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所為


とりあえずは八つ当たりになってしまったけれどバッツ・ジタン相手に大きい声でもって怒鳴ったことが胸のうちにうずまいていた焦燥感を晴らすのには最適だったみたいで一応冷静になれた自分がいる。
落ち着いて考えてみれば嫌いな相手にあんなことするなんてスコールの性格上ありえないことだと思うし、自分の想いがバレバレだったことは未だ少し恥ずかしいことだけれど後ろ向きな思考は良くない。
理由も聞かずに ”怒鳴りたければそうすればいい” と、なんとも大人な態度で自分を宥めてくれたふたりのアドバイスを参考に、じゃあ聞きたいことは聞いちゃえばいいんじゃないかという前向きな考えを抱えてスコールのテントに足を向ける。
足取りは重いけれど、顔を合わすことに躊躇していては聞くことなんて決して出来ないだろう。
そもそもこれから先も共に過ごして行かなければならないのだし、それなら早々に蟠りは取り除いておくべきだ。

まず、なんであんなことをしたのか。
さっきも聞いたけれど返ってきたのは ”したいからした” っていう、勝手極まりない応えだった。
あんな返事で納得できるわけがない。
お陰さまでこっちは混乱しまくったっていうのに…あぁ、今はそこは考えるべき所じゃない。
せっかく落ち着いた鼓動がまた高まってしまう。

いくらこっちがスコールに惚れているからって、それにスコール自身が気が付いているからってあれはないでしょう。
物事には順序ってものがあって、そうでない場合も多々あるのだということは承知しているけれど自分的には許せないものではある。
それにスコールの気持ちがわからないのだから全くもって不本意な出来事だったことは確かなのだし。

仮に…、そうまだ仮定の話。
そうであったら嬉しいことだけど、スコールが自分に好意を持ってくれているのだとしたらこんな自分のどんなところに惹かれたのか興味があるし、徐々にお互いを知っていく過程ってのを大事にしたいなんて思ってるんだけど。
逆に自分のスコールの好きなところは…ってあれ。
スコールのどこが好きなんだっけ。
だって、雰囲気怖いしあんまり喋ってくれないし、そのくせなんだか上から目線っていうか妙に偉そうだし。
いやでも優しいところもあるよ、うん、ある。他の仲間たちよりは随分ぶっきらぼうだけど。
怪我した時だって、使えない腕を見かねてわざわざ自ら進んでご飯食べさせてくれたし。でもあれはその前に自分が食べさせてあげたからそれのお返しだったのかもしれない。
借りた貸しは返すってやつ。
スコールならそんな考えも充分ありえそうだ。
いやいやでも、大分前だけど眠い自分に膝枕してくれたし。優しい優しい。
…なんかこれってスコールのこと好きっていえるんだろうか。
そういえば好きになった切欠はなんだったっけ。

………。

そうだ、手だ。顔に似合わず意外とゴツゴツした感じだったのに目を奪われた。使い難そうな武器をあの手で易々と使いこなす仕草も大好きだ。
同じモノを持ったって自分とスコールじゃ大きさが違うように見えて、なんかそれがすごく目に焼き付いてて、気が付けばスコールを目で追うようになってて。
あの手に触れたい、なんて思ったりしたものだ。

なんでこんなに手に関してはすんなりと好きな様が沸いて出てくるんだろう。
もしかして自分は手フェチだったりするのだろうか。
でもウォーリアさんとかセシルさんの手もなかなかいい感じに厳ついけど、スコールほど気に留めることはないし。
だからやっぱりスコールのことが好き、なんだと思うんだけど、やばいなんか本当に自信なくなってきてしまった。
ああぁでも今の自分には丁度良いかもしれない。
あんまり好き好きオーラ纏って挑むよりは、こう一旦自分の気持ちが沈静化している状態の方がしっかり聞けそうな気もするし。


「スコール。ちょっと聞きたいことあるんだけど」

入っても良いかとスコールのテントの前に立って、中に向って声を掛ける。
すぐに了承の返事が返ってきた。

「珍しいな。アンタがここに来るなんて」

幕をはぐって中に入り込むとテントの持ち主であるスコールが居るのは当たり前だ。正しく彼に用事があって来たのだし居てもらわなければここに入ることも適わないわけで、それはそれでいいんだけど。

「ちょっ…着替え中ならそう言ってよ!」

慌ててテントの外に舞い戻る。
狭いテント内。
幕を開ければ目に付いてしまうのは免れないのだから、しっかりと視界に収めてしまったスコールの裸体。
裸体といったって下半身はちゃんと下着を身に着けてはいたけど。
スコールにはなんてことのない事なんだろうけど、年頃の乙女である自分には上半身の素肌を見るだけでも充分刺激的だ。
その場にしゃがみこんで落ち着こうと深呼吸をする。
せっかく治まっていた鼓動がまた昂ぶってきてしまった。
今日のところは聞くのを諦めた方がいいかもしれない。
自分がこんな様子ではきっと聞けないだろうし。
呼んだ手前申し訳ないけど、顔を合わせる前にサッサととんずらしてしまおう。
そう決心して立ち上がると途端に引っ張られる感覚が身を襲った。
引っ張られるというか、引きずり込まれたと言った方が正しいのかその先はテント。
引きずり込んだ張本人はもちろんスコール。

「用があったんじゃないのか」
「は…いやそうなんだけどさっ……」

下は流石にズボンを履いてくれたようだけど、上半身は相変わらず何も纏っていなくて目のやり場に非常に困る。
それに腕も掴まれたままで、逃げようも無い。
視線を逸らしたまま尋ねるのもなんだか失礼な気もするけれど、でも失礼なことされたのはこっちの方が先だったのだしここまできたらきちんと目的を果たしてしまわなければ。

「あー…あのさぁスコール」

とりあえず服着てくれないかな、なんて意気込み虚しく自分の視野確保の要求の言葉が出てきてしまった自分は思っていたよりも純情な性格だったみたいだ。

しばしの沈黙。

スコールからの視線が物凄く突き刺さっている感じがするんだけど、変に思われてしまっただろうか。
意識し過ぎとかそんなんじゃないんだけど、ただ単に目のやり場に困るってだけなのにこの沈黙が妙に重く感じて居た堪れない。

「ここは俺のテントだろう。どんな格好をしていようが構わないだろうが」

開口したかと思えばこの言葉。
スコールの言うことも一理あるけど、人が、仮にも女である自分が来ているのだから服ぐらい着るのが礼儀ってもんだろうとそんなこと面と向って言えるはずもなく。

「で、なんの用件だ」
「あぁ、それは別に今じゃなくてもいいかな〜なんて…」

早くこの場を去りたいと、チラっとスコールの顔を窺ってみたら軽く睨まれた。コワイ。
誰でも寛ぎの時間を邪魔されるのは嫌だよね。うん。ご機嫌斜めっぽいし、この雰囲気の中であれを話すのも気が引けるけれど言わなきゃ掴まれている腕を解放してもらえなそうだし。

意を決してスコールに体を向ける。
顔を俯けて視線は下に。
上半身さえ目に入らなければ言える言える。
そう自分を励まして口を開ける。

「さ、さっきのアレっ、どういうことなのかなって」
「さっきの?」
「いやあの、いきなりキ…キスしてきたでしょ…」
「…」
「…」

なにこの沈黙。スコール考えてる?
それって考えることなのだろうか。本気で ”したいからした” とか、特に意味もなくされたことだったとしたら物凄くショックなんだけど。
スコールも自分のこと好きでいてくれたら、なんて浅はかな期待。気まずいこの空気。聞かなければ良かったかもしれない。

「11」
「な、なに」

俯けた頭にかかった影。
それが意味することを察知する間もなく額に宛がわれた温かなモノ。
次にそれが触れられたのは唇。
その意図を知りたくてここに来たっていうのに、またしても急な出来事が自分の思考を鈍らせる。
すぐに離されたスコールの顔を見上げれば、少しだけ微笑を見せたような気がした。

「やっ、だからさ、それの意味を教えて欲しいって…」

いやいや流されない。こんな雰囲気に流されて溜まるものかとこちらも必死に意識を保たせる。

「アンタ、俺のこと好きなんだろ?」
「それはっ…そうですけどね……」

自分で言うかこいつ。どんだけ自信満々なんだよ。惚れてるけど。

「俺は、よくわからない」
「…は?」

ちょっと待て。よくわからないというスコールに自分はいきなり唇を奪われただなんて(しかも初めてだ!)、最悪この上ないことじゃないか。
無愛想でも冷たくても、こんな女心を踏み躙るようなことしないだろうなんて思っていた自分の解釈が間違っていたのか悪い予想が当ってしまった。
惚れた弱みを握られながらこれから先、スコールにいいように使われる人生が始まるのだろうか。

「でも、アンタが俺に構ってくるのは嫌いじゃない」

頭の中が真っ白になりかけた所でスコールのその言葉に意識が呼び戻される。

「だからこっちも色々としてみたんだが…、こう、もっと確たる行動を起こせば自分の気持ちもはっきりさせることが出来るんじゃないのかと思ったんだ」
「…それが、あのキスだったと?」

そう尋ねてみると頷いた。
思わず脱力する。
嫌いじゃない、はっきりさせる…ってことは、つまりはあれだ。今までスコールにされてきた事。
膝枕も、食事の件も、あの口付けも、スコールなりに彼自身の想いを量ろうと考えての行動だったのだと推測できる。

「じゃあ今のキスは?」
「…したくなったからした」

あ、なんか振り出しに戻ったような気もしないでもないけど。
今更そこに気が付くのも遅いけど、言葉で表すことを苦手とするスコールだもの。いつも行動で示して、強引なところも多々あるけれど、それで皆を引っ張ってってくれる頼もしい男だ。
思い返してみればスコールらしいといえばスコールらしい態度だったじゃないか。

「それに思ったんだが、アンタとキスするのは気持いい」
「はっ?あ、あぁあそうですかっ…」
「こう思うのは、なんでだろうな」

そうスコールの手により顔を固定された。
間近に迫るスコールの顔。
視線を逸らそうにもこうも近寄られたらそれも適わず、至近距離で見てとれるスコールの目が楽しそうに歪んでいるのがよく判る。
これは…つまりそういうことなんだろう。
どのタイミングからそう想われていたのかまではわからないけれど。

「でもまず言葉も大事だと思うんだけどね」

そういう段階を踏んでからなら、余計な混乱もすることなくああいったことも自然に受け入れられるものなのだろうし。

「それに関してはお互い様じゃないのか?」
「うん、まぁ…そうですね…」

スコールに惚れておきながら、なんのアクションもせずましてや告白なんて考えてもなかった自分が行動で示してくれたスコールに言葉も大事だなんて文句を言うのもお門違いか。
順序はともかくそれなら結果スコールとこうなったのだから素直に喜ぶべきことだ。

「とりあえず、なんか解決したから手、離して」

嬉しいは嬉しいけど、上半身裸体のスコールに落ち着かない。そしてイヤな予感が沸き起こる。

「だめだ。もう1回する。なんならこのまま抱」
「やめて!その先言っちゃダメ!」

言葉は大事って言ったけれど、大事の意味を穿き違えられている気がするのは気のせいなのかわざとなのか。
こっちの動揺する姿を見て満足そうに笑みを浮かべるスコールにはこの先も到底敵いそうにない。

-end-

2010/5/7 たまき様リク




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