖りたいとまではいかないが、自身も胸に刻んでおかなければならないと、そんな思いを感じたからこそ気になっていたらしい。

「これで、身につけることが適った。11に礼を言わなくては」

そうウォーリアがプリッシュを見やってきたが、プリッシュは首を傾げ返した。

「あぁ。それなんだけどな」

律儀なコイツのことだから、そう言うとは思っていた。
しかし11は礼を言われる事をこれといって望んでいない。
それに告げられて迷惑だってこともないだろうが、今はまだ掴んだ感覚を逃したくないのだと言っていたのだし、礼の言葉のためだけに邪魔をするのも悪いだろう。

「今日はちょっと遠慮しとけ」

礼ならいつでも言えるだろと言うとウォーリアが 「だが」 と紡いできた。

「君が居ないと私は奥へと行けない。11の居場所を知らないのだから」

こうして顔を合わせる頻度が少ない現状、いつでも、とはいかないのではと言う。
確かにプリッシュ自身と違って余計な散策、ましてやコスモスの鎮する秩序の聖域内を我が物顔で歩き周ることなどしないウォーリアなのだから11の居場所を知っているはずもない。
かといって11が表層部へと姿を見せることも稀であるのだから、告げられる日となったらいつになるのかという話である。
プリッシュは考える。
素直に11の居る場所への道筋を教えるのは簡単なことだ。
だがそれでは面白くもなんともない。
11の居場所を突き止めたプリッシュ自身の苦労をコイツにも味あわせてやるのも一興ではないだろうか。

「何甘えた事抜かしてんだよ。そんなに行きたいんなら、自分で見つけてみろっての」

それが真摯ってもんじゃねーのかとニヤニヤ弛みそうな顔をなんとか引き締めながら告げると、そうか、とウォーリアが至極真面目に応じてきた。
至ってシンプルな秩序の聖域。
しかし、深層部ともなると少しばかり厄介だ。
何せ同じような景色が広がるばかりで、気がつけば同じ場所を行ったり来たりしていただけということもあるのだから。
慣れればちょっとした目印を目処にどの辺りに居るのかを知ることができるのだが、散策慣れていない内は果てしない光景にウンザリとしてくることだろう。

「ま、どっちにしろ今日はやめとけよ。礼を言うんなら明日以降ってことで」

頑張れよ、と綻ぶ口元を隠すようにプリッシュはウォーリアに背を向けて聖域を後にした。


2011/5/23




[*prev] [next#]
[表紙へ]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -