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無意識



(………)

目が覚めてしまった。
おそらく夜明けはもう少しなのだろうけど…。
体の疲れは残っていないから、充分休息は取れたようだ。
横で眠っている11は起きる気配もなく、頭まで毛布に包まって深い眠りについている。
皆と合流しなければならないとはいえ、流石に今起こすには早すぎるか。

かといってこれだけ目が冴えていれば横になっていても眠気は訪れない。
暇つぶしに辺りを散策しようとも思ったが、眠っている彼女ひとり置いたままにしておくのは躊躇われる。
ひとまず身を起こして、火の消えていた薪を熾す。

特にすることもなく、揺らめく炎を眺めながら時間をやり過ごそうと思ったが、ふと思いついた。
丁度いい具合に時間がある。
それなら剣の手入れでもして時間を潰そうと傍らにある大剣を手に取る。
磨き終わる頃にでも11を起こせばいいと、荷物から適当な布を取り出し手入れに入る。


「んん……」

毛布の中から漏れてきた篭った声に目を向ける。

「11?」

起きたのかと思い、声を掛けてみたが返事はない。
モゾモゾと毛布の中で身を捩っている。
しばらくその様子を眺めていると、毛布の端から顔を覗かせた。
焚火を熾したことで暑くなってきたのか、顔がほんのりと赤く色づいている。

(…)

その光景がすっかり忘れていた昨夜の夢を思い出させた。
だからといって、体の熱は解放させたばかりだから疼くということはないのだが、少しばかり気恥ずかしいかもしれない。
いや、11はなにも知らないのだから気恥ずかしいもなにもないのだが。

11から目を反らし、剣の手入れを再開する。


度重なる連戦で、大分刃の光沢が落ちてきている。
手入れといっても、油など専用の道具などここには持ってきていないからひたすら布で磨き上げるしかないのだが、何もしないよりはましだろう。
素材さえ集めてしまえば、いつだって新しいモノに変えられるとはいえ簡易的にも手入れを怠っていてはいけない。
戦闘中に武器の変更など当然ながらできるわけもないのだし、肝心な時に使い物にならなくなってしまっては危険だ。


(…泣顔か)

夢を思い出したせいか、不意にそんなことが頭を過った。
笑ったり怒ったり、悔しそうな顔は何度となく見てきている。
だが11の泣顔は見たことがない。
想像もつかないし、そんな顔をさせてはいけないとも思うが…悲しみを伴わずに見れるといったら、やはり夢での出来事のようなことだろうか。
我ながら朝っぱらから不謹慎だと思うが、それなら見てみたい気もする。

(まぁ、ムリだよな)

11は大切な仲間だし、自分自身11のことを恋愛対象として好きなのかどうかイマイチ確証を得ていない。
可愛いとは思うがただ単に、身近にいる異性ってだけでの欲の捌け先なのかもしれないし。
そもそも11が自分の事をどう思っているかという問題もある。
なんでもそうだが、独りよがりな考えはよくない。


「う…クラウド……?」
「起きたのか」

おはよう、と目を擦りながらゆっくりと11が体を起こす。

体を起こしたはいいがまだ完全に目が覚めきっていないのか、頭が徐々に下がっていく。
意外に目覚めが悪いんだなと思うも、このまま放っておいたら地面に顔面強打は免れない。
肩を掴んでしっかりするよう促すと、漸く覚醒してきたようだ。

「まだ早いし、もう少し寝ててもいいんだぞ」

昨日はだいぶ疲れていたようだしと付け足す。
すると首を振って大丈夫だと、苦笑を浮かべた。
考えてもみれば疲れていたにもかかわらず昨夜あれだけアイツについての悪態を語っていたのだから、彼女の言うとおり大丈夫なのだろう。
11が起きたのならここを発つ仕度でもしようと片付けに入る。


「あ…」

思わず声が出てしまった。
その声に11が振返る。

「うわ、大丈夫?」

と、剣に引掻け斬れた指先を覗いてきた。
ポーションを使うほどでもないし、確か荷物の中に絆創膏があった気がする。
取り出そうと片手で中身を弄っていると、傷ついた指先に湿った感触がした。
目を向けても11の頭で丁度様子が見れないが、これは指先を舐めていないか?
いや、舐めるというよりも感触からして口に咥えている、と言ったほうが正しいのか。
おそらく止血のつもりでこうしてくれているのだろうけど…。

「11」

呼ぶと顔の角度をずらしてこちらを見上げてきた。
所謂、上目使い。
それに加えて傷に絡まる舌や、止血しようと軽く吸い付いてくる唇。
いろいろと妄想をかきたてる光景ではある。

(なんというか…エロい)

この一言に尽きる。


11にしてみれば咄嗟の判断の結果なのだろうし無意識なのだろうし勘違いしてはいけないとはわかっているが、こうも献身的にされてしまうと邪な考え抜きにしたって誘われてるのではないだろうかと勘繰ってしまうんだが。
彼女にそんな気は一切ないのはわかっている。ただの善意だ。
しかしこういう考えに及んでしまうということは、やはり自分は11のことが好きなんだろうか。
誘ってほしいとか、触れたいとか、慈しみたいとか…。
あれもしたい、これもしたい。こう思ってしまうのは果たして愛情なのか単なる欲情なのか。
考え始めたら限が無い。


「ありがとう11。もう大丈夫だ」

頭を撫でて、口を離してもらう。
水筒を渡して口をしっかりすすぐよう促すと、少し離れたところへ移動していった。
その間に荷物から絆創膏を取り出し自分で貼り付ける。


「血、止まった?」

と再び心配そうに覗き込んできたが、お陰さまでともう一度頭を撫でるとホッと嬉しそうな顔を向けてきた。
その顔を見てこちらも思いがけずに心が和んだ…ということは。

あぁ。解かった。

これは”やはり”なんかじゃなく確実に11に惚れている。
だからあんな夢を見てしまったのかもしれない。
無意識のうちに生まれていた自分の願望ってやつだ。

応えなんて案外あっさりと導き出されるものなのだとひとりそっと苦笑を零す。


「皆、心配してるかもな」

行こう、と11に声をかける。


今はまだ、気付いたばかりの自分の気持ちを伝えるなんてことはしない。
急ぐことはない。ゆっくりでいい。

いつか11にも自分に同じ想いを抱いてもらえるよう、ともに進んでいこうと思う。

-end-

2009/12/15 カノン様リク




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