信頼
「来ないね〜、遅いなぁ大丈夫かな」
二手に分かれて素材集めに励んでいたんだけれど、約束の時間になってもバッツとジタンが戻ってこない。
別に時間ピッタリに戻って来いなんて強制しているわけでもないし、戦っているのならそれが難しいことだということも判っている。
現にスコールと自分だって予定を少し過ぎてこの宿営地まで戻ってきたのだし。
こうやって気を揉んでいるのは、幾らなんでも遅すぎやしないかということだ。
「ねぇ、大丈夫かな」
「何回も同じ事を聞くな」
火を熾すために薪になりそうな木の枝を集めているスコールの後ろを着いて行きながらそう聞いてみたらそんな反応が返ってきた。
そんなに何回も言ってただろうか。
無意識に口に出てたのもあるかもしれない。
「だって心配じゃん」
お宝探しに夢中になっているのならまだいいのだけど、彼らのことだから、またしても敵の罠にまんまと引っ掛かってないだろうかという不安がある。
あのふたりは強い。
そして何度も敵の策に嵌まってしまうようなおバカじゃないのは判っている。
でも万が一、という考えに及んでしまう自分は心配性なのだろうか。
スコールに聞いたところでわかるわけも無いのに。
「心配している暇があるなら、少しはこっちを手伝え」
拾った木の枝を抱えて、そう溜息を吐いてきた。
そんなスコールに冷たいヤツだ、なんて直接言える勇気は無い。
腕に抱えた枝束を一旦置きに行ったスコールを横目に見ながら自分も渋々と木の枝を拾い始める。
あのふたりが無事帰って来たらどれほど心配したか訴えてやるなんて考えながら手を黙々と動かしていると、スコールが戻ってきた。
そのまま隣に歩み寄ってきたけど、なんとなく無視しながら引続き枝を拾う。
「信頼、してやれ」
「信頼?」
唐突に話し掛けてきたスコールに顔を向ける。
「あいつらは、仲間に心配かけるようなことはしない」
引き際くらい判っているだろ、とこちらに目を向けてきた。
信頼、仲間。
どちらも大切なものだ。
仲間なのだから、信頼するのは当たり前。
それなのに心配ばかりが先走ってそんな当たり前なことを忘れていた。
心配し過ぎなのは反って彼らに失礼だし、なかなか仲間について語らないスコールから出た言葉の重みがそれに気付かせてくれてありがたい。
「そうだね。…でもスコール」
枝を抱えて立ち上がる。
「せっかくいいこと言ってるのに、眉間に皺寄せるの止めようよ」
そうスコールの眉間を指摘すると益々渋い顔をされてしまった。
「これは…クセだ」
いつもならここで、顔を背けられるところなんだけどいつもと違う反応をしてきた。
正直、驚きを隠せない。
だからどう返せばいいのか咄嗟に思いつかなくて、「あぁ、うん。そうみたいだよね」 なんてありきたりな相槌で返してしまった。
いや、ありきたりが悪いというわけではないけれど。
どうせならもっと会話の弾むような返事が出来れば良かったというのか。
「んじゃ、さっさと集めちゃおうか」
「11」
弾むことのない会話に、腕に治まる枝を抱え直して拾い始めようとしたらスコールから声が掛かった。
呼びかけに再度顔を向けると、こちらをじっと見つめてくる。
「ん?なに?」
そんなに見つめられたら照れるじゃん、なんてヘラヘラ笑ってみたら肩を掴まれた。
徐々にこちらに近づいてくるスコールの顔。
あれ、これはもしやキスされるんじゃないのだろうかと見当違いなことを思いながら呑気にそれを眺めていたら本当に口付けられてしまった。
軽く、触れるだけだったけれど。
それだけでもこちらの混乱を招くには充分な素材だ。
一瞬頭の中が真っ白になりかけたけど、急いでそれを立て直す。
「ちょ…なにっ?なんでっ…?」
立て直しが不十分だったらしく未だ自分の頭は混乱模様。
スコールのことは好きだ。男前だし。笑った顔を見たいなんて願望があったり…まぁ素直に惚れてますけど。
それでも嬉しいというよりも何でという疑問が勝って、それを投げかけるようにスコールに視線を送ったら真顔で更に近づいてきた。
思わず後ずさりをする。
でもここは辺り一面木々の生茂っている場所。
だから後ずさったところで直に背中は側にあった樹にぶつかってしまった。
「ねっ、どうした?どうしたのスコールっ」
「したいからした」
慌てる自分とは真逆に冷静にそう応えるスコールの手がこちらの頬を挟みこんできた。
ご丁寧にも手袋は外してある。
自分がスコールの手が好きだなんて一言も言った事ないのにこうしてくる辺り案外ばれていたのだろうか。
となると、自分の想いもばればれだったのだろうか。
そんなことを頭に廻らせていると再び唇に温かく柔らかなものが触れた。
スコールの熱い吐息が、唇にかかる。
そのまま顔を少し上向きにされ差し込まれてきたその感触に、たまらず目をきつく瞑る。
口の中が熱い。
絡め捕られる舌の心地よさに体の力が抜けそうだけど、腕に治めてある枝を落としてしまわないようしっかり抱え込む。
そんなところに気を使っている場合ではないのは判っているけれど、どうしていいのかも解からずスコールのされるがまま。
しばらくして漸く涼しくなった口元に、やっと終わったのかと薄く目を開いてみたら唇を拭っているスコールと目が合ってしまった。
そしてまた顔を手で挟まれる。
再び塞がれた唇。
角度を変えるたびに漏れてくるスコールの吐息に、意識が遠のきそうになったところで聞きなれた声音が耳に届いた。
この声は、戻るのを待ちわびていたバッツとジタンだ。
スコールと自分を探すように呼んでいる声が段々近づいてくる。
その声に、ハッと意識が戻った。
スコールも顔を離す。
「あぁああのスコールっ」
今更ながら、どもってしまう。
それがおかしかったのか、何なのか。
不意にスコールが覗かせた笑みに、目が釘付けになる。
(わ、笑った!?)
「貸せ」
スコールの微笑みにまたしても頭が混乱に陥っている中、スコールはそう一言漏らし、こちらの腕から木の枝を取って声のする方に歩いていってしまった。
頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
たぶん、顔が赤い。熱いから。
こんな顔じゃ、今あのふたりに会えない。
沸いた頭を冷やしてしまわなければ。
見たかった表情を思いがけず見れることが出来た。
喜ばしいことなんだけれど、そこに至る過程が些か不本意というか一体どう解釈していいものかと頭を悩ませる。
(…唐突すぎて意味不明……)
とりあえずはこの行きようのない衝動を解放すべく、こんなことになってしまったバッツとジタンの遅い帰還に文句を言いに行こうと思う。
-end-
2010/1/27
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