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鈍感



誰かを好きになるきっかけなんて些細なものなのだと思う。
そして好きだと認めてしまえば勝手なもので、日々相手が気になって仕方が無い。

「好きだ」

と素直に言える性格だったら、どんなに楽だろうか。
生憎、自分は素直ではない。
だから暇さえあれば11の傍に居るようになった。
今日もこうして、コロシアムにレベルを上げに行くと言っていた11の言葉を思い出して足を運んできている。

コロシアム内にある一室。
さしづめ休憩室といったところか。
置いてある荷物はひとつしかないということは、今は11しかいない。

「あ…、スコール?」

扉の開く音と共に11が室内に入ってきた。
一戦終えたばかりで、蒸気した頬がほんのり色づいている。

(…可愛い、な)

そんなことを思いながら、椅子に掛けてあったタオルを手に11に近づく。

「あ。ありがとう」

とタオルを受け取ろうと伸ばしてきた手を遮る。

「どうかした?」
「汗、すごいな」

そう頭にタオルを掛けてやる。

「あ〜、汗もあるけどさ。フラッドにまんまと引っかかって」

直撃は避けれたんだけどねーと苦笑を零す。
そんな11の顔を眺めながら、そのまま頭を拭いてやる。
そうすると、”ありがと”と一言述べ、心地よさそうにされるがままに身を委ねてきた。
彼女はいつもこうだ。
なんでこんなことをされているのか疑問も抱かずに受け入れる。
危機感が欠如しているというか、相手にされていないというか…両方なのかもしれないが。
どちらにしたって、”男”として意識されていないということには変わりはない。

「ねぇ、もういいよ。ありがとね」

11の言葉に手を止める。
表情に変化は無い。
至って普通。普通だ。
彼女を好きなのだと気付いて以来、なにかにつけて11の表情を確認する癖がついた。
どういったことで11が反応するのか、見つけるためだ。
こちらの想いに気がついてもらうには、まず彼女に”男”として意識してもらわなければ始まらないと考えている。
そして未だに見つけられずにいる。

不意に手を握っても”なに?”と普通に返してくるし、頭を撫でてみれば”背、低いの気にしてるんだからやめて”と不機嫌になる始末だ。
どれもジタンとティーダの<意中の女子の心を仕留めるには!>と名打った会話から聞きかじったことを実践してみたのだが、どうにも11には通用しない。


「スコールもレベル上げ…は必要ないか」

強いもんねー、と見上げてきた。

自分のレベルはとっくに限界にまで達している。
コロシアムに足を運ぶといったら、欲しい素材があったり戦術を見直したい時くらいだ。

”そえれがダメなら、あとは迫ってみるしかないよなぁ”

ジタンの言葉が頭を過った。
女子の中には、どんなに親身になって接してみてもなかなか気がつかない者も少なからずいるらしい。
鈍いというのか鈍感というのか…あぁ、この言葉、11にピッタリ当てはまるんじゃないのか。

(…迫る……)

ここまで気付いてもらえないということは、もはやこれは”迫る”という最終手段を実行するしかないのだろうか。

「なんか欲しい素材あったんなら、捕ってきたのに」

と荷物の元へ行き、中身を漁りはじめた。

(迫る…迫るか…)

迫るといっても、ほんの少しだ。”男”なんだと意識してもらえるだけでいい。
やり過ぎてはいけない。
そう頭に叩き込み11の背後に立つ。

「えーと、これはティナに頼まれてたのだし…」

こちらを気にもとめずに荷物を弄っている。

「あっ、バッツの忘れてた。……まぁ、いっか」

それはいいのかとツッコミたくなったが堪え、背後からそっと腰に手を回す。
一瞬動きが止まった気がしたが、気にも留めずに荷物の中身を漁っている。
考えてみれば、このくらいのことならバッツがしょっちゅうしているから効果はないのだろうか。
眼下にある11の様子を窺う。
案の定、相変わらず普通だ。

「どうしたのスコール。なんだか甘えん坊?」

と苦笑を零している。
まるで子供扱いだ。
ここまでしても軽くあしらわれるなんて、いい加減挫けそうになってくる。
しかし、挫けている場合ではない。
子供扱いされているなら、それを利用させてもらうことにする。

そのままギュっと腕に力を込めて肩口に顔を埋める。

「うわっ、なにっ?」

やっと反応らしい反応をしてくれたが…驚いているだけか?
もう少し様子をみようと、首筋に唇を這わせてみると肩を竦めてくすぐったそうに身悶えた。

「11」

耳元で名前を呼ぶ。

「なになにっどうしたのスコールっ」

耳を抑えながら首をこちらに振り向き慌てたように問い掛けてくる。
腰に回した腕をもう片方の手で抑えてうろたえ始めた。
少しは進展したかもしれない。11の様子の変化にそう思う。
そしていつもらしからぬその様子に、妙に気持ちが昂ぶってくる。

「11…」
「あーっ、耳っ、耳元で喋んないでっ」
「…耳、弱いのか」

初めて見つけた彼女の弱点に気を良くして、わざとらしく耳に息を吹きかける。
するとその感触に固く目を瞑り、腕を強く掴んできた。

(可愛い…が…これは、どうしたらいいんだ?)

反応が返ってきた後のことをさっぱり考えていなかった。
とりあえず体を離してしまわなければと思う。
このままでは、やり過ぎてしまう危険性があるからだ。
抱き心地が名残惜しいが、腕の力を緩めて11を解放する。
すると、その場にぺたりと座りこんでしまった。

「大丈夫か?」

なんとなく悪いことをしてしまったような気がして声を掛ける。

「うぅ…。ゴメン、もう降参だわ…」
「降参?」

なんの話だ。
顔を覗き込む。

「正直、顔だけしか取柄無いヤツなんかに流されてたまるかと思ってたんだけど」

スコール無愛想だし、と溜息を吐きこちらに目を向けてきた。

「こっちが素っ気なく相手しても、一生懸命構って欲しそうにしてくるしさ」

(…ん?)

「暇さえあれば、いっつも傍に居るし」

(ちょっとまて)

「でもまさか迫ってくる度胸があるなんて、ビックリしたよ」

と苦笑を浮かべる11。

(うわ…)

その顔の意味する所を悟り、急激に恥ずかしさが込み上げてきて咄嗟にその場にしゃがみ込む。

つまりだ。
11は自分の気持ちなんかとっくに知っていたうえで、わざと素っ気なくしていたということだ。

「……それで。…11はどう思っている」

ここまできたら、もう聞くしかない。
バレバレであっても避けられてはいなかった。
ということは、少なくとも嫌われてはいないはずだ。

「言ったじゃん。降参って」
「降参の意味がわからない」

そう言うと、再度溜息を吐いて、顔を両手で挟みこんできた。

「スコールの望み通りになったってこと」

鈍いねー、とまた笑う。

「まぁ、もともと顔だけなら好みだったし。必死に気を引こうとしてるスコール、可愛いし」

そして、唇に触れた柔らかな温もり。
これで解った?とこちらの顔を覗きこんできた。

今までの素っ気ない態度から一転して、今度はこちらが圧されている気がする。
そういうことにおいて主導権を握りたいとは思わないが、その”してやったり”といわんばかりに浮かべている余裕そうな笑顔が、なんだか悔しい。

だから

「そんなんじゃ、よく解らない」

悔し紛れにそう言い放ち、こちらからも唇を重ねる。

-end-

2009/12/12 了さまリク




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