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副う



あの男の代理なのだと言い張り、ストーカーと化している女がいる。
ストーカーとはいってもコソコソしていることもないから語弊があるかもしれないが。
だからといって戦いを挑んでくるでもなく、これといった害もない。
しかしそれはそれで鬱陶しいことには変わりはなく、だが男に付き纏われているよりは幾分かマシじゃないだろうかと前向きに考えて日々を過ごしていた。
時には二言三言言葉も交わしてみたりと、お互い敵対しているというのにこんな調子で果たしていいのかとも思うのだが。
そんなある日のことだった。
久しぶりにバッツたちと合流した。
三人ともすでにクリスタルを手に入れて、レベル上げの日々を送っているのだという。
お互い経過は順調らしい。
頼もしい限りだと安堵したのも束の間、ひとつ問題ができあがった。

「キミ、名前は?」

とは、自分に対して付き纏っている混沌の者11の言葉だ。
誰に向けての発言かといえば、今更ながら自己紹介の必要のない自分ではなく、かといってこれまで行動を共にしてきた他の三人に向けられたものでもない。
三人に関しては自分と同じく今更なのだから当然だが。

11のこの言葉は、初めて顔を合わす者に向けられたものだ。
それも対象は三人いるにも関わらず、たったひとり。
残りのふたりには目もくれずに、真っ先にそのひとりの元へと赴いていったその素早さたるもの目を見張る勢いだった。
あの機敏な動きで袂に入られては反撃の隙も与えられずにやられてしまう事は間違いないだろう。
11が様子見だと言っていたのは本当のことで、戦う気がなかったのは幸いだったというべきか。

それはそうと11が向った先は案の定、調和陣営におけるイケメン代表スコールの元、ではなく。
年齢不相応な行動に定評のあるバッツでもなく。
コスモス一の常識者と名高いジタンの元だった。
バッツやティーダと何かと騒ぎ立てるのは、彼の16という年齢を考えれば年相応な微笑ましいものだ。
その分バッツの異様さが目に余るのだが、バッツだから仕方がない。

いきなり手を握られ名前を聞かれたジタンは、そんな11の行動に臆することもなくいたって平然に応えていた。
さすが女好きを自称していただけはある。
相手が混沌の者といっても紳士的だ。
それが余計に11の何かに嵌まったのか、彼女の標的は今やジタンにと移ってしまった。

来る日も来る日も、こちらを訪れては即ジタンの元へと駆け寄って行く。
それはもう目を輝かせて。
頭を撫でる所から始まって、腕に絡み付いてみたり背中から抱きついてみたり、最近は特にしっぽがお気に入りのようだ。
手触りが良いとか、性格が紳士だと毛並みも良いのかもしれないとか言ってることが理解しかねるが、彼女はひとり満足そうだ。
しかし、身辺をうろつかれるだけでも鬱陶しいことこのうえないというのにこの接触過多ともいえる触れ合いはジタンにとって相当ストレスの溜まる行為ではないだろうか。
もとはといえば自分に付き纏っていたというのに、申し訳ない旨をジタンに以前告げてみたらとくには気にしていないようだった。

「混沌っても女の子だしさー。戦う意思もないんだし、俺は別に構わないよ。そんなに気にすんなって」

それに好かれて嫌なやつなんていないだろ?
と、なんとも大人かつ紳士に説かれてしまった。
女の子といえるには年齢が高い気もするが、とりあえずジタンは気にしていない、かつ、自分へのストーカーも止んだということは喜ばしいことじゃないだろうか。
だが、なぜか腑に落ちない。
今までさんざ自分に付き纏っていたというのに、急にジタンに鞍替えとか。

「そんなに私に付き纏って欲しいの?」
「いやそういうわけじゃ…」

なら問題ないじゃないと、踵を返す11を呼び止める。
11の足の向き先は当然ジタンの元。
あいにくジタンは今出掛けてこの場所には不在なのだが、それでも探しに行きたいんだけどと呼び止められたことに不服そうな目を向けてきた。
そんな不満な様を全開で向けられても、ここで待っていれば目的のジタンだってすぐに戻ってくると言っていたのだし少しくらい足止めしたって悪くはないだろう。

「あいつはまだ16だし、子供だろ」

自分とそう年の変わらない11とは年齢差がある。
成人してしまえばこの位の差なんてどうってことはないのだが、同じ年齢差といえども成年と未成年者では意味合いが違ってくる。
そしてこれが仮に男女反対の立場になってみろ。
不謹慎だとか変態だとか、それこそ謂れのないことまで囃し立てられてしまう状況になる。
だいたいそんな年の子供相手に引っ付いてみたりアピールしてみたりと、恋するのも勝手だが状況を弁えて接するべきじゃないのか。

「なによー。クラウドのくせに説教ー?」

説教ではなく意見なのだが、彼女にはどうやら説教に聞こえてしまうようだ。

「だから、常識的な範囲内でなら一向に構わない…と言っているんだ」

夜中にテントに忍び込むのは如何なものか。
あの時ほど見張り当番だったことに感謝をしたことはない。
幸いにもジタンが目を覚ますこともなく、間違いが起こる前に塞ぐことができたのだから。
しかし、あられもない11の姿に同じく当番だったフリオニールがぶっ倒れてしまったせいでその後の介抱に少し手間がかかったが。

「だってジタン、可愛いんだもん」

可愛いといえば許されるとでも思っているのか、この女は。

「だって、可愛いものは手に入れたいじゃない」

可愛いから慈しみたい。
慈しみたいのだからそれに接触するのは当たり前。
接触したなら、次にはそれを手に入れたくなるもの。
手に入れるとなれば、相手は生身の男。

「で、襲っちゃえばこっちのモンでしょ?」
「もっと正攻法で行ってもらいたい」
「なによそれー」

そうまた不服そうな面立ちで頬を膨らました。子供か。

「じゃあクラウドの言う正攻法ってどんなのよ」
「聞きたいか」

まずは第一に告白。
その通過儀礼が滞りなく済み、相手の了承を得ることが先決なのだから当然のことと言えよう。
それからお互いを良く知る意味での会話は必要だ。あぁ、これは告白以前の関係にもよるかもしれない。
仲がよければそれなりにお互いのことも知っているのだろうし。
何気ない一言からでも相手の意図を汲むことができるようになったところで、手を繋ぐ。
手を繋ぐことによって相手の体温を量り知ることができるのだから、こういった小さなふれ合いは大切にしたい。

「ちょっとまってよ。いつになったらキスまで辿り着けるのさ」
「そんなものはまだまだ先だ」

そう応えると、年食って死んじゃうよ!と抗議してきた。

「クラウド、どんだけ純愛好きなのさ。そんなことに時間食ってたら私どんどん年取ってっちゃうよー」

そんなのはまっぴらゴメンだ!と言いたいばかりに項垂れる11の肩に手を置く。
そして今の正攻法は対未成年による対処法だと言うことを告げる。

「んじゃあ、成人してれば襲ってもOK?」
「場合にもよるが…なんなら試してみるか?」

そう尋ねると、首を傾げながら不審そうな眼差しでこちらを窺ってきた。

「クラウドを襲えってこと?」

そもそもの始まりは自分に対してのストーカー行為からだっただろうと告げると、すっかりその当初の目的を忘れていたのか今初めて知ったと言わんばかりの驚いた顔を見せてきた。
しまった、やら失念していた、と少しばかりの焦りを見せ始める。
恋は盲目とはよく言ったものだが、敵同士であることすら忘れてしまっていたのはどうかと思う。

「いやでも、私、ジタンLOVEだからムリ」

焦っても今更仕方がないと結論付けたのかそう応えてきた。
最初は見た目の可愛らしさに惹かれたものだが、見た目に反した男気溢れる甲斐性といい、あの手触りの良いしっぽといいガッツリと11の心を捉えて離さないのだという。
男気やら甲斐性はともかく

「手触りなら、俺も負けてはいないと思う」

そう自身の頭をもたげて差し出してみる。

「なに。髪?見るからに固そうじゃんか」

疑わしそうな11の声音に、まぁ触ってみろと手を掴んで頭へと誘導する。
見た目で固いと思われがちな自身の頭髪だが、自分で言うのもなんだが柔らかくて触り心地はいいほうだと思う。
こう、ツンツンとしているのはこういうクセなのだし、多少セットするのに整髪剤は使いはするが、ガチガチに固めているわけじゃない。
そんなことを思っていると、そろりといったように11の手が髪に触れてきた。
毛先から、次第に髪全体を撫でまわすように11の手の動きが変化していく。

「どうだ?」
「うん、まあね。…感触はー、いいんじゃないの」

まんざら悪くはないとでも言いた気な11の声音に、目線を上げて様子を窺い見てみる。
まんざらどころか、今にも髪に飛び掛りたそうに目を輝かせている11の様子に、もしかして毛フェチなのだろうかと思いながらもこれはもしかしてもしかするかもしれないなんて期待が過ぎってきた。
あぁ期待と言うか、そもそもの目的回帰といったところか。
ジタンではなく、こちらに意識を向けさせなければならないというか。

「俺を襲えば、この髪、触りたい放題だぞ」
「えっ、ホントにっ!?」

無駄に食い付きがいい。
やはり毛フェチ感が否めない。

「しかも俺は成人している。あいつと違って正攻法を取らなくてもなんら問題はない」

いつでも襲ってきていいと、そう述べる。

「それはそれはー…て、あれ、それってクラウド…」

手の動きが止まった11に、顔を上げる。

「付き纏われてると鬱陶しいもんだけどな」

ジタンには悪いが、11の興味が自分から反れて一時晴れ晴れしい心地で過ごしていたのは事実だが、その矛先が急に変わっている今現在、意外にも自分は寂しく感じている。
それにあんなにもベタベタと纏わり付くなんて、自分に対してはジタンのように接してこなかっただけにその辺りに関しても無償に気に入らない。
好みの範囲外だと言われればそれまでなのだが。
だがとりあえず、毛の感触には心惹かれているような雰囲気は醸し出してるから11の範囲内と仮定してもいいだろう。

「あんたの興味はもう俺には戻ってこないんだろうか」
「そんなことはないとは言えないというか、だってセフィロスのこともあるしー…」

11の目が泳いでいる。
動揺しているのは明らかだ。
もう一押しだろうか。

「髪の毛触りたい放題つき」
「うぅっ、それはそれでとても心惹かれるんだけどー…や、いや!釣られないっ、釣られはしない!」

釣られるとか、本来の11の目的とする獲物は自分のはずで、それを放っておいたのは11自身なわけで、あの男の代理だというのなら、それこそその仕事はしっかり果たすべきじゃないのかと思う。
だがまぁいい。
何かを察知したのか、警戒するような視線で11がこっちを見やってくるがそんなものは関係ない。
11がそういう態度でジタンに纏わりついているというのなら、その軌道修正をするべく逆に自分が11に付き纏わらせてもらおうじゃないか。
帰ってきたジタンを目ざとく見つけ、こちらの思惑を回避するかのように嬉々としてジタンの元に駆け寄って行く11の後姿に目を向けながらそんな決意を過らせる。

-end-

2010/7/13 やぎ様リク




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