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少しの災難 その4



さて。
今、目の前には11がいる。
狭いテント内、言われなくてもこちらに向って行儀よく正座をしているわけだが。
相変わらず記憶が戻るどころか、益々ティーダとの仲が深まっていくのをいよいよ見かねてこうして話をしようと呼んでみた。
話といっても、自分の聞きたいことと言いたい事。その二点だけだからそんな話というほどのものでもない。
ただ、11が誰かを好きになるのなら自分は潔く身を引こうと決めていたんだけどな。


「記憶、戻らないな」

そう言われても返答に困るのは判っている。
記憶のない者にとっては、今の状態が当たり前なのだから戻るも何もないのだろうし。
最後の悪あがきというのか。
男らしくないのは承知している。

だけど今の11の気持ちをしっかり聞きさえすれば少しは自分の気も晴れやしないかと考えてのことだ。
そして自分の思っていることも、記憶のない彼女には到底解かってもらえる話ではないかもしれないが言っておきたい。

「11は、ティーダのことが好きなのか?」

そう聞かれて11は首を傾げる。
その表情は困惑気、とでも言い表せばいいのだろうか。
なんだかスッキリしない面立ちだ。
11自身、よく判っていないのだろうか。

幾らいつもと違う素直な彼女といえども根本的なものは生まれ持ってのものなのだろうし、こういう曖昧な部分は変わっていないらしい。
そうなると少しばかり、ティーダが不憫にも思えてくるが今頭を廻らすべき所はそこじゃない。

「えーと…。好きといえば好きなのかもしれないです」

11が口を開く。

「とても大事にしてくださるんですよ。私も一緒にいて楽しいんです」

ああ見えて結構頼りになりますし、ティーダさんの雰囲気には癒されますし…と愛しそうにティーダについて言葉を紡ぐ11に、直接聞くことはなかったがかつての自分もそう想われていたのだろうかと思うと胸が痛む。

「うん…まぁ、好き、なんだろうな。ティーダのこと」

こうして自分以外の誰かについて嬉しそうに話す11を目に写し、溜息を吐く。
思っていたよりも精神的にくるものだ。

「でもですね」
「…なんだ?」

でもなにか物足りないんです、と再び首を傾げた。

多分、その物足りなさの原因を自分は知っている。
今まで人の迷惑を顧みることなく、さんざん好き放題に過ごしてきた彼女だ。
根本的なものが変わることがないというのなら、奥底に潜んでいるそういった本来の性分が物足りなさを醸し出しているのだろう。
その物足りなさが、先ほどの困惑気な表情を招いていたのか。
ここでそんなとこを追求した所で何が変わるということもないのだが。


「あー…じゃあ、俺の言いたいこと、聞いてくれな」

皆からも言われてるであろうことをもう一度話す。

記憶が無くなる以前には、自分達は所謂恋人という関係だったということ。
そういう関係になる前から11からもたらされていた災難な日々のこと。
それでも自分はなぜか11に惚れたし、回りくどいながらも11も自分を慕ってくれていたこと。

「記憶が無くなって俺とのことを忘れてしまっていて気味悪いくらい素直になった今の11も、11は11でしかないし、好きなのは変わりはないんだ」

言いたいことはそれだけだと、11の頭に手をやり軽く撫でる。
こうして心地よさそうに目を細める姿も見納めかと思うと胸が詰まるが人の気持ちばかりは変えようがないのだから仕方が無い。
まるで嫁に出す父親の心境になってきたが、こんなところでも保護者な気分を味わってしまうなんて自分達らしい別れというかなんというか。

「えぇと…私には以前の私が禄でもないモノにしか思えないんですけれど」

それでもフリオさんがそんな私を好きでいてくれたのはよくわかりました、と頭に乗っけている手を掴み降ろす。

「ごめんなさい。思い出せなくて」

降ろした手を握り、こちらを見つめてくる。
こんな従順な態度なんて彼女らしくない。
彼女らしくないが、惚れた弱みかこんな姿も愛らしく感じてしまう。

しかしそもそも元が今のようにしおらしい11だったら好きになっていただろうか。
きっとあの傍若無人な彼女だったから惚れたのであって、それがあってこそ今この想いを維持できているのだろうし…。
ぶっちゃけ、11じゃないが物足りなさに惚れる惚れないの問題なんて無かっただろうな。
まぁ今更考えていても状況が変わるわけでもない。

聞きたいことは聞けた。
言いたいことは言えた。
それでいいじゃないか。

最後に腕を引き寄せ、11をぎゅっと抱きしめる。

「あの…フリオさん…」
「たぶん、こうできるのも最後だから」

口付けさせてくれとまでは言わない。
抱きしめるだけでいい。
その温もりを忘れないよう体に焼き付けておきたい。

「好きだ。とても」

どうしようもないほど判り難いヤツだったけれど、それでも自分はそんな11が大好きだった。
これからはまた、仲間として共に戦っていこうな。

そう告げ、体を離す。
すると今度は11から体にしがみ付いてきた。
驚きに目を見張る。

「11?」
「…判り難いとかは余計ですよ〜」
「おまえ…元に戻ったのかっ?」

グイグイと胸に顔を押し付けてくるこの反応。
これは…まさしく戻った証じゃないだろうか。
戻ったとなれば、まずは早速確認しなければならない。

「好きかっ?」
「なんですか、も〜。いきなり意味不明なこと言わないでください」

おまえに言われたくない、とはここでは堪える。

「いや。だっておまえ…ティーダのこと好きなんじゃないのか?」
「ティーダは弟みたいなもんですよ〜。ていうか犬っぽいですよね、わりと」

あぁペットっぽいカンジっていうんですか、などとモゴモゴ胸元で喋っている。
その扱いにティーダにはご愁傷様としか言い様がないが、なにはともあれどうやら元に戻った11の様子に安堵の息を吐く。

「心配した」
「なにがなんだかさっぱりなんですけど」
「そうなのか?」
「とりあえず、体が鈍っているような気がするのは気のせいでしょうか」

こいつは我侭に生きていかないと体が鈍るのか?呆れたヤツというか11らしいというのか。

「…気のせいだろう」

とりあえす、そう応えておく。
それと皆にも報告してしまわなければ。
何がきっかけで11の記憶が戻ったのかは不明だけれど。
しかしクラウド、セシルはともかくティーダには何と声を掛けたものか。
そう頭を悩ませながら仲間たちの元へ赴く。




「まぁ、良かったな」

とクラウド。魔法での援護が期待できなくなったことには少し残念そうだがそれは今後の11に期待したいところか。
セシルは「良かったねフリオニール」と、こちらの身を案じてくれていたようだ。
残るはティーダ。
間違っても先ほどの11の”ペット”という言葉を出してしまってはいけない。
そう意気込んで、話しに言ったのだが。


「へ?あ、もどったんだ!良かったじゃないっスか!」

意気込み虚しく、わりと普通に歓迎されてしまった。
そうなるとかえってティーダが無理して強がっているんじゃないかとこちらも気を使ってしまいそうになるが、そうでもないという。

「ん〜、最初は11っぽくないのが良かったんだけど。女の子らしいしさ」

でも、結構言葉の節々で11っぽいっていうか刺々しいっていうかイミフメーって言うんスか?と苦笑を零すティーダ。

「大人しそうに見えても、オレじゃ手に負えない感がチラチラ見え隠れしてて、それがすっごい気になってたんスよ」
「そ…そうか…」

これは素直に安心していいのだろうか。
ティーダが気にしていないのなら、それでいいのだろうけど。
幸か不幸か11の根元的な何かに救われたといっていいのか、そんな彼女に惚れている自分は何なんだろうかという疑問も過りもするが。
仲間内で気まずい思いをしなくて済んだのだから幸いと取っておこう。


「あぁそうそう、フリオニール」

セシルが笑顔で首を傾げながら声を掛けてきた。
どうやらなんとなくだが11の記憶が戻ったきっかけらしきものが判ったようだと言う。

「また11の恥ずかしがるようなことでも言ったんでしょ」

とのセシルの言葉に記憶を手繰り寄せる。
どの辺りで戻っていたのかは不明だが…。

「恥ずかしがるっていったって…最後だと思ったから好きだとか大好きだとか…」


…。


なんで真顔でこんなことを言ってるんだ俺は。
うわ、セシルの笑顔が眩しいというか恥ずかしいというか。

きっかけは、もしかしてコレか?
極度にこういう言葉に弱いのは知っていたが、まさかのショック療法?
いやいやショック受けられるってどんな扱いなんだ…。

それよりもセシルにはそういうことを平気で打ち明けられるのかアイツは。
もはや11の羞恥の基準がわからない…。

やっぱりアイツに関わると碌な事にならないんじゃないのか?



そう、改めて溜息を吐くフリオニールだった。

-終-

2010/1/4




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