和み
(…眠い)
今日はスコールとふたりで見張り番だ。
夜も更け、バッツとジタンはとっくに眠りについている。
欠伸を押し殺しながら、隣に座るスコールの様子を窺ってみたら渋い顔で睨まれた。
なんか悪いことでもしたのだろうか。…心あたりがありすぎる。
なんだろうと首を傾げると視線を反らされた。
「なんで、目、反らすのさ〜」
と聞いてみるも無言。
無視?
「私、なんかした?」
言ってくれなきゃわかんないよ〜、と顔を覗き込む。
すると、今度は顔ごと背けられてしまった。
当然の反応か。
スコールらしいや。
口に出してくれればいいのに、なかなか本心を話してはくれないスコール。
いつも眉間に皺寄せて。
だから少しでも気持ちを和ませようと、いろいろとちょっかい出してみたりするんだけど、益々渋い顔されたりして。
しつこ過ぎて、いよいよ嫌われてしまったのだろうか。
それは困る。
嫌われてしまったら、和ませる所じゃなくなってしまう。
やっぱり、もう少し引いた方がいいのだろうか。
押してダメなら引いてみろって…?
うーん。
膝を抱えてため息を吐く。
視界に入るスコールの手。
普段手袋で隠れているけれど、食事の時なんかはちゃんと外していて、素手を見る機会は結構ある。
指が長いのは想像通りだったけど、思っていたよりもゴツゴツと節くれだっていた。
同じ大きさのスプーンなのに、自分が持つのと彼が持つのとでは大きさが違うように感じて、思わず見惚れていたら怪訝そうな顔を向けられたことがあった。
慌てて笑って誤魔化したけど、あれは明らかに不審者を見る目つきだった。
やっぱり警戒されてるんだろうか。
まぁ、…気持ち悪いよね。ジッと見られてたら。
彼の持つ武器は、剣と銃が合わさったような不思議なモノ。
あんな複雑そうなものを使いこなしてるなんて、意外と手先は器用なのかもしれない。
あの手に触りたい。
触られたい。
触らせてくれないかな。
そんなこと言ったら、嫌われるだろうか。
如何せん、表情が読み取れないから困る。
渋い顔を向けてくる割に、すんなりと要求を呑んでくれたり。
どこまでが良くて、どこからが迷惑なのか、わかり難い。
再度ため息を吐く。
「おい」
隣に座るスコールから声が掛かる。
「…ん〜?」
眠気と思考が入り混じって、なんだか間抜けな返事を返してしまった。
「眠いなら、休め」
珍しく、気遣ったのような言葉。
「中途半端に起きていられても迷惑だ」
こっちまで眠くなる、とスコール。
気遣われたと思ったらいつも通りの厳しいお言葉。
そんなに眠そうな顔だっただろうか。
やばい。
変な顔してたかも。
涎でも垂らしてないか、慌てて確認してみるが大丈夫なようで一安心。
「そんな状態で敵がきたらどうする」
「でも、ほら当番だし。明日には宿営場に着けそうでしょ」
だから見張り頑張るよ、と付け足す。
ただでさえ碌な戦力になってない自分だし、本当はスコールにも休んで欲しいのだけど、流石にひとりでは心許無い。
宿営場にさえ辿り付ければ、敵の襲来を気にすることなく休めるんだから、当番位しっかりしなければ。
眠気を飛ばすように顔をパシパシ叩いて気を引き締めていると、視界が揺らいだ。
目に映る焚火が横たわる。
いや、横たわったのは自分だ。
頭の下に、スコールの足。
「…」
(えっ?はっ?…えぇえっ?!)
理解するのに数秒。
どうやら膝枕してくれているようだけど。
「ねっ、ねぇスコールっ…?」
慌てて身を起こそうとするも、阻止された。
「少し休んだら、起こしてやる」
それでいいだろ、とスコール。
それは大変ありがたいのだけれど…この体制である必要はないんじゃないのだろうか。
動悸する心を落ち着かせようとしていると、頭に手を置かれ撫でられた。
いつの間に外したのか、感触からして素手のよう。
唐突な、スコールの意外な行動に思わず肩が揺れる。
その様子がおかしかったのか、頭上から微かに笑ったような息が聞こえた。
(…うわぁ…ものすごく見たい)
彼の笑った顔が。
でも横向きだし、見ることは叶わない。
上を向いたとしても、この状況では恥ずかしくてスコールの顔なんか見れないだろう。
(まぁ…触って貰えただけでも、いいか)
緊張して眠れる気がしないけれど、頭を撫でる優しい感触に目を瞑る。
いつか彼の笑顔を直に見れるように願いながら。
-end-
2009/8/26
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