少しの災難 その3
11が”いんせき”を喰らってから、数日が過ぎた。
様子はと言えば、幸か不幸か未だ戻らずである。
素直な彼女は、自分でなんでもやるし、仲間の手伝いにも積極的だ。
戦闘時も魔法を駆使して援護に勤しんでいる。
これまでの11の態度からしてみれば今の状態は心身ともに負担が無い。
しかし、やはり落ち着かない。
迷惑を掛けられることを好んではいないが、こう、世話をやく相手がいないとなると心寂しいものがある。
あの環境に慣れてしまっている自分の体に、ため息を吐く。
一方、他の3人は現状に慣れつつある。
クラウドは今までそんなことはなかったのに、「援護が助かる」と11を伴ってしばしば出掛けるようになった。
セシルは相変わらずだが、以前みたいに11を窘めることがない分、穏やかに過ごしているようだ。
人一倍11の変化に違和感を示していたティーダは、持ち前の性分か、適応するのも早かった。
よくふたりで過ごしているのを見かける。
そこが、問題だ。
あれ以来自分に対してどこか余所余所しい11に、それに代わるかのように側にいるティーダ。
元々馬の合うふたりだし、そんなことはないとは思いたいが…。
どうにもティーダの様子がおかしい。
仲がいいとはまた違うような仕草。
妙に11に優しいというか、かいがいしいというのか。
つまり”仲間”に対してというよりも”異性”として接しているような、そんな気がしてならない。
気にしすぎだろうか。
それとも、気になるのなら直接ティーダに聞くべきか?
聞いたところで、”な〜に言ってるんっスか”とか笑い飛ばされるのならいいんだが。
「フリオニール」
「あぁ、セシル。どうした?」
そんなことに耽っていたら、セシルがいつの間にか側にいた。
「11だけど、いいのかい?」
「どうかしたか?」
そう尋ね返したら、不思議そうな顔で首を傾げてきた。
「なんか、ティーダといい雰囲気だったんだけど」
「セシルにも、そう見えるのか?」
そう感じていたのが自分だけではなかったことに益々不安が募る。
そんな自分にセシルは今度は困惑気な顔を向けてきた。
「もしかしてフリオニール、気づいてない?」
彼女、キミとのこと覚えてないよ、とセシル。
「…え」
セシルの話に、先日を思い出す。
おぶろうとしたら、遠慮していた。
食事の当番の時もそうだ。いつものように代わりにやると言ったら、やたらと恐縮していたのを覚えている。
あと、手だ。触れただけで赤くなるとは11らしくないなんて、違和感ばかり感じていて…。
ここ数日感じていた、余所余所しさの原因はこれだったのか。
こうしてセシルに言われなければ気づかないなんて。
これは思っていたよりも忌々しき事態じゃないか。
「ちょっと行って来る」
そうセシルに告げ、二人の元へ急ぐ。
「えーと、こう構えて〜。…そうそう。そんで、とりゃって」
「えいっ」
「あ〜、うまいうまい。真っ直ぐ飛んだじゃないっスか」
「うわっ!?」
木陰から身を出すなり、避ける間もなく顔面に直撃してきたなにか。
倒れるほどのダメージはないが、鼻が痛い。頭もクラクラする。
地面に落ちたモノに目を向けると、それはボールだった。
このボールはティーダの持ち物。
痛さに顔を手で擦っていると、ティーダと11が駆け寄ってきた。
「ごめんな〜、まさか人が来るなんて思わなくてさ〜」
「あぁ、本当にすいません。今の、私が投げたんですよ」
ふたりして、申し訳なさそうに謝ってきた。
わざとではないことは判っている。
たまたま、ここに現れたタイミング悪かっただけだ。
しかし、投げたのが11だとは、相変わらず彼女に関わると碌でもない気もするが、少しだけホッとしてしまったのはなんでだろうか。
平穏が一番なのにな。
それはそうとだ。
「ボール投げの練習か?」
運動に積極的でない11にしては珍しい、なんて思いながら地面に転がるボールを拾い上げティーダへ渡す。
「うん。11、結構うまいっスよ。もう真っ直ぐ投げれるようになったし」
そう嬉しそうに笑う。
こうも無邪気な笑顔を向けられると、自分の抱いている疑念がなんだか浅ましいものに感じられてくるが、しかしココはしっかり聞いておかなければならない。
「少し、聞きたいことがあるんだが」
「…うん。じゃ、11ちょっと待ってて」
11にボールを預けて、後を付いて来る。
さて、考えもなしに勢いだけでこうしてティーダを呼んではみたが、何をどう聞けばいいんだ。
”11は俺のだから、手を出すな”
とでも言うか?
…あぁ、聞いてないじゃないか。
これは自分の言いたいことだ。
「あのさ」
ティーダの声に足を止める。
「11、フリオニールとのこと、覚えてないんだって」
「…あぁ」
「でも、あれっスよ。フリオが思ってるようなことはなくて」
…顔にでも出ていたのだろうか。
こちらが言いよどんでいることについてすんなりと応えをだしてきた。
「たださ」
と言葉を続ける。
「オレもほら、一応男だし?やっぱ女の子に優しくされたりさ、頼られたりすると嬉しいっていうか」
「まぁ、なぁ…」
気持ちは充分過ぎるほどよく解る。
こんな男だらけの中であって、癒されたいと思う気持ちには同意だ。
普段あれだけ煩わしいヤツなのに、今の状態は”女の子らしい”しな。
「だから惚れるとか、好きになるとか、そういうのはないっスから!」
そうだ、考えすぎだ。
ティーダがそんな、わざわざ手のかかる11に惚れるなんてコトはないさ。
今までの彼女を知らないとなればともかく、ずっと一緒に旅してきたんだ。
今更、人となりが変わろうがそんなのは関係ないだろう。
「いや、すまなかった。俺もどうかしていた」
「たぶん」
「変な誤解を、…たぶん?」
最後に聞こえた言葉に、ティーダを見やれば”しまった”と言わんばかりに、苦い顔のティーダと目が合ってしまった。
沈黙が流れる。
たぶん。今たぶんって確かに聞いた。
不意に目を逸らす。
”たぶん”ってことは、まだだ。
まだ惚れるまではいたってないってコトだ。
そう前向きに考えるしかない。…落ち込みそうだから。
「なんか…ごめん、フリオニール」
「ティーダが謝ることなんてないさ」
ただ胸がざわつくだけで。
誰かが誰かを想うなんて、そんなのは人の自由だ。
止めてくれと言ったところで止められる想いなら、そんなものは紛いモノなのだろうし。
「俺の聞きたかったことは、聞けたし。11が待ってるだろ」
行ってやってくれと、ティーダを促す。
仮にも”恋敵”へと成り得る相手を11の元にやるなんて、とんだお人よしだと自嘲の溜息を吐く。
しかし、うかうかしてはいられない。
完全にティーダの気持ちが固まってしまう前に、11を元に戻さなければ。
そうすれば、先に待ち受けているであろうヤヤコシイ事態は回避できるんだから。
-end-
2009/11/20
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