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迷走



…落ち着かない。

いやいやクラウドにはそんな気は一切ないのはわかっているし、自分が意識し過ぎているだけのことで、とんだ目出度い頭をしていることも自覚している。
恋焦がれる年頃の乙女じゃあるまいし、必要以上に緊張している自分が自分じゃないような気がして嫌だ。
でもそもそもこんな近くで戦況対策について話し合うっていう状況がおかしい。

「クラウド、なんか近い」

座る自分の斜め後ろからクラウドが覗き込むようにしてこちらの手にしている紙を見てきているという今のこの状況。
説明するこちらの言葉に時折指摘をしながら、紙上の地図に訂正を入れてくれるのは大変ありがたいんだけど何分この態勢だ。
半分覆われる形で肩口から手が伸びてくるものだから、落ち着かなくて仕方がない。
こんな引っ付いていなくても話すことは出来るわけで、隣に座ってくれればいいのにとついそう声を掛ける。
いい加減心臓が持ちそうにないのだから。

「あぁ、悪い。アンタ、なんかいい匂いするからつい…」

そう隣に腰を降ろしてきた。
こちらはといえばそんなクラウドの言葉に面を喰らって返す言葉もなく目が点になっている。
そんな自分の様子に怪訝そうな面立ちを見せてきた彼に怪しまれてはならないと咄嗟に意識を取り戻して、先ほどの遣り取りを再開させる。

(匂い…匂いって!)

先日、ふと思いたってシャンプーを替えてみた。
自分だけではなんだかお願いし難いから、ティナを巻き込んで。
コスモスに女心を切々と訴えて…と思ったら割とすんなりと新しいものを用意してくれた。
さすが女神さまだねぇとティナと喜んでいたのだけど、気分的に替えたかっただけで決して他に目的があったわけではない。
クラウドに気がついてもらおうとか、そんなことは断じてない。
結果的には気がついてもらえたけど、もしかして前より香りがキツイせいだろうか。
こうしていい匂いとか言われて嬉しいは嬉しいけど、まさかクラウドからそんな言葉がでてくるとは思っていなかったから、冷静を装いながらも内心かなり焦っている。

「で、確かこのあたりに…っておい、11」
「はいっ!あぁココねっ。ううん、そうそう、あったあった…」

冷静に見えるのはあくまで外見だけで、振られた話題に慌てて答えると再び不審そうな目を向けられてしまった。
そんなクラウドの視線を苦笑いでやり過ごして、落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせながら紙面に目を向ける。

紙面をなぞるクラウドの指。
それを追って、イミテーションと遭遇しやすい場や地形注意な個所に鉛筆で印をつけていく。
コスモス勢の約何名かのためにとウォーリアに指示を受けて、クラウドと自分、他何組かに分かれて危険個所のチェックをしているのだ。
約何名が誰なのかあえて聞きはしなかったけれど、なんとなく想像しやすい。
彼らの力に不足はないけど、万が一、とウォーリアが言っていた。
たまに突拍子もない行動をしてしまう彼らだから、せめてこういったレベルの高い敵のいる場所や危険な仕掛けのある地形をあえて記しておくことで彼らの牽制になればと考えてのことだろう。

彼らに限らず、自分たちにも有益な情報と成り得ることだと思う。
自分のレベルに分不相応の相手といきなり剣を交えたところで、勝てる見込みはそうそうない。
情報さえ先にあれば、それなりの心構えだとかも準備できるものだしレベル上げの目安にもなる。

「このあたりは…もうこんなもんかな」
「そうだな」

そうふたりで、一息つく。
漸く、この接近した距離から解放された。

ちょっと前までの、自分の想いに気がつかなかった頃ならなんてことのない作業だったのに惚れたと認めてしまった今の自分は何を女ぶっているのか少しの距離にも敏感になってしまっている。
こんな不謹慎なことじゃダメだと判っているけど、心は素直なものだと思う。
敵に対するひとつひとつの剣捌きですら、自分とクラウドとでは大いに違うけど、扱う武器が違うのだから、そもそも比較するのが間違っているのはわかっている。
でもそういうことではなくて、彼の力強さだとか、敵に向ける真剣な眼差しとか。
そういうところにまで目を惹かれ始めているのだから困ったものだ。

自分が女ではなかったら、こんな想いなんか抱くこともなかったのに。
同じ男だったら普通にすごい人だって羨んで、それで終わりなのに。
思わず溜息を吐く。

「疲れたか?」

そう心配そうにクラウドが顔を覗き込んできた。

「あー、…大丈夫。大丈夫です」

なんでここで顔を覗き込んでくるのか。
優しいのはありがたいのだけど、こちらの心臓破壊を招くことは遠慮願いたいというか。
紙を片付けながらさりげなく、顔を背ける。
しばらくクラウドとふたり行動は避けた方がいいかもしれない、なんてそんなことが頭を過った。
一緒にいる時間が長いから、クラウドを意識してしまうんだ。
だから間を置いて、少し距離を置けばこんな感情も薄れていくのかもしれない。

せめてクラウドも自分と同じ気持ちを抱いてくれているならそれに越したことはないのだろうけど、でもクラウド、好きとか嫌いとかそんなこと興味なさそうだし。
あの銀髪相手に、それだけでも大変そうなのに勝手な感情を抱かれて迷惑をかけるわけにもいかない。
それにこんな想いを抱えている自分も嫌だ。
皆、戦っているというのに。不謹慎にも程がある。
迷いは己を滅ぼすとか、ウォーリアが言ってたけど今ならその言葉の重みがよく判る。
こんな状態じゃ、禄な戦力にはなり得ない。力を出し切ることが出来ないのならそこに待ち受けているものは…。

「おい、11」

肩を揺すられて、顔を上げる。
本当に大丈夫かと、こちらの疲労を心配してくれているクラウドに自分の浅はかな想いを打ち明けるわけにもいかない。
振られでもしたらそれこそ大ダメージだ。
あぁでもいっそのこと、その方が自分にはいいのかもしれない。

「うん。平気だって」

とりあえず、宿営地にもどったらウォーリアに割り振りを替えてもらおう。
そう心に決めて立ち上がろうとしたら目の前にクラウドの手が突き出された。
疑問を浮かべながらクラウドに目を向ける。
すると無言で手を取られた。

「えーと、クラウド?」
「そんなんじゃ、危ないだろ」
「いや大丈夫だって…」

こちらの言葉の途中にもかかわらず、クラウドに手を引かれて立ち上がる。

「ねぇクラウド」
「この間のこともあるし」

この間…と聞いて思い出す。あの変てこな穴に落ちた時のことを。
あの時は油断していたというか、まさかあんな所に落とし穴があったなんて思いもしなかったわけで、いやクラウドにも多大な迷惑を掛けてしまったけれど。

疲れているようだし、落ちそうになってもこれならすぐ引っ張り上げられるとクラウドが言う。
クラウド断ちしようと決心したばかりなのにこれに甘んじてしまっている自分が疎ましい。
でも変に拒否して怪しまれるのは避けたい。
彼の気遣いからこうしてくれているのだろうし、それはありがたいことなのだからと黙って握られた手を眺めながら歩を進める。


そのまま進んで行けば当然宿営地に辿り着いた。
それでもクラウドの手は離れることはなく、見つけたジタンやティーダがからかってきたけど、言い返すのは自分だけ。
クラウドはといえば、相変わらず涼しそうな顔立ちで何事もなかったように自分に宛がわれているテントに去っていった。

(まぁ…そりゃあフツーだよねぇ)

興味を抱かれていなければこんなものなのだろう。
手を握られて、意識していたのは自分だけなのだとあらためて肩を落とす。
クラウドの優しさは嬉しいものだけど、彼に惚れている自分からしたらそれは苦しいものでしかない。

(こんなんじゃ、ホント駄目だ…)

自分のこんな想いを断ち切るためと、ウォーリアの元へ足を向ける。

-end-

2010/3/9




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