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落ちる クラウド視点



今日は二手に分かれてイミテーションを狩っていた。
フリオニールとティーダの3人で行動していたのだが、どうやら戦っているうちにふたりと逸れてしまったらしい。
このあたりにはもう敵はいないようだし、ひとまず彼らと合流しようと足を運ぼうとしたら自分を呼ぶ声が聞こえた。
声のする方に振り返れば、11が駆けて来る姿が見えた。
一緒にいるはずのセシルが居ない。
彼女も逸れてしまったのだろうか。

「クラウド〜、銀髪のキラキラしいアイツなんだけどさ〜…」

そう、なにやら楽しそうに喋りながらこちらに近づいてきた11。
意気揚揚と足を踏みこんだ途端、11の足元の地面が崩れだす。
突如姿を現した穴に為す術もないまま落下する11の腕を咄嗟に掴んだはいいが、自分もそのまま引きずり込まれ落下する羽目になってしまった。


「…なんか、ゴメン」
「いや…。怪我はないか?」
「ん、大丈夫」

そう言う彼女に目を向けると、所々擦り傷ができていて痛々しい。
身軽なのはいいことだと思うが、こういう時に彼女の軽装は仇になる。
それでもかろうじて、身を反転させたことで11を下敷きにすることだけは避けられたのは幸いか。

この世界で油断は禁物だ。
それを身をもって感じたんじゃないだろうか。

「クラウドこそ大丈夫?」
「問題ない」

下敷きになっているこちらの身を案じてくれているようだが、運良く背中に担いでいる大剣が枷になってくれたお陰で落下の衝撃は抑えられ、底に叩きつけられることなく着地できた。
落ち着いた底は人ひとり分の狭さ。
そのせいでこちらの体の上に11が座っている状態だ。


頭上を仰ぐ。
深さ5、6mくらいか。そんなに深くない。
光の差し込む入口が広く見えるということは、逆三角形な形状なんだろう。
なにか巨大な杭でも打たれたかのような落とし穴だ。

「ん〜、どうしようか」

上を窺いながらここから脱出できる方法を模索しているのか、ひとりでブツクサ呟いている11。

「ダッシュ…できればなぁ」

とため息を吐いている。

「近くにフリオニールとティーダがいるはずだ。姿が見えなければ探すだろ」

だから少し落ち着けと声を掛ければ、とりあえず落ち着きを取り戻したようだ。

「…あぁ、そうそう。さっきの話なんだけどさ」

待つとなると、案外時間というものはゆっくり感じる。
きっとまだ少しの時しか経っていないだろう。
ひととおり話したかったことを話し終え満足したのか、11の口数も少なくなってきた。
かといって、こちらからもたいした話題もなく、少し気まずい。

しかしそれよりも、そろそろ腹が苦しい。
その様子を悟ってくれたのか11が”重くてゴメン”と申し訳無さそうに謝ってきたが、違う。
これは重さによる苦痛じゃない。

「11」
「ん?」

呼ばれて目を向けてきた11に、腹に乗り上げている彼女の膝を指し示す。

「せめて、避けれないか?食い込んで苦しい…」
「あっ!…もうホント私って、こういうところダメだよね」

漸く、苦しさの原因に気がついてくれた。

壁に手をつき、膝をずらす。
そうすると跨る体制になる。

腹部には、先ほどの苦しい食い込みに替わって柔らかな感触。
眼下には、跨ったことにより必要以上に露になった11の腿。

「…」

確かに人ひとり分の狭さでは、こうせざるを得ないのだろうけど…。
どうしたものか。
非常に目のやり場に困る。
今更、後ろ向きになれとは言い難い。

腕を組んで、目を瞑る。
こうしていれば視界に入ることはないのだから、どうということはない。
しかし、目を瞑ったところで腹に圧し掛かっている感触が無くなるということはなく。
その柔らかさに、夜な夜な頭の中で世話になってる光景が浮かび上がってきてしまった。
なにもよりにもよってこんな時にと思うが、次々に脳裏を過る思考を振り払おうにも意識はついつい腹の感触に注がれてしまう。
ダメだ。
11は、仲間だ。
大切な。

ただ、その大切の意味が最近大分変化した。
この変化はたぶん、彼女に惚れているからなんだと思う。
だから勢い余って間違いを侵してしまう前にこの状況から早く脱したいのだが、一方この感触をもう少し楽しみたいという気持ちもある。
複雑だ。

「それにしてもさぁ、来ないねぇ」
「…そうだな」

あくまで冷静に応える。
こんなこと考えているなんて絶対11に悟られてはならないのだから。


また、しばしの沈黙が流れ始めた。
腹の感触から意識を反らそうと頭上の気配に神経を集中させていると、どうも視線を感じる。
ここには自分と11のふたりしかいないわけだし、視線の主は11なのは確実だ。
一体、なにをそんなに人の顔を見ているのか。
もしかして、不謹慎な想いがばれてしまったのだろうか。
いや、そんなことはないハズだ。
表情の変化など起こしてはいない。
引き続き頭上の気配に集中する。


しばらくそうしていると、僅かに何者かの気配を感じ取ることができた。
仲間の気配だ。
11に教えようと視線を上げたら、顔を手で覆ってひとり鬱々と沈み込んでいる姿が目に入った。

この状況がそんなに不安だったのだろうか。
普段、あんなに勝気に剣を振るっているのに落とし穴に嵌ったぐらいで気が滅入るなんて、なかなか可愛らしいところもあるもんだ。
なにか気の利いた話でもできれば11の気分も晴らすことができるのかもしれないが、あいにく自分にはそんなスキルはない。
11の頭に、軽く手を乗っける。

「心配するな。そろそろ見つかる」

そう言い頭を撫でてやる。
こんなこと位しかできないが。
あとは、食事時にでも好物を分けてやろう。
そうすれば、こんな不安もすぐに忘れられるだろうし。

そんなことを頭に巡らせていると、頭上から物音が聞こえた。

「ほら、来たぞ」

頭上を見上げると、穴の存在に気が付いたフリオニールとティーダが、顔を覗かせた。

「おぉ!クラウド〜、11〜!」

ティーダが手を振ってきたのに対し、11が手を振り返す。

「大丈夫か-?」

心配そうに窺ってくるフリオニール。
ロープかなんか探してくるとこちらに声をかけて、一旦去って行った。
11と、ホッと安堵の息を吐く。

漸くこの状況から脱出できそうだ。
少し名残惜しいが、 このままでいるわけにもいかない。

とりあえずフリオニール達が戻ってくるまでの間、腹の感触を忘れないよう頭に焼き付けておこうと思う。

-end-

2009/11/11




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