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篭る 前



「11、ここなんだが」
「そこはさっきフリオニールが…あぁ、ほら来た来た」

おかえりー、と11がフリオニールに手を振りながら向っていく。

危険個所の確認のために、今日はガレキの塔を訪れていた。
今までフリオニールはバッツ・スコールと組んでいたのだが、数日前、ウォーリアによって少し編成を変えられた為にこうして三人で行動している。
人手が増えた分、探索も順調なもので地図に書き込んでいる印もどんどんと増えていく。
そのかわり人数が減った彼らの方は、バッツのことだから好き勝手やってスコールの手を煩わせたりして少し手間取っているんじゃないのかとウォーリアに聞いてみたところ、そうでもないと言っていた。
探究心が騒ぐだのなんだのと言いながらしっかりとそれも素早く作業をこなすバッツに、任務だと坦々と適所を回るスコール。
ウォーリアに見せてもらった彼らの報告書は他のどの組の者のものよりも進んでいた。
意外と相性いいのかもしれないなんて思ったものだ。
フリオニールに至っては、あのふたりが早々にマークしてきた個所を纏めるのが主だった仕事だったという。
”こっちはこっちでのんびりしていていいな”と苦笑を零していたが、きっとあいつ等が早いだけで決してフリオニールが特別遅いってことでもないだろうに。

フリオニールのいうとおり、こちらはのんびりしたものだ。
自分と11、お互いせっかちな性質ではないしマイペースに見回っている。
そこにフリオニールが加わってくれたおかげで、今までよりは幾分か早く作業も進んでいるからとても助かっているのだが、助かっているのは作業のことについてだけではない。
最近妙に11に避けられている気がするからだ。
話し掛ければ応えてくれるし、彼女も話し掛けてくる。
一見いつもと何ら変わることのない遣り取りなのだけど、その話し方が変わったと思うのは気のせいだろうか。こう、義務的というのか機械的というのか。
必要最低限の会話を済ませば、それきりだ。
黙々と自分の作業に向ってしまう。
11に避けられているなんて自分の思い過ごしなのかもしれないし、しかし思い過ごしではなかったら…と勝手にひとり気まずさを感じていたこのタイミングで彼が来たことには本当に安堵していたりする。

「汗、すごいなフリオニール」
「あぁ。ここから下はあんまりオススメできないぞ。蒸気のせいで息苦しいなんてもんじゃない」
「じゃあ、そこも印つけとくよ」

そう言って地図を広げた11の隣に立ってフリオニールが細かく状況を説明し始めた。
蒸気の噴射口の位置や足場の注意点など印を付けていく。
11は暑い所が苦手なんだとか、こっちはそういうところでも涼しそうな顔をしてそうだとか、そんな話を間に挟みながら。

こうしてフリオニールがいると…、いや、彼に限らず誰かが間に入っていれば今までのような他愛のない会話もしてくるのだからやはり思い過ごしなんかではなく、避けられているのは間違いないようだ。
では、原因は何だ。
自分が気がついてないうちに、もしかして11にとって避けたい自体でも起こしてしまっていたのだろうか。
しかし思いあたる節がない。
でもそういったことは人の受け取り方次第のものなのだから自分で気付きようがないのは仕方がないことだとも思う。
自覚できているのならそもそも11の嫌がるようなことはしないのだし。
それよりも明らかに避けられているとわかった今、どう対処すべきかを考えなくてはならない。
流石に11に自分の気持ちを知って欲しいだとかは思わないが、このまま避け続けられるのはごめんだ。
いつもみたいに11の好物でも分けてみるか、いや食事も最近一緒に摂ってないしわざわざ分けるために11の元まで赴くのも不自然だろう。

「クラウド」
「ん、あぁ。どうした」

フリオニールに声を掛けられて、いつの間にか俯き加減になっていた顔を上げる。

「ナイフを置き忘れてきたみたいだ」

取りに行ってくるというフリオニールに、また息苦しい所に行かなければならないとは大変だなと見送る。
先に進んでてくれと告げていったフリオニールの言葉を受けて、地面に地図を置いて修正している11に声を掛けると地図を開いたまま立ち上がった。
その地図に目を向ければ、この塔も大方探索し尽くしたことが確認できる。
残るは、この先にある一区画だけらしい。
そんなに広い部屋でもないようだし、フリオニールのこともあるからここで待っててくれとひとりで向おうとする11を宥めてふたりで向う。
余所余所しい11にいまいち気まずさはあるものの、だからといって何もしないままでいてはいけない。
11に合わせてこっちまでも避けてしまったら益々この状況から逃れられない気がするから。
それに避けられている原因も掴みたい。
お互い、無言のまま廊下を進む。

薄暗い廊下を突当たった角に、この塔の最後の部屋はあった。
今までの部屋と同じく、巨大なガラス製のパイプがいくつか並んでいる。
最後の部屋とあってかこの塔の調査にも手馴れたもので、広くもない部屋の壁から順に怪しい仕掛けなどないか探っていく。
そうしているうちに、重々しい音が耳に響いてきた。
初めて耳にする音だし、やはり11をひとりで行かせなくて良かったと思う。
何かあってもこうして傍にいるのだからすぐに対処できるのだし。

「どっ、どうしようクラウド!」

そんなことを思っていると、案の定11の慌てた声が聞こえてきた。
調べていた壁から11へと振返ると、声と同じく慌てた様子の11が何やら壁を叩きつけている。
そんなに叩きつけては腕が痛んでしまうんじゃないだろうか。
傍に行って腕を掴んでそれを止めさせる。

「怪我は?」
「ないよ…っていうか、よく落ち着いてられるよねクラウド」

そう溜息を吐きながら叩いていた壁に目を向けた。
それに釣られて自分も壁に目を向ける。
何もない。普通の壁だ。
何をそんなに慌てる必要があるのかと疑問を抱いていると11が再び溜息を吐いた。

「出口、塞がれた」

肩を落として沈み込む11を見て、辺りを見渡す。
確かに当り一面壁だ。
最後の部屋とあって、他に出入口もない。
こんな不気味な塔だし、予想だにつかない仕掛けのひとつやふたつあっても不思議じゃない。

「何か、仕掛けでも触ったんじゃないのか?」
「うぅん。一旦部屋から出ようと思ったら急に扉が現れてさ」

止める間もなく閉ざされたという。
はめ込まれたような扉らしき壁。
剣を突き刺せる隙間すらないのだからこじ開けることも出来ない。
しかし、幸いにもナイフを取りに行ったフリオニールがこの部屋の外にいる。
そろそろこっちに合流してくる頃合だろうし、そうすればこの扉もなんとかなるだろう。
そう11に告げれば、気落ちしながらもそうかとその場に座り込んだ。
そしてフリオニールがやってくる足音を聞き逃さないように、と壁に耳を当てた。
11の妨げにならないように、自分も静かに壁に寄りかかって部屋の外の気配を窺う。
気配を窺いながらも、11の様子をぼんやりと眺める。

顔はあちらを向いているからどんな表情かはわからないが、多分かなり落ち込んでいるだろう。
頭ひとつ揺らさず物音に集中しているあたり、必死な様がよくわかる。
一緒に行動するようになってから気がついたことだが、11はこうした予想外の展開に弱い傾向がある。
割と大人びている風貌だからか、そんな彼女の意外な一面が可愛らしく見えるけどこの異界では少しばかり危険だ。予想外が当たり前な世界なのだから。
それにもっと落ち着いて考えれば、解決策だって思い浮かぶだろうに。
そういえば、こんな変なところに閉じ込められるなんてこれで二回目じゃないか。
閉じ込められるというよりも穴に落ちてしまったのだが、あの時もどうしたものかと結構焦っていた。

「あっ」

11が声を上げた。
どうやら、僅かに物音が聞こえたらしい。
扉の向こうに意識を向ければ、こちらも僅かに何者かの気配を感じ取ることが出来た。
壁に耳を当ててみると、ガシャと金属が擦れるような音が聞こえたような気がする。
こんな音を発てるのは、いくつもの武器を携えているフリオニールくらいだし、きっとこの扉の向こうにいるのだろう。
11と顔を見合わせ頷く。
フリオニールに気づいてもらえるようにとふたりで扉を叩く。
11が懸命にフリオニールの名を呼ぶが、果たして届いているだろうか。
こうも分厚いと、さっき聞き取れた音だって本当に聞こえたものなのか怪しい所なのだが。
それでも扉を叩きつづけていると程なくして、扉の外側から少しの振動が返ってきた。
そして、僅かに感じていた人の気配が離れていく。

「気がついてもらえたのかな」
「たぶん」

おそらく仲間でも呼びに行ったのだろう。
僅かにだが気配の有無は感じられたのだし、それならフリオニールだってこちらの気配を感じ取ることは出来ていたはずだ。
だからそれを信じて、今は助けを待つしかない。

-end-

2010/3/26




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