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窺視



(うわぁ……)

様々な形状の岩場の浮かぶ場所にて、11は近くの岩陰へと咄嗟に身を隠した。
ここは数ある戦闘区域の中でも一際異彩を放つ、緑の淡い光に包まれた ”星の体内” と呼ばれている領域だ。
緑色に照らされた空間は不思議であり、そこに浮かぶ岩々などは見ている分には幻想的で大変美しいものなのだが、安定した着地点のないこの場は11にとってはとても苦手とするステージである。
わざわざ好んで足を向けてくる場所ではない。

今日ここに辿り着いてしまったのは本当に偶々で、ただでさえ早々にここから去ってしまおうと動いていたというのに、更なる偶然にも程がある。
いや、偶然ではないのか。
そもそもここはクラウドを追回しているあの男の領域だ。
彼が居たって何も不自然なことはない。
そして別段あの男と戦うことを恐れているわけではないのだが、場所が場所である。
11としては、できればここでは戦いたくない。
己の不運を呪いながらも11はそっと岩陰から下方を窺った。

銀の髪が辺りを窺うように揺れている。
しかし、少しの違和感を感じた11は今一度目を凝らしてよく見てみた。
相手は遥か下方に位置しているうえに岩陰から覗き見ているのだから見難いことは承知のうえだったのだが、銀髪から繋がる身体もまた銀色で色取られていた。

(…イミテーション)

似たような色合いにまんまと騙されたと息を吐く。

(紛らわしいなぁ、もう)

本物でないのなら、このステージでもなんとかなりそうではある。
姿を発見されたら追いかけて来るだろうけど、振り切れる自信もあるのだし。
それならばもう隠れている必要はない。
さっさとこんな所から出て行こうと11が身を起こした瞬間、手を着いていた岩が崩壊した。
その音にイミテーションが反応を示した。
11の姿を目掛けて飛び込んでくる。
急な崩落に受身を取る事もままならずに落下していく11は、イミテーションの掲げる刀を避けるべくに体勢不十分ながらも剣を構えた。
そして急激に視界がぶれる。
それと同時に身体にかかった遠心力。
理解不能な出来事に混乱するのも束の間、11の体が地面に叩き付けられた。
身体を襲った衝撃に次いで痛みが走る。

(う…わ…最、悪……)

頭を打ち付けたのか、意識が遠のいていく11の目に一瞬映った者は、紛いモノではない本物のあの男だった。



「ん…。…あ、れ……?」

僅かに意識が回復してくる。
目を開き、ぼんやりとする視界をはっきりさせるべくに、11はそのままの体勢で何度か瞬きをした。
体が痛い。頭も痛い。
なんで自分は意識を失っていたのだろうかと思い出す。

足場を失って、イミテーションに向って落ちていってそれから…多分、誰かに投げられた……。

「あ!」

身体を打ち付けて、それから意識を失って。
その一瞬の合間に、あの男の姿を視界に捉えていたことを思い出した。
痛む体を抑えて、11は身を起こす。
頭を打ったせいか少しの眩暈がするが、意識は段々とはっきりとしてきた。

あのまま落下していたら剣を構えていたとはいえ、惨事は免れなかっただろう。
なのに今、身体は痛むとはいえ怪我もなくこうして無事にいる。
ということは、助けられた、と考えてもいいのだろうか。
あの男に。
ならばなぜ、と疑問が湧いてくる。
何のために、どうして、あのままやられてしまっていた方が、混沌にとっても戦力が減る事は有益だろうに。
意味不明な事態に11が困惑していると、足音が耳に入ってきた。
嫌な予感に顔をあげて足音の方に目を向けると、案の定、困惑の対象であるセフィロスがいた。

「あの程度で気を失ってしまうとは、柔な鍛え方をしているものだな」

セフィロスが言うような柔な鍛え方などはしていないつもりだが、あんな不足な事態ではどうにかできるものでもない。
しかしこの男にそんなことを言い返したところで無意味だろうことは理解しているから、11はとりあえず言い返すことは口噤んだ。

「…どういうつもり」

なぜわざわざ敵である自分を助けるようなことをしたのかと聞く。

「いくらでも止めを刺す機会は」
「くだらないことを聞くものだ。利用できるものがあれば利用する。当然のことだろう」

11の言葉をそう遮り、セフィロスが屈み込んできた。
逃げなくては、と思うも痛む体では思うように動くはずもなく、せめて牽制だけでもと腰に手をやったが、武器がない。
セフィロスが笑う。
そんなものはとっくに取り上げているに決まっていると。
それでも近寄るセフィロスに抗おうと振り上げてきた11の腕を捕らえて、セフィロスは11をその場に組み敷しいた。

「クラウドが、お前のような女に興味を持っているなど理解しかねるのだがな」

しかしそうなのだから仕方がないのか、と衣服に手をかけてきた。
11はそれの意味するところを悟り、咄嗟に抵抗を試みる。
腕を離そうと引っ張るが微動だにしない。
叩いてみても、涼しい面立ちを崩すことなく、着々と手を進めている。

「こっ、こんなことこそくだらないことでしょ!だいたい興味とかなんとか確かに仲はいいけど、あんたの思ってるような関係なんてないんだから!」

こんなことをしたって意味のないことだという11の喚きにセフィロスは手を止めた。
そしてまじまじと11を見下ろしてくる。
手は止まったとはいえ、見られている11にとっては安心できる状況とは言えない。
ただでさえ一度容姿についてだか技量についてだか知らないが鼻で笑われているのだから、観察されているかの如くの視線は些かトラウマものである。
刺さる視線に居心地の悪さを感じながら11が負けじと睨み返していると、無言で視線を外たセフィロスの手が再び動き始めた。

「って、ちょっと人の話聞いてた!?だからこんなことしたってって」
「仲間、であることには変わりはないだろう」

ならば問題ない、と11の胸元が露になる。
辛うじて、下着のおかげで全てを晒すにはいたっていないがそれも時間の問題だ。
胸を覆うセフィロスの手をどうにかして離そうと、渾身の力を篭めて押しやるがやはり力差ゆえに適わない。
どうすればこの状況を打開することができるだろうか。
いっそのこと一度好きにさせてみれば…手強い相手といえども男であることには変わりないのだし、事に及ぶ時の一瞬の隙をつければ。
いや、それよりも……。
11がそんな思考を巡らせていると、ふと体が軽くなった。
跨っていたセフィロスの姿が目の前から消えている。
変わって、クラウドの姿が目に飛び込んできた。

「11、大丈夫か」

一閃薙ぎ払った大剣を降ろして、11の身を起こす。
怪我はないかと様子を窺ってくるクラウドに11は頷き返した。
少し離れたところに立つセフィロスは負傷した様子もなく、どうやらクラウドからの攻撃は避けていたようだ。

「不意打ちとは、卑怯なことをするものだな。クラウド」
「こんなことをしていたアンタに卑怯者呼ばわりされるいわれはない」

英雄も地に落ちたものだと、クラウドはセフィロスに目を向けた。

「お前が追って来ないからだろう」

セフィロスがクラウドを見据える。

「彼女は、関係ない」
「関係ないと言うのなら、私がその女をどうしようがそれもお前には関係ないことだと思うが」

そう、セフィロスの視線が11に移った。
11はセフィロスを睨み返す。
仲間なのだから関係ないはずがない。それをわかっていてこの男はわざとクラウドの揚げ足を取るような応えを返している。
嫌な奴。
それは人を見下した態度から充分に計り知れていたものだけれど、あらためて11はそんな印象をセフィロスに対して抱えた。

「…アンタは俺が追っかければ満足なのか」

クラウドはセフィロスの視線を妨げるように11の前に移動した。
満足、と問われればそうなのかもしれない。
だが、ただ追わせるだけなら至極簡単なことだ。
調和の者を誰かひとり捕らえて、それを餌に誘き寄せれば済むだけのことなのだから。
そう考えて、この次元に入り込んできたこの女を捕まえてみたのだが。
武器がなくても戦意を喪失しないとはなかなかに見上げた性根を持っている。
ああやって押し倒してみても、観念せずに抵抗を試みるなど…面白いモノを見つけたかもしれないとセフィロスは思う。
それならば、この退屈な世界で少しばかりの余興を楽しむのもいい、とも。

「さぁ。それはどうだろうな」

そんな言葉を残して、セフィロスの姿は消え去っていった。
そのすぐ後に、岩に落ち響いた金物の音。

「あ、それ私の」

11が地べたに転がる剣を拾い上げた。
自分の手に馴染んだ武器が戻ってきたことに図らずも11は安堵してしまう。
それから傍らに立つクラウドを見上げて助けてくれた礼を述べる。
本当に危機一髪だった。
最悪、敵の目を欺くために一度は体を許してしまおうかと考えていたのだから女の身としてもそんな事態に陥らずに済んだ事はとても嬉しい。
そう紡ぐ11にクラウドによる無言の視線が突き刺さっている。

「クラウド?」

どうかした、と様子を窺う11にクラウドが屈み込んできた。
一瞬、先ほどの映像が11の頭を過り肩を揺らしてしまったが、クラウドのとった行動は横に落ちていた衣服を拾い上げるためのものだった。
さっさと着ろと手渡される。
そこになってようやく11は思い出した。
上半身の衣服を脱がされていたことを。
別に下着を着けているのだから仲間なのだし見られたところでどうといったこともないのだが。
それにお互いそんな意識はしていない…はずなのだが、僅かにクラウドの頬が染まっている様を見てしまっては11も慌てざるを得ない。
ゴメン、やら、お見苦しいものを、と紡ぎながら急いで袖を通して身なりを整える。

「でも、ホント助かったよ。ありがとね、クラウド」

あらためて礼を告げるとクラウドは自分こそ巻き込んでしまって悪いと返してきた。
その辺りは誰が誰を相手にしていようがお互い様なのだが、そうとは言わずに11は大丈夫だとそれだけを返す。

「しばらくは俺…か、他の仲間でもいいけど、誰かしらと行動した方がいい」

あの男のことだから、またしつこく迫ってくるのは目に見えていると言うクラウドに11は素直に頷く。
最後に残していったあの曖昧な言葉がそれを匂わせているのだからクラウドの言うとおり用心するに越した事はない。

「それと、11」

11が立ち上がるのを手伝いながらクラウドが言葉を続ける。

「装備を少し見直したほうがいいと思う。そんな軽装じゃ、身包みはがされるのもあっという間だろ」

まぁそんなことはもう二度とないとは思うけど、とクラウドが背を向けて歩き始めた。
確かに、ティナとまではいかないが少々軽装感は否めない。
11にとっては力で劣る分素早さ勝負を考えてのものだったのだが、先程の出来事を考えれば万が一に備えてもう少し装備は考えた方がいいのかもしれない。
11は先に行くクラウドの隣に走りよっていった。

「着込んでたら、ちょっとは時間かせげるもんねぇ」
「…そうだな」
「そしたらクラウドも少しは余裕になるかな」
「…まぁ、そうなる前には駆けつけたいけどな」

まずはそんな事態にならないほうが第一だろとクラウドは呆れたように息を吐くと、11がそれもそうかと苦笑を零した。
今回は助ける事ができたから良かったものの、彼女は基本的に男ってもんをよくわかっていないようだ。
装備を見直せとは言ったがそんなものは気休め程度の効果しかなく、たとえ相手にそんな気はなくてもやろうと思えば勢いに任せて事に及ぶことくらいできるものだ、男というものは。
その辺りに特別興味がなければ気が付かないことかもしれないが、それでも危機感がなさ過ぎじゃないだろうか。
あんな目にあったばかりだというのに、今はもう何事もなかったかのようにあっけらかんとしたものだし。
だいたい服を脱がされていても隠すことなく自分と接してくるあたりもどうかと思う。
仲間とはいえこっちは男なのだし。
おかげさまで少しばかり凝視させては貰ったが。
それに勝気なのは大変いいことだとは思うが、これでは余計にあの男の興味を引いてしまうことだろう。

やはり他の仲間ではなく、しばらくは自分が彼女と行動を共にしたほうがいいのかもしれない。
次会ったら絶対にぶちのめすと腕を掲げる11に、そんなことを思うクラウドだった。

-end-

2011/2/23 気楽さまリク




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