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対象



「スコール、痛いよ」
「これくらい我慢しろ」

自業自得だとスコールに窘められた。

今終えたばかりの戦いで不覚にも痛手を負ってしまった自分の腕を、スコールに握り締められて引きずるように連れられて行く。
引きずるようにといっても実際にそうされているわけではない。
ただでさえスコールと自分の歩幅は違うというのにそこに早さが加わったものだから、こっちはそれに合わせようと小走りになっている状態だ。
怪我してるんだから少しは丁寧に扱って欲しいと思うんだけど、スコールの言うとおり自業自得の末の怪我だから文句を言える権利はない。
それに握られている腕も傷の上部に位置しているところだし、何も言わないけれどきっと少しでも止血になればと考えて強く握ってきているのだと思う。

戦闘に対してだけではなく日頃からなにかと手厳しい彼なだけに、状況判断が優れているというのか必要とあることなら的確に物事をこなしていく方だし。
こっちの不甲斐なさに呆れて怒って、だから強く握っているとかはない…と思いたい。
表情を窺ってみた所でいつもの如く難しそうな顔してるから考えてることも判らないし、もっとこう、ティーダまでとはいかないまでも喜怒哀楽とか見せてくれても良さそうなんだけど。
そんなことを思いながら、スコールの歩みに必死について行くと泉の湧き出ているところに到着した。
泉の傍にある岩に座っていろと言われて大人しくそれに従う。
スコールは荷物の中から布を取り出してそれを濡らしに行った。

離された腕を見ると掴まれていたところが肌の色より一段白い。
それだけきつく握られていたことがわかる。
これだけ握りつけられていたせいで傷と相まって痛みが増していたようだけど、でもそのお陰で傷を負った時よりは幾分か流血も治まっている気がする。
腕についた白い跡と傷を眺めているうちに、布を水で浸したスコールが戻ってきた。

腕を出せと言われて、おそるおそるスコールの前に腕を差し出す。
スコールのことだから容赦なく手当てしてくれるのだろうと思って。
それを覚悟に掲げたのだけど意外にも、”少し染みるぞ” なんて声を掛けてきた。
こっちを気遣うような言葉を掛けてくるなんて、と驚いていると遠慮なく傷に水を注いできた。
こんなの、少しどころではない。かなり染みる。その痛みに声すら出てこないほどだ。

「痛いか?」

当たり前だ。
涙目になりながら思いっきり頷く。

「我慢しろ」

頷いたところでそう言われてしまっては、なんのための確認なのかわからない。
それに我慢しろ我慢しろって、我慢ならとっくにしている。

確かにスコールの手順は正しいと思うよ。
手当ての前に患部を洗い流しておくのは大切だ。雑菌が体内に入り込んでしまったら、ポーションでもどうにもならないし。
でも、やり方ってあると思う。
なにも傷の上から痛みを煽るようにそのまま布を絞ってかけなくても。

ジンジンと響く痛みを堪えているうちに、別の布で濡れた腕を拭いて包帯を巻き始めた。
手際はいい。さすがだ。
あとはやっぱり思いやりの問題なんだろうなぁなんて思う。

せっかく男前な顔してるんだし、これで女の子に対する優しさが加われば無敵なんじゃないだろうか。無敵ってなにって話だけど。
でももしかしてスコール、自分の世界では結構モテてたりするのだろうか。
包帯を巻いてくれているスコールの顔に目を向ける。
モテると言われればそんな気もする。
基本的にあんまり喋らないし話すとなるとキツイ言い方してくるし、そういえば近寄り難い雰囲気も醸し出してるけど黙っていればそれなりに…。

色恋事が全てじゃないけど、性格で損してたらもったいないような気もする。
いろんな出会いがあって然るべきだと思うしさ…って、逆にスコールでも好きな子とかいたりするのだろうか。
告白とかするのかな。うわ、なんか物凄く見てみたいんだけどその様子。

「なにをニヤニヤしている。気味悪い」

巻き終えて、こっちの視線に気付くなりそんな言葉を向けられてしまった。
勝手な想像が顔に出ていたらしい。

「…あのさぁ、スコール」

気になり始めたら知りたくて仕方がない。
まさに余計なお世話なことだけど、こう、私生活を垣間見ることなんてないし興味本位に尋ねてみる。

「スコールって女の子と付き合ったこと、あるの?」

手当ての道具を片付けているスコールの動きが一瞬止まる。
でもすぐにその動きは再開された。
そして返事はない。無視か。
まぁ、こんな話にそうそう容易く乗ってくるなんてスコールに限ってありえないことだとは判っていたけど、でも一瞬だけ止まった動きは見逃していない。
あるのかないのか、どっちに対する動揺なのかそこまでは判断できないけど。

「そんなこと聞いてどうする気だ」

荷物を纏め終えたスコールがそう声をかけてきた。
あれ。結構乗り気?
ただの興味だと返すと、くだらないと心底嫌そうに溜息を吐かれる。

「だって気になるじゃん。スコール無愛想だけどさ、顔はいいわけだしそれなりにモテそうなイメージがあるんだけど」

自分の勝手な偏見ながら無愛想なくせに、多少大雑把な時もあるけれどやるべき事はしっかりこなすしキビキビとした行動は頼りになる。
無口な分を差し引いたとしても、そんなスコールに言い寄ってくる子は多いんじゃないだろうか。

「言いたい放題だな」
「イメージ、イメージ」

戦い方だって冷静そうな外見とは裏腹にガンガン攻めていくスタイルだし、実はいろいろと激しそうだよね、なんてヘラヘラ笑いながらスコールの顔に視線を移したら目が合った。
するとすぐにそんなことはないと少しどもりながら言い放ってきたスコールだけど、僅かに顔が赤らんでいるのはなんでだろう。
こっちの勝手なイメージなわけだし、要因がわからない。
そしてそんな顔を赤らめながらながら否定されても説得力はないわけで、全く考えていることが意味不明だ、とか馬鹿馬鹿しいにも程がある、とか珍しくも饒舌になっているスコールがちょっと面白い。

「スコール、顔真っ赤だよ」
「うるさい黙れ」

そう言いながら顔を俯けられてしまった。
図星だったのだろうか。
強引に付き合えとか言ってしまうタイプ?

「でも、別にいいんじゃないの」

少なからずもそういうのが好みだって子いるんだろうしさ、と続けると、口元を手で覆いながら俯けていた顔を少し上げてスコールがこちらを窺ってきた。
きっと顔が赤いのを隠しているんだろうけど、髪から覗いている耳まで赤いとは気付いていないんだろうなぁと思いながら首を傾げてみる。

「なに?」
「…あんたは…11は、どうなんだ」
「うん、まぁそれなりにお付き合いとかはしたことはあるよ」
「いやそこじゃなくて、その…強引というか、そういうのは嫌なもんなのか?」

そりゃあ優しいに越したことはないけど、優しすぎるのも物足りないしたまには強気に出られるのも悪くはない。
そう応えると、ひとり納得したかのようにそうかとポツリと漏らした。

人の意見を聞いてくるなんて、これもまた珍しいなんて思いながら座っていた岩から腰を上げる。
手当ても済んだことだし、そろそろ宿営地に戻る頃合だ。
迅速に処置してくれたスコールにお礼を言って戻ろうと声をかける。



帰る道すがら、スコールが素っ気ない口調ながらも傷は痛むかとか無理はするなとか、手当ての時とは打って変わって労わりの言葉をかけてきてくれた。
それに歩調もこっちに合わせてくれている。
なんだか今日はスコールにしては珍しい事だらけなんだけど。
さっきの自分の意見を参考にでもして柔らかな印象の練習でもしているのだろうか。
根元は真面目なのだからそうなのかもしれない。

「優しいスコールも、いいもんだねー」

素直な感想だ。
これで笑顔でも自然に出してくれるようなら惚れそうな勢いなんだけど、と冗談混じりにスコールの横顔を見上げてみるとまたしても顔が赤らんでいる。
なに、もしかして今度は照れてる?なかなか可愛いところもあるじゃないか。

「スコール、照れ屋さん?」
「もういい加減…喋るな…」

そう意気消沈したスコールに、からかい過ぎたかもしれないと思いながらもこんな様子が見れるのなら次は笑顔を引き出せるよう頑張ってみようかな、なんて思い巡らせる。

-end-

2010/04/02 流音さまリク




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