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03

「は?力?」

なんだそりゃ、とプリッシュは11の顔を覗き込んだ。
台座に横たわり、安らかな寝息をたてている11の身にはウォーリアのマントがかけられている。
聖域に戻るなりそんな様子を目にしたプリッシュが、少しは ”人” らしいことをするようになったものじゃないかと感心しているところにウォーリアからの疑問が投げられてきたところだ。
一度目を覚まし、力を使いすぎたようだと再び眠りに落ちていった11だったのだが、その力とは一体どういったものだろうか。
戦うことは出来ないと聞いていたのだが、とウォーリアも11へと視線を落とした。

プリッシュは腕を組む。
11もコスモスと同じく記憶の浄化を受けることはない。
その11から、追い掛け回したとはいえ一度会っている人物から逃げ、あまつさえ 「コワイ」 などという言葉は出てこないだろう。
ということはこの少女と出会ったのは、プリッシュ自身の現状の記憶のある ”今” であることは間違いない。
その ”今” だが、会う頻度は少ないとはいえ出会ってからもう随分と経つ。
かれこれいろんな話をしてきたが、力についての話は一度も耳にしたことがない。
それにプリッシュ的には11はただのコスモスの傍仕えだと思っていた。
悠久の時を過す女神さまの、気紛れな愛玩対象なのだと。
だから戦う力もなく、誰とも関わらずに聖域の奥深くに匿われるように過しているのだと思っていたのだが。

「つーか、あれじゃないか?遊び疲れたとか」

大人びたところもあるけれど、まだ子供だしなとプリッシュが苦笑する。
大方、たまに出入しているモーグリとやらと遊びまわってはしゃぎ回ったのだろう。
子供ってのはそういうもんだと告げてくるプリッシュにウォーリアの訝しげな視線が注がれた。

「君の例もある。見た目が子供とはいえ、という場合もあるのでは」

それにプリッシュよりも11の方がよほど大人らしいとウォーリアが言う。

「…だーれに聞いた?あのおばちゃんか?」

そう聞くプリッシュにウォーリアは頷いた。
別段尋ねたわけでもなく、シャントットが勝手に教えてきてくれたことなのだが。

「それよりも、時々性別すら危くもあるな。君の場合は」
「うっさいな〜。ほっとけよ。そんなの俺の勝手だろ」

仲間と関わりを持つにつれ、随分と饒舌になったものだと思う。
最初はあんなにも朦朧としていたのに、これも記憶の蓄積の賜物だろうか。
プリッシュにとってそんなウォーリアの成長ぶりは嬉しいもの。
率直な言い様は少しばかり鬱陶しい気もするが。
だが、願わくば ”次” にもこの感情だけは残って欲しいとも思う。
積み重なった記憶…思い出は、きっと ”次” にはキレイに失ってしまうだろうから。

「それで。君は知らない、ということなのだろうか」

話を戻したウォーリアにプリッシュは知らないと素直に返す。
力という存在さえ今の今まで知らなかったのだから、それがどういったものかなんてそれこそ知っているわけが無い。
プリッシュは再び11の寝顔に視線を落とした。

(また…成長、してる?)

子供特有の、顔の丸みが少し減っている気がする。
ここ最近の成長ペースが続くとしたら、プリッシュ自身の身長を超える日もそう遠くはないのではないだろうかという不満が過る。
そして、力とはこの成長っぷりのことを言っているのではとそんな考えが浮かんだ。
しかし11が成長に関して無意識だったことからそれは違うのかとも思う。
それにそもそも急成長する必要性も思い浮かばない。

「考えたって仕方ねぇ。わかんねーモンはわかんねーんだしよ」

それなら本人に聞くのが一番だ、とプリッシュは11へと顔を近づけた。
名を呼び、起きろと声をかける。
しかし反応はない。
柔らかそうな頬を指で突付くも、くすぐったいのか眠りながらもマントを引き上げ手を避けてきた。

「…起きてからでも構わないのではないか?」

気にはなるが、わざわざ起こしてまで急ぐ事でもないとウォーリアは言う。
対してプリッシュは、今の今まで知らなかった11の力という情報に居ても立ってもいられない。
気になる気になる気になる……。
そんな好奇な視線がプリッシュより11に注がれている。

「おーいー、11ってばよー。おーきーろー」

体を揺さぶってみても、なにやら呻き声が漏れてくるばかりで一向に起きる気配は無い。
一体どれだけ眠りが深いのか。
半ば起こす気力も衰えてしまいそうになるがプリッシュは尚も11を起こそうと身を揺する。
それから頬にと手を伸ばして、摘む。
ピクリと11の眉が反応した。
その反応を捉え、もう片方の頬も軽く摘み上げてみる。

「11−。起きないと頬っぺた真っ赤になっちゃうぞー」

悪戯な笑みを浮かべたプリッシュが楽しそうにそう紡ぐ。
しかし11の白い頬はもうすでに赤みが注している。
これは止めるべきだろうか、とウォーリアが思い始めた矢先11の目が薄く開かれた。

「………プリッシュさん?」

11の目に、とびきりの笑顔を称えたプリッシュの顔が映る。
なんでこんなにも楽しそうなのだろうか、いやいつも楽しそうだけれど。
そんなことを思いながら、プリッシュに手を引かれ11は身を起こした。
頭がぼんやりとしている。
自分はなんでこんなところで眠っていたのだろうか、と11が経緯を辿ろうと思考を動かし始めるのと同じくしてプリッシュから声がかかってきた。

「なぁなぁ11。力って何だ?」

何か特殊な力でも持っているのかと、期待に満ちた面立ちでプリッシュが見やってくる。

「ちから……?」

まだ動き始めない11の思考では、何を言っているのかがわからない。
ちから。
ちからが一体どうしたというのかと朧気な意識の中、11は隣に座るウォーリアへと顔を向けた。

「力を使い過ぎたようだと、君が言っていたのだが」

再び眠りに落ちてしまいやしないかと、11の様子に警戒を抱きながらウォーリアはそう告げる。
ちから…あぁ、そうだ。
今日はちょっと頑張りすぎて、それで自分は眠りについていたのだと11は思い出した。
そしてその力についてふたりが尋ねているのだと理解する。
瞼がまだ重い。
もう少し休みたいけれど…プリッシュはともかく光の戦士までもが心なしか応えを待ちわびている様子に11は口を開いた。

「私の、お仕事、というか…。コスモス様のように、完全ではないですけれど」

コスモスから与えられた力。
この幼い身では、あっという間に力を使い果たしてしまうけれど最近ようやく力の配分がわかってきた。
そしてそれに気を良くして張り切りすぎた結果、力を使い切ってしまったようだという。

「コスモス様に褒めていただいて、嬉しくて、それから…」
「いやいや、それはわかったから。で、11の仕事って何なんだ?」

核心部へと進まない11の話に業を煮やしてプリッシュはそう尋ねた。

「えぇと、あの、素材とか、偶に拾っていますよね」

11が紡ぐ。
武器や防具、アクセサリなどの戦いに必要な道具は、時折見つける宝箱や戦域などから拾う事ができる。
不思議なこの世界の数少ない恩恵といえよう。
それらを強化するには、必要な素材を揃える必要がある。
その強化には、調和陣営においてはコスモスが担っているのだが。

「私は、そのお手伝いをしているんです」

素材を使っての強力な道具への生成はまだできないけれど、11自身でゼロから生成できる品物はモーグリへと渡しているのだという。
広大な世界のいたるところに点在しているモーグリたち。
彼らはひずみに漂うKPという謎めいた物質を好んでいる。
そしてそのKPと交換することにより、武具を譲ってくれていた。

「あー、それでか。モーグリが出入してんの」

なるほどな、とプリッシュが納得する。
11はコスモスのただの愛玩対象物ではなかったということだ。
それでも11を表に出さない理由には足りなく、未だ過保護だとは思うが。

一方、ウォーリアは思い出していた。
KPという物質を欲しがっていたモーグリのことを。
物質の存在は知っていたし、手に入れたこともあったがさしたる興味もなく仲間へと渡していた。
その仲間は普段では手に入れられる品物ではないからと、たいそう喜んでモーグリより武器を手に入れていたのだが。
…早まっただろうか。
己自身の最初から所持している今の武器では、さすがに戦況に影響が出始めている。
それを補うべくに盾の有用な使い方を知り得ることができたが、その盾も些か心許無い状況だ。
そろそろ替え時だろうことは考えていた。
替えるにしても素材により強化するか、真新しく替えるか、そしてKPとの交換という方法もある。
しかし早まった、と思ったとはいえKPとの交換に拘るわけでもない。
今現在手にしているKPはないのだし。
だが、この小さな少女が懸命に生成しているものだと思うとほんの少し利用してみようかという思いも湧いてくる。

「君も、戦っているのだな」
「戦って、ますか…?」

見上げてきた11にウォーリアは頷く。
敵と剣を交えるにも万全な準備は必要だ。
その準備となる品物を陰ながらに生成してくれているというのなら、それは共に戦っているのと同じこと。

「外で戦う我々にとっては、心強い支援だと思う」

ウォーリアの手が11の頭を撫でる。
大きな手で撫でられるのは大変に心地よい。
コスモスとは違った力強い優しさは、11の身を包み込んでくれるかのようだ。
堪えていた瞼の重みに、11の焦点が揺れてくる。

「あ、おい11……」

再び眠りに誘われている11にプリッシュが声をかけようとするも、ウォーリアがそれを制して来た。
疑問は晴れたのだから無理に起こしている理由も無いと言う。

「んまぁ、そりゃそうだけどよ。つか、お前、意外とあれだな」

利己的なのか感情的なのか、とプリッシュは口噤む。
ウォーリアの言うように11の力はこの先もおおいに仲間たちの役に立つ事だろう。
それを成す休息を遮るわけにはいかない。
万全な状態で、万全な品物を生成してくれるには必要な休息なのだから。
そんなウォーリアの言い分もわかる。
でも、ちょっとくらい話をさせてくれてもいいんじゃないだろうか。
せっかく久しぶりに会ったのだしせっかく目を覚ましてくれたのだし、休むのは後からでもたくさんできることだ。
それを良しとさせないのはウォーリアの戦いに向けての営利的な考えなのか、それとも個人的な感情なのか、どちらなのかはわからないが。

それにしてもだ。
人を恐れて、距離を縮めるのに時間のかかった11が今はウォーリアの腕に支えられ眠りについている。
プリッシュ自身11の寝顔など今日初めて臨んだというのに、ウォーリアに対してのこの無防備さは一体どういうことなのだろうか。
ウォーリアよりも先に11と出会っていたプリッシュとしては、なんだか腑に落ちない。
お堅い戦士よりも絶対にプリッシュ自身との方が11と打ち解けていると自負していたのだから尚更だ。
そんな思いが過ってしまう自身の方こそ充分感情的だけれど、とプリッシュはウォーリアに手を伸ばした。

「ほら、寄越せよ」

お前が抱えていると人攫いみたいだと、プリッシュはウォーリアから11の身を強引に引き取る。
プリッシュよりもひと回りほど小柄な体。
思っていたよりもとても軽い。

幼い身では、と11は言っていた。
となると、成長するにつれ生成の精度も上がっていくのだろうか。
それならあの急成長ぶりも納得がいく。
11自身に自覚はないようだが、少女の生成への向上心が身体の成長へと影響を与えているのだろう。

(おっもしれーヤツだな)

そう思ったところで ”次” には忘れていることだけれど。
プリッシュ自身も、ウォーリアも、11のことだけじゃない。
戦いやそれに関わるモノ全てが記憶からなくなる。
それでも、コスモスと11が自分たちは存在したのだと覚えてくれているのなら ”次” が来るのは怖くはない。
また戦って、また冒険の日々が訪れる。
ただそれだけのこと。
それがいつ訪れるかまではわからないが。

「ま、11の力に応えるためにも、しっかり護ってこーぜ」

この聖域と調和の女神様を。
11を優しい眼差しで見やりそう紡いだプリッシュの思惑を知るはずも無いウォーリアは、ただ静かに頷いた。


2011/4/14




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