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同断



この間、ガレキの塔に閉じ込められた時に聞かれた ”嫌いなのか” というクラウドの言葉。
そうではないと必死に否定したけれど、その後すぐに救出に現れた仲間のお陰でなんだか曖昧になってしまった。
あれ以来クラウドがこちらに話し掛けてくることといえば用件がある時のみ。
それはクラウドとの距離を置こうと思って自分もしていたことだけど、それでもクラウドは他愛のない話を持ちかけてくれていた。
今はそれもない。
本当に用件だけ。
今までを思えば随分と素っ気のない関係になってしまったと思う。
でもこれは自分が望んでいたことだ。
こんなわけもわからない異界で誰かを好きになるなんて在ってはならない。
親しくなる前まではクラウドとはこんな感じでしか接点はなかったのだし、元に戻っただけ。
そう考えれば、今のこの辛さも紛れるものだし ”好き” っていう戦いにおいて厄介な感情も直に遠のいていくものだろうと前向きに捉えかかっていたのに。


「…なんで私はこんな話、しちゃったんだろう」

両手で顔を覆い、深く息を吐く。
隣に居るのはセシル。
別に相談を持ちかけたわけではない。
そもそも、こんな想いなんて自分の胸の奥にヒッソリと引っ込めておこうと思っていたのだし。
それなのになぜだか彼と立ち話しをしているうちに、自分の思いのうちを語ってしまっていた。

「まぁまぁ、それは置いといてさ。でも、スッキリしたんじゃないの11は」

こういう悩みって口に出すと案外軽くなったりするし、とこちらに苦笑を向けてきた。
そりゃあ図らずも聞いてもらえたことで、少しは胸が軽くなった気もするけれど。
でも根本的なものが取り払われるわけもなく。

自分がクラウドに好意を寄せているのなんて一方的なものなのだし、こっちが勝手に好きになって勝手に距離を置こうと思って、それからクラウドに ”嫌いなのか” なんて聞かれたりして。
むしろその真逆です、なんて言えるはずもないし。
好きで仕方なくて、戦闘だって覚束なくなってしまうからこうして諦めようと頑張ってるのも全部自分の勝手でしかないのだから辛い想いを抱えるハメになったのは自業自得。

「とか、考えてる?」
「う…うん。何、セシルって心読めるの?」
「いや、11が考えそうかなって」

自分の思いを代弁されて驚いていると、当ってたみたいだねとセシルが首を傾げてきた。

「でも、僕にしてみればさ。なんで好きになったらダメなのかなって思うんだけど」
「え、だって。そんな迷惑かけることできないよ」

それに迷いは剣を鈍らせるって聞いたし、と続ける。
そんなことになったら、クラウドだけじゃなく皆にも迷惑をかけることになってしまう。
戦いの足を引っ張るだけじゃない。
仲間たちが真剣にクリスタルを追い求めてるっていうのに自分だけ脳内お花畑ではそれこそいい迷惑じゃないだろうか。

「好かれて、嫌だって思うヤツなんていないと思うけどなぁ」

それはだって、セシルだもの。
優しいし、包容力ありそうだし、それにセシル自身見目麗しい面立ちだし。
セシルに好かれて迷惑だなんて思う人なんかいないよ、きっと。

「それって、褒め言葉としてとってもいいのかな」
「褒め言葉以外のなにものでもないよ」

そう告げれば穏やかな声音で、ありがとうと返してきた。
そんなセシルと違って自分みたいに、戦う以外に取り得のないフツーの女にとっては誰かに恋心を寄せることだって一大事だ。

嫌われやしないだろうか、しつこ過ぎやしないだろうか。
どうしたら自分のことを好きになってもらえるだろうか。
どうしたら自分の気持ちに気がついてもらえるだろうか。
こんなことばかりが頭を過ぎってしまう。
それに想いを寄せている相手はクラウド。
恋愛事にはてんで興味なさそうだし、万が一にも自分が相手をしてもらえる見込みはない。
諦めなきゃと思っているのに、クラウドのことばかり考えてしまう。

「それが11の言う、迷い?」

セシルの言葉に黙って頷くと、少し呆れたような笑みを覗かせてきた。
呆れられるのも無理はないと思う。
自分で話しておいてなんだけど、物凄く後ろ向きな考えだもの。

「いいかい11。まず、こんな世界でっていうけれど」

どんな世界であったって、人を好きになるという感情は人間なら持っていて当たり前だ。
好きになったら、その人のことを気に掛けてしまうのも誰だって同じ事。
それから皆にも迷惑をかけてしまうというその考えはいただけない。

「だって、仲間じゃないか」

足りないものは、仲間の力で補うことができる。それくらいの甲斐性は皆、持ち合わせているんだから。
クリスタルにしたって、それを探さなければいけないことに変わりはないけれど、何もそれだけが全てではない。

「自分の心に素直になるのも大切なことだよ」

ね、と優しく頭を撫でてきた。

「まぁ、確かにクラウドって何にも興味なさそうな感じはあるけれど」

見た目で判断できないことなんて、11がよく知ってるんじゃないのかな。
そう言うセシルに思い出すのは、クラウドから齎されていた優しさだ。
出会った当初は今みたいに素っ気ないものだったけれども、だんだんと一緒に行動していくうちに外見とは印象の違う彼の人となりというものを知ることになっていった。
そんなクラウドに惹かれていたはずなのに、今の自分はそれを全部否定していたということになる。

「私、馬鹿だ」

少しづつ仲良くなって、それなのに何の理由も知らされずに急に距離を置かれたとなっては相手は戸惑うだけ。
自分だってそんなことになったら混乱してしまう。
自分のことばかり考えていて、そんな当たり前のことがすっかり頭から抜け落ちていたなんて馬鹿としか言い様がない。
自分が嫌われるのが怖いから、クラウドのことも勝手にそうだと決め付けて自分から勝手に離れていって今まで築き上げてきた関係を途切れさせてしまった。

「こんな馬鹿じゃ、今更元に戻りたいなんて思っても無理だよね」

クラウドから好かれたいだなんて傲慢な思いを抱えて、そんなことは無理だと決め付けて。
本当はクラウドの優しさに甘えて、こっそりと想いを寄せているだけでも充分だったはずなのに。
でも、気がつくのが遅かったかもしれない。
自分に素直になったところで、勝手に離れた自分がまた勝手にクラウドに近づきたいなんておこがましいにも程がある。

あ、なんか泣きそうだ。
涙腺崩壊を隠そうと顔を俯けようとしたところでセシルに頭を掴まれてしまった。

「バカはバカなりに、足掻いてみるのも悪くはないと思うよ」

そう、掴んだ自分の頭を横に向けさせてきた。
視界に入り込んだのは、木陰から姿を現したクラウド。
驚きに、セシルを見上げる。

「最近ふたりしてお互い避けてるみたいだったからさ。喧嘩でもしたのかなって思って」

それなら仲直りさせなければと思ってクラウドも連れてきてたんだけど、それよりも深い話でびっくりしたよ、と笑顔で首を傾げてきた。
じゃあなんでわざわざクラウドを木陰になんて隠れさせておいたんだろうかという疑問を投げかけたい所だけれど、そうも笑顔を称えられているとそれを問うことは躊躇われる。

「きちんと話しをするのも大切なこと」

頑張って、と耳元に囁いてセシルは去っていってしまった。

取り残されたのは自分とクラウド。
そんな近くの木陰にいただなんて、おそらくセシルと話していたことは筒抜けだっただろう。
話をするのも大切だなんて言われてしまったけれど、全てを知られてしまったであろう今のこの状況。
まずは自分勝手な考えの末にクラウドを避けていたことを謝るべき。
そう決めて謝ろうと思ったらクラウドが先に口を開いた。

「嫌われてたんじゃなくて、よかった」
「う、うん。そんなこと絶対ないから」

真っ直ぐな目を向けられて、少しだけ鼓動が高まる。
あんな話を聞かれてしまった後だし、久しぶりに用件以外の話をするから緊張しているせいもあるのだと思う。

「…ごめんね、クラウド」

謝って済むことじゃないけれど、と頭を下げる。
すると、そこにクラウドの手が乗っかってきた。
何事かと動きが固まる。

「こうされることも、嫌じゃないんだよな?」

そんなことを尋ねてきたクラウドに頷いて返すと、そのまま頭を撫でてきた。

クラウドからされるこの行為が大好きだ。
さっきセシルも頭を撫でてくれたけれど、それとは何か違う感じ。
でもそれはきっと自分がクラウドのことを好きだからなのだと思う。
心地良さに安堵をしていると ”それから” とクラウドから声が掛かった。

「悩んでいたのは11だけじゃない」

うん。急にあんな態度を取られたら何かしてしまったかと悩んでしまうよね。
本当にゴメンなさい、ともう一度告げると、そうじゃないという言葉が返ってきた。
その言葉に思わず顔を上げる。

「俺も、11と同じなんだ」
「おなじ…」

そう聞き返すとクラウドは頷いた。

「11に気がついてもらえたらって、態度に出すぎていたかもしれない」

今思えばそれが余計にあんたを困惑させてしまっていたみたいだけど、と告げてくるクラウドに思い出されるのは日々彼から与えられていたこと。
こっちが疲労に鈍ってくるとすぐに駆けつけてくれたし、休憩もこまめに取ってくれた。
食事の時も好物を分けてくれたし、一緒に過ごしている時の距離も徐々にだけど縮まっていた。
自分が意識し過ぎなのだと思っていたことが、クラウドにとっては彼なりのアピールの末のことだったのだと…

「…あれ?」
「言葉で言わないとわからないか?だから俺も」
「おー、いたいたクラウド!」

やっと見つけたぜ〜、と登場したのはバッツ。
クラウドの技を習得したから見せてやろうと探し回っていたという。

自分が言うのもなんだけど、せっかくのいい雰囲気だったというのに空気を読めないというのか周りを見ていないというのか、今気がついたらしいバッツが自分に向けて ”よぉ!” と手を掲げてきた。
少しだけそんなバッツにむかつく。
でもそれはクラウドも同じだったみたいで、顔には出していないけれどバッツに対する態度でそれとなく察することができた。
当のバッツはそんな自分たちに気がつきもせずに ”対戦しよーぜ!” とはりきってクラウドを誘っている始末。

「悪い、11。先にコイツの相手をしてくる」
「うぅん。大丈夫。クラウドの言いたいこと、わかったから」

だからごゆっくり。
そう手を振りふたりを見送っていると、先を行くバッツの後ろを歩いていたクラウドが不意に立ち止まってこっちに振返ってきた。

「後でさっきの続き、話に行くから。約束する」

そう告げて、バッツの後を追って行った。
こうやってクラウドはいつも自分の気持ちを落ち着かせてくれる。
困った時も慌てている時も、クラウドのさり気ない優しさにどれだけ助けられただろうか。
そして今回も。
セシルが間に入ってくれていたとはいえ、結局自分勝手な戸惑いに終止符を打ってくれたのはクラウドだ。
そしてクラウドが約束を破ったことなんか一度もないことをよく知っている自分は、さっきまで沈み込んでいた気持ちが嘘だったかのように軽くなっていくのを感じた。


-end-

2010/6/9




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