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堪え



「はい」
「…」

スコールの目の前に腰を据えて早数分。
一向に進まない。
何が進まないかというと、食事の話だ。

珍しくも怪我をして戻ってきたスコールに早速治療しなければと探したけれど見つからないポーション。
バッツに聞いたら 「あ、さっき使い切った」 とスコールの怪我の大事にもかかわらずあっけらかんと返答されてしまい仕方なく応急手当をしてみたけど、運が悪くも怪我した個所は利き手側の腕。
折れてはいないようだけど動かすと痛むのか力が入らないようだ。
パンだけなら片手でも食べれるけどそれだけじゃ戦う体には足りないのだし、食事はしっかり摂るべきだと思う。
だからおかずもしっかり食べさせなきゃ、とスプーンを掲げてみたけれど頑なに口を開けてくれない。
自分としてはこうしてスコールの顔を眺めてられるから役得役得と不謹慎ながらも喜んでみたものの、こうも食事が進まないとなるといい加減飽きてきた。

「貸せ」

どうしたものかとボーっとしていたらスコールにスプーンを取り上げられてしまった。
怪我した利き手とは反対側の手でスプーンを構えるけれど…、皿からうまく掬うことが出来ない。
何回かそれを繰り返しているうちに、スコールの眉間の皺が増えていく。

(…いじっぱりだなぁ)

そんなに自分に食べさせてもらうのが嫌なのだろうか。
この間なんか何の気紛れか膝枕なんてしてくれたりして嫌われてはいないんだと一安心したばかりなのに。
だからといって特別親密になったわけでもないけど、ここまで意地張らなくてもいいと思う。

「もうさ、そんなに嫌ならジタンに代わってもらおうか?」

と少し離れた所でバッツと食事をしているジタンに目を向けてみる。
ジタンもこちらに気がついたようで、笑顔で手を振ってくれた。
ついつい釣られて手を振り返してみたけど、そうじゃなくてとジタンを手招きで呼ぶ。


「どうかしたか?」
「ジタン、食べさせてあげてよ」

私じゃ手におえないとスコールを横目で見やれば不服そうに睨まれた。
睨む暇があるなら素直に食べてくれてもいいと思うんだけど。
さり気なくスコールから視線をそらして、ジタンに目を移せばこちらもまた不服そうな表情を浮かべている。

「女の子の11だったらともかく、男のスコールはお断りー」

つーか贅沢言ってんじゃねーよー、と呆れている。
そしてスコールにいかに女の子から食べさせてもらうということが至難の業か切々と語り始めた。


「だから、な?大人しく11に食べさせてもらえって。それともあれか。バッツに頼んでやろっか?」

アイツならしつこいくらい喜んでやってくれるぞー、とのジタンの言葉に頭に過る光景。


いつものお調子者ぶりでスコールにスプーンを掲げるバッツ。
もちろんその顔には満面の笑み。
”はい、スコール。あ〜ん☆” とかノリノリで口元に運ぶ様が容易に浮かんでくる。


そんな浮かんだ光景に思わず込み上げてきた笑いを堪えるのに肩が震えてしまう。
ジタン本人も自分と同じ想像が過ったのか顔がにやけているし、その顔を見てしまったらますます想像の幅が広がって、頭の中にはエプロン姿のバッツが現れてしまった。
更なるおかしさが込み上げてきたけど、かといって大笑いしてしまうのも今更ながらスコールに悪い気がしてジタンの背中をバシバシと叩いて笑いたいのを必死に我慢していると目の前にスプーンが突き出された。
叩く手を止めてスプーンの持ち主、スコールに目を向けたら深刻そうな顔をしている。
そして 「……頼む」 と一言、スプーンを渡された。

その表情から察するに、もしかしたらスコールも自分達と同じ映像でも過ったのかもしれない。
だとしたら他人事である自分達は笑い事で済ませられるけど、当の本人にとっては遠慮願いたいことだろう。
そんなスコールの心境を考えたら漸くおかしさも治まってきた。
何はともあれ、バッツに食べさせてもらうよりも自分の方がマシだと捉えてもらえたみたいだしこれで食事を進めることが出来る。

「よし。んじゃ、しっかり食うんだぞー」

味わって食えよ! とスコールに念を押してジタンはバッツの元に戻っていった。

「だってさ。でもまぁ味よりもさっさと食べちゃってね」

スコール食べ終わらなきゃ私食べられないんだよ、とスプーンを口元に運ぶ。
するといきなりスプーンごと手を掴まれた。
何事かと目を丸くしているうちに、その状態から食べ始めたスコール。
口の中が空になると 「次」 と促される。
言われるままに皿から掬うとまた手を掴んできて、それから口へと消えていく食事。
何回かそれを繰り返しているうちに、変におかしさが込み上げてきた。
スプーンを持つ手が震えてしまう。
その様子にスコールが訝しげに眉をひそめる。

「…なにがおかしい」
「ん?なんでもないよ」

意地でも<食べさせてもらう>という状況が嫌なんだろうなぁ、とスコールらしいといえばスコールらしいかもなんて、ひとり納得してたんだけど。




「うーん」
「どうした。さっさとしろ」
「え。だって…」

目の前にはスプーン。
それを掲げているのは、利き手の使えない自分に食事を食べさせてくれようとしているスコール。
あろうことか今度は自分が負傷してしまったのだ。
例に漏れずポーションはバッツが使い果たした後。
あの時は想像もつかなかったけど実際こうしてやられる側となると、とても恥ずかしい。

(あれは、別に意地はってたわけじゃなかったんだなぁ…)

多少は意地もあっただろうけど…。


「バッツにでも代わるか?」

とのスコールの言葉に、あの時過った映像が頭に甦る。
そんなことになったら笑い転げて食事どころの話じゃない。

「いやいや。…大人しくいただきますよ」

だってスコールだもの。
男前相手に不満なんかないですとも。恥ずかしいけれど。
でも滅多にこんな機会ないし、羞恥を捨ててありがたくいただきます。
そう前向きに思いを廻らせ口を開ける。


(あぁ…でもやっぱ、恥ずかしい……)

モゴモゴと口は動くものの味なんか分かりやしない。
スコールのもう片方の手に持つ皿に目を向ける。

あと何回この羞恥に耐えなきゃならないのだろうか。

-end-

2010/1/8




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