DdFF ガラケー | ナノ




不撓その2

「うわぁ……」

そんな言葉が11の口から漏れ聞こえてきた。
11の視線の先には、ラグナとティファの姿が窺える。
繰り出されるティファの掌撃をラグナが防御体勢によって受け止めていた。
稽古相手になってくれとティファが彼に声をかけていたのは聞いていたが、あれでは相手というよりも ”的” といった方が正しいような気がしないでもない。
ラグナの面立ちが険しいのは、きっと痛いからなのだと思う。
しかしそれはともかくだ。
ふたりの方へと向いている11の頭を手で真っ直ぐに向き直させる。

「よそ見してないで、しっかりやるんだ」

散策に出かけたライトニングに頼まれて11の修行の監視をしているのだが、なんとも落ち着きがない。
いや、落ち着きがないのはいつものことなのだがそれにも輪をかけて落ち着きがない。
どうも視線の紡ぐふたりの様子が気になって仕方がないといった風だ。

「ほら。人のことよりまず自分のことだろ。しっかり狙いを定めて…」
「だって、すごくないですか?あんなビシバシと」

自分には到底無理だと11が息を吐いた。
そもそもあんな肉弾戦は11には求めていないんだが。
とはいえ確かに目を瞠るものはある。
拳ひとつで相手を追い詰めていくなんて、並大抵の技量じゃ到底成しえないことだろう。
自分も拳で殴りつけることはあるが、さすがに己の手のみ、という戦法を取れるほどの技術は持ち合わせていない。
それにティファは女なのだし、力だけでモノをいわせているわけではない。
俊敏さと、タイミングと、それから相手の急所へと狙い定める的確さ。
彼女の戦いぶりはそれらの絶妙な組み合わせで成り立っているのだと感心した記憶がある。
今のあの鍛錬具合は本当に ”的” に対して打ち付けているようにしか見えないが。

「まぁ…ラグナにはご愁傷様としか言いようがないな」
「えぇっ?なんでですか?」

と目をぱちくりとさせる11に目を向ける。
いやだって、あんなの自分はゴメンだぞ。
確かに戦い方はすごいものだと思うが稽古相手だからといって一方的に蹴るや殴られるのなんて。

「あぁ、そっちですか」

なんとも呆れたような溜息を吐いてきた。
何なんだコイツは。

「フリオさんたら気になりませんか?」

そう11が再びふたりに目を向けた。
それに倣って自分もふたりに目を向ける。
相変わらずラグナが痛そうだ。

「すごいですよね、おっぱい」
「……おっ…っ?」

いきなり何を言い出したのかと動揺を隠し得ない。
かろうじて出かけた言葉を濁すことはできたが。

「だって、あんなにボインボインなのにビシバシとブルンブルンですもの」

すごくないですか?と11がこちらを見上げてきた。

「それにですよ」

11が言葉を続ける。
鍛え上げ、引き締まった肉体。
無駄な肉のない凛々しい体とは対照的なあの胸は反則だと言う。
これは一体なんと応えればいいのかと頭を悩ませていると11は更に言葉を続けてきた。
腿も露な丈の短い微妙な境界線。
こうして傍から見ている分にはその領域を望むことは適いそうで適わないギリギリなところだが、きっと真正面で受け止めている者にはばっちり見えているであろうと。

「いや、さすがに何か履いているだろう。ライトみたいに」
「え、フリオさんたら何で知ってるんですか?」

いやだイヤラシイ、と怪訝な眼差しを向けてくる11に思わず慌てる。
たまたまだ。
本当に偶然に、鍛錬中にチラッと見えただけであって別に覗き見るとかそんないかがわしいことをしたわけじゃ……。
ジトっと見やってくる11にひとつ咳払いをして気を取り直し、ほら修行だと声をかける。
いつまでも11のペースに飲まれているわけにはいかない。
何より何の成果も上げずに今日という日が終わってしまったら、またライトニングから小言が振ってくるのは明白なのだから。
集中しろと再度11の頭を正面へと振り向かせた。
しぶしぶといった様子ながらも、11もようやく杖を構えた。

少し離れたところにある木の枝が氷で覆われる。
それから小さな雷でその枝を切り離した。
落ちた枝に火を点す。
枝はまもなく灰と化した。
ほんの些細な一連の流れだが、今日のところは二度目の挑戦にして成功したのだから良しとしよう。
やればできるじゃないかと褒めれば、11も素直に嬉しそうだ。
常にこんな風に素直であればこっちとしても気も楽なんだが。
褒められた事に気を良くしたのか、次はもう少し遠くの枝を狙ってみるとやる気を出してきた。
やる気があるのはいいことだと思う。
本人の気が乗っているときは大抵上手くいくものだし、こうして順調に魔法の扱いに慣れていけばそこそこ大丈夫だろう。
そんな事を思っていると11からまたしても声がかかってきた。

「フリオさんは大きい方がお好みですか?それとも小さい方ですか?」
「……」

ヘタに応えたらまたなんやかんやと言いがかりをつけてくるに違いないのはわかりきっている事だ。
それは勘弁願いたい。
そして、まだそんなことを話すのかと呆れてしまう。
ひとつ息を吐き、適当に流しながら集中するよう促す。
先ほど落とした枝の成る木よりもひとつ奥の木を狙うように。
順調に一連の流れを終える。
なかなかコツが掴めてきたみたいだ。
これならば胸を張ってライトニングに報告できる。

「ラグナさんが前に言ってたんですよ〜、大きい子の方が包容力があるって」
「は?」

唐突な11の話に気の抜けた声が出てしまった。
そんな自分に構わずに11は続ける。

「でもそんな考えも有りかなって思いました」

検証すべく調和女性陣で当てはめてみたのだと言う。
ティファは言わずもがな、ユウナも割と、その、豊満らしい。
対してなんといえば、…あー、控えめなのがライトニングだということらしいのだが。

「ティファさんとユウナは優しいですもの。ホンワカ〜ってカンジでしょ」
「まぁ、確かに」
「でもライトさんたら、ツンデレさんですし。ね、ラグナさんの考え、なかなか的を得てるなって思いません?」

あぁなるほど。
と感心している場合じゃない。
迂闊な返事は避けるべきだ。

「で、それがどうかしたのか?」

さっきから大きいだの小さいだの、自分にとっては非常にどうでもいい話である。
というかそういう話は本当、勘弁してくれ。

「てことはですよ。フリオさん、小さい方がお好みなのかな〜って今話してて辿り着きました」

当たりですよね!と自信満々な顔を向けてくるものだから、もうコイツは本当にどうしようもないヤツだという溜息しか漏れてこない。
修行もほどよい程度には結果が出たのだし、今日のところはこれでお終いだと11へと告げて宿営地へと戻る事にした。




その晩。
久しぶりに宿営地に戻ってきたカインとジェクトに何かを察されたのか、男三人での談話に誘われた。
テントに入り、腰を降ろす。
カインから差し出された湯気だつカップを受け取り、思わずひとつ溜息を漏らしてしまった。
今日1日で何度目だろうか。
そんな自嘲さを感じ取ったのかジェクトが苦笑を向けてくる。

「だいぶ疲れてるみてーだな」
「若いうちの苦労は買ってでもしておいた方がいいとは聞いた事があるが」

それでも度を超えた疲労が全身に纏わりついているようだとカインも腰を降ろしてきた。
冗談ならよしてくれとカップへと口を付ける。
冷えた夜にはこうした温かな飲み物は体に優しい。
気のせいでも日々の災難が癒されるかのようだ。

「つーか、アレだろ?おまえさんの悩みの種」

アルコールの入ったグラスから一口煽り、ジェクトが11の名を告げてきた。
どうやら11に振り回されている様子は、別行動を取っていたジェクトたちの耳にも人伝に届いていたらしい。
どうせならその勢いのままに、連れ立って来たウォーリアにも伝わっていて欲しいものだが…あぁしかし彼ならそんな話を聞いた所で気に病むとかそういうことはないだろう。
なんにせよ、頼られて11を預けられたのだから。
…押し付けられた気もしないでもないが。

「歯に衣着せない物言いだと聞くが、そうなのか?」

他の仲間たちより顔を合わせるのが遅かったカインには、まだ11のひととなりを掴む程の交流はないようだ。
大層丁寧な話し方だったのだが、と不思議そうにしている。
対してジェクトは11との付き合いもほどほどにある。
それでも年長者の余裕なのか、自分のように11に振り回されているなんてことはない。

「まぁ、カインの言うように、言いたい事をそのまま口にしている感はある」

人がそれを聞いてどう思うか、そんな配慮なんて一切ない。
頭に浮かんだままを紡いでくるものだから困り者だ。
今日なんて稽古に励むティファを目にして、む、胸…がどうたらこうたら小さいやら大きいやらと、どうでもいい事ばかり話し込んできて疲労も募り積ってきている。
大体そんな話なんて、女同士ですればいいんじゃないのか?
男の自分に振られた所で返しようもないのだし、あぁ、思いつくままに話しているからそんな配慮なんてないのか。
本当に困ったヤツで、一体どんな育てられ方をしてきたのか不思議でならない。
一回親の顔を見てみたいものだ。
そういえばこの間も…と、そう一気に話し込んでふとカインとジェクトの視線が自分に注ぎ込まれているのに気がついた。

「てか、おまえはオカンか?」
「いや、全く。よく面倒をみているものだな、フリオニール」

ジェクトはニヤニヤと、カインは真顔でそう言ってきた。
母親、なのか?あいつにとっての自分の立ち位置は。
しかし言われたところで嬉しくもなんともない。
それにどうせ保護的役目を担うのなら男なのだし、父親とか、そっちの方が聞こえは良いと言うか。

「オヤジならアレがいるじゃねーか。雷ねーちゃんがよ」
「あぁ。彼女は厳しいからな。父親役には打ってつけではないのか」

確かに。
父親なら自分というよりも、何かと厳しいライトニングの方が相応しい…って男である自分の立場は……。

「おいおい、そう気を落とすなって」

冗談を真に受けるなと告げてきたジェクトはともかく、カインに真顔で言われてしまうと冗談も本気に聞こえてきてしまうんだが。
ひっそりと息を吐いていると、ジェクトが続けてきた。
そんなに精神的に疲弊しているのなら、少し距離を置いた方がいいと言う。
頼まれたこととはいえ、律儀にいつも相手をしている必要もない。
たまの休息も必要だとカインも告げてくるが…しかし、じゃあ誰が自分の代わりに誰があの11の相手をすることができるというのか。

「だからよ、それがおまえさんの悪いとこだっての」

なぁ、と同意を求めるジェクトにカインは頷いた。

「責任感があるのはいいことだが、それではお前の身も持たんだろう」
「11の相手ならテキトーにしといてやんよ」

だからしばらくは自分たちと代わって別行動をしてみたらどうかと提案してきた。

「……いいのか?」
「おうよ。まかせとけ」
「久しぶりに羽を伸ばしてくるといい」

ありがたい申出だと思う。
とはいえ、少しばかり後のことが気になってしまうのも事実だ。
自分がいない間に11が何かとんでもないことを仕出かしやしないだろうか、年長者…特にカインとは付き合いも浅いのだから失礼なことを口走ったりしないだろうかと何かと心許無い。
そもそもこんな心配をさせるあいつがこの先少しはまともになることが出来るのだろうか、という疑問すら浮かんできてしまった。
そんな思考を巡らせている自分をまたしても察したジェクトが、いい加減子離れしやがれと呆れた笑いを向けてくる。
あぁ、そうだな。
まず自分の意識が11に向いてしまっているから気になるんだろうし。

「わかった。じゃあ、頼む」

ふたりの言葉に甘えて、明日からしばらくはこの宿営地を離れてみることにした。

-end-

2011/5/24




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