関心2
「ちょっと待て」
「なんですか。眠いんですけど」
就寝に向おうと颯爽と歩いていた11だが、ジェクトに会うなり呼び止められてしまった。
「なんだそのカッコは」
「寝巻きです」
そう言い11はクルリと身を回してジェクトに己の姿を確認させる。
「一応聞いてみるが、どこで寝るんだ?」
「セフィロスさんのところですよ」
当然といわんばかりのふてぶてしい態度で返事をしてきた。
ジェクトはそれに呆れたように息をつき、11の肩に手を置く。
セフィロスが寝室に入ることなど許可しているとは思えないし、きっと11のことだからコソコソと潜り込むつもりでいることは容易に想像できる。
できるが、この少女は何を思ってこんな格好をしているのか。
セフィロスの部屋に行くということは寝込みを襲う気満々であるのはハッキリしているのだが。
「もう一度聞くが、そのカッコはなんだ?」
「だから寝巻きですってば」
同じことを二度も聞かれ、不服そうに手に持っている剣を振り回す。
その剣がジェクトの腕にペタリと当った。
それを受け、ジェクトの口からは再度溜息が漏れる。
腕に当った剣…に巧妙に似せて作られた柔らかなモノ。
一般的にはヌイグルミやら抱き枕とでもいえばいいのだろうか。
まさしくそれである。
そして11の寝巻きと言い張るこの姿。
どこをどう見ても寝巻きではない。
人の趣味にケチを付ける気はさらさら無いが、流石にこれはないだろう。
確かにその姿なら、パッと見でもなんらかの反応はしてくれるかもしれないが。
「…入った瞬間に、刺されるんじゃねぇのか」
そう指摘する。
「えっ!その可能性も無きにしも非ずですかねっ?」
それは困ると途端に慌て始めたクラウドの衣装に包まれている11。
セフィロスの気を惹くためといえども命は惜しいらしい。
頭を抱えて唸り声を出している。
そんな11の様子に、こんなおかしな女に付き纏われてセフィロスも大変なもんだと少しだけ不憫に思う。
だから、とりあえずはまともな方向に持っていこうとひとつ提案をする。
「まぁよ、月並みかもしんねぇが。こういう時にはだな、もっとこう…露出高いヤツの方が、アイツも喜ぶ?んじゃないか」
「…”?” が気になりますけど、うん。ですよね。正攻法が一番ですかねー」
頭、捻りすぎましたと抱き枕のバスターソードを肩に担ぐ。
分かっているなら最初からオーソドックスに仕掛ければいいものをと思うが、相手はセフィロスだ。
そう易々と靡かないのは目に見えているから11なりに考えた結果なのだろう。
その結果がクラウドコスプレというかなり偏ったものだったが、結局は”シンプルに夜這いスタイルで行ってきます”とジェクトに告げ、いそいそと11は自室へと去って行った。
態勢を調えなおし、セフィロスの寝室前。
ソロっと扉のノブを指で突っつく。
反応は無い。
どうやら本日は罠は仕掛けられていないようだ。
何度かこうして深夜に忍び込もうと挑戦している11だが、だいたいいつもここで挫折している。
なんの魔法がかかっているのか、ノブに触れようものなら全身に電気が走ったかのような痺れが流れしばらくその場から動けなくなったことがあった。
それ以来、まず指先で突付いて確認をするようになった。
ドアノブに手を掛けて、慎重に扉を押す。
鍵はかかっていない。
これは占めたと思いながらも、ゆっくり、静かに部屋へと足を踏み入れる。
部屋の奥には大きなベッドがひとつ。
そこに眠っているセフィロスの姿を目に映し、11は心の奥底でガッツポーズをした。
ここからでは確認できないが漸く拝めるセフィロスの寝顔に鼓動が高まってくる。
音をたてないように、開けた時と同様に慎重に扉を閉める。
それから忍び足で、徐々にベッドへと近づいていく。
もちろん部屋に入る前から気配は消している。
その辺りは抜かりない。
物音をたてて起こしてしまわないように、周りに気を付けながら薄暗い室内を進みベッドへと辿り着いた。
こちら側に背を向けているから獲物の顔は窺えない。
靴を脱ぎ、ベッドへと上がる。
キングサイズのベッドは広い。
11に与えられたベッドはシングルなのだが、この対応の違いに不満が過りながらも目の前の獲物に集中して四つん這いにソロソロと近寄る。
セフィロスの横に正座をする。
いよいよだ。いよいよ念願のセフィロスの寝顔が見られる。
昂ぶる気持ちを深呼吸で落ち着かせ、意を決して背を向けているセフィロスの顔を覗き込む。
と同時に顔を何かで覆われた。
覆われたと言うよりも掴まれたという表現が的確かもしれない。
技名で例えるなら、プロレスで言う所のアイアン・クローである。
「おまえもたいがい暇なようだな」
「いえいえ暇じゃないですよー、ってか、この手、離してくださいー!」
顔を掴むセフィロスの手を離そうと腕を引っ張るがびくともしない。
指の隙間から窺える横たわったセフィロスも美しいなどと思わず見惚れてしまいそうになるが、まずは手を離してもらうのが先決だ。
ギリギリと掴まれているこめかみがそろそろしんどい。
「何しに来た」
「何ってそりゃあこんな時間に来ると言ったら、ねぇ?」
と返答する11にセフィロスの手の力が篭る。
「イタイイタイイタイ!わーっ嘘ですっそんな気は少ししかありませんっ!」
だから離してー!と騒ぐ11にセフィロスは手を離す。
顔を解放され、11はこめかみを抑えて一息つく。まだ少しジンジンする。
不覚にも見つかってしまったということは部屋から出て行かなければならない。
それでも横たわっているという、普段お目にかかれない姿を見れただけでも良しとするしかない。
これ以上しつこくしてみても命が危ないのはわかっている。
一応引き際は心得ているのだ。
そう考えベッドから去ろうとした刹那、胸元を引っ張られた。
「こんな服などあったのだな」
関心を寄せるかのように11の姿を一瞥する。
「あー…これは、ミシアさまからお借りしたんですよ。こんな露出高いのなんか持ってませんもの」
やっぱ似合わないですかねー、と11は照れくさそうに頭をかいているがその心中はセフィロスが反応を示してきた戸惑いでいっぱいである。
「どうりで。ガバガバだ」
と掴んだ布地の余った部分を指摘してくる。
鼻で笑われ、”ですよねー”と苦笑いをひとつベッドを去ろうする11だがセフィロスの手が服を掴んだままで去りようが無い。
「あのー、そろそろお暇しようかと」
とセフィロスの手を指し示す。
「一緒に、寝るのだろう?」
そう笑みを向けてくるセフィロス。
「えっ!?」
動揺のうちに布団の中へと引きずり込まれていく。
この展開は一体どういうことなのだろうかとチラリとセフィロスを窺うと、なんともいえない笑みを浮かべてこちらに目を向けている。
「えーと、…襲ってもいいってことですか?」
「触れたら刺す。寝ろ」
その殺気に急いで目を瞑る。
何の気紛れかわからないが、横たわる姿どころかこうして布団をともにできるなんて予想以上の充分な収穫だ。
もしかしてこの衣装のお陰なのだろうか。
それなら自分の考えたクラウドコスプレ作戦に軌道修正の案を出してくれたジェクトには一応明日にでも感謝を伝えにいこう。
そう心に決め眠りにつこうとする11だが、セフィロスからひしひしと感じる視線が落ち着かない。
「…そんなに見られていると眠れないんですが」
「おまえがやろうとしていたことを代わりに私がしているだけだ。気にせず寝ろ」
11がしようとしていたこととは少し違う気もするが、とはいえ落ち着かないことには変わりは無い。
この状態で果たして眠ることができるのかどうか。
長い夜を迎えそうな予感とともにセフィロスの視線から必死に意識を遠ざけようと試みる11だった。
-end-
2009/12/21 あずさ様リク
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