DFF | ナノ




油断



最近、11が優しい。
優しいっていうか、怒られるのは相変わらずだしそれは自分自身の危機管理に対する怠りについてだってのはわかってるから叱責を受けるのは当然のことなんだけど。
判ってるんだったら少しは直せと皆が言う。
でも、ホントはこんなことダメなんだろうけど、戦っているうちにそんなことはどうでもよくなってしまうっていうか。
目の前にある敵を逃すことが許せないんだ。
それを逃したせいで、何かとんでもないことが起きるなんてことはそうそうないだろうけど、つい夢中になって追っかけて、それで結局11に叱られて。
そんな時、自分だけを見てくれてる、心配してくれてるんだから怒ってくれてるんだ、なんて不謹慎ながらもちょっと自惚れな思いがあったりもする。
厳しい目を向けて、でもしっかりと目を見てくれるのが嬉しいというかそんな11の険しい顔を見るのも好きなんだというか。

それがここ最近、少し変化した。
怒った後に見せる、眼差し。
すごく優しくて、最初思わず見とれてしまったほどだ。
構って欲しくて纏わりついてた自分も悪いんだろうけど、いつも11から鬱陶しそうな扱いを受けていたからそんな顔を向けてくれる日がくるなんて思ってもみなかったことだし。
諦めないで、粘りに粘って11の想いを掴んだ甲斐があったご褒美なのだと自分では思っている。
想いを受け止めてくれた11だけど、いまだ11から好きとかいう言葉はもらってない状態なのだから。
でも、そんな好きだとかそういう言葉を欲しいなんて、ホントは言って欲しいけど我侭なことは言わない。
今のままでも充分だって、それだけでも満足だって自分に言い聞かせている。

「わかった?だからあの時は、キミの身が危なかったんだ」
「え?あぁ、…うん。わかった!」

そう拳を振り上げてみる。
そうすると、少し溜息を吐いて呆れたような顔を向けてきた。
本当にわかっているのかとでも言いたげな面立ち。
またあらたな表情を見せてくれた。
日々、自分に覗かせてくれるいろんな表情が嬉しくて、ついつい観察してしまう。

「でもあそこでオレが行かなかったら、11がそれこそ危なかったでしょ」

少し言い返してみる。
実際、あそこで自分が加勢しなければ11が危なかった。
だからそう判断して、バビュっとすっ飛んでいったんだけど。

「まぁ、それもそうだけど」

そう複雑な顔をしながら11自身が纏っている軽鎧を指した。

「私は一応こういったものを着けているし、生身のキミよりはいくらかダメージを軽減はできる」
「あー、そうっスね…」

11の装備は軽いながらもしっかりと身を包んだ鎧。
それに対して自分は装備というには心許無い軽装。
受けるダメージは見た目どおり、明らかに自分の方が大きいものだろう。
戦場の中で男も女も関係ないとはわかっているけど、11だって戦う身だし惚れた女が痛めつけられるのをみすみす見逃すなんて、自分にとっては在りえない。
でも11だし、やっぱそういうのは迷惑だったのだろうか。
剣士らしく、ウォーリアとかセシルとかみたいにしっかりした理念を持って剣を振るっているんだからこんな自己満足な感情を戦いの場で見せてしまうなんて愚かなことだったのだろうか。

そんな思いが過って、気分が無性に沈んできてしまった。
少し張り切りすぎ?
11に相応しい男ってどんなだろう。
でも今でも充分に頼りにしてるって言われたことあるし…。
考えれば考えるほど、心の内に焦りが沸いて出て来てしまう。

「でもねティーダ」

そんな悩みに頭を捻っている姿を見てか、そう掛けてきた11の声に項垂れていた頭を上げる。
少し困ったような、しょうがないなと言わんばかりの苦笑いを浮かべている11に首を傾げてみせる。

「キミの、ああいう気持ちはとても嬉しいから」

ただもう少しだけ、その無茶振りを何とかして欲しいと言ってきた。
続いて頭を撫でてくる。
こっちの沈んだ気分を察して、宥めるように。

また、子供扱い。
こうやって触れられるのは嬉しいけどでもこっちは男だし、少しばかり微妙な気分だ。
だからなんとなく男らしく仕返してやりたくて、頭に置かれた11の腕を取る。
それから、ぐっと引っ張ると油断していた11は態勢を整えることが出来ずにこっちに身を傾れこませて来た。

顔にあたる11の髪の毛がくすぐったい。
もう少し身長あればいいカンジなんだろうけど、それはまぁまだ成長期だしオヤジがあんななんだから今後に期待…って、うわ、なんかイヤなヤツ思い出した…。

それはそうと鎧が邪魔してあんまり柔らかくもないなぁ、なんて11の腰に手を回しながら様子を窺ってみるとふと一瞬視界が暗くなった。
体に感じるはずだった柔らかさの代わりに唇に感じた柔らかさ。
何が起こったのか把握できるまで数秒。
その間に、11は力の抜けているこっちの腕から離れてしまった。

「あ…11っなに今のっ」
「なにって、キス」

元気出た?なんて聞いてきた。

いやもう元気がでるどころじゃない。
若さの成せる業か、あっちの方もお陰さまで元気に…ってそうじゃなくてっ。
なんでいきなりキス?
だって、想いは受け止めてくれたけど、11からそういう言葉は聞いたことないし、やっぱ子供扱いされてる以上ひとりの男として見られることはまだまだ先なんだろうなんて勝手に思ってたもんだから。
それに11もそういうことするんだっていう驚きもある。
普段お堅い印象だし、そんな11に惚れた自分がいうのもなんだけど…あぁあダメだ。なんか頭がグルグルしてきた…。

「混乱中のところ悪いがティーダ」

しゃがみ込んで膝を抱えている自分に視線を合わせるように11も目の前に屈み込んできた。

「言葉に出すのは苦手なんだ、私は」

だから申し訳ないけれど、こんな私に慣れて欲しいと告げてきた。

ってことは、今のキスが(元気付けてくれるためとはいえ)11の自分に対する想いってことでいいんだよな?
嬉しいよ、そりゃ嬉しい。
言葉にして欲しいとかそんな我侭なことは言わないとか思っていたのに、なんかそれ以上のモノを貰ってしまったのだし。
けど不意打ち過ぎてどうしたらいいのかわからない。
11はなんかこっちの顔見て、また苦笑してるし。
なにその余裕。

顔が熱い。きっと赤い。
そんなこっちの様子にまた11が頭撫でてきてるし、自分は自分で素直にそれを受け入れているし。
さっきまでの自分のあの勢いはどこにいったんだ?

男としてこれじゃいけないと思いながらも、なんだか11には敵わない気がするのは自分がまだ”子供”だからだろうか。

-end-

2010/3/23




[*prev] [next#]
[表紙へ]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -