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災難転じて その3



11の腹部を窺うと、思っていたよりも細かい傷が多い。
衣服1枚越しとはいえ、岩場に掠めたらしい傷は表皮が薄く剥け所々血が滲んでいる。
切り傷…とまではいかないが、それなりに痛みはあるのではないだろうか。
ティーダの猛攻を必死に逃げ回っていたおかげで、その痛みに気付くことはなかったようだが。


清潔な布に薬液を染み込ませていく。
瓶を置き、11の腰を片手で抑えるフリオニール。

「っ…フリオさん!」

添えられた手を瞬時に払いのける11。

「腰っ、腰ダメだって前に言ったじゃないですかっ」
「いや、だって押さえとかないと逃げるだろ」

治療できないじゃないかと、再度11の腹部へと腕を伸ばす。
払いのけられないように、今度はしっかりと押さえ込む。
しかし、腰にあたるくすぐったい感触に身悶え動き回る11。
そのせいで肝心の傷がよく見えず手当ての施しようがないのだが、 逃げるものほど捕らえたくなる弓の使い手でもあるフリオニール。
動きまわるなら押さえつければ良いんじゃないのか、と閃く。

1度腰から手を離し、11の怯んだ隙に荷物へと押し倒す。
いきなりのフリオニールの行動に呆気にとられている11の上に跨り、動きを封じる。

「観念しろ、11」

そう告げ、薬液の付いた布を患部へとあてがう。

「〜〜っいっっっ…たいっっ…!」

じたばたと、もがく足は馬乗りで押さえ込んである。
患部を触る手を避けようと伸びてくる腕は片手で纏めて押さえつけてしまう。
細い腕が災いして、いとも簡単に捕らえこむことができた。
逃げ場は無い。

傷周辺の汚れを拭い去り、新しい布を患部に乗せる。
乗せた布の上から、薬液を再び染み込ませる。

「んんっ……」

傷に深く染み込んでくる感覚に思わず息が漏れる。
一体どんな劇薬かと思うほどの痛みだ。
いっそのこと、勿体無いとか関係ないからポーションが使いたい。

「フリオさんっ、もういいですよね!もう退いてくださいよ!」

強引に動こうにも、この状態では動きようが無い。
力で敵うわけはないのだ。
とりあえず、口で要求してみるも「ダメだ」と一蹴されてしまった。

「ひとまず、これは消毒だからな。薬も塗っとかないと」

小袋から軟膏らしきものを取り出しているフリオニールを窺うと、妙に楽しそうだ。
その様子に、だんだん腹がたってくる。


「…さっきから、楽しそうですよねフリオさん」

逃れることを諦め、笑顔のフリオニールに疑問を投げかける。
悶える様子のない11を見て、腕を解放してやるフリオニール。

「そうか?」

そんなことはない、と空いた両手で軟膏の蓋を開け指につける。

「でも痛みって大事だろ。生きてるって実感、湧くし」

だいたい命に関わる致命傷ならアイテムや魔法に頼らざるを得ないがこの程度なら自然の治癒力に任せるべきだ、とフリオニールの論。
なるほど、彼の言うことも最もだと納得した11だったが、はっと気付く。
楽しそうな様子と関係ない。

「応えになってないですよ〜」
「まぁまぁ」

と呆れる11を宥め、指に掬った薬を患部へと塗りこむ。
消毒の時のように染みる痛みはないのか、暴れることも無く静かにそれを受け入れている11。
片方の手を傷の周りに添え、もう片方の手で優しく摩り込んでいく。

日々、人ならざる者達と対峙する身から言わせて貰えば、傷が付き、手当てをし、それが癒えてくる過程が人間というものだと思う。
しかし実の所、フリオニールはただ単に怪我の手当てが好きなだけだった。
実際、ティーダとの対戦において11の怪我を見つけたとき心躍ってしまっていた。
言ったら変人扱いされそうで口には出さないが…。
その様子が11にはだいぶ悟られ気味ではあるようだ。
少し気を引き締めておかないと、と思考を廻らせていると、ふと耳につく11の吐息。
腹部の感触に声を漏らさないように、と口を固く結んでいる。
フリオニールの話に納得しているせいか、懸命にくすぐったい感覚に堪えているようだ。
それでも堪えきれずに時々吐息が漏れ出している。


「…ヤバイ」
「…え?なんですか?」
「あっ、いや。…なんでもない…」

ふいに漏れた独り言はどうやら11には聞き取れなかったらしく、ほっと胸を撫で下ろす。

つい先日、11に対する自分の気持ちに気付いたばかりのフリオニール。
怪我の手当てにばかり集中していて忘れていた。
今この状態を見下ろしてみる。
11に跨り、治療のためとはいえ破れた衣服から覗く腹部を直に触っている。
思いに気付かなかったときなら、手間のかかるヤツだと気にもとめない状況だが…。

撫上げる指の往来に甘い吐息を吐く11。

(ヤバイ、ヤバイっ、興奮してきた…!)

熱くなる体に焦りを隠しきれず、思わず薬を塗る手に力がこもってしまう。

「あっ…!」

唐突な強い刺激に声を漏らす11。

「すっ、すまないっ…」

慌てて11の上から体を離す。
いきなりヒドイですよ〜、と身を起こす11。

「もうイイですよね?」
「あ、あぁ、いいぞ」

跳ねる心臓を落ち着かせながらも、11と目を合わせられない。
挙動不審である。

薬にベタ付く腹部に不快感を示す顔をしながらも、着替えへと向う11。

「覗かないでくださいね〜」
「のっ、覗く気なんてないっ」

フリオニールの言葉に立ち止まり、きょとんと見上げる。

「…なんだ?」
「いえ。なんか、やっといつものフリオさんだなぁ、と思って」

そう告げ、フリオニールの前から立ち去る11。


残されたフリオニールの手には、先程の感触。
酔っ払っていたときは、衣服越しだったけれど…。
柔らかい素肌をこの手で、治療とはいえ触ってしまった。

(…もっと堪能しておくべきだったか?)

一人になれば案外冷静なもので、非常に前向きな思考である。
その前向きさに自己嫌悪のため息をつき、11が戻るのを待つフリオニールだった。

-end-

2009/7/6




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