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災難その先(締)


フリオさんの銀の髪が好きです。
首元で結わえて、背中に揺れるそれをいつも目で追ってました。
引っ張ると、文句を言いながらも仕方ないヤツだなって呆れた笑顔を向けてくれるのが嬉しかったです。
それから、いつも私の我侭を聞いてくれてありがとうございました。
フリオさんの困った顔、好きなんです。
私のやることに困ったり、怒ったり、呆れたり、そんなひとつひとつの小さなことでも私に目を向けてくれるのが嬉しくて仕方がなくてつい調子こいたりもしましたけど。

あ、ひとつ謝らないとです。
実はまだお酒飲んじゃだめなんですよ、私。
嘘ついてごめんなさい。
でも、ああでもしないと自分の踏ん切りがつかなくて。
少しお酒の力を借りちゃいました。
だって、素の私ではいつもみたいに戯れに纏わりつくことはできるけど、あんな、誘うようなことなんて出来ないですよ。
フリオさんも調子こいて誘いに乗ってきたから、まぁ、それはおあいこってことで。

え?しっかり覚えてますよ。フリオさんにされたことならなんでも。
傷の手当てもしっかり覚えてますもん。
あれ、ほんっっとーーに痛かったです。容赦ないですよね、ポーション使いたかったのに。
おかげさまで生きてる実感は思いっきり味わえましたけど。そういえば未だにあの楽しそうな顔が頭に焼き付いているんですけど、あれってなんだったんですか?
秘密?なんか解せないんですけど、手当て、楽しんでたとかじゃないですよね。…その否定振りが怪しいですよ。

突拍子ないのは、それは、うーん。否定はしません。
フリオさん、なんだかんだ言って守ってくれるし。それに甘えていたというか、やりたい放題やらせてもらったというか。
あの時、キスしたの覚えてますか。そう、私からした時です。
あの硬直っぷりはそうそうお目にかかれないですよね。うん。だって、せっかくふたりきりだったし、私の精一杯の勇気です。
フリオさん、奥手っぽいし、まさかあのままあんな流れになるとは思いませんでしたけども。

セシルさんですか?
いろいろ相談乗ってもらいました。頼れるお兄さんですよ〜。なんでも話せちゃいます。
アドバイスもしてくれたりして、落ち着きのある人だし、なんていうか有無を言わせない雰囲気があるって言うんですか?
なんか誘導されているような気もするけどもついお話しちゃうんですよね〜。
クラウドさんは、優しいです。ポーションくれるし。ポーション、なんでいつも常備していたのかちょっと不思議でしたけど。
あはは、弟ですよティーダは。なんでそんなに拘ってるんですか?なんかありましたっけ?

銀髪好きですよ〜。
ウォーリアさんなんて、モフモフしてましたよ。梳いても梳いても、なかなか梳ききれないんです。モフってなって。
みつあみでもして纏めましょうかって聞いたら、笑顔で背負い投げされましたもの。きっと結構自分でも気に入ってるんですよ、あのモフ毛。
あれ、なんでそこで溜息なんて吐くんですか?
はぁ、まぁ気にしませんけど。

まだ聞きたいことあるんですか?
…年ですか?
今更じゃないですか。お酒はだめってあたりで察してください。
だいたい乙女にそれを聞くのは愚問ですよ。
乙女じゃないって?そうなったのはフリオさんのせいじゃないですか…って言った本人が赤くならないでくださいよ、こっちまで恥ずかしくなるじゃないですか…。
勢い余って、こんな関係になっちゃいましたけど。
私は満足です。別れなんて、最初から判りきってたことだったじゃないですか。

この世界で、フリオさんは私の全てでした。
正直、クリスタルとか私、関係なかったですし。
だから、泣かないでくださいよ。
これから、フリオさんはフリオさんの世界に帰れる。
私も同じです。
夢は終わらないって、そう言ってたのはフリオさんでしょ。
そこになにが待ち受けているかはまだ思い出せないですけど私もフリオさんみたいに、夢、追いかけてみますね。

うぅ、なんか意識が遠のいていくカンジがします。
は?名前?
フリオさん。
違う?
も〜、我侭言わないでください、最後だっていうのに。どっちがだって?我侭さにかけてもおあいこですよ。
だから言いません。
だって、言い難いんですもの。
なんですかその苦笑い。私らしいですか?ありがとうございます。
そうやって、笑い顔でお別れしましょうフリオさん。

「フリオさん。大好き」

その言葉が彼にしっかり届いたのかは、薄れた私の体ではもう確認できない。
目の前が真っ白になる。
遠のく意識の果てに、”俺もだ” と聞こえたのは、決して空耳ではなかったのだと思いたい。



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白く、眩い光。
意識が薄らと戻ってくる。

なんだか、とても長い夢を見ていたような気がする。
そのせいか体が重く、だるい。
まだ起きる気力も無く、目を瞑ったまま時間をやり過ごす。

まどろみの中、幸せなような、そうでもないような、不思議な感覚が身を包む。
夜が明けたのなら早々に起きなければならないのに、こんな感覚がひどく心地よくて目覚めを拒否してしまいたくなってしまう。
うつらうつらと脳裏に揺らめく、なにかの断片。
それを掴もうと手を伸ばしてみるが、それを掴むことは叶わない。

そのうちに、自分を呼ぶ声に再び意識が呼び起こされた。

「ちょっともう。いつまで寝ているの、フリオニール」

そう体を揺すられている。
呆れたような声音に目を開けば、声と同じく呆れた面立ちのマリアがベッド脇に立っていた。
身を起こし、寝ぼけ眼ながらにここは…と呟く。

「どうしたの、フリオニール。まだ寝てるの?」

こちらの目の前に手を翳して振ってきた。
そこでようやく意識をはっきりとさせる。

ここはアルテア。反乱軍のアジトだ。
こうしている場合ではないというのに、なぜかすぐに動く気にはなれない。
そんな自分を心配そうにマリアが窺っている。
心配させてはいけないと思ってはいるのだが。
でも、なんだろうなこの虚無感は。
ぽっかりと、何かが抜け落ちたような侘しさ。
やるべき事は山ほどあるというのに、義妹にこんな顔をさせてしまっている自分が不甲斐ない。
とりあえず何か、言わなければ。

「夢を、見たんだ」

そう言葉を紡ぐ。
どんな夢だったかは覚えていない。
ただ、自分にとって忘れてはいけないような内容だった気がするのだが、それなのに思い出せない。
夢とは儚いものだと溜息を吐く。

「それなら、その夢も探せばいいじゃない」

我が義妹ながら、前向きな言葉をかけてきた。
しかし、探すといったって忘れてしまっているのだから、何をどうやって探すのかなんて皆目見当もつかないのだが。

「うーん。でも、忘れてるだけなら、きっとそのうちに思い出すのかもしれないでしょ」

なるほど。
マリアの言うとおり、いつの日か不意に思い出すことができるのかもしれない。
随分昔に見た夢を、ふと思い出すことがあるように。
はっきりとしないながらも、気にかかるほど印象に残っているのならきっと。

「ほら。ヒルダさまがお待ちなの。早く行きましょう」

そうマリアに手を引かれ、寝室を後にする。


たかが夢。
されど夢。

現実の願いとしても、眠る時に見るものだとしても、夢を追うことは決して悪いことじゃない。
人は夢があるから進んでいけるんだと思う。
それが自分にとって良いものなのか悪いものなのかも判らないけれど。
それでも、なぜかその夢を追ってみたいと思わせるものは何なのか。


「うわっ」
「フリオニール!?」

突如、つんのめってしまった勢いのままに、地面に顔面強打してしまった。
痛む鼻を撫でながら、後ろに振り向くとそこにはひとりの女がいた。
なんともとぼけた顔をこちらに向けている。

「あ。すいません」

そう謝りながらも、こちらのマントを指して長すぎるだの邪魔だの小言を言っている。
見覚えのあるこの少女。
ミンウの使いだとかなんだとか、何度か顔を合わせたことがある少女だ。

「ミンウさまもお帰りですよ、フリオさん、マリアさん」

自身も縺れて倒れていた体を起こしながらそう声をかけてきた。
それだけを言いに来たのだと去っていく彼女の後姿を見送り、こちらも立ち上がる。
そういえば、初対面の時から名前が長いだの言い難いだの文句を言いながら自分をああいうふうに呼ぶのは彼女だけだ。

あぁ思い出した。
つい先日も、食事ができたと呼びに来たのはいいが席につくなり盛大にコップの飲み物を零してくれてたな。
それだけじゃない。
彼女に関わると碌な事にならなかった気がする。

なのになぜかひどく懐かしい気がするのはなんでだろうか。

-締-

2010/3/15




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