胸を打つ音
「見事なものだな」
目の前に浮かぶ剣を手に取り、傍らに佇む少女に声をかける。
「ありがとうございます、ウォーリアさん」
少女…11はにこやかに応えた。
「でも、私の作り出すモノだけでは皆さんの力を存分に引き出すことが出来ないのが残念です。
素材なしで生成できれば、もっとお役にたてるんですけど…」
剣を鞘に収めた戦士は、申し訳なさそうな微笑みを浮かべながらそう紡ぐ少女に顔を向ける。
自分達の力になるだろうとコスモスより託された少女、11。
戦いに身を置く者とはとても思えない風貌に一抹の不安が過ぎったものだが、少女の働きぶりを見ているうちに、剣を交えることだけが戦いではないのだと、改めて知ることとなった。
「いや。素材を集める事は我々の能力を高めるためにも丁度いいのだと思う。
武器に頼ってばかりでは、いつか己を無くしてしまうものだ。
11には感謝している」
こうして、レベルに見合う武器を手に入れるためにはそれなりの材料を集めなければならない。
その収集過程において能力の更なる向上に勤められることはありがたいことだ。
彼女が何でも出せるというのなら、それに甘んじて鍛錬を怠ってしまう可能性もあるのだから。
そして、その懸命さ。
生成という己の役目に誇りを持っているのだろう。
力が必要と在らば、いつでも召喚主の元へと赴いていく。
仕事を終え自分の元へ戻ってくれば、仲間の近況を知らせてくれたりもする。
出会った当初は少々鬱陶しいという感もあったが、今ではそれが当たり前のこととなった。
(慣れ…、とでもいうのだろうか)
不思議と、自然に口元が綻ぶ。
ほんの僅かだが。
それを目に留めた11は、思わず胸が高鳴るのを感じた。
一人では寂しくないのかと、余計なお世話ながらも殆どの時間を彼と共に過ごしてきたが、彼の表情の揺らぎを見たのは初めてかもしれない。
動揺する心を悟られまいと、言葉を探す。
こちらに目を向けたままのウォーリア。
和らいだ表情こそ、もうすでに消えてはいるが、ジッと見つめられたままでは落着かない。
いきなり顔を背けるのも失礼な気がする。
「えー、…えぇと、そう言ってもらえると私、もっと頑張れる気がしてきました!」
落着かないながらも何か返答しなければ、と目を泳がせながらひとまず当り障りのない言葉を返し、漸く彼から視線を逸らす。
(なんだろう、この感じは…)
耳が、熱い。
初めて感じるこの鼓動に少女は戸惑う。
今までこんなコトは無かったのに。
彼の実直さに惹かれているのは確かだが、それとはまた違う感じの胸の疼き。
ざわつく心をなんとか落ち着かせようとしていると、頭に僅かな重みが触れてきた。
それを受け視線を上げる。
そして、更に鼓動が高鳴ることとなってしまった。
あきらかにその顔に微笑を浮かべているウォーリア。
「これからも我々に の力を貸して欲しい」
そう言い、頭を優しく撫でてくる彼に。
-end-
2009/3/16
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