災難転じて その4
いつものように11のレベルを上げるため、ふたりで宿営地を後に散策していた。
何度かイミテーションと対戦するも難なくやり過ごし、レベルも少しは上がったようだ。
なぜか11の運は良い方らしくライズ品もたんまりと足取りも軽く帰路に着こうとしていたのだが、最後にもう一体、と意気込む11につられて寄り道したらまんまと道に迷ってしまった。
幸いにも次元の歪みには突入しなかったから、クラウド達とは同じ次元にいるだけまだマシかもしれないが。
「なんで道、覚えてないんですか。も〜」
と人に責任を押し付けてくる11に多少の苛立ちを覚えながらも、どこか休める場所はないかと更に歩き回って辿り付いた先にて1軒の小屋を発見した。
「小屋?」
「小屋ですね〜」
呑気に相槌を打ちながら玄関と思われるドアへと向う11。
この世界で、人が休めるような建物があるとは驚きだ。
まさかカオスの罠じゃないのかと声を掛けるも、聞いてか聞かずかひとりで中へと入っていった。
あまりに無用心すぎるが、いつものことだと諦めのため息を吐き自分も後に続く。
中に入れば、そこそこの広さのある室内。
「フリオさ〜ん」
何かを片手に手を振っている11。
側に行って確認してみると数本の糸。
「なんだコレ」
受け取り、よく見てみてもただの糸だ。
「あれですよ、ウォーリアさんの。兜に付いてる、あのフサフサしたヤツです」
そう言われて、彼の兜を思い出してみる。
確かに天辺にフサフサとした毛束が飾られているが…色もそれっぽいし、どうやらそのようだ。
よくこんな細いものを見つけたもんだと、妙な所で観察眼の鋭い11に思わず感心してしまう。
ウォーリアがここで休んでいたのなら、安全な場所なのだろう。
そう判断し、今日のところはここで休んで明日にでも皆と合流しようと提案すれば喜ぶ姿が目に入る。
やはりこうして簡易的でも建物内で休めるというのは野宿に比べて精神的にも良い。
女の子なら、尚更そうなのだろう。
嬉しそうに室内を歩き回りはじめた。
明日クラウド達と合流したら、しばらくはココを拠点とするのもいいかもしれない。
そんなことを頭の片隅に、なにか食料でもないかと棚を漁っていると再度呼ばれる声がした。
声のした部屋を覗くと、目を輝かせた11。
「お風呂!お風呂ですよフリオさん!」
今までは水での沐浴ばかりだったし、たまに見つける温泉でしか体を温めることはできなかった。
これは有り難いと、さっそく備え付けられている蛇口を捻ってみるが、出てこない。
飾りか?
そこまで設備はしっかりしていないようだ。
残念だったなと声をかけると不満げな顔をこちらに向けてきた。
そんな顔をされてもこればかりはどうにもならないし、そもそも自分のせいではない。
一日くらい体を洗わなくても死にはしないんだからと風呂場を後にしようと背を向けたら、軽い閃光が走った。
何事かと振り返れば、湯気だった浴槽。
たちまち室内が蒸気に溢れてくる。
「氷を炎でお湯に変化させてみました」
気合ですよ!と、誇らしげに顔を向けてくる。
11の魔法で、氷の塊を炎で溶かしてお湯にした、と。
大変判りやすい説明をしてくれた。
まるで瞬間芸である。
疲れた疲れた言いながらも、まだこれだけの魔力が残っていたんじゃないかと呆れもするが
<風呂に入る>
というその執念で浴槽を満たした11の気転に、頭を撫でてやる。
できることならその頭の回転の良さを戦闘にも生かしてもらいたい所だが。
しかし風呂に入れるならそれに越したことは無い。
熱湯を冷ます間、腹ごしらえでもしようと浴室を後にする。
室内を漁っていたら、適当に食料も出てきた。
乾燥パンにミネラルウォーター。
肉の干し物など、保存食を数種類。ふたり分には丁度いい具合だ。
「一応ココもコスモスの加護のある場所っぽいんですけど」
室内を捜索した結果、微弱ながらも光の加護を感じ取ることができた。
「でもいつもの宿営地みたいに、必要なモノでも望めば手に入るってわけでもないみたいですね」
「そうみたいだな」
「お湯くらい出てもいいと思うんですけどね〜」
「コスモスだって、万能じゃないだろ」
こうして休める場所を提供してくれるだけでもありがたいじゃないか、等他愛も無い会話をしながら食事を終える。 後片付けをしていると、風呂もいい湯加減になったと早々に入りに向う11。
静かな室内にてひとり椅子に腰掛ける。
風呂なんていつぶりだろうか。
ウォーリアも11みたいにして湯を沸かしたのだろうか。
もしここを拠点とするなら、水道だけでもなんとかしておきたいところだ。
食料も持ってきたほうがいいかもしれない。
そんなことに思考を廻らせているが、一向に11が上がってこない。
女の子とは、どうしてこうも長風呂なのか。
一つため息を吐き、11が戻ってくるのを待つ。
(…長い)
一体風呂如きで何をそんなに時間が掛かるのかと思考が脱線してきた。
脳裏に浮かぶ光景に慌てつつ、頭を振りかぶる。
「フリオさん、お風呂どうぞ」
ふいに呼びかけられ体が跳ねる。
いつの間にか上がってきていた11。
「あっ、あぁ」
「これ、どうぞ」
「…なんだ?」
手渡されたのは携帯用の石鹸。
「いつも何個かポーチに入れてるんです」
役立つ日が来るとは思ってませんでしたよ〜、と言う11から受け取り浴室へ向う。
最近おかしい。
不本意ながらも11に惚れてしまったのは認めるとして、普通に接している分には仲間として叱咤激励できるのだが、こうしてひとり落ち着いていると11のことを考えてしまう。
それも不純な方へと。
夜更けでもないのに、不謹慎な自分の頭にため息を吐く。
仮にも今日はふたりきりで一晩過ごさなければならない。
この思考回路をどうにか遮断してあがるべく気晴らしに素数を数えてみる。
しかし、そもそも11は自分のことを保護者程度にしか見てない。
こちらが一方的に想っているだけだ。
あれこれ考えた所でどうにかなるものでもないし、どうにかしてはいけない。
(……)
いい加減虚しくなってきたので風呂からあがり部屋へと戻るとテーブルに伏せて眠っている11がいた。
簡易的な建物とはいえ、いくつか寝室があるのだが待っていてくれたのだろうか。
とはいえ起こすのも忍びないと考え、寝室へと運ぶべく11を抱える。
11が以前ねだっていた所謂、お姫様抱っこで。
寝室の前に付き、戸を開ける。
軋む音に身を揺らすが起きる気配は無い。
どうかこのまま目を覚まさないようにと細心の注意を払ってベッドへと足を運ぶが、どうも建付けが悪いらしく床が軋む。
その音に瞼が揺れた。
「ん…、あ、フリオさん」
目を覚まし、状況を把握したのか11の顔がパッと明るくなる。
「うわっ、フリオさん!フリオさんがお姫様抱っこ!」
途端にはしゃぐ11。
こうも喜ばれてしまうと降ろし辛くなってしまう。
「うわぁ〜、嬉しいっ。…嬉しいな」
ひととおりはしゃいだ後に不意に見せた、はにかんだような11の笑顔。
思わず目を奪われて膝元に位置するベッドに足を取られそのまま倒れ込んでしまった。
「すっ…すまないっ」
慌てて身を起こせば、自分の両腕の間に組み敷かれた11。
ばっちり目が合ってしまった。
じっと何かを言いたげにこちらを見上げてくる。
そっと伸びてきた腕に心臓が跳ねる。
「髪、解いてるんですね〜」
肩より垂れている髪を僅かに引っ張られた。
「ま、まぁ…風呂あがりだしな」
呑気な声を上げる11に、幾分か緊張がとけ姿勢を正す。
11も起き上がり、ふたりベッドの上で向かい合う。
「私、フリオさんの銀髪、大好きなんです」
「…は?」
「他にも銀髪の人いますけどね、一番はフリオさんだなって」
それが言いたくて待ってたんですけど、居眠りしちゃいましたね〜と11。
いや、好きなのは銀髪であって自分だとは言ってないし髪も自分の一部だが、ここは素直に喜ぶべきだろうか。
それでも11の突然の言葉に顔が赤くなってしまう。
「顔、赤いですよ〜フリオさん」
「いやっ、これはだなっ…」
からかうような口調の11に反論しようとしたが、急に髪を引っ張られた。
崩れる体制に慌てる中、唇に柔らかな温もり。
あっという間に離れた感触に、思考が停止する。
「油断大敵ですよ」
そう一言告げ、ベッドへと潜り込む11。
「もう寝ますから、出てってくださいね〜」
お休みなさい、とフリオニールに背を向ける。
唐突な11の行動に未だ思考が追いついかず、ベッドの片隅に腰を掛け微動だにできないフリオニールだった。
-end-
2009/7/22
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