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篭る 後



密室にふたりきりというこの状況。
気まずささえなければ、不謹慎ながらも嬉しいことなのだけど。

さっきは慌てていたせいなのかいつも通りに何気なく話していたが、助けを待つのみとなった今、再び沈黙が訪れている。
なんとかこの気まずさを打破したい。
こうなった原因でも掴めればそれに対して謝罪のひとつでもできるのだが。
謝ったところで状況が良くなるかは別として、これ以上理由も判らないまま余所余所しい態度でいられるよりは幾分かマシじゃないだろうか。
それなら自分は気まずさを言い訳にしていないで、もっと話し掛けてみた方がいいかもしれない。
膝を抱えて座り込んでいる11を見下ろす。
助けを呼んでいた時と打って変わって、またしても沈み込んでいる。
不安なのもわからなくもないがきっとそれだけではない。

「気分でも悪くなったか」

こう密閉されている空間では空気が篭っているし、そうなってしまうのも仕方がない。
そう声をかけながら様子を窺ってみると、僅かに視線をこちらによこしたが大丈夫だと一言漏らしてすぐにまた目を伏せた。
素っ気ない態度が少し切ない。
だがここで大人しく引き下がるわけにはいかない。
こちらも地面に座り込む。
自分の動きに警戒したのか目を向けてきたが、そこから移動することはなく少しばかり安堵する。
ここで思いっきり退けられたら立ち直れない気がするから。
いや、逆に避けられてるなら避けられてるでいっそのことあからさまな態度に出られた方が、こっちもすっぱりと諦められていいのだろうか。
でもそんなことをされたらそれこそ気まずさに拍車が掛かって話すどころではなくなってしまう。
それよりも、こんな後ろ向きな思考はいただけないだろう。
とりあえずは隣に座ることはできたのだし、退けられるほど嫌われてはいないということはわかった。

「この塔の主ってさ、ティナに粘着してるやつだっけ?」

そんなことを思っていると、不意に11が声を掛けてきた。
11の言葉に頭に浮かんだ人物は奇抜な衣装を身に纏ったあの道化。
自分のことはさておいても、ティナもあんな気味の悪い男に狙われているなんて不憫に思ったものだ。
そうだなと応えると、だよねぇ、と苦笑いを漏らした。こんな陰湿な仕掛けをするのはカオスの中でもあのふざけたヤツぐらいしか思いつかないと愚痴を零す。

「でもまぁ、あれだよね。狙われてるティナが引っ掛からなかったのは良かったよね」

確かに11の言う通り、ティナがひとりこんなところに閉じ込められる事態にならなかったのは不幸中の幸いか。
ティナ自身、幾ら魔力が底計り知れないといえども己の力に怯えている所も見受けられるし、こんなところでその力を発揮できるかといえばそうだと断言はできない。

そういえば、普通に話し掛けてきていないか。
それともここに閉じ込められているという状況のうえで必要とした話題だからと思うのは考えすぎだろうか。
どうも神経過敏になり過ぎている感がある。
せっかくいつも通りに話をしているのだから、それを素直に受け止めればいいだけだ。
そして自分もいつも通りに接すればいい。

「早く、出られるといいな」

そう、11を元気付けるように頭を撫でる。

「あ、…うん。そうだね」

少し間を置いて返事をしてきたが、今の間は一体なんだ?
11の視線が再び地面に映った。

もしかして撫でられるのが嫌だったのだろうか。
今までも度々こうして頭を撫でることもあったし、嬉しそうとまではいかないまでもそれなりに心地よさそうに受け入れていてくれてたのだが、我慢してたのだろうか。
でもそれに対して避けられたことなんてないし…積もり積もって、辛抱できなくなったとか…だからここ数日、避けられていたのだろうか。
だとしたら今自分は、まさに11の嫌がることをしてしまったのでは。

もう一度11の顔に目を向ける。
すると11の額が薄らと汗ばんでいるのがわかった。
この密室のせいで、やはり具合が悪くなっているんじゃないのだろうか。
体調がすぐれないのならこんな気まずいだの嫌だろうかなどと気にしている場合じゃない。
11の額に腕を伸ばして、手で汗を拭う。

「やっぱり、気分悪いんじゃないのか?汗かいてるし」

無理はするなと言いたいところだが、ここから出ることが適わない以上どうすることも出来ない。
首に手を当ててみれば、ほんのりと体温も高い気がする。

「うぅん平気!ってか、さっきほら話してたじゃん」

暑いの苦手なんだよとこちらの手を掴んで離そうとしてきた。

「…暑いか?」
「暑いよ。クラウド、涼しそうな顔してるけど」

たぶん、この下にフリオニールの言ってた蒸気室があるんだと思うと11が言う。
この篭った息苦しさはそのせいかもしれない。幾ら密閉された室内だといえどもさすがに空気が悪すぎる。
しかしそんなに自分は涼しそうに見えるのだろか。実際暑さは感じていないから暑苦しいということもないのだが。

「ねぇ、手。離して。暑い」
「あぁ、悪い」

首から手を離すと、11の手も離れた。
そのままその手を11の衣服にかける。
暑いのなら少し通気性良くした方がいいだろうし、そう思って何気なく胸元のボタンを外そうとしたのだがそれを慌てた様子の11に遮られてしまった。

「外した方が、ちょっとは涼しいだろ」
「えっ?あー、そうだよねっ、じゃあ自分でやるからっ」

こちらに背を向けてそそくさと外しにかかった。
それからこちらに振返ることもなく、あれやこれやと話始める。
こうやって会話らしい会話が成り立つことは久しぶりだし嬉しいのだが、なぜかその口調が必死そうなのは気のせいだろうか。
こっちを向いてくれないのも気になる。
やはり避けられているのか?
さっきまでは今までのように過ごせていたと思うけど…11の態度に波がありすぎてわからない。
一体どうしたっていうのか。
また後ろ向きな思考に及んでしまいそうになるんだが。
もう意を決して聞いた方がいいのだろうか。

「なぁ11」

声をかけて、11の目の前に回りこむ。
一瞬戸惑ったように視線を揺らしたけど、なに、とこちらに目を向けてきた。

「俺のこと、嫌いなのか?」

そう聞いてみたら思い切り首を振りながらそんなことはないと否定の言葉を返してくる。

「じゃあ、なんで最近…」

避けるのかという言葉がたちまち轟音にかき消された。続いて避ける間もなく身に降りかかってきた瓦礫から11を庇うために咄嗟に覆い被さる。
すぐに止んだ衝撃に体を起こすと、そこには密室を生んでいた扉の姿はなく代わりにボロボロと崩れ去った壁に巻き上がる噴煙。

「どうやら無事のようだな」

積み重なった扉の残骸を足元に、ウォーリアが現れた。
彼の後ろからは11の安否を気にしているティナの声が聞こえる。
その声に大丈夫だと返す11の体を起こすのを手伝いながらウォーリアに助かったと礼を告げると礼ならティナにもと言ってきた。
扉の外側から掛けられていた魔法のせいで容易く壊すことは適わなかったが、それをティナが解いてくれたおかげでこうして破壊することができたのだという。
魔法か。通りで声も通さないし、気配も僅かにしか感じ取れなかったわけだ。
しかし魔法が解けた時点で一言声でも掛けてくれたなら、崩れた瓦礫を浴びるという事態も避けることができたのだが、助けてもらったのだからそこは仕方ないところだろう。

「11」

ウォーリアが、ようやく立ち上がった11に近づいてきた。

「こんな、胸元を肌蹴ていてはいけない」

女性なのだろう、と11の衣服を整えはじめた。
それを11は謝りながらも中が暑かったからと言い訳をしているのだが、なぜかウォーリアのその行為は大人しく受け入れている。
自分がやろうとした時はあんなに慌てた様子を見せていたのに。
この違いはなんだ。
自分の中に、なにか滞っている感じがしてスッキリしない。
宿営地に戻ろうというウォーリアの言葉に頷き、帰路に足を向ける。

結局、肝心なことは聞けなかった。
時間はあったというのに。
ホッとしたような、楽しそうな面立ちでティナと歩いている11を眺める。
あんな顔を自分にも向けてもらいたいと思うのは自分勝手な想いだということも自覚しているが、今彼女が向けてくれるのはさっき見かけた戸惑いの表情だけだ。

11の困惑したような顔は自分の望んでいることではないし、そんな顔をさせてしまうのならいっそのこと少し距離を置いた方がいいのかもしれない。
彼女とともに過ごしているのが当たり前になっていたことで余計にこの状況が辛く感じてしまっているのだろうから。

-end-

2010/3/30




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