落ちる
「…なんか、ゴメン」
「いや…。怪我はないか?」
イミテーションを倒し、意気揚揚とクラウドに報告に向ったら、この有様。
漫画的展開にも程がある。
崩れる足元に体を獲られ、姿を現した穴へと落下する自分を助けようと、腕を掴んだクラウドもろとも落ちてしまった。
この世界で油断は禁物だ。
それを身をもって感じた瞬間だった。
体の方はクラウドが庇ってくれたお陰で、擦り傷程度で済んだけれど…。
「クラウドこそ大丈夫?」
自分の下敷きになっているクラウドの身を案じるも、問題ない、と一言。
背中に担ぐ大剣が丁度壁面を削るように掛かったようで、衝撃のクッションになったみたいだ。
落ち着いた底は人ひとり分の狭さ。
そのせいでクラウドの体の上に座っている状態だ。
頭上を仰ぐ。
深さ5、6mくらいか。そんなに深くない。
光の差し込む入口が広く見えるということは、逆三角形な形状なんだろう。
なにか巨大な杭でも打たれたかのようだ。
「ん〜、どうしようか」
どこか手なり足なり、掛けれるような出っ張りでもあれば、この位なら登っていけそうだけど。
残念ながら見当たらない。
ダッシュ出来れば出れるのに、とひとりでブツクサ呟いているとクラウドから声がかかる。
「近くにフリオニールとティーダがいるはずだ。姿が見えなければ探すだろ」
だから少し落ち着け、とクラウド。
確かに。彼らのことだ。
特にティーダあたりなら、こんな穴を見つけたら興味深々によって来るだろう。
早々に見つけてくれることを期待しながら、ひとまず気持ちを落ち着ける。
「…」
待つとなると、案外時間というものはゆっくり感じるものだ。
きっとまだ少しの時しか経っていないと思う。
たいした話題もなく、少し気まずい。
チラリとクラウドの様子を窺えば、眉間に皺をよせている。
「あぁ〜、ほんとゴメン。重いでしょ」
とは言っても、立てるスペースもなく。
かといってこのままでは、クラウドに苦しい思いをさせて申し訳ないのだけれど。
「11」
「ん?」
呼ばれて目を向ければ、クラウドが何かを指し示している。
示す方向を辿れば、自分の膝。
「せめて、避けれないか?食い込んで苦しい…」
斜めに引っかかっている大剣に寄りかかっているクラウドの腹に、丁度膝が乗り上げている。
「あっ!…もうホント私って、こういうところダメだよね」
壁に手をつき、膝をずらす。
そうすると跨る体制になる。
膝が壁面に当って少し痛いが、クラウドにとっては先ほどの状態より幾分か楽だろう。
「それにしてもさぁ、来ないねぇ」
そうだな、と相槌を打つクラウド。
目を瞑り腕を組んでいる。
クラウドの顔立ちは、女の自分も羨むくらい整っている。
普段、こんなに近くで拝める機会なんてない。
目を瞑っているのをいいことに、じっくり観察してみることにした。
男のくせに睫長いなぁ、とか。
肌、すべすべモチモチしてそう、とか。
あ、なんだか女としての自身がなくなりそう…。
うーん。あぁそういえば、目の色、結構好みだよなぁ、とか。
こんな涼しそうな顔してあんな大きい剣振り回してるし、力持ちだ。
それに、さり気なく優しい。
(う〜ん。…あれ?)
いやいや、仲間としては頼りにしてるよ。
まぁ、ぶっちゃけ顔は物凄く好みだけれど。
(えぇ〜…なにそれ……)
顔を両手で覆い、そっと息を吐く。
気の迷いだと思いたい。
だってそんな不謹慎な。
こんな混沌とした世界で誰かを好きになるなんて。
(いやだ、ありえないでしょ)
ひとり鬱々と沈み込んでいると、ポンと頭に乗る重み。
「心配するな。そろそろ見つかる」
そう言い頭を撫でるクラウド。
またこうしてさり気なく気遣ってくれる。
こっちが戦闘で動きが悪くなってくると、援護に来てくれるし、早めに休憩してくれるし。
食事も自分の好物の時、くれたりして嬉しいけど、でもそれはクラウド食べた方がいいと思う。
普段、ボーっとした風貌なのに、なんでか頼りになるし。
惚れるなって方が無理なのかもしれない。
あぁ、惚れたって認めちゃったよ…。
そんなことに頭を捻っていると、頭上から物音が聞こえた。
「ほら、来たぞ」
とクラウドが見上げる。
こちらの存在に気がついたのか、ふたりが顔を覗かせた。
「クラウド〜、11〜」
手を振るティーダ。こちらも手を振り返す。
「大丈夫か-?」
心配そうに窺ってくるフリオニール。
ロープかなんか探してくると声をかけ、一旦去って行った。
クラウドと、ホッと安堵の息を吐く。
漸くこの状況から脱出できそうだけど。
気付いた想いからは、なかなか脱出できないかもしれない。
-end-
2009/8/21
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